大西 広 ゼミナール
 
(非核の政府を求める京都の会・常任世話人、京都大学経済学部教授)

2008/3/31 どう見るチベット問題―民族矛盾の理解について
2007/4/3 関西テレビへの質問
2007/2/23 「格差社会」を考える
2006/11/7 市場経済化が予想以上に進む北朝鮮経済ー8月訪朝による情報分析
2006/10/11 核実験でまたも日本外交は失敗
2006/9/20 「安倍政権」で日中関係はどうなるか
2005/6/16 「儒教と保身主義-中国的思考の社会学的考察の試み」
 
どう見るチベット問題--民族矛盾の理解について

 私の中国研究は日中間の経済関係とともに少数民族地域の経済問題を研究対象としており、主に新疆ウイグル自治区、延辺朝鮮族自治州、寧夏回族自治区の調査を行なってきた。
 チベット自治区については1998年に一度簡単な訪問を行なっただけなので、チベットの詳細を知ることはできないが、それでも、中国における「少数民族問題」がいかなる本質をもっているのかについての明確な意見をもつに至っている。
 これは今回の「チベット騒乱」を理解する上でも非常に重要であるので、簡単に私見を述べてみたい。
 
チベット仏教の影響力

 今回の焦点となっているチベットの問題では、僧侶たちがその運動の先頭にたったとされるから、この運動がチベット仏教という独自のアイデンティティーとセットになっていることが重要である。
 「チベット問題」が語られるたびに現在インドに亡命しているダライラマの言動が問題とされているのはチベット仏教のこの強い影響力を前提としたものであり、このことがチベットの「独立運動」の決定的な精神的支えとなってきた。
 ダライラマは日本のオウム真理教指導者と何度も会ったり、1億円もの支援金を受け取ったり、合同供養を行なったりとスキャンダルもあったが、それでも依然影響力をもっているのには、この事情がある。
 実際、現在の中国主席胡錦涛も1989年にチベットの党書記をしていた当時、独立運動の高揚に直面し、戒厳令を出さざるをえなくなっている。こうして、チベット仏教の強い影響力の下、独立運動は潜在的に存在した。

注視すべき経済的要因

 しかし、今回の事態は、こうした政治的なレベルの問題というより、チベット鉄道の開通による自治区人口を上回る観光客の流入、特に漢族観光客とその関連業者の流入によるところが大きいものと思われる。
 昨年10月7日の「NHKスペシャル」では漢族の大ホテル経営者が現地チベット族従業員につらく当たるという現実を報道していたが、まさにこうした「経済問題」が漢族の大量の流入によって生じるようになっている。
 私自身は、青海省と四川省のチベット族地域への訪問を除けばチベット自治区自治へは1998年にしか行けていない。が、その当時でさえ、急増する観光客が持ち込む「資本主義」にチベット族は驚き、その対応に戸惑っている様子を知ることができた。
 たとえば、私が話をしたタクシー運転手は、元々は農民であったのが、夏の離宮で靴を売るようになり、そこでためたお金で今はタクシーを買ったという。
 商業を蔑視するチベット文化の掟を破ってこうして富裕化するチベット族とそうでないチベット族との分岐もおそらく生じているであろう。
 「漢族文化」とされるその実「資本主義文化」にどう対応すべきか、という問題である。
 いずれにせよ、ことの本質は漢族の大量流入による日常的、経済的なレベルにある。安易に「政治的支配の問題」とする評論家のコメントに異議を唱えたい。
             
                                 (本稿は「日中友好新聞」4月5日づけに掲載されたものです)

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