「試合開始!!」
オーキド博士の合図と共に、二人はモンスターボールを投げた。
「いけっ、フッシー!」
「オオスバメ、きみに決めた!」
レッドが投げたボールからはフシギバナ、サトシが投げたボールからはオオスバメが出てきた。
「"つるのムチ"!」
「オオスバメ、"こうそくいどう"!」
「スバ!」
オオスバメは素早く身を翻して攻撃をかわし、上空へ飛び上がった。
「"はっぱカッター"!」
上空に逃げたオオスバメを、高速で回転する葉が追う。
「"かげぶんしん"!」
フシギバナが放った葉はオオスバメの分身を擦り抜けた。
「よーし!オオスバメ、"つばさでうつ"だ!」
「スバッ!」
狙いを定め、フシギバナ目掛けて急降下し始めた。
「…今だ、フッシー!」
オオスバメが翼を広げフシギバナに攻撃しようとした瞬間、レッドは指示を出した。
「やっ……?オオスバメ?」
「スバッ…スバ!」
フシギバナに攻撃を加えたオオスバメが必死にもがいている。
「あっ!」
オオスバメはフシギバナの葉や蔓に搦め捕られている。
「"せいちょう"か…!」
「フッシー、"メガドレイン"!」
オオスバメの体力がフシギバナに吸われていく。
「あの状態じゃ攻撃できない…!
もどれ、オオスバメ!」
ボールから放たれた赤い光を浴び、オオスバメはボールの中に戻った。
「(すごい…これがレッドさんの実力…!)」
サトシはオオスバメのボールを腰に付け、次のボールを手にした。
「笑ってるわよ、あの子」
「サトシだけじゃない。レッドもだ」
グリーンはレッドを指差した。
「あら、本当」
レッドの口元が綻んでいる。
「二人とも楽しくて仕方ないんだな」
「あ、サトシが次のポケモンを出すわよ」
「ヘイガニ、きみに決めた!」
「ヘイヘーイ!」
ボールから出てきたヘイガニはその場で小躍りし始めた。
「あのポケモン…」
「初めて見るが…」
「…水タイプのポケモン…だよな?」
タケシはカスミに問い掛けた。
「私もそう思うんだけど…
レッドがフシギバナを出してるこの状況で…?」
「ヘイ?」
ヘイガニは小首を傾げた。
「フフ、見ていれば分かるよ」
「いけっ、ヘイガニ!」
「ヘイヘーイ!」
ヘイガニはフシギバナに向かって行った。
「"バブルこうせん"!」
「ヘーイ!」
両方のハサミから技を繰り出しながら、フシギバナに接近する。
「"つるのムチ"!」
フシギバナはヘイガニが放った泡を蔓で薙ぎ払った。
「ヘーイ!」
ヘイガニはフシギバナに飛び掛かった。
「もういっちょう!」
フシギバナの蔓がヘイガニに向かって伸びる。
「ヘイガニ、"かたくなる"!」
フシギバナの蔓が弾かれた。
「"クラブハンマー"!」
「ヘーイ!」
フシギバナの頭目掛けてハサミを振り下ろした。
「フッシー!」
フシギバナは気絶した。
頭の上で星がぐるぐると回っている。
「ヘイヘーイ♪」
「ピッカ♪」
ヘイガニはピカチュウと一緒に勝利を喜んでいる。
「あれがサトシくんの戦い方じゃ。タイプの相性は関係ない。
どんなに不利な状況でも、ポケモンとの絆で乗り越える…それがサトシくんじゃ」
「すごい…」
「本当に似てるわね。レッドとサトシくん」
「外見や性格、ポケモンとの接し方だけでなく、バトルのやり方まで似ているとはな」
グリーンは苦笑した。
「サトシ」
フシギバナをボールに戻し、サトシに歩み寄った。
「なんですか?」
「ピッカ?」
「ヘイ?」
サトシとピカチュウ、ヘイガニは同時に首を捻った。
「この中から一つ選んで」
レッドは五つのボールを差し出した。
「?」
「サトシの手持ちは5匹だろ?オレの手持ちは6匹。
オレの手持ちが1匹多いからさ」
「分かりました。じゃあ…これ!」
サトシはボールを選び、手に取った。
「よし」
残りのボールを腰に付け、サトシが選んだボールを受け取った。
「えーっと…ギャラか」
ボールの中を覗き込むと、ギャラドスが入っていた。
「ギャラはお休みだ」
ボールの中のギャラドスに話し掛けた。
「グリーン!」
「なんだ?」
「預かっておいてくれ」
レッドはギャラドスのボールをグリーンに向かって投げた。
「ああ」
グリーンはギャラドスのボールをキャッチした。
「ハンデのある相手に勝っても嬉しくない…か」
「変わってないわね」
「三つ子の魂百までと言うからな」
「あ、そうだ」
「?」
サトシは腰に付けていた二つのボールを手に取った。
「ジュプトル!コータス!」
「ジュプ!」
「コォー!」
ボールの中からジュプトルとコータスが出てきた。
「レッドさんの手持ちを見せてもらったのに、オレだけ見せないのはずるいから」
「これでお互い同じ条件だな」
「はい」
レッドとサトシはにっと笑った。
「よし、バトル再開だ!」
「いけっ、ニョロ!」
レッドが投げたボールからニョロボンが出てきた。
「ヘイガニ、"はさむ"だ!」
「ヘーイ!」
ヘイガニはハサミを振りかざし、ニョロボン目掛けて駆け出した。
「"ばくれつ…パンチ"!」
ヘイガニを十分に引き付け、拳を命中させた。
「ヘイガニ!」
「ヘ〜イ」
殴り飛ばされたヘイガニは目を回してふらふらと歩いている。
「混乱したか」
「フム、戦闘を続けるのは難しそうじゃな」
「もどれ、ヘイガニ!」
「ヘ〜〜イ…」
サトシはヘイガニをボールに戻した。
「よーし!コータス!きみに決めた!」
「コーッ!」
サトシの隣で待機していたコータスが、サトシの前に歩み出た。
「"ハイドロポンプ"!」
「コータス、"ドわすれ"だ!」
「コ〜ッ?」
コータスは首を捻った。
ニョロボンのハイドロポンプが命中したが、あまりダメージは受けていない。
「"えんまく"!」
「コォーッ!」
鼻の穴と甲羅の中央の穴から黒い煙を撒き散らした。
「くっ…」
レッドとニョロボンはコータスを見失い、辺りを見渡している。
「"かえんほうしゃ"!」
高熱の炎がニョロボンを襲った。
「いいぞ、コータス!」
「…ニョロ、"こころのめ"!」
ニョロボンはコータスの位置を探った。
「!」
ニョロボンはコータスの姿を捕えた。
「"ばくれつパンチ"!」
ニョロボンの拳がコータスの体を擦り抜けた。
「囮!?"かげぶんしん"か…
!ニョロ、上だ!」
「"のしかかり"!」
「コーッ!」
跳び上がったコータスがニョロボンにのしかかった。
コータスにのしかかられ、ニョロボンは身動きが取れずにいる。
「踏ん張れ、ニョロ!」
ニョロボンの体がゆっくりと起き上がっていく。
「コータス、"じたばた"だ!」
コータスがニョロボンの上でじたばたと動き始めた。
ニョロボンは力尽き、地面に倒れ込んだ。
「もどれ、ニョロ!」
レッドはニョロボンをボールに戻した。
「やるな、サトシ」
「負けないぜ」
サトシは鼻を親指の腹で擦った。
「オレもだ!」
レッドはプテラを繰り出した。
「コータス、"かえんほうしゃ"だ!」
「避けろ、プテ!」
プテラはコータスの攻撃を避けた。
「"つばさでうつ"!」
プテラの翼がコータスに命中した。
「もどれ、コータス!」
サトシはコータスをボールに戻し、腰に付けた。
「いい戦いだな」
「そうね」
「……」
「サトシと戦ってみたくなったんじゃない?グリーン」
「フン、誰が…」
グリーンはそわそわしている。
「(…体は正直ね)」
「ジュプ」
ジュプトルがサトシの顔を見てこくりと頷いた。
「よし、ジュプトル!きみに決めた!」
「プテ、"そらをとぶ"だ!」
プテラは翼を広げ、大空に舞い上がった。
「気をつけろ、ジュプトル!」
「ジュプ!」
ジュプトルは上空のプテラを見上げた。
上空のプテラが翼を閉じ、ジュプトル目掛けて降下し始めた。
「今だ!"リーフブレード"!」
「ジュル!」
腕に生えている葉を構え、地面を蹴って跳躍した。
プテラの攻撃とジュプトルの攻撃が同時に命中し、二匹は縺れ合いながら地面に落下した。
「プテ!」
プテラはよろめきながら起き上がった。
「頑張れジュプトル!"でんこうせっか"だ!」
「ジュー…プ!」
ジュプトルはプテラから一旦離れて距離をとり、凄まじい速度でプテラに突進した。
「くっ…"つばさでうつ"!」
ジュプトルはプテラの翼で殴り飛ばされた。
「ジュプ!」
ジュプトルの目に強い意思の光が灯った。
「ジュプトル!」
「プテラ!」
「"タネマシンガン"!」
「"はかいこうせん"!」
二匹は同時に相手に向かって技を放った。
「ジュプトル!」
「プテ!」
「ジュ……」
ジュプトルとプテラは地面に倒れ込んだ。
「もどれ、ジュプトル!」
「もどれ、プテ!」
「頼んだぞ、ピカチュウ」
「ピッカ!」
「いけ、ゴン!」
レッドが投げたボールからカビゴンが出てきた。
「先手必勝だ!ゴン、"メガトンパンチ"!」
「気をつけろ、ピカチュウ!」
「ピッカ!」
ピカチュウは身構えた。
「……?」
「…ピィカ?」
「…あら?」
「…ゴン?」
カビゴンは地面の上に寝そべったまま、身動き一つ取らない。
「ぐーー……」
間の抜けた音が辺りに響いた。
「今の音は…」
「カビゴンのお腹の音…?」
「…ガス欠か」
「そのようじゃな」
「おい、ゴン!しっかりしてくれよ!」
「ぐーー…」
「…え?お腹が空いて動けない?」
「ぐー」
「…お腹の音で返事してるわよ、レッドのカビゴン」
「何て言ってるか分かるレッドもレッドだな」
「困ったなぁ…食べ物何も持ってないし…
その辺に何か…ないな」
レッドは辺りを見渡し、がくりと肩を落とした。
「…仕方ない。もどれ、ゴン」
レッドはカビゴンをボールに戻した。
「…ピカ!」
レッドが投げたボールからピカチュウが出てきた。
「…ピカ、戦ってくれるか?」
レッドはしゃがんでピカチュウと目線を合わせた。
「もし嫌なら、戦わなくていいよ。
オレは無理強いしない。ピカが自分で決めてくれ」
「……」
レッドのピカチュウはサトシのピカチュウを見た後、レッドに視線を戻した。
「…!」
ピカチュウは力強く頷いた。
「…よし、頼むぜ、ピカ!」
「お互い最後のポケモンだな」
「ピカチュウVSピカチュウ…熱戦になりそうね」
サトシのピカチュウとレッドのピカチュウが対峙した。
「ピカチュウ、"でんこうせっか"だ!」
「ピィカッ!」
「"かげぶんしん"!」
サトシのピカチュウはレッドのピカチュウの分身を擦り抜けた。
「あのタイミングで攻撃をかわした…?」
タケシは息を呑んだ。
「レッドが指示を出す前から、レッドとピカの判断が一致していたんでしょうね」
「今度はこっちの番だ!"フラッシュ"!」
「ピィカッ!?」
「わっ…!」
レッドのピカチュウは目が眩む程の閃光を放った。
サトシは咄嗟に腕を上げて目を隠した。
「……?」
サトシは腕を下げて恐る恐る目を開いた。
「!」
サトシが目を開くと、レッドのピカチュウは充電を済ませていた。
「ピカチュウ!」
「"10まんボルト"!」
「チャー!」
サトシのピカチュウは攻撃をまともに受けてしまった。
「大丈夫か、ピカチュウ!?」
サトシはピカチュウの元に駆け寄った。
「…ピィカ!」
ピカチュウはぶるぶると体を震わせた後、力強く頷いた。
「よーし、お返しだ!」
「ピィーカー…」
サトシのピカチュウの電気袋から、貯め切れなくなった電気が溢れ出した。
「"10まんボルト"!」
「チュ〜!」
レッドのピカチュウ目掛けて電撃が放たれた。
「ピカ!?」
「なっ…外れた!?」
「"かげぶんしん"でレッドのピカチュウの回避率が上がり、"フラッシュ"を受けて命中率を下げられた…
いかに高い命中率を誇る"10まんボルト"でも、この状況では命中するのは難しいだろう」
「遠距離攻撃がダメなら…接近戦だ!」
「ピィ!」
サトシのピカチュウはレッドのピカチュウに飛び掛かった。
「"アイアンテール"!」
「ピィーカッ!」
硬度が増した尻尾をレッドのピカチュウに叩き付けた。
「ピカ!」
レッドのピカチュウは技の直撃を受け怯んだものの、戦闘態勢を整え直した。
「(見た事がない技だ…でも、ピカがあまりダメージを受けてないって事は、効果は今一つってとこか)」
「(ダメージは五分五分…先に相手に技を当てた方が勝ちだ!)」
「…サトシが動くな」
「"でんこうせっか"!」
「ピッカ!」
サトシのピカチュウはレッドのピカチュウ目掛けて駆け出した。
レッドは指示を出さず、ピカチュウもその場でじっとしている。
「…!止まれ、ピカチュウ!」
「ピ?…ピカッ!?」
サトシのピカチュウは見えない何かに激突した。
「"リフレクター"か」
「ちょっと勇み足だったわね」
「いや、サトシは"でんこうせっか"を"かげぶんしん"でかわすと踏んで、直後に"アイアンテール"を使うつもりだったんだろう」
「レッドの作戦勝ちじゃな」
「こうなったら…真っ向勝負だ!ピカチュウ!」
「ピッカ!」
「…ピカ!」
レッドはニッ、と微笑んだ後、ピカチュウに指示を出した。
「レッドも真っ向勝負を挑むつもりだな」
「本当に似た者同士ね、あの二人」
「ピカチュウ!」
「ピカ!」
「「"10まんボルト"!!」」
二匹のピカチュウは同時に電撃を放った。
電撃がぶつかり合い、両者の間で止まっている。
「「いっけえええ!!」」
合わさった電気エネルギーがどんどん膨脹していく。
「あれはちょっと…」
「まずいんじゃないか…?」
「…そうだな」
限界まで膨脹した電気エネルギーが、両者の間で弾け飛んだ。
「うわっ!」
「くっ…!」
衝撃と砂埃がその場にいた全員に襲い掛かった。
「けほっ、けほ…凄かったわね」
「勝敗は…?」
土煙が晴れた。
「ピィ〜カ〜…」
「……」
サトシのピカチュウとレッドのピカチュウは、目を回して地面に倒れている。
「両者ダウン。よってこのバトルは引き分けじゃ」
「お疲れ、ピカ」
「頑張ったな、ピカチュウ」
レッドとサトシはそれぞれピカチュウを抱き上げた。
「最後は全力でぶつかり合って引き分け…か」
「あの二人らしいわね」
「そうね」
「レッド、そろそろ…」
「…うん。サトシ」
レッドは右手を差し出した。
「オレ、サトシとのバトルを忘れない。絶対に」
「オレも忘れないよ。戦ってくれてありがとう」
二人は笑顔で握手を交わした。