―首相官邸への提言メール―
8月のある日、23歳の女性が麻疹ワクチン接種歴と、抗体陽性の証明を書いてほしいと来院されました。ニューヨークで日本語教師として働くために必要と言うのです。また、アメリカの大学に留学するのに必要だからと、ワクチン証明を依頼される事もしばしばです。アメリカは麻疹制圧にも熱心で、海外からの持込に対しても警戒を怠っていません。年間の麻疹発生は100例以下であり、それも日本などからの旅行者を介して持ち込まれるケースです。
わが国では、21世紀の今も麻疹の流行があり、私も年間5人ほどの麻疹患児を診察します。昨年1年間の全国の定点医療機関からの麻疹報告総数は22978人にも達し、麻疹による死亡も毎年30〜50人報告されています。実際の患者数はもっと多いだろうし、麻疹肺炎4800例、脳炎55例、死亡88例と推計されています。
日本は麻疹輸出国と警戒され、世界からひんしゅくを買っています。1998年、アラスカで1人の日本人幼児から33人への集団感染を引き起こし大問題となりました。
麻疹は予防接種法で定められていて、1歳になればどの子もワクチンが受けられます。しかし麻疹ワクチンを受けない子供が相当数いて、流行を阻止するだけの集団免疫が出来ていないのです。制度が十分機能せず、これほどの事態となっているのに、確固たる戦略的政策が実行されていません。防げる命、この国の子どもを麻疹で一人たりとも亡くしてはならないとの気概が伝わってきません。予算の問題ではありません。キューバは麻疹二回接種を強力に推し進め、発生を無くし、根絶を宣言しています。
ワクチン接種を受けない子供が罹るだけでなく、その子からワクチン接種年齢に達していない重症化しやすい1歳未満の子供に感染します。ワクチンはその子の麻疹予防だけでなく、1歳未満の麻疹感染を防ぐ重要な意味があります。接種率を上げれば流行を無くし、根絶も可能です。
防火用水に幼児が落ちて亡くなる痛ましい事故では、防護柵などの対策を取らなかった市町村の管理責任が裁判などで問われ、その後具体的な防止対策がとられています。
麻疹の死亡も、同じ防げた命です。防火用水に柵をしなかった過失が責められるように、ワクチンを受けるべき年齢になっても受けず麻疹に罹り、免疫のない乳児にうつし死亡させた親の責任や、流行を長らく放置し、有効な方策を講じなかった国の責任が問われても不思議ではありません。これまでも、裁判になり、国が敗訴になって、やっと政策転換や、事態の進展が見られています。そこまで待たずに踏み込んだ対策を早く進めてほしい。
私が思うに、従来からの予防接種に加えて、託児所、保育園、小学校の入園、入学に際し、麻疹予防接種証明書(母子手帳予防接種欄コピーでよい)の提出を義務付け、未接種の子供は、法律による市町村の予防接種を受けて後、入園、入学を許可する。この方法は、新たな予算も必要でないし、効果も確実です。関係省庁のやる気があれば出来ることです。今までそうしてこなかったことが不思議なくらいです。
首相官邸のホームページに、『国民の皆様方から国政に対するご意見ご要望を頂いて今後の政策に反映させたい』とありました。この意見欄に私の考える麻疹対策メールを送信しました。このメールが契機となり、わが国の麻疹撲滅対策が一挙に進むことを願っています。
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