樹徳−育英 観戦記   02. 8. 4

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私は野球が好きだ。
特に、夏の大会の地元県の予選となれば、全国の野球ファンがそうするのと同じように、私も毎日のようにチェックを入れて一喜一憂を繰り返す。
今年の7月も後半に差し掛かった頃、友人の深キョン(就職活動で知り合った大学3年生♂ =元高崎東高野球部)から「一緒に試合を観ましょう」というメールが届いた。

高校野球の試合を観るのは4年ぶり、群馬の高校野球となると5年ぶりになる。
7月24日朝、JR高崎線に乗って北上する。この日は2つのプランがあった。どの試合もベスト16同士の激突で、勝った方がベスト8進出となる。
1.県営敷島球場  太田工−前橋  桐生−高崎商
2.高崎城南球場  桐生一−前橋南  育英−樹徳

今年のセンバツに出場した前橋はじめ公立実力校がぶつかる敷島の試合も充分に魅力を感じたが、強豪私学の勢揃いという派手さに心を奪われ高崎城南球場に向かうことにした。
結果的に敷島の2試合は両方とも延長戦という白熱したものになった。特に桐生−高崎商は15回で決着がつかず再試合となったほどで、こちらの球場に行っても見ごたえのある試合を観戦できたと思う。
だが見ごたえという点では城南の2試合も負けていない。守りの堅い強豪校同士の良い試合を見せてもらった。


TEAM
前橋南  
桐生一1X  

第一試合は、試合途中までは引き締まった守り合い。5回表に前橋南が2点を返した時点で勝負は分からなくなった、と思った。しかし投手の層に差があった。
2点を奪われた桐生一は、先発投手をあっさりと退け、2番手の投手をマウンドに送る。この投手が、先発した投手よりもスキのない投球を見せ、以降の反撃を完璧に封じた。
逆に、前橋南は6回裏に先発投手がつかまると一旦ライトに下がり、ライトを守っていた選手がマウンドへ。だがこの選手が連打を喰らい、再び先発投手がライトからマウンドに戻った頃には試合の大勢は決してしまっていた。

前橋南にとっては、エースが桐生一打線を何とか封じ、少ないチャンスで得点を挙げることに賭けていたと思う。5回にワンチャンスを確実にモノにした時は、前橋南の流れだ、と思ったのだが、やはり桐生一打線が一枚上だった。

桐生一の2番手の八田投手。ストレートと、スライダーと見られる変化球のコンビネーションが見事だった。一見ストレートに見えて手元でグッと曲がる変化球は、この日見ることができた他の投手達とは役者が違うように感じた。素人目として。
深キョン「ストレートと変化球のスピードの差があまりにも大きいと、それほど打者のタイミングは狂わないんです。手元で、あっ、と思うくらいの差だとタイミングが崩される。あの桐生一のピッチャー、あれこそが緩急を使ったピッチングですよ。あれはなかなか打てない。」

試合は6、7回にたたみかけた桐生一がコールド勝ち。
深キョン「7回で7点差だったらまだ分からないですよねえ。嫌な終わり方ですよ。特に3年生は、この大会で負けたら終わりなんですから。最後までやらせてやりたいですよ。」



TEAM
樹 徳
育 英

樹 徳
(6)金 田 中安遊ゴ三振中安中飛
(8)尾 池 捕犠中安右2[三安](アウト)
(9)1織 田 遊ゴ捕ゴ中安遊直右安
(1)9小 山 二ゴ右安二ゴ中飛右飛
(5)平 野 遊ゴ投犠二ゴ右安一邪
(2)下 村 二ゴ左安死球三振
(3)宮 尾 遊ゴ投犠遊ゴ(アウト)
(7)金 古 三振中飛
H7星   左安
R7青 木 四球
(4)飯 塚 右安投ゴ投犠左安

育 英
(3)青 木右安二直二飛右飛右飛
(6)手 島四球左飛四球死球中飛
(9)渡 辺三振右飛投犠二安
(2)楠 原中安三ゴ左直中安
(5)川 越中飛三ゴ遊ゴ右安
(8)深 沢左安右3右安三振
(4)熊 木一犠三ゴ投犠投ゴ
(7)関 根三犠三失三安
高 橋遊安
(1)小 沼二ゴ三犠三振
岩 本遊飛

  第二試合は、実力差がないと思われる両校の対戦。好ゲームが期待された。
私は試合を集中して観る時にはメモを取る癖があり、このゲームでは原稿用紙のマスに打席ごとの結果をメモしていた。

【1裏】育英の1番の青木選手の守備位置はファースト。1番打者がファーストとは、あまり聞きなれないオーダーだ。体型も1番らしいスマートな体型ではなく、どちらかというと中軸タイプに見える。深キョンと「育英はチーム一の強打者が1番打者を打つ戦法を取っているのか」と話していた。
帰ってから上毛新聞のサイトで調べると案の定、4番として紹介されていた。しかも県内の有力打者を紹介するページのトップで紹介されていたから相当な打者だ。
今日の育英は青木選手に多く打席を回し、先手を取っていくという作戦だったのだろう。その青木選手、最初の打席で期待通り右中間に安打を放つ。しかし二塁を欲張ってタッチアウト。
結果論だが、初回の後続の打者の結果を見ると、一塁で止まっていれば先取点につながり、試合の流れを引き寄せられた可能性もある。1番青木作戦は、惜しいところで実を結べなかった。

【2裏】一死一塁から送りバントの記録になっているが、これはセーフティバントを狙って惜しくもアウトになったもの。素早く捌いた三塁手の守備は見事だった。
7回裏に、今度は打者がリベンジする。

【4表】先頭打者が安打で出ると、無死一塁から送りバント。さらにもう1人安打で続くと、一死二三塁からスクイズで1点。高校野球の教科書通りのような攻撃で、樹徳が先制した。当たり前のことを当たり前のようにこなせることが強いチームの条件だ。

【4裏】この回のアウトは全て三塁ゴロ。2アウト目のゴロは、三塁線を破りそうな当たりを好捕したもの。また3アウト目のゴロは内野安打になりそうなボテボテの当たりをダッシュ良く処理した。2回裏のバント処理といい、樹徳の三塁、平野選手のフィールディングの巧さが目立ってきた。帰ってから調べたらなんとまだ1年生だということが判明。2年後どんな選手になっているのか、楽しみだ。

【5表】二死二塁から3番打者がセンター正面へのクリーンヒット。しかしセンターからストライクの送球で、ランナーは本塁憤死。育英、簡単には樹徳に追加点を許さない。

【5裏】素晴らしい守備を見せていた三塁手がエラー。しかし送りバントの後、ピッチャーが牽制で2塁ランナーを刺す。育英も樹徳もランナーは出すが、守りで流れを断ち切る。

【7表】1−0から両チームとも無得点が続く中、樹徳は安打2本と送りバントで一死一三塁のチャンスを迎える。2番打者の打球はサードへの内野安打性の当たり。三塁走者はベースに釘付け。三塁手は一か八か、一塁に送球する。しかしこの送球が悪送球になってしまった。三塁走者はそれを見てから生還。樹徳、相手のミスに乗じて貴重な追加点を挙げた。

【7裏】負けじと育英もチャンスを作る。6番打者が出て7番が送る。2回と全く同じパターンだ。ここで8番打者はこれまた同じように三塁線へのセーフティバント。今度は打者の脚が勝った。三塁手は、2回のことは頭にあったのだろうか。
何はともあれ一三塁のチャンス。二死後、打順はトップへ。県内屈指の強打者青木選手に回った。初回、この回と、1番に青木選手を置く作戦は戦術としては成功している。だが、運がない。ライトに引っ張ったライナー性の当たりは右翼手の正面をついてしまった。

【8表】二死一二塁から9番打者がレフト前に運ぶ。二塁走者の帰還と左翼手からのバックホームはほぼ同時。やや送球の方が早いように見えた。しかし捕手が送球を迎えに行ってしまった分、ホームベースが空き、走者が生還。樹徳が得点を重ねる。
深キョン「今のはタイミングはアウトでしたけど、バウンドが合いませんでしたね。タッチできるところで待っているとバウンドが合わなくて捕球できなくなる。捕球を優先するためにタッチよりもバウンドの合うところに動かなければならないんです。」

【8裏】この回から樹徳の投手は背番号「1」をつけた織田投手に代わった。
残り2イニングで3点を返さなければならない育英は、先頭打者が死球で出塁。そのまま盗塁を試みるが2塁で刺されてしまう。3点差の8回、先頭打者が出てもバントはできない場面。でもチャンスを広げたい。そんな事情で盗塁に賭けたのだと思うが、チャンスは逆にしぼんでしまった。
しかし、育英のクリーンアップが意地を見せる。3番がセカンド後方へのテキサスヒット。4番がセンターへのクリーンヒット。そして5番がライト前に落ちるテキサスヒット。3連打で、ついに1点を返した。この回から代わった投手はストレート、カーブともにほとんど低めに集まらない。全て高めに浮き、それを狙い打たれている印象だった。
深キョン「球が高く入ってきて、それを振りぬいてる分、内野の頭を超えてポテンヒットになってますね。」
さらに一死一二塁とチャンスは続き、打順は今日3安打を打っている深沢選手に回ってきた。育英にとってはこれ以上ないチャンス。この試合最大の山場だ。ところがこの場面で樹徳のエース織田投手が底力を見せる。さっきまでの制球難がウソのように球が低めに集まりだした。最後はアウトロー一杯のストレートで見逃し三振。深キョンと2人で「うーん!!!!!・・・いちばんいいところ」と唸ってしまった。一番大事な場面で最高の投球。これがエースたる所以なのかもしれない。育英にとってはあと一歩なのに届かない歯痒い展開。続く打者も投手ゴロ。最大の山場の攻防が終わった。

【9裏】2点を追う育英は先頭打者が内野安打で出塁。ワイルドピッチによって一死二塁のチャンスを掴む。バッターは1番に還って青木選手。何度も書くが、1番に青木選手を置くオーダーは打順戦略としては大当たりなのである。しかしここでも打撃結果がついてこなかった。泳がされた打球は力なくレフトへ上がる。
深キョン「さっきの回はヒットになりましたけど育英は全員、泳がされてますね。」
最後のバッターも泳がされてセンターフライ。樹徳と育英の守り合いは、それでも終盤に小刻みに加点した樹徳に軍配が上がった。


帰り道、2人で「いい試合だったなー」と繰り返しながら歩いていた。
守りの締まったチーム同士の試合は、両チームとも少ないチャンスをいかにモノにするかが課題となり、そういった局面のたびに集中力が発揮される。試合経過を見てもわかるように、あの打球が左右どちらかにそれていれば、あの一球が高めに浮いていれば、と考えると本当にどっちが勝ってもおかしくない試合だった。

私は高校野球を見るときも、まず野球そのものを楽しんでしまう。
元高校球児の深キョンは、ただ試合を観るだけでなく、そこに沢山の物語を見出している。
深キョン「本当のドラマって実は誰も注目してない所こそあるんですよ。代打で最後出る奴も外側から見るとなんてことない思い出作りの代打のように思いますが、そいつにとっては3年間の集大成でもあり、そしてそいつの将来を左右しかねないものでもあるのです。しかも相手の投手が実は幼馴染で昔は自分の方が上手かったのにいつの間にか追い抜かれそして自分はしがない高校の代打要員になったなんて物語りもあるんですよ。
そう考えながら試合観ると本当に面白いですよ。エラー一つにしても何一つにしてもドラマがあるんです。」

そのような選手の背景がもっと知られるようになったら、高校野球報道は今以上に人の心を掴むものになるだろうし、高校野球はもっと面白く見られるようになるだろう。
ただ、選手が高校生である以上、1人だけを主役扱いにするのは異論が出るだろうし、選手のプライベートに踏み込むわけにもいかない。少し残念だ。
でもその分、想像する楽しみが残される。いろんな元球児の話を聞き、選手に感情移入して観ると、高校野球はもっと面白くなるのだろう。

桐生一、樹徳のその後
桐生一と樹徳は準々決勝で早速対戦し、桐生一が5−1で樹徳に勝った。樹徳はこの日の試合のようにスクイズで先制したが、桐生一の反撃はかわせなかった。
勝ち上がった桐生一は準決勝で桐生商と対戦。甲子園に出場した桐生商にあと一歩及ばず、1−2で敗れた。桐生一は秋、春の大会に続いて4強止まり。上位までは行くものの、優勝するほどの突破力はなかったということなのだろう。


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