神戸新聞連載第52回                       トップに戻る
 サドリモドキはなぜ、神戸にいるのか?

■ サソリモドキ発見!
 1991年6月1日、当時附属住吉中学校1年(45回生)の田中宏幸くんと山田直樹くんが、帰宅途中、神戸市東灘区住吉山手4丁目の階段のところで、奇妙な生き物を発見した。
 「先生、クワガタムシのようだけど、足が多すぎる変な虫を見つけた。これ、何ですか。」
 虫かごに入っている生き物を見て、驚いた。それが昆虫でないことは、一瞥して明らかであった。足が3対ではなく、カニのようなはさみを含めると、5対もある。しかもむちのような尾がついている。「おい!これ、サソリやで。何で神戸におるんや!」図鑑で調べてみると、サソリではなく、サソリモドキであることが分かった。サソリのように尾の先が針状になっておらず、単にストロー状だったからだ。この形態上の違いは身を守るとき、サソリは相手を刺し、サソリモドキは酢酸くさい液を相手に振りかけるという生き方の違いからおこる。
 奇妙な発見ということで、神戸新聞に連絡すると、社会部の山本靖夫さんが来て下さり、新聞に掲載された。そのとき、蜘蛛学会の西川喜朗氏は「これはアマミサソリモドキで、本来、南西諸島に生息する。北限は長崎県の天草で、神戸にはもともといる生物ではない。従って、逃げて間もないペットか、逃げたものが繁殖しているのかどちらかで、繁殖しているなら大変なことです。」とコメントをされた。
■ 6年後、再び発見!
 それから6年後、1997年10月、西本裕氏(高校教諭・兵庫県生物学会会員)から電話が入った。「私の学校の生徒が住吉山手でサソリモドキを発見しました。以前にも発見されていると聞いたので電話したのですが、何かこの生物のことでご存じありませんか?」
 詳しく聞いて驚いた。以前、附属生徒が発見したのと、ほぼ同じ場所で、光安加織さん(私立女子高校生)が再び発見した。サソリモドキは繁殖している可能性が高まってきた。
■ 今年、再びサソリモドキを発見!
 今年の7月19日に、またしても光安加織さんが、家の前の溝で生きているメスのアマミサソリモドキを発見した。光安さんの度重なる発見によって、住吉山手にサソリモドキが繁殖していることは明らかである。この周辺はお屋敷が多いので、その庭が繁殖場所と考えられる。■ 西本氏のサソリモドキ追跡
 生徒から持ち込まれたことを契機に、西本氏はサソリモドキの種の同定法や雌雄の区別、生態に関する文献、飼い方などの情報を、蜘蛛学会や大阪自然史博物館の専門家の方々から入手された。その結果、兵庫県内では1982年、加古川市で椿山宗徳氏がアマミサソリモドキを発見されていることが分かった。さらに、ミールワームをエサに、光安さんが捕獲したサソリモドキの飼育にも挑戦されている。
 西本氏の飼育研究により、南西諸島に比べたら寒さの厳しい神戸の冬を、どのような方法でやり過ごし、神戸で繁殖できたのか、その事実が明らかになることを期待したい。
■ 南方系の生き物がやってくる経験
 「校庭の隅にいた。」と言って、生徒が甲虫を持ってきてくれた。光沢のある青色の羽に黄色の縁どりの美しいキベリハムシである。実は兵庫県特産の珍しいハムシで、ビナンカズラを食草としている。とは言うものの、もともと兵庫県にいたものではなく、中国中・南部に分布するものが帰化(大正時代か昭和初期に神戸に上陸)したものである。また、20年前には珍しかったナガサキアゲハが最近、よく見られるようになった。すでに兵庫県南部で繁殖しているのだ。もともとは九州や四国を北限として、南西諸島に分布する南方系のアゲハである。
 これらは南方系の生物が北進する例である。サソリモドキやキベリハムシは移動力が乏しいので、人間が大きく関与しているのは明らかだが、子孫を残し得たのは、環境に適応したからである。とするなら、兵庫県南部が南方の故郷と大きく異ならない気候(地球温暖化の影響)になったと考えるのが、自然であろう。