表現力を豊かに 3 

平成10年11月18日 教育タイムス掲載

「創造と描写」


大阪府教育センターの平成10年度高等学校「国語」研修Cで、府立富田林高等学校(定)の音無幸子先生が教科書『表現』(筑摩書房)をもとにした授業作品集を発表されました。非常におもしろい作品集です。今日はその中から二つの活動を紹介し、創造と描写について考えてみたいと思います。
「文体という人格」では『吾輩は猫である』にある冒頭の語りを「吾輩」以外の第一人称で書き直して表現するという活動が紹介されています。「おいらはネコなのら。名前はまだ無いののら。---」「僕は猫なんですね。名前はまだありません。---」「あては猫だべー。名前なんぞまだ無いわい。---」と生徒作品が連ねられています。個性的な猫が表現されていて、その風貌を想像してみたくなります。
英語では大文字の「I」という第一人称が日本語には様々な言い方があって、その一つ一つによってあとの表現が微妙に異なってきます。それは表現のおもしろさの一つと言えます。あなたなら、どのような「I」を主語にして冒頭の語りを書きますか。


「構想と作品化」では上のマンガを文章で書いてみようという活動が紹介されています。主人公はラッコの男の子「ぼのぼの」で、「ボクは」という書き出しで始めなさいという指示があります。
掲載されている生徒作品例の一つを紹介しましょう。「ボクはこの道が好きなんだ。空気もきれいし自然がいっぱいだから」「そうか、おまえは山が好きなんだな。いいことだ。こらそっちじゃないよ。こっちだよ」「ヘビが死んでる。かわいそうだよ。」「しょうがないよ。これが自然のきびしさだ。こっちへ来い。早く」「でもかわいそうだよ。パパ」「おまえは優しいな」「かわいそうだよ(すねている)」「しつこいぞ。自然はきびしいんだ。生き残ればいいんだ。すねすねするな。早く来い」
「ふーん!」と思わせる描写ですね。このように、絵に合わせて物語の展開を構想するには、豊かな創造力が要ります。自分の構想を分かりやすいことばを使って描写し、相手に伝えるという活動は、まさに豊かな表現力を伴うものです。しかも、この表現活動はとても楽しいものです。というのも、白いカンバスに絵を描いていくように、自分の構想をことばで満たして達成していくという、完成する喜びがあるからです。この喜びが表現活動の大きな原動力となります。
4コマ漫画をことばでどのように描写するかが、中学校の国語の教科書や入試問題にも取り上げられています。創造する力と描写する力が表現力を育成したり、診断したりする大きな要素であるからでしょう。
机の上にあるシャープペンシルや消しゴムを見ながら、その身近な二つの物について物語でも創造して書いてみませんか。どのような題名にしますか。どのような書き出しで始めますか。