乳頭温泉郷 鶴の湯

泉質:

炭酸水素泉など数種

所在地:

秋田県田沢湖町

訪れた時期:

99年7月上旬

個人的評価:

時間を忘れに行こう

一言でいうと、秘湯のイメージが売りのかなり有名な温泉。語り尽くされた感もあるが、あえて語らないわけにはいかないだろう。

1999 年 7 月、かねてより懸案であった乳頭温泉郷への旅を決めたのは、99 年の梅雨入り前の事だった。6 月末の結婚記念日と 7 月初旬の妻の誕生日があるこの季節、週末と組み合わせて少し休みをとり、3 泊くらいの温泉旅行に行くのが恒例となっている。この旅の頃は雨の事が多かったが、99年は好天に恵まれた。東京を10 時の新幹線に乗って、1:30 にはバスに乗り換えて、3 時前には鶴の湯で風呂に浸かっていた。東京駅からわずか 5 時間後の出来事。

鶴の湯 露天風呂有名な鶴の湯の露天風呂は、写真よりもやや狭く感じられたが、それでもかなり広い。事実上男湯に思えるこの露天風呂は一応混浴。背後にはちょっとした山林を抱えているが、ある意味この風呂の開放度はかなり高い。その奥にある女湯に行く人もこの仕切りも何もない混浴露天風呂の横を歩く必要があるので、つまり丸出しで涼んでいると丸見え状態となる。この露天の湯は、一見すると白濁である点をのぞいて特筆すべき点はないが、適温で、のんびり浸かるのに適している。本当に特筆すべきは、その湯のほとんどがこの露天風呂の底から直接湧いてきているという事である。お湯が新鮮なのである。もちろん循環などはしていないと思われる恵まれた環境である。

水色がかった澄んだ空、からりとした暑さの7月初旬の梅雨の晴れ間、緑の山に抱かれた白濁の湯に身を委ねて、まぶたを閉じると風呂の底からポコポコと音をたてて沸き出ている泡の音があちこちから聞こえる。泡の音に囲まれてのんびりしていると、今度はサラサラと風が渡る。鶴の湯は山間(やまあい)に位置するので、夕暮れ近くにはもう露天風呂もすっかり日陰になる。渡る風もひんやりとした空気を運び、初夏とはいえ、爽やかな夕暮れを全身で感じられる。

鶴の湯 露天風呂 女湯鶴の湯のすばらしさは、とにかく自然に包まれていて湯に恵まれているという点。そして開発の手から環境を守るために山まで買い取ったらしいご主人の思い入れと情熱。山間の秘湯は、観光開発の可能性から逃れるために、保全を目的として周囲の山々を買い取る事で、自分を守ってきたのだそうだ。つまり売りである秘湯の雰囲気を壊さない努力をしている温泉であると言える。アクセスはすごく良いわけではないが、適度にアクセスの良さを持ち、それでいて秘湯の雰囲気を十分に備えている。人気もでるわけだ。

鶴の湯 白湯 男湯一方の内湯。酸性の白湯は、ぬめりが強く油断していると転びそう。湯は白濁していて硫化水素臭もある。男湯では白湯と続きになっている黒湯は、湯の見た目と香りは白湯と似ているが、こちらはアルカリ性。白湯に入って黒湯に入る、酸性 -> アルカリ性の順番は、お気に入りの [草津 -> 沢渡] の順番と同じになるので意識してこの順番で入った。そのせいかどうかは、比較対象がないために断言はできないが、黒湯で仕上げたときとそうでないときでは、肌のすべすべ度に、はっきりとした差が感じられた。

演出かと疑えばそれまでだが、確かに秘湯を感じさせる事が他にもある。風呂場に湯口はあれど蛇口というものが(記憶の限りでは)ない。風呂場以外にも上水道はひかれおらず、沢水を上水道にしているとの事。この水は夏も冷たいままで、飲むには最高だが、頭を洗うには勇気がいるかもしれない。つまりここに来たら、硫黄臭たっぷりのお湯で洗うか、冷たい沢水かのどちらかを使わなくてはならない。夏の 2 泊で頭を洗わないのもつらく、私の場合、洗髪剤こそ使用しなかったが、お湯をかぶった。後日盛岡でタクシーに乗ったら、東北の訛りで「湯花臭ぇ」と言われて、2−3の温泉地の名前を聞かれたが見事に乳頭が入っていた。私にとっては幸せな匂いであるので迷いはないが、それくらい匂うらしい。

とにかく鶴の湯はお湯もお風呂もかなり良く、またそのたたずまいも尋常ではなく良い。本陣と呼ばれる宿泊棟は、本当に侍の時代のものらしいし、東本陣、新本陣と呼ばれる建物は新しいらしいのだが、囲炉裏があり、本当に木で造られていて、かなり雰囲気がある。窓から入ってくる風も涼しく冷房は必要無いし、敷地内を流れる沢の音も鳥の声も昼寝には最適だ。

鶴の湯 囲炉裏の鍋と川魚囲炉裏を囲んでの食事は、自在鍵につるされた鍋と、囲炉裏で焼く川魚が名物のようだった。言うまでもなく味は良く、酒もすすみ、なによりもTVを置いていないので、くだらない番組を見なくてすむのも良かった。(あれば見てしまう現代人の悲しい性よ。)食事の後は、じっくり考え事をするもよし、語り合うもよし、黙って風呂に浸かるもよし、読書もいいだろう。現代生活で忘れがちな、のんびりした時間を過ごすことができるだろう。電気は自家発電との事だが、携帯電話(もちろんOFFにしました)の電波が届いていたのは、ちょっと意外で残念だった。(2000年5月の連休には i-modeまでも使えてしまった!)

食事の後、お腹が落ち着いたら、夜の露天風呂に行かないわけにはいかないだろう。正直言うと、酒が効いて一眠りした後だったが、ひとりで露天風呂に向かった。人はもう寝てしまったのか、磨き上げられた木の廊下を照らす裸電球の暖かい光にひとり照らされて、動いているのは板ガラスに映る自分だけだった。露天風呂にも誰もいない。せせらぎを聞きながら、ランプに照らされた白濁の露天風呂に身を沈めて深く深呼吸をする。ふと空を見上げた瞬間、ドキッとした。無数の光の粒が降り注いでくる程に星が近く、天の川が濃かった。

人里離れた山間に湧く白濁の湯に身を沈め、じっと自分を見つめてみるのもいいものかもしれません。

 

泉質

中の湯

含重曹・食塩硫化水素泉

白湯

含硫黄 - ナトリウム・カルシウム - 塩化物、炭酸水素泉(硫化水素型)

黒湯

ナトリウム - 塩化物・炭酸水素塩泉

滝の湯

含硫黄 - ナトリウム - 塩化物・炭酸水素泉

  


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