現地発、クロアチア・サッカー報告(17)

対決!! 第1ラウンド〜ハイドゥクvs.ディナモ


2002/9/1 クロアチア・リーグ第6節 
「ハイドゥク・スプリトvs.ディナモ・ザグレブ」


 これまで停滞気味だったクロアチア・リーグに熱気と観客が戻って来ている。これはJリーグやKリーグに見られるようなワールドカップ効果では無い。一部リーグのチーム数削減がもたらしたレベルアップと好カードの増加が第一の理由。そしてこれまで財政難で磨耗を続けてきたディナモ・ザグレブが本腰になってチーム強化に乗り出し、マスコミを騒がせることで国民の関心を集めさせたことが第二の理由だ。一昨季はライバルであるハイドゥク・スプリト、そして昨季は伏兵のNKザグレブにリーグ優勝をさらわれたことがよっぽど堪えたのだろう。NKザグレブは選手引留めに失敗して殆どチーム崩壊してしまったが、ダルマチアの威信をかけるハイドゥク・スプリトはディナモに対抗すべく戦力を固めてきた。間違いなく2002/03シーズンはディナモとハイドゥクのマッチレースとなるだろう。昨季は公式戦で2試合しか実現しなかったクロアチア・ダービー「ディナモ・ザグレブvs.ハイドゥク・スプリト」はレギュレーションの変更で少なくとも今季は4試合行われる。ヒートアップするこのライバル対決の模様を全試合に渡って連載して行こうと思う。

【写真:代理人業を営みながらディナモ副会長
を務めるズドラヴコ・マミッチ氏】

  ディナモ・ザグレブは昨季途中に副会長に就任したズドラヴコ・マミッチ氏の力により、積極的かつ強引といえる補強を重ねた。開幕前、NKザグレブ加入に内々定であったジェフ市原のMFエディン・ムイツィン(32)をディナモへと引っ張ったのは序の口。8月中旬にはイタリア戦のゴールで国家的ヒーローとなったFWイヴィツァ・オリッチ(23)を実質タダで獲得。オリッチの代理人であり彼を所有するNKマルソニアの会長ドラガン・マリッチを、マミッチが「獲得に要した75万ユーロは国外移籍の際に返却、更に移籍金15%がディナモへ、85%がマルソニア」へという条件で丸め込めたのだ。ハイドゥクがマリッチとの話合いを予定していた前日深夜に急にまとめただけに、ハイドゥク関係者の怒りを買った。更に8月下旬にはアストン・ヴィラのFWボシュコ・バラバン(24)をレンタルでディナモに戻した。昨年8月、バラバンの代理人を務めるマミッチは昨季に600万ポンドという移籍金でアストン・ヴィラへ移籍させ、マミッチが経営するマネージメント会社(マミッチ・スポーツ・エージェンシー)に莫大な利益をもたらすことになった。その金の力でディナモ副会長に就任したといっても過言では無い。しかしこのままアストン・ヴィラで腐らせては商品価値が下がる。バラバンはアストン・ヴィラで週給2万ユーロの給与を得ていたが、マミッチはこれをレンタル期間中もアストン・ヴィラに支払わせるという条件で再び丸め込めた。錬金術師マミッチの野望は果てしない。98年W杯でクロアチア代表を3位へと導いたミロスラフ・"チーロ"・ブラジェヴィッチを監督へと引き連れてきた。マミッチは今年3月にインタビューした時にこう宣言している。
「今はまだクロアチアのマスコミに明らかにしてないが、クロアチアが誇る世界最高の指導者であるブラジェヴィッチをディナモの監督として呼び戻すつもりだ。チーロを迎えることで、ディナモ人気を再爆発させ、再びヨーロッパの戦いへと戻るつもりだ」
 ブラジェヴィッチとマミッチが仲人関係という特別な間柄もあって招聘に成功。一癖も二癖もあるチーロにはディナモ・サポーターのBBB(バッド・ブルー・ボーイズ)が激しい拒否反応を示したが、マミッチ本人がBBBの本部へと説得に走った。またマミッチとは敵対関係にあったスポーツ・ディレクターのヴェリミール・ザイエッツを第1節のチバリア・ヴィンコブチ戦の直後に更迭。更迭理由は明快、マミッチがマネージメントしている昨季のチーム得点王ダリオ・ザホラ(20)を先発で使わなかったというものだった。マミッチはディナモの若手選手の多くをマネージメントし、また移籍金の配分を選手側に有利にすることで(取り分を80%前後に設定)、ディナモ副会長という立場を利用しながら私腹を肥やしている。よってプレーの機会が無ければ、海外に高く売ることは出来ない。ディナモ・ザグレブが「マミッチ・ユナイテッド」と揶揄されるようにマミッチのこのやり口は批判を集めている。
"代理人という立場でありながら、一クラブの経営に携わるということは利益的にも倫理的には許されないのでは?"との質問にマミッチはこう交わした。
「確かに理論的には両立できない話だ。これはFIFAのルールの隙間を付いている。私は代理人に専念したかったのだが、ディナモのクラブ立て直しの為に私はFIFAの代理人資格を取らずに代理人業をやっている。マミッチ・スポーツ・エージェンシーは私の100%所有の会社であるが、現在は別の人物がFIFA公認代理人資格をもって業務に携わっている。ディナモ側の要請もあって私は経営陣に入った。私のカリスマ性とオーソリティーを落とさず、ディナモを強くしていくのだ。」

【写真:ミロスラフ・ブラジェヴィッチ監督】
 マミッチ&チーロという強力タンデムが形成されたとは言え、開幕序盤は苦戦した。第1節の敵地チバリア・ヴィンコヴチ戦は1-1のドロー。第2節のオシエク戦こそ5-1とホームで快勝したものの、第3節スラヴェン・ベルーポ戦は1-0、第4節のポモラッツ戦は3-2と最小リード差で勝つのがやっと。8月13日にディナモはイヴィツァ・オリッチを獲得、デビューとなる第5節ザダール戦は彼自身のゴールもあって3-1と快勝。「オリッチは私達への贈り物だ」−BBBはこう口にする。ザダール戦というカードで1万人もの観客が集まるのはまさしく異例のことだった。そしてバラバンのレンタル獲得を発表。ディナモ人気再爆発も嘘では無い。
 しかし9月1日のハイドゥク戦を目の前にして、前々よりオファーが舞い込んでいたクロアチア代表MFイェルコ・レコ(22)をディナモ・キエフへと移籍させることが決まった。ディナモ・キエフはシャクタール・ドネツクとの間で移籍金の釣り上げ競争を重ね、更にACミランのアンドリュー・シェフチェンコまでもがレコの代理人であるマミッチにディナモ・キエフ視察のためのジェット機手配を協力したという。8月31日の移籍期限までじらしたことでディナモ・キエフ史上最高額の400万ユーロの移籍金をディナモとマミッチ(&レコ)が手にすることになった。ディナモ・キエフが他のクラブにレコを売却すれば移籍金のうち25%がディナモ・ザグレブへと入ってくるという付帯事項付きだ。だがモビリティなボランチであるレコを手放したことはハイドゥク戦に大きく響くこととなった。



【写真:ゾラン・ヴリッチ監督】

 昨季2位に終ったハイドゥク・スプリトは新監督にゾラン・ヴリッチを迎え入れた。ヴリッチは2000/01シーズンにハイドゥクを超攻撃的チームと変貌させて6シーズン振りのリーグ優勝へと導いたものの、ブランコ・グルギッチ会長との折り合いがまずく優勝を機に辞任していた。ハイドゥクに再びリーグタイトルを、ということでグルギッチ会長が折れることでヴリッチ招聘となったのだが、これに昨季から資本投下したフロント入りしたヴァトレニ組(98W杯メンバーのスラヴェン・ビリッチ、アリョーシャ・アサノヴィッチ、イゴール・シュティマッツ)が反旗を翻した。彼らは恩師でもあるブラジェヴィッチを監督として迎えようと画策していたのだ。しかし内部闘争に負けた彼らは一時はフロントからの離脱と投資金返却まで公言。最終的にはそれなりのポストを与えることで収まったが、続いてスポーツ・ディレクターのイヴィツァ・シュリャクが職場離脱を訴えるなどフロントは相変わらず不安定だ。
 移籍関係ではオリッチは目の前でディナモに掻っさらわれ、絶えず国外からのオファーのあるスティペ・プレティコサ(23)の売却もまとめられなかった。DFゴラン・サブリッチ(23)をディナモ・キエフへ、FWイヴァン・ボシュニャク(23)をエル・エトハド(リビア)へ売却したものの、その後釜として代表経験もあるDFマト・ネレトリャク(23)をボスマン移籍で獲得。またNKザグレブの優勝に貢献したFWペタール・クルパン(28)もザグレブとの未払い給与を破棄させることでハイドゥクへと引っ張ってきた。移籍による戦力の差し引きはゼロではあるが、利益は生み出すことがは出来た。プラス要素としてスルジャン・アンドリッチ(22)やマリオ・ツァレヴィッチ(20)、ダリオ・スルナ(20)といった中盤の若手選手達が昨季フルでレギュラー経験したこと、昨季怪我で棒に振ったMFダルコ・ミラディン(23)が完全復帰したことが挙げられる。
 開幕戦では難敵ヴァルテクスをアウェーながら1-0で破り、2節では昨季にNKザグレブを初優勝へと導いたズラトコ・クラニチャール監督が今季から率いるリエカを2-1と退ける。3節のシベニク戦は1-0。しかし第4節のカメン・イングラッド戦で二人の退場者を出してスコアレスドローに終わり、更に第5節のチバリア・ヴィンコヴチ戦では前半だけで二人の退場者を出して1-4と敗北。シュティマッツが審判への批判を展開したが、ディナモ戦を前した牽制の意味合もあった。
 ところで、ハイドゥクもディナモのレコのケースと同様にダービー前日の移籍期限日にチームの中核を一人失うことになる。昨季のチーム得点王で攻撃の牽引役となるトミスラフ・エルチェグ(31)がサンフレッチェ広島へのレンタル移籍されることが8月31日に正式決定した。移籍の背景にはハイドゥクの若手選手の代理人も務めるヴァトレニ組にとってエルチェグがレギュラーとして常時プレーされることが気に食わなかったと聞くが、1年間で40万ドルという高額なレンタル料も大きな移籍理由となった。

 このようにしてディナモとハイドゥクはそれぞれのチーム事情を抱えながら最初の対決を迎えることになる。試合前の一週間を使い攻撃練習を重点的にして行ってきたブラジェヴィッチ監督は、試合二日前にしてバラバン−オリッチのツートップの下に今季好調なFWドミトル・ミトゥを配置することを決めた。ルーマニア人のミトゥはブラジェヴィッチが昨季途中からオシエクを率いた時に目を付けた俊足の選手で、前節ザダール戦ではミトゥとオリッチという高速コンビが爆発的な破壊力を見せた。ブラジェヴィッチは「3トップを形成させることで、スペクタルなプレーにおいての必要条件は満たされる」と攻撃的布陣で挑むことを明言。一方でハイドゥクのヴリッチ監督は「スタメンは日曜日の朝に解決することになるだろう」と試合前に戦略について述べることは避けた。8月28日に行われたUEFAカップ予備戦であるギ・ゴトゥ戦(フェロー諸島)は8-0の快勝。現在ハイドゥクで一番調子の良いFWニーノ・ブーレ(26)はこの試合の遠征を免除。ブーレは「私がディナモ相手に得点をしたことは無いのは事実。Jリーグ時代では全ての日本のクラブから得点し、ディナモと同じブルーが基調のFC東京からは得点をしているが、ディナモはまだ。これが日曜日の試合での大きなモチベーションになるだろう。しかしゴールを必ずしも決めなければならないということはない。大事なことは我々が勝つことだ」とコメント。またJリーグの先輩として「エルチェグがいなくなることは我々にとって痛手だが、彼が日本のオファーを受けることも理解出来る。まだ彼は稼げる選手だから」と語っている。
 3万5000人分のチケットは前日までに完売した。アウェーチームのディナモが優勢という前評判が高く、それを裏付けるようにシュティマッツらが経営するスポーツくじ会社「SPORT TIP」ですらディナモ勝利の倍率の方が低く抑えられた(ディナモ勝利2.4倍、ハイドゥク勝利2.5倍)。


 9月1日。アドリア海観光の拠点となるスプリトは国外からのバカンス客で賑わっている。昨日ならばガイドブックを持って歩く観光客、そして大胆な格好のダルマチア美女が目立っていたのだが、今日は白いユニフォームやTシャツと赤青のマフラーを身に付けたトルツィダが試合開始10時間前の時点から市街を闊歩していた。取材パスを受け取るためにハイドゥク・スプリトの本拠地ポリュウド・スタディオンへと足を運ぶと、トルツィダでも熱狂なサポーターが陣取る北側ゴール裏席に興味深い張り紙が張ってあった。

【大事なお知らせ】 

このお知らせは若いトルツィダ達のためのものである。君達は昨シーズンにおいて失望に値する応援をしていた。特に昨シーズンのダービーでは300人ほどのBBBに声がスタジアム全体に響いたものである。クラブとの話合いの結果、年配で本物のサポーター達の援助を得て今回のダービーでは次の方法で応援することにした。太鼓とメガホンで応援の仕方を導いてくれる20人から25人のグループ二つを、入口Kと入口Lから入るスタンドに配置する。その隣りの入口Jと入口Mから入ったサポーターにも彼らが応援の仕方を手助けする。今回の目的は巨大な声で効果的に応援することであり、南側スタンドにやって来る2000人のBBBより応援で上回ることである。また応援において「オリッチ、セルビア野郎」「チーロ、ホモ野郎」といったような叫びを多用することは避けて貰いたい。我々は充分なほどハイドゥクに関する歌を持っているし、選手達に熱狂的な支えを与えられるものだ。君達が我々を支持してくれることを望んでいる。


 トルツィダは1950年に創立されたヨーロッパでも古い部類に入るサポーターグループである。しかしハイドゥク経営陣の右翼化に反発して多くの古参のトルツィダが去っていた。今では1986年創立のBBBの方が昨年になって"BBB協会"という団体を正式に組織し、企画やアイデアを交換しながらチームの応援を盛り上げている。2002年4月7日のポリュウド・スタジアムでのダービー(ハイドゥクが2-1で勝利)ではカメラマンを務めたが、90分間常に大声を張り上げたBBBの熱い応援振りの方がピッチレベルから絵となった。相手サポーターを圧倒するためにとかくフーリガニズムに陥りがちなクロアチアの中で、あくまで質を求めた今回の張り紙にはトルツィダとしてのプライドと伝統を保持する決意を感じたのだった。


【写真:広場にて集結するトルツィダ達】
 試合開始3時間前、サポータークラブの近くには既にアルコールが充分に入ったトルツィダが蔓延していた。ハイドゥクの応援ソングとディナモへの悪口ソングが交互に歌われ、あるところでは発煙筒が焚かれ、あるところでは爆竹が轟音を立てる。写真を撮っていたら悪乗りしたトルツィダに胴上げされてしまった。それこそ2000年のダービーは彼らとこの場でアルコールを飲んで騒ぎまくったものだが、友人であるトルツィダは応援ボイコット派に回ってしまっている。むしろ今ではザグレブ在住とあってBBBと近い関係にあるのだ。一部ではそれがバレてしまっているため、なるべく早足でスタジアムへと向った。
 カメラマン申請に関しては記者証を持つSport-netから手配したものの、FAXがきちんと届いてなかったようでクラブ事務所入口で1時間半も足止め。その間にはエルチェグを獲得したサンフレッチェ広島の代表団が目の前の通過していった。20時にようやくパスを手にし、ピッチ内へ。既にバックスタンドと北側スタンドは白一色のサポーターで染め上げられた。ムラデン・グルドヴィッチの「ダルマティナッツ」、ランデカの「トルツィダ」、ヴィンコ・ツォツェの「アコ・テ・トコ・ピタ」といったサポーターソングがスピーカーからスタジアム全体に流れ、トゥティ・フルーティの「ダルマチヨ」が流れると共にメインスタンドをも含めた雰囲気が大爆発した。総立ちでマフラーを振り回し、発煙筒が何本も焚かれる。ダービーといえどもディナモの本拠地マクシミールではメインスタンドの観客が幾分と冷めているが、ここポリュウドではある一角を除けば一体感があるのが特徴だ。メインスタンドの南端に設けられたある一角には10時間掛けてザグレブからバスで到着したBBBを含め約2000人が青のチームカラーで埋め尽くす。既に試合前にBBBとトルツィダが衝突、38人が警察に引っ張られていった。ディナモの選手がまずピッチに練習のために登場。耳をつんざく怒号と口笛が一斉に起こる。トルツィダの最大の標的は「裏切り者」イヴィツァ・オリッチ。2年間に渡りハイドゥクを袖にしたオリッチに向けてバックスタンドには「オリッチのセルビア野郎(Olicu, Srbine)」との垂れ幕が掲げられる。その横には彼の出身地であるスラヴォニアの村落"ダヴォール"からのトルツィダと偽りの肩書きまでが付けられた。また定番の悪口「チーロのホモ野郎(Ciro, pederu)」に関しては、「チーロはホモでは無い」との垂れ幕がスタンドに登場したと思ったら、「チーロはホモの親玉である」との垂れ幕が続いて登場した。これら皮肉のメッセージはマミッチ関連も含めて幾つか目に付いた。
 ハイドゥクの選手達が練習から引き上げる際にブーレに近付き、先のインタビューに答えてくれた御礼を言いに行く。以前、ここで会った時は控え選手という立場もあってか明るく接してくれたのだが、気合の入った目で多くを語らず握手だけで終ってしまった。オットー・バリッチ代表監督もスタジアムに現れており、ブーレにとっては念願のクロアチア代表選出へのアピールの場となろう。8時25分、トルツィダのマフラーをたすき掛けにしたバトントラワーの間を向けて両チームの選手が入場。ディナモの主将シルヴィオ・マリッチとハイドゥクの主将スティペ・プレティコサがペナントを交換。この日の主審はジェリコ・シリッチ。国際審判として8月21日のボスニア・ヘルツェゴビナvs.ユーゴスラビアの笛を吹いた人物でもあるのだが、ディナモにとっては前回このポリュウドで行われたダービーで疑惑のPKをハイドゥクに与え、その翌節のディナモvs.リエカ戦では90分間BBBのブーイングを受けながらもリエカ有利の笛を吹きまくった曰く付きの審判である。そのシリッチの笛により8時30分に2002/03シーズンの対決第1ラウンドが始まった。

【写真:オリッチは身体能力の高いネレトリャックに抑え込まれた】

 ディナモは3トップとまでは行かないまでも、攻撃的なメンバーでスタメンを構成した。GKはトミスラフ・ブティナ、3バックの中央にダリオ・スモイエ、右にゴチェ・セドロスキ、左にクリスティアン・ポロバネツ。左MFにダミール・クルズナール、右MFにミハエル・ミキッチ。中央にはシルビオ・マリッチとドミトル・ミトゥ、そして若干前にニコ・クラニチャールを配置。ツートップはボシュコ・バラバンとイヴィツァ・オリッチ。
一方、ハイドゥクも3-5-2でGKスティペ・プレティコサ。3バックの中央にフルヴォイエ・ヴェイッチ、左がマト・ネレトリャク、右がフルヴォイエ・ヴコヴィッチ。左MFにヴラトコ・ジョロンガ、右MFにダルコ・ミラディン。ダリオ・スルナをマリッチのマーカーに付け、マリオ・ツァレヴィッチとスルジャン・アンドリッチがチャンスメーカー。ツートップはニーノ・ブーレとペタール・クルパン。
 前半はハイドゥクが中盤を制することでイニシアチブを握った。アンドリッチとツァレヴィッチがドリブルを仕掛けると二人を正面から止められる選手はおらず、ディナモは背後から引き倒すことでファウルを連発。レコの不在で慣れない守備役に回ることになったマリッチはいきなり3分にイエローカードを貰う。ブーレ、クルパンまでボールが届くまでにはファウルで潰されるわけだが、ハイドゥクには直接FKを得意とするジョロンガという飛び道具を持っている。またハイドゥクの選手達はディナモの選手がボールを持つとアグレッシブなプレスを掛け、パスが繋がらなくなったディナモはディフェンスラインから前線へのロングボールを放り込む。これにヘディングで競わせ、こぼれ球をミドルシュート、もしくはDFの背後に転がったボールをオリッチやバラバンが狙うのがディナモの攻撃パターンだ。12分、ミトゥがこの試合の初シュートを放つ。ハイドゥクは15分、ジョロンガがこの日2本目となる直接FKでゴールを狙うがボールは枠の左へ。次第に天候も荒れ始めると同じくして観客席も荒れ始めた。メインスタンド席で焚かれた発煙筒が空を舞いBBBの真ん中に落ちると、BBBは自分達の発煙筒に火を付けて投げ返す。19分、バラバンがネレトリャクの裏を破りシュート体勢へと入るがヴコヴィッチに間一髪クリアされた。21分、ジョロンガの3本目のFKはわずか枠の上へ。23分にはクラニチャール、24分にはミトゥがミドルシュートを放つがハイドゥクのネットを揺さぶることは出来ず。
 28分、軌道が修正されつつあったジョロンガのFKがポリュウドに歓喜を呼び起こす。25mやや右のポジションから左足を振り抜くと、ボールは壁を越え、飛び付いたブティナの手をすり抜けてゴール右隅に突き刺さった。ハイドゥク先制! 一斉に焚かれた発煙筒の煙と小雨が交じり合って出来た霧がスタジアムを覆う。喜び過ぎたジョロンガにはイエローカード、また同じく喜び過ぎて柵から転落したサポーターが救急車で運ばれて行った。43分、CKからのボールの憶測を誤ったブティナに対し、ヴェイッチがフリーでヘディングシュートを試みるもボールは枠の外へ。ロスタイムにオリッチが左サイドを駆け抜けてシュートを放つが、プレティコサの正面を突くのみ。前半終了。「原子爆弾級のツートップ」と評されたオリッチ&バラバンではあるが、決定的なパスが届かないことを差し引いてもハイドゥクのDF陣に成す術が無かった。特にバラバンはフィジカル面の問題は無いものの、シュートを打つタイミング、マークの消し方などに試合感の鈍さが表れていた。

       

 【24分、ミトゥのシュートはプレティコサがセーブ。
  画面左のバラバンは良いところなく前半で退く】

 

 【28分、ジョロンガの直接FKはブティナの手が
  届かない右隅へとに突き刺さる】

 

       

 【先制点直後、トルツィダは一斉に発煙筒を焚いた】  【この試合で最も輝いたアンドリッチ。
  攻守両面で力強いプレーを見せた】


 まずブラジェヴィッチが動いた。後半頭からバラバンを下げてムイチンを投入。ムイチンが中盤の底に収まり、ミトゥをFWの位置へ。中盤からの攻撃は幾分と形にはなり始めるも、直ぐにヴリッチ監督は右MFのミラディンをムイチンのマーカーとして動くよう指示する。クリエイターでもあるマリッチ、そしてムイチンをタイトなマークで潰すことで、スピードのあるFW二人へのパスの供給源という断つという明確な作戦だ。またハイドゥクは前半の1点を守るべく、後半は終始引き気味にした。ブーレ、クルパンのツートップもディナモDFがボールを持つと積極的にチェースを掛ける。48分、ツァレヴィッチがフェイントで選手を交わしペナルティエリア右の角度の無いところからシュートを放つが、ボールはポストの横を逸れる。51分、クラニチャールのセンタリングにセドロスキが得意のヘディングシュートを見せ、66分にはミトゥのパスからクラニチャールがシュートを放つが、共にボールはプレティコサの正面。68分、クラニチャールに代えてヤスミン・アギッチを投入し、中盤の構成力を上げようと計るも効果は無し。78分、ジョロンガの30mのFKが再び枠を捕らえるが、今度はブティナがボールを枠の外へと追いやった。約2000人のBBBはディナモの選手達を奮起すべく「Ajmo, Dinamo!」のコールを20分以上に渡って張り上げ、ディナモも常に攻め続けたが堅いハイドゥク守備をこじ開けることが出来なかった。90分には途中交替で入ったハイドゥクのFWズボニミール・デラニャがGKと一対一になったところをミハエル・ミキッチが倒してしまいレッドカード。今日は幾分とましであった主審シリッチのタイムアップの笛が鳴ると、ボールを持っていたブティナはその手元のボールを思い切りゴール裏に蹴り飛ばした。そして敗戦の悔しさからへたり込む。ハイドゥクの選手達はピッチ中央で抱き合い、そしてゴール裏とバックスタンドへと駆け込んで、スピーカーから流れるトミスラフ・イヴチッチの「ヴェチェラス・イエ・ナシャ・フェスタ(今夜は我々のお祭り)」の歌と共にサポーター達と飛び跳ねる。ドレッシングルームへと戻るニーノ・ブーレに「Cestitam!(おめでとう!)」と言うと、「スゴイネ!」と日本語を捻り出し、この日二度目の握手をして去っていった。

       

 【シュートは無かったが、前線で動き回ったブーレ。
右はCKで彼をマークするポロバネツ。】

 

 【この敗戦にGKブティナが一番落胆していた。】

 

       

 【試合終了後、バックスタンドのトルツィダ
のもとへ走り寄るハイドゥクの選手達】
 【BBBはこの試合でも素晴らしい応援を続けた】

 

 試合後の記者会見にてディナモのブラジェヴィッチ監督は「如何なる評価のもとでも勝利を求めたヴリッチ監督と勇敢なハイドゥクの選手達を祝福するよ。しかしこの瞬間にディナモがリーグチャンピオンになるということを君達に宣言しよう。それは責任を持って断言する。今日のハイドゥクは自らの能力を上回る戦いをしたが、我々は可能な最高のレベルでプレーしていなかった。ザグレブでのハイドゥクとの対決では全く違うものになると約束しよう。」と彼本来の楽観主義論をぶちまけた。沈黙したオリッチとバラバンのタンデムに関しては「二人がどれくらいやれるかは知っている。今回は初コンビとあってさほど期待してなかったが、だからといって彼らをベンチに置いておくような贅沢を自分に許すことは出来なかった。」とコメントした。しかし一日後にはブラジェヴィッチは「私に敗因がある。サポーターに弁明しよう。攻撃的な布陣を引いたのだが、私の豊富な経験から判断しておけば、このような戦い振りでは我々に勝利の可能性が無いこと知るべきだった」と平身低頭になったと思いきや、二日後には「バラバンを起用したのは失敗だった。またレコを移籍させたのも損失だった。彼を売る必要は無かった」と選手に責任転嫁するところはチーロ節健在といったところだ。
 ハイドゥクのヴリッチ監督は「まずはトルツィダに、そして選手達におめでとうと言いたい。ディナモにチャンスを与えないファンタスティックな試合であったと思う。クロアチアのサッカーに大きな貢献をしてきたチーロを相手に勝てたことは誇りでもある。選手達は言った通りに動いてくれ、誰もが自分の力の110%を出した。成功しないわけは無かった」とコメントした。またニーノ・ブーレは「全選手が120%の力を出したことで、神様が我々に勝利を授かってくれた。これは次のUEFAカップの試合においての予告となろう。我々にエルチェグが欠けていたことは、レコを失ったディナモよりもダメージであるが、残りの選手全てがその穴を埋め合わせることに成功した。新たな勝点3を得たばかりだが、今後も良いプレーをしていかねばならない。なぜならリーグタイトルは弱い相手でも取りこぼさないことで獲得するものだからだ」と語っている。

 このようにして第1ラウンドはハイドゥク・スプリトが幾らか予想を裏切る形で勝利を収めた。第2ラウンドはウィンターブレークに入る直前の11月30日(第17節)。6節を終ってチバリア・ヴィンコヴチがひっそりと単独首位に立っているが、昨季のNKザグレブほどの戦力は無い。ディナモとハイドゥク。BBBとトルツィダ。2ヶ月後はどっちが笑っているだろうか。

CROATIA LEAGUE 2002-2003
6th leg
 HAJDUK SPLIT vs. DINAMO ZAGREB

2002.9.1 Poljud Stadion

HAJDUK SPLIT

 

DINAMO ZAGREB
position name position name
GK 1. Stipe Pletikosa GK 1. Tomislav Butina
DF 23. Mato Neretljak DF 2. Dario Smoje
DF 7. HrvojeVejic DF 4. Goce Sedloski
DF 17. Hrvoje Vukovic DF 5. Kristijan Polovanec
['84-18. Vladimir Petrovic]
MF 6. Vlatko Djolonga
['84-15. Dario Brgles]
MF 17. Damir Krznarc
MF 21. Darko Miladin MF 23. Mihael Mikic
MF 14.Srdjan Andric
['73-20. Dean Racunica]
MF 7. Silvio Maric
MF 18. Dario Srna MF 20. Dumitru Mitu
MF 10.Mario Carevic MF 19. Niko Kranjcar
['69-8 Jasmin Agic]
FW 8. Nino Bule FW 9. Ivica Olic
FW 13. Petar Krpan FW 24. Bosko Balaban
['46-10. Edin Mujcin
COACH Zoran Vulic COACH Miloslav Blazevic
【HAJDUK SPLIT 1-0 DINAMO ZAGREB】
GOAL '28  Vlatko Djolonga (Hajduk)

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