現地発、クロアチア・サッカー報告(29)
親子鷹クラニチャール
〜新生クロアチア代表
【写真:
新クロアチア代表イレブン
後列左からシムニッチ、ブティナ、ヴラニェシュ、プルショ、トゥドール、バビッチ
前列左からスルナ、コヴァチ弟、コヴァチ兄、クラニチャール、クラスニッチ】
「選手時代も監督としても私のサッカー哲学は"相手選手より多くの得点を取る"ということだ。それを実現するために、フィールドでは相手を支配するチームとなれるようなプレーが必要になってくる。試合において私は観客と同じように反応する。観客というのは攻撃的なプレーを好むからね。そのため私のコンセプトを実行できる選手達を探し、そして選出してきた。私のコンセプトとは"攻撃こそ最大の防御"というものだ。」
ズラトコ・クラニチャール新監督はハンガリー、スウェーデンとワールドカップ予選で連勝したのち、高らかに自らの信念を繰り返した。ディナモとラピッド・ウィーンでは名FWとして活躍し、監督となっても常に攻撃サッカーを取り組んだクラニチャールは代表チームでも自らのサッカー信念を体現化した。彼は周囲の殆どを敵に回した前任者のオットー・バリッチ監督とはタイプが全く違う。アルコール好きという噂もあるが、ディナモのアイドルとして現役を過ごし、決して自分に奢ることなく、誰に対しても紳士な振る舞いをする人物だ。今から2年前、クラニチャールがNKザグレブで優勝を目指している最中、マクシミール・スタディオン近くで彼が昔からの友人達とフットサルをしているところに出くわした。試合後、NKザグレブが前期と後期でシステム面の変更をした理由について私は質問したのだが、彼は見ず知らずの外国人に丁寧に説明してくれた。その2年後に息子のニコ・クラニチャールに雑誌取材でインタビューする機会があったが、父を常に尊敬するニコの振る舞いも当時19歳ながら実に紳士であった。誰からも愛されるクラニチャール親子。しかし予選前は全てが順風というわけではなかった。日本のスポーツ界では父が監督、子供が選手という場合に"親子鷹"という表現で持て囃すものの、クロアチアではさほど好まれるシチュエーションではない。成功する人物に対して嫉妬深く(ex.スロヴェニアに対しての最悪な国民的感情)、利害関係・自己利益にやたらと過敏な国民性であるからだ。ニコ・クラニチャールは現在、体重オーバーで運動量が少なく、ディナモの開幕ダッシュ失敗の原因ともなっていた。それでも父ズラトコはニコに司令塔のポジションを与えることを言明した。
「多くの専門家がニコのプレーを隅々まで分析してきたように、私もこれは監督として言えることだ。まずニコはサッカーの知識をとりわけ持っており、チームメートを活かし、ボールを配給出来る素晴らしさがある。彼の力で常に一人選手が多い形を作れるわけだが、同時に相手のゴールを食らう危険性もある。家族の一人として評価するならば、ニコはポジティブな性格的特徴を持っている。現在ディナモで彼はリーダーであるし、いつかは代表でもリーダーとなるだろう。」
ニコの能力に疑いの余地はない。しかし、スタートから親子は強烈なプレッシャーを跳ね除ける必要があった。ズラトコ・クラニチャールは語る。
「クロアチア・サッカーのクオリティはFIFAランクやUEFAランクでは何年間も上位に位置しているというデータからも見られるように、私にとっても疑いのないものだ。問題は我々が常に疑いを抱く国民ということだ。しかし私のこれまでの人生とプロ意識が、一緒に働く人々に信用を与えた。私は懐疑論者ではなく、むしろ楽観と自信に基づく人間である。だから私の大きな課題の一つは、自分達を信じることによって、思い描いている計画を成し遂げられる能力を持っているものと選手達に説き伏せることだった。我々はサッカーの強豪ではないが、世界で20〜25位に位置し、毎回、ユーロとワールドカップを出場できる力はあるわけだからね。」
【写真: オットー・バリッチ前監督】
少し話をユーロに振り返ろう。オットー・バリッチ前監督は世代交代という課題を抱えながら、自分の中だけで思考錯誤を繰り返し、ユーロ本大会で出来上がったのは過度なまでのベテラン重視と守備重視のチームだった。トーナメント進出を掛けたイングランド戦であっさりとチームは破綻し、バリッチに対して選手達、メディア、国民が強烈な不満をぶつけた。
「バリッチが完全にクロだというわけではないが、監督交替の時期が来ていると思う。彼のトレーニングでは全く何もなかったのは事実だ。監督の起用と戦術のせいで選手達は穏やかではなかったし、神経質になっていた。とりわけ信じられないような決定もあったわけだし。23人のメンバーのうち、11人が出場して3人が途中交代、よって9人が自然に不満が出るのは当たり前のことだ。しかし誤りは人的なものだった。我々はもっとやれる能力のある集団だっただけに悲しくてならない。オリッチやスルナ、レコの起用が少なすぎること、またバビッチ、クラスニッチが1秒も出られなかったことが我々には残念だ。」−ユーロ大会後、キャプテンマークを一方的に取り上げられたダリオ・シミッチはこうバリッチの遣り方を批判した。イングランド戦後のドレッシングルームではトゥドールやトマスもバリッチに怒りをぶつけ、試合後翌日は既にチームは散り散りになっていた。
ニコ・クラニチャールはユーロに召集されるものと考えられていたが、U-21欧州選手権でバビッチと天秤に掛けられた上で振り落とされた。練習補助も含めた特別帯同案も伝えられたが、ニコはこのような憤懣たるコメントを残した。
「僕は騙されたと感じている。2ヶ月前にバリッチは僕のことを"パンのよう"にポルトガルでは必要な存在だと直接言っていた。しかし今はこうだ。騙されたのは僕だけでない。クロアチア国民も騙したのだ。フェアで正確な態度で接してないし、過小評価している。僕はディナモのキャプテンだし、ゲームメーカーであり、クロアチア・リーグの最高の選手だ。ポルトガルへ行くのに値していると考えているし、少なくともベンチには座れたはずだ。このように単に旅行するのは意味がない。もっと醜いことは、協会の誰もが今回の件に関して全く連絡を寄越してこないことだ。リストに名前がないことはジャーナリストからこう知らされている。誰にとってもバリッチのツーリストとして参加することは名誉ではないし、もちろん僕にとってもだ。」
ユーロ大会後に契約が切れるオットー・バリッチは自らの業績を褒め称える一方で、「ジャーナリストが余りにも馬鹿げた批判をすることに腹が立つ」ことを理由に代表監督から退くことを表明。それでも彼は「私が監督を続けたら、2006年のワールドカップは問題なく出場出来る」と強がった。またクロアチア・サッカー協会へ提出した報告書の中では自らのミスに全く触れず、監督批判をしたシミッチ、トゥドール、トマス、ビエリツァを今後の代表に値する選手ではないと定義。またクロアチア・リーグの選手達はクオリティに低く、A代表で競争することが出来ないと書き上げた。これはのちにクラニチャール監督によって打ち消されることとなる。
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監督レースを辞退したスレチコ・カタネッツ】
バリッチの退任を受けたのち、後任監督のレースがスタートする。7月8日のサッカー協会内での無記名投票が行われ、ズラトコ・クラニチャール、ブランコ・イヴァンコヴィッチ(イラン代表監督)、マルティン・ノヴォセラッツ(U-21代表監督・ユース統括ディレクター)、スレチコ・カタネッツ(前スロヴェニア代表監督)の4人の候補が絞られた。この中で最有力だったのはスレチコ・カタネッツ。ヴラトコ・マルコヴィッチ会長はカタネッツと事前接触し、合意寸前にまでなっていたものの、一部メディアがカタネッツ反対キャンペーンを展開。第一の理由は「彼がスロヴェニア人であること」だ。カタネッツ本人はスロヴェニアの首都リュブリャナで育ったものの、カタネッツの両親はクロアチア北部のメジュムリェの出身であるので血筋的にはクロアチア人。ディナモ・ザグレブでプレーしていた時代もある。
しかし最終決定の前日、カタネッツは監督レースの辞退を発表する。
「マルコヴィッチ会長は素晴らしい人物だった。しかし今は滴が床へと落ちてしまった。候補を辞退しなくてはならなくなったのは残念。ビジョンは持っていたし、素晴らしい協力関係を結べると思っていたのだが...。どの監督も自分が最高だと思っているが、私は夢想家ではなくリアリズムの監督だ。クロアチア人は国家代表を評価する余り、常に私を踏みつけようとする愚か者達が出てきて仕事を妨げることになるだろう。そのような環境では100万ユーロを貰えるとしても、お金を受け取る気はない。常に"奴はスロヴェニア人だから○○だ"なんて叱責されるだろうね。それは50年前に使用されたような愚かさだ。私はスポーツの人間であり、政治家ではない。私は煮えきったパスタのような人間ではなく、30年間サッカーに身を投じてきた。一人の馬鹿者が100の知恵を利用するのではなく、大きな損害を引き起こすことは解っている。」
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右からズラトコ・クラニチャール監督、
ノヴォセラッツ・コーチ、イヴコヴィッチGKコーチ】
カタネッツは排他的なクロアチア・サッカー界を批判したが、例えカタネッツ政権下で好成績が残ろうとも、守備的なサッカーが繰り返されるのではという不安があったのも事実だ。オットー・レーハーゲル監督によるギリシャの優勝は小国クロアチアも羨む成功だったわけだが、(あらゆる面で)攻撃をやたらと好むクロアチア人のアイデンティティには即しなかった。イヴァンコヴィッチはイラン代表の監督職から離れることは出来ず、最終的に監督の椅子はズラトコ・クラニチャールのもとへ。そしてアシスタントコーチにマルティン・ノヴォセラッツと、丸く収まった。GKコーチには1990年ワールドカップのユーゴ代表正GKトミスラフ・イヴコヴィッチを指名。クラニチャール新監督は7月14日、協会で行われた記者会見にてこうコメントした。
「このような責任ある地位に選ばれて非常に光栄だ。サッカー協会、メディア、そして選出期間に支持してくれたサッカーファンにももちろんのこと感謝している。私の目標、そして我々全ての目標はワールドカップ出場であり、これには大きな自信を持っている。ポルトガル大会に出場したクオリティある選手がいるし、これから加わる可能性のある若い選手達がいる。経験と若さを共生させることによって、ワールドカップに出場出来るような質のあるコレクティブさを作る必要がある。予選グループは非常に難しいものだが、どの相手も過小評価していないし、我々は注意深く、どの試合でもディテールまで準備するつもりだ。システムは今いる選手達によるものだが、我々の方向性として、いやこれは義務として攻撃的なプレーを植え付けるつもりだ。なぜなら我々にはそのような選手達がいるからだ。創造性やアイデアのある選手、ディシプリンのある選手を良い結果と結びつけることは確実だ。」
息子のニコに関しての質問はどうにも逃れられない。
「利害の衝突はないと見ている。貴方達は私が彼をどう扱うか判っているように、どの選手に対して恩恵を与えるつもりはない。ニコが代表に値するかは全て彼自身とこれから見せるプレーに掛っている。」
先のU-21欧州選手権で彼を司令塔に置いたノヴォセラッツは、クラニチャールの横できちんと釘を刺した。
「ニコのような選手を持っていることで我々は幸せにならなくてはならない。しかし、もしそこに問題があるのならば、客観的に私は判断するつもりだ。」
その一方でニコ・クラニチャールは父が代表監督になったことを心の底から喜び、新たなモチベーションを見せた。
「もちろん幸せだよ。しかし親子という関係で、誰もが厳しい目で見てくるのは間違いない。これまでの自分の二倍もの力を出すつもりだ。単純にプレーで僕が代表召集に値することを見せようと思うし、そうすれば変な推測なども出てこないはずだ。容易いことではないが、父の成功には自分の成功以上に喜ぶことになるだろう。父には値するポジションがようやく来たことに非常に嬉しく思っている。彼の現役のキャリア、監督としてのカリスマ、全てのトロフィー、ディナモのチャンピオンズリーグ出場をこれまで見てきたからね。」
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トップ下のニコ・クラニチャール(ハンガリー戦)】
8月11日、ズラトコ・クラニチャール新監督は初陣となる対イスラエル戦の代表メンバー26人を発表した。ユーロ2004以降に新たに加わったのは、ニコ・クラニチャール、ユーリツァ・ヴラニェシュ、イヴァン・レコ、ニコラ・シャファリッチ、イヴィツァ・バノヴィッチ、マリオ・ツァレヴィッチ、ヴェドラン・イェシェ、ヤスミン・アギッチの8人。また落選はミラン・ラパイッチ、ジョバンニ・ロッソ、マリオ・トキッチ、トミスラフ・ショコタ、ネナド・ビエリツァの5人。
「これが良い選手の選択であると信じているし、イスラエル戦での勝利を持ってしてワールドカップ・ドイツ大会へのプロジェクトを発進するものと信じている。イスラエル戦は親善試合というだけの位置付けではない。年内にあるハンガリー戦、スウェーデン戦、ブルガリア戦への方向性を見せる必要がある。国外での有名なクラブでプレーしている選手達もいるわけだが、クロアチア・リーグも代表選手対象の一部だ。彼らは注目に値する選手だし、代表のポテンシャルを持ったような国内リーグの他の選手達にもモチベーションを与えることとなる。最初の計画では、2000年のU-21欧州選手権に出場した若い世代から多くを選出した。所属クラブで成熟し、A代表でも自分を証明するには最高の年齢だ。メディアを通して現在ここにいない選手について議論するつもりはない。この26人の選手が絶対的に地位を確保したというわけではないし、このリストにいない選手が完全に落選したというわけではない。とりわけ、バラバンとショコタはね。」
しかしながら当初のメンバーからプルショ、ジブコヴィッチ、オリッチ、シミッチが離脱。追加召集を打診したショコタは、ベンフィカ側が金曜日にスーパーカップの対ポルト戦があることで拒否。プレティコサもユーロ前の怪我から完全に治っていない。また17日、スティエパン・トマスが深夜に個人的なフィジオセラピストを許可なく部屋に招き入れていたところが見つかり、合宿所から追放。最初のミーティングでクラニチャール監督がチームルールを説明したのだが、トマスはイスタンブール(現ガラタサライ所属)からの到着が遅れたためにミーティングの話を知らなかった。しかし、あくまでクラニチャールは規律を重視した。
イスラエル戦のスターティングメンバー(3-4-1-2)は、GKブティナ−DFコヴァチ弟、トゥドール、シムニッチ−MFスルナ、J.レコ、コヴァチ兄、バビッチ−クラニチャール−FWモルナル、クラスニッチ。練習場から報道陣を追い出し、スタメンやシステムに関して事前に語らなかったバリッチ前監督と違い、彼は明確なチームコンセプトを明らかにし、前日にはマスコミにメンバーをきちんと語った。常に報道陣と喧嘩腰だったバリッチが反面教師になったはずだ。記者達は多少なりの不安を抱きながらもクラニチャールを支持する記事を書き、世論をポジティブに傾けさせた。
「これはまるでおとぎ話のようだ。夢の中で想像していたことが実際に起こるのだよ。父が監督であることは本当に幸せだよ。なぜなら人生を通してそれを望んでいたからね。母さんや姉さんにとっても同じ幸せだ。まさに家族全てにとって大きな一日だよ。」
A代表デビューで司令塔という大役を任されたニコ・クラニチャール。それにズラトコ・クラニチャール監督は試合前にこう語る。
「我々二人はこの試合がどれだけ重要であるかは判っている。全ては大丈夫だと信じているし、ニコはここ二試合よりも良いプレーをし、先発メンバーにいる権利があることを示せることを願っている。我々二人はプレッシャーのもとにいることになるだろうが、それから我々は逃げることを望んではいないよ。」
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ニコはプルショ(右)とトゥドール(左)
から精神的サポートを受けている】
8月18日、ヴァラジディンのヴァルテクス・スタディオン。初お目見えしたクロアチアは未完成のチームだった。しかし、無駄なロングボールを前線に蹴りこむような以前の姿はなく、きちんと繋いでボールを前へと運ぶプレーコンセプトは見られた。このチームの生命線は中盤後列の4人だ。攻撃→守備、守備→攻撃への切り替えが早く、ニコ・クラニチャールの運動量の少なさをサポートしている。29分にバビッチの右FKから、ファーサイドのシムニッチがヘディングで合わせることでクロアチアが先制を果たす。試合は終始ペースを握り、何度もチャンスはあったものの得点はこのセットプレー一点のみ。しかしクラニチャール監督の志向は観客に十分にマッチし、後半出場したイヴィツァ・バノヴィッチやイヴァン・レコも自らを大きくアピールした。収穫はあった。
記者会見にてクラニチャール監督はこう語る。
「前半は後半と比べると随分良かった。コンビネーションも非常に良かったし、協力関係もまた良かった。そしてパスプレーも。イスラエルを相手にプレーするのは難しい。なぜならゴール前を固め、カウンター、ハーフカウンターを狙ってくるからだ。イスラエルの良い守備ブロックのせいで後半のプレーは悪くなってしまった。それは選手交替だけで起こったことではない。しかし最初の試合での初勝利に満足している。クラスニッチ、モルナル、バノヴィッチと更に3つの決定的チャンスがあったし、結果、そして前半のプレーが我々を勇気付けることとなるだろう。今は平穏に良いムードを持ちながらハンガリーとの試合を待つことが出来る。」
ニコはまだ動きが重く、またなかなかボールに絡めずにいたため一部の観客からブーイングを浴びせられた。それでも父はこう庇った。
「デビューだけに大きなプレッシャーのもとでプレーをしていた。最初としてはOKだ。もちろん私が気付いたミスはあったけどね。他のデビュー選手にもミスは見られた。とにかく彼もこれからは良くなるだろうし、気付いたことはプレーの前後に絡んでないことだ。ヤル気は見せられただけに、もっとプレーの中で自分をアピールしなくてはならない。彼から我々が望んでいることは確実に出てくるだろう。」
9月4日、ワールドカップ予選最初の相手となるハンガリーをザグレブのマクシミール・スタディオンに迎えた。"マジック・マジャール"と呼ばれた強豪の面影は失いつつあるものの、ローター・マテウスが監督就任後、直近の親善試合ではドイツに2-0、スコットランドに3-0とアウェーで勝利。予選グループ8の本命はスウェーデン、続いてクロアチアとブルガリアが来るわけだが、このハンガリーが波乱を巻き起こす可能性は十分にあるだろう(残りの国はアイスランドとマルタ)。ハンガリー国民はマテウスに絶対的な信頼を寄せ、またマテウス自身も祖国ドイツでのワールドカップに参加する大きな野望がある。第二のオットー・レーハーゲル&ギリシャとなるかもしれない。マクシミールには25000人の観客を集め、BBB(バッド・ブルー・ボーイズ)が詰め寄せる北側スタンドからは「チィツォ(ズラトコ・クラニチャールの愛称)」コールを新監督へと向けた。
クロアチアのシステムはイスラエル戦と同じく3-4-1-2。ディフェンスラインにはリベロを置かないフラット。プルショが怪我から復帰し、守備的MFにはパス能力の高いヴラニェシュをイェルコ・レコの代わりに据えた。GKブティナ−DFコヴァチ弟、トゥドール、シムニッチ−MFスルナ、ヴラニェシュ、コヴァチ兄、バビッチ−クラニチャール−FWクラスニッチ、プルショ。平均年齢は26歳。ユーロからは随分と若返りしたメンバーだ。
また同じくローター・マテウス監督率いるハンガリーも大幅な若返りを図ったが、中盤のキーマンであるリツテシュが怪我で欠場。スタメン(3-6-1)は、GKキラリィ−DFユハチュ、シュタルク、トス−MFボドナル、ローザ、ゲラ、モルナル、フシュティ−シメク−FWザビチュ。
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プルショの先制ゴールの瞬間】
安定したディフェンスラインと走力に優れた4枚のMF(スルナ、ヴラニェシュ、コヴァチ兄、バビッチ)でハンガリーの攻撃を食い止め、それから分厚い攻撃に出ることでクロアチアが主導権を握る。ハンガリーは荒いファウルで止めに入り、7分にはイングランド人主審ライリーが最初のイエローカードをシメクに出す。11分、空中のボールをヘディングしようとしたスルナの顔に肘を入れて競り合ったフシュテシィが一発退場。この22歳の右MFフシュティは、"マテウス最大の発見"と呼ばれる好選手だったものの、退場によって形勢は俄然クロアチアへと移った。29分には中央のクラニチャールから右でフリーのプルショへ浮き球のラストパス。プルショはスライディングボレーを狙うが、力なくGKキラーイにセーブされる。それでもプルショはクラニチャールに"良いパスを送った"ことにサインを送った。新ホットライン誕生の予感だ。プルショはこのチームでも大黒柱。安に立ち止まることなく、周囲の選手の動きに合わせるように前線で駆けずり回り、ここぞという時には得点を奪う縦への強さを見せる。また勝利への意思を常にピッチで表現してくれる貴重な選手だ。プルショと並んで輝きを見せたのは左のバビッチ、右のスルナの両サイドMF。彼らはU-21欧州選手権を戦ったあとのユーロ本大会では出場機会に恵まれず、バリッチ前監督に苦い思いを味わわされた若手選手だ。これまでバビッチはラパイッチの後方のポジションで守備に追われたが、今ではバイヤー・レバークーゼンと同様に前方のフリースペースの攻撃を任される。そしてスルナは持ち前の運動量と積極性で右サイドの上下移動を繰り返し、ドリブル突破から次々と好クロスを上げてくる。32分、人数で優位に回ったクロアチアが先制点をもぎ取る。左サイドを突破したバビッチのグラウンダーのクロスをモルナルがクリアミスし、ボールはプルショの足元に。プルショは華麗なステップからDFを交わしてキラーイの頭上にシュート。ボールはクロスバーを叩いてゴールに吸い込まれた。
後半も引き続きクロアチアのペースで試合が進み、57分、ヴラニェシュがペナルティエリア手前中央のクラスニッチにパスを通すと、クラスニッチはボールをキープしながら回転し、ゴール左隅を狙って正確な2点目のシュートを決める。昨季のクラスニッチはブンデスリーガでヴェルター・ブレーメンのダブルクラウンに大貢献したにも関わらず、ドイツカップ決勝の日程のせいで代表合宿参加が遅れたという理由から、バリッチ前監督は彼にユーロでのプレー機会を与えなかった。代表ではついついボールを足元で待つ癖があるものの、どの位置からでもシュートを正確な決められるのは大きな魅力だ。その後はオリッチ(←プルショ)、レコ(←クラニチャール)を投入し、81分には右サイドからレコが放ったセンタリングにジェペスがクリアしようと足を出したところ、ボールは自陣ゴールに突き刺さってしまいオウンゴール。クロアチアはハンガリーに3-0。素晴らしい船出となった。
記者会見ではバリッチ時代には決して見られなかった光景が起こった。マテウスに代わってクラニチャール監督が会見席につこうとすると、プレスルームの記者達から自然に拍手が湧いたのだ。
「歓迎、どうも有り難う。しかし拍手はまず選手達に向けられるべきだ。結果には大変満足している。90分通して良かったし、この何日間で練習してきたことを示すことが出来た。ハンガリーはしっかりと守備を固めてきたが、それをこじ開けることができた。全選手がこの厳しい試練を突破することが出来たよ。望んでいた組織プレーをしていたことが最も良かった点であり、またサイドアタックも良かった。スピードとラストパスの数もこれから増えてくるだろう。冷静さも我々の美点だ。
ニコに関しては、ディナモでプレーする時よりも活発であったが、もっともっと出来るはずだ。とりわけシュート面においてね。創造性、リズムアップ、ボール展開といったニコの価値をチームメートは認識しており、彼らはニコを受け入れ、そして支えていた。彼もチームメイトを満足させているよ。」
26本のうち21本の正確なパスを通したニコ・クラニチャールにはようやく笑顔が戻った。
「選手、観客、そして新監督にとって最も素晴らしいスタートとなった。久しぶりに拍手と共にピッチから去ることは嬉しいものだ。試合を通して我々が支配したし、試合開始一分から我々の方が良かった。僕はこの試合を恐れていなかったし、プレッシャーの下での生き方も学べたよ。」
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スウェーデン戦でFKを決めたダリヨ・スルナ】
その4日後、スウェーデンvs.クロアチア戦の大一番がイェーテボリで行われた。クロアチアはハンガリー戦と同様のスタメンで挑む。前節ではマルタをアウェーで7-0と撃破したスウェーデン(4-3-1-2)は、GKイサクソン−DFエドマン、ルチッチ、メルベリ、オストルンド−MFリンデロート、A.スヴェンソン、ウィルヘルムソン−リュングベリ−FWイブラヒモヴィッチ、ラーション。
この試合はスカパーでもNHK-BSでも放送されたので、ご覧になった方も多いことだろう。ホームのスウェーデンが全試合を通してゲームの主導権を握るものの、「意図的にスウェーデンがボールを支配するスペースを作らせるものの決定機は許さない」(試合後談・クラニチャール監督)よう戦術指示をさせ、クロスもことごとく最終ラインの3人のDFで弾き返した。安定した守備陣が光った試合であった。カウンターから前半に二度クロアチアもチャンスを作る。17分、スルナがロングパスをプルショに通すものの、トラップが大きくてクリア。21分にはプルショから右のスルナに通してエンドラインから好クロスを挙げるもゴール前のクラスニッチは反応できず。一方でクロアチア守備の集中が切れた41分、リュングベリのスルーパスにコヴァチ弟のマークを外したラーションがシュート。これにはブティナが足を伸ばしてボールを止めた。セルティック好きのイヴコヴィッチGKコーチがラーションの一対一の蹴る方向の癖を知っており、これをブティナに伝授していたのだ。その直後にはラーションとのワンツーでスヴェンソンがシュートするが、これもクロスバーをわずかに逸れていった。
後半に入ってクラニチャール監督はクラスニッチに代えて、相手守備を撹乱するためにオリッチをFWに投入。しかしスウェーデンのプレスが強く、クロアチアはボールが繋げない。しかし64分、プルショへのファウルで得たゴール正面27mの距離から、スルナが縦に急激に落ちるFKをゴール左に沈めてクロアチアが先制。スルナはその前にもほぼ同位置からFKを打っており、ボールはイブラヒモヴィッチの頭に当たってしまったものの軌道はしっかりと枠を捕らえていた。感触を掴んでいるスルナが二度目のチャンスを逃すことはなかった。71分、ハイボールをGKブティナがキャッチミスし、ボールがゴールへと向かうところでイブラヒモヴィッチが押してしまい、スペイン人主審イヴァネスはこれをファウルと判定。インプレー時のファウルと考えればクロアチアに利はあるが、結果的にこの微妙な判定もクロアチアを救った。終了間際にもアールバックが放った近距離からのシュートをブティナが好セーブを見せ、クロアチアが1-0と勝利をもぎ取った。
【写真: 記者会見でのズラトコ・クラニチャール】
試合後、記者会見でクラニチャール監督はこうコメントした。
「素晴らしい試合だった。祝福と拍手は選手のために残しておいて欲しい。彼らはそれらに本当に値する。スウェーデンはラーション、イブラヒモヴィッチ、リュングベリらのプレーがベースとなり、右からのウィルヘルムソンからの危険な攻撃をしてくることを意識していた。支配されてからの彼らのアタックを防ぎきることに成功した。我々スタッフは対応出来る戦術を準備し、思っていたように攻撃をかわすことが出来た。この大きな勝利は我々をグループリーグ1位か2位へと導くものだ。素晴らしい刺激を与えてくれたサポーターにも感謝したい。また特別なムードを作ってくれたジャーナリストの皆さん、どうも有り難う。この精神状況のまま行きたいけど、幸福感に浸り切ってばかりは許されないね。
とにかく、この試合では選手全員が完璧だったよ。トゥドールを中心とした最終ライン、そして中盤では両サイドのスルナ、バビッチが多くの仕事をこなしてくれた。後半ではペースが落ちてしまったものの、前半のニコはゲームメイクをしてくれたし、プルショはクラスニッチ、オリッチとしっかり協力しあっていた。最も満足しているのは規律があって組織されたプレーだ。この試合は"生きるか死ぬか"のような試合ではない。しかし素晴らしいスタートを切ることは出来たね。」
クロアチアはこれまでのユーロ予選、ワールドカップ予選ではいつもスタートダッシュに失敗していた。開幕二連勝は、クロアチア独立後初の国際大会となるユーロ1996予選でエストニア(2-0)、ウクライナ(2-0)に連勝して以来のものだ。クラニチャール監督がこれだけ早く新たなチーム作りに成功した理由の一つは、選手達を最も実力を発揮できるポジションへと戻すという作業であった。その上で最も効果的な組み合わせを早くに見い出したのはクラニチャールの眼力によるところだろう。また攻撃的サッカーを打ち出しながら、スウェーデン戦で見せたような戦術眼もある。バリッチ時代においては監督をはじめとしたエゴイストの集団になっていたが、トゥドールがようやくメディアに自分を開くようになったように、チームが勝利に向かって一体化するような環境作り・組織作りをしている。あとはニコ・クラニチャールがこれから順調にチームに馴染んできたならばクロアチア代表の将来は実に明るい。逆にニコが不調ならば、真っ先にズラトコ・クラニチャールが公私混同をしているとして槍玉に挙げられる。プルショ、トゥドールといった攻撃・守備のリーダーが揃ってニコをプレッシャーのきつい状況から守ろうとしているのが好材料だろう。あとはニコの自己努力だ。しっかりと下半身を絞って、もっとゲーム中に走らなければならない。彼の存在理由はこれからもっと問われてくるはずだ。
「私の息子、ニコ・クラニチャールはクロアチアのジネディーヌ・ジダンとなるだろう。彼は我々クロアチア・サッカーの将来性そのものであるし、彼を中心に多くのものが回っていくはずだ。」
ズラトコはニコを信じ、またニコもズラトコのために戦う。クロアチアの親子鷹は2006年にドイツの上空へと向かって、今、飛び立ったところだ。
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