現地発、クロアチア・サッカー報告(1)
ピッチの上の詩人達〜旋風を巻き起こすNKザクレブ
2001/9/23 クロアチア・リーグ第8節
「NKザクレブvs.トシュク」
【NKザグレブのクラブ紋章】
今、クロアチア・リーグで最もホットなチーム、それは「NKザクレブ」だ。1860ミュンヘン、ラージョ・バジェカーノ、トリノ、エスパニョール、マンチェスター・シティ......どこの国にも強豪の影に隠れたクラブというのは存在する。創立は1903年とディナモ・ザグレブより早いものの、その存在は超マイナー。ニーノ・ブーレ(ガンバ大阪)の前所属チームが「ザグレブ」と書いてあったとして、それはディナモ・ザグレブではなくてNKザグレブのことだと判るサッカーファンは極僅かだろう。むしろ、カズヨシ・ミウラのお陰で未だに「クロアチア・ザグレブ」だと勘違いしている人が多数派かもしれない。クロアチアがユーゴ連邦から独立し、1992年クロアチア・リーグという小さなリーグが生まれたことで、NKザグレブは常に一部リーグに名を連ねるクラブとなった。1992年は2位、以降3位・2位・4位とまずまずの成績を残すが、故トゥジマン大統領の肩入れでクロアチア・ザグレブが5連覇を果たした1995-2000年の間は6位・5位・5位・10位・8位と低迷。昨年5月、僕は初めてNKザグレブ本拠地のクラニチェヴィチェヴァ・スタディオンを訪れた。入口の看板は半分欠け、壁にはBBBの文字が殴り書きされ、スタディオンも自転車競技のバンクがあるというお粗末なものなのに淋しさを覚えたものだった。
続く2000/01シーズンのNKザグレブの戦い振りを解説しよう。シーズン前にMFイヴィツァ・バノヴィッチをヴェルダー・ブレーメンに、FWニーノ・ブーレをガンバ大阪に手放す一方で大きな補強は無く、また開幕前にイヴァンコヴィッチ監督が辞任するなどマイナス面が多かった。しかし、後任のブランコ・カラチッチが指揮するNKザグレブはクルスノラフ・ロヴレク、ヨシュコ・ポポヴィッチ、マテ・バトゥリナの3トップの活躍もあって快進撃を続け、ウインターブレークまでの第18節で勝点33の3位に食い込む。だが勢いはここまでで、バトゥリナがグラスホッパー・チューリヒに引抜かれると急速に弱体化。22節終了までで上位6位になったチームのみで行われる決勝リーグには参加したものの連敗街道まっしぐら。シーズン終了が近付くと共にカラチッチが解任。ズラトコ・クラニチャールが3人目の監督として指揮を取る。結局、19節〜32節(最終節)で得た勝ち点はわずかに5。12勝7分13敗、決勝リーグ最下位の6位でシーズンを終えた。とはいえ、カラチッチが築いた攻撃的なサッカーは"チッツォ"ことズラトコ・クラニチャールに新たなスタイルで引き継がれることとなる。クラニチャールは80年代のディナモの攻撃的MFとして名を轟かせた選手で、独立後のクロアチア代表では初代キャプテンを務め、1990年12月のルーマニアとの親善試合で引退。以後はコーチ業に携わり、ディナモの監督としても優勝経験を持っている。プロシネツキなどは「私は彼を崇拝している。素晴らしい監督、素晴らしい人間で、正真証明の紳士である」と評価しているほど。今季は彼の理想のもと、移籍金で潤沢となっていた資金でチーム作りを始めた。前述のプロシネツキは高額すぎて手に入らなかったものの、昨季最下位のマルソニアで16ゴール&9アシスト(共にリーグ3位)と大暴れしたFWイビツァ・オリッチ(22)を獲得。ハイドゥクとの激しい獲得競争に勝ってのものであった。またリエカに5シーズン在籍54得点の実績を持つFWアドミール・ハサンチッチ(30)をボスニアリーグのチェリクから獲得。'98ワールドカップの代表メンバーにも関わらずディナモでくすぶっていたGKヴラジミール・ヴァシーリ(26)をレンタルで手に入れ、中盤においても、昨季はチームで一番貢献したと評価されたMFマリオ・チィジュメクをイスラエルのHapoel
Petah-Tikvaへ手放す代りに、同クラブからトレードという形でボスニア人MFイブラヒム・ドゥロ(30)を獲得した。更に38歳のDFゴラン・ユリッチは引退、35歳のFWヨシュコ・ポポビッチを放出(現カメン・イングラッド)してチームの若返りを図る。そして最大の改革として、クラニチャールはクロアチアでは初めてであろう4-2-3-1システムの形成に乗り出したのだ。
NKザグレブの今シーズンはインタートトカップから始まった。一回戦の相手はマケドニアのロベテ・プリレプ。5月27日にクロアチアリーグを終え、わずか3週間で戦術形成するのは困難だったらしく、ホームでの第1戦(6/16)を1-2で落とし、第2戦(6/23)も1-1のドローで敗退が決定。だが、1ヶ月経過した7月28日に開幕したクロアチア・リーグで実力が如何なく発揮される。
| 対戦相手 | スコア | 得点者 | |
| 第1節 | Hrvatski Dragovoljac (H) | ○3-0 | Olic@A,Franja@ |
| 第2節 | Slaben Belupo (A) | △2-2 | Lovrek@,Hasancic@ |
| 第3節 | Hajduk Split (H) | ○1-0 | LovrekA |
| 第4節 | Rijeka (A) | ○1-0 | Poldrugac@ |
| 第5節 | Osijek (H) | ○3-1 | HasancicA,OlicBC |
| 第6節 | Varteks (H) | ○5-2 | Jese@,LovrekB,OlicDE,HasancicB |
| 第7節 | Marsonia A) | ○2-1 | LovrekC,OlicF |
7節終って6勝1分勝点19の首位。今季から16チームに拡大したクロアチア・リーグではあるが、6勝の中にハイドゥク、オシエク、ヴァルテクスといったライバルがあるのは、この快進撃がフロックでないことを物語っている。インターネットでの情報のみでは物足らない、実際にNKザグレブのサッカーを見てみたい。留学生活の初日がちょうど「NKザグレブvs.トシュク」戦に当たる。日本を発ってから32時間半を要し、9月23日の12時15分にザグレブのプレソ空港に到着。宿を押さえ、そのままNKザグレブの本拠地クラニチェヴィチェヴァ・スタディオンへと向ったのだった。
【写真:クラニチェヴィチェヴァ・スタディオン】
小雨が滴るザグレブ。クラニチェヴィチェヴァ・スタディオンは昨年と全く変わらない面持であった。16時キックオフを睨んで2時間前には到着したのだが、警官隊が突っ立っている程度。チケット売場ではメインスタンドの40knとその周囲の立見席20knを販売しており、僕以外にチケットを求める人は居ない。ダフ屋が手招きをするが値段は窓口と同じ。敢えて彼から買う必要はなく、窓口のオバサンからメインスタンド1枚を頼んだ。聞くと開門は15時。スタディオン前のカフェで時間を潰し、15時過ぎにスタディオンへ。この雨で客足は鈍いかと思いきや、2,30分すれば年配のサポーターだけでなく、親子連れも次々と訪れ、メインスタンドのうち雨で濡れない場所は観客が詰まっていく(推定観客1500人)。サポーターグループの「ホワイト・エンジェルス」が陣取るのはメインの左上。そして僕の隣りの席には言葉を発さないものの僕を見てはニコニコするオジイサンが一人。斜め上にはNKザグレブのDFヴェドラン・イェシェの両親が。今日の相手となるトシュクは昨季2部で5位にも関わらず、1部リーグが12から16チームに拡大、そして2部で3位のクロアチア・セスベッテから運営面から1部昇格を拒否したことにより、自動的に1部昇格の恩恵を授かったクラブである。当然のことながら初めて体験する1部の水とは合わず、現在まで1勝1分6敗の最下位。首位と最下位の対決ということもあって試合前の掛け率は1:50。試合当日のSN紙の書き出しはこんな風である。「トポロヴァッツ(トシュクの本拠地)のダビデはザグレブのゴリアテを倒して、サッカーくじを助けることが出来るか」。
【写真:この試合で4得点を決めたイヴィツァ・オリッチ】
NKザグレブのクラブソングが調子の悪いスピーカーから流れ、両チームの選手が登場。ピッチの状況は競馬に例えると重馬場。ワントップのオリッチ、トップ下にはハサンチッチ、右ウィングに2000年度最優秀新人のFWクルノスラフ・ロヴレク(21)、左ウィングはディナモ・ユース出身のドリブラーであるアントニオ・フラニャ(23)。ボランチにはドゥロ、そして今季セスベッテから獲得したダリヴォール・ポルドルガチュ(26)。ディフェンスも今季失点6と安定していて、右SBが前ハイドゥクのヨシップ・ブラト(29,主将)、左SBがイヴィツァ・ピリッチ(24)。センターバックにはマケドニア代表ゴラン・スタヴレヴスキ(27)と前U-18代表のヴェドラン・イェシェ(20)。そしてGKはヴァシーリ。サブにはボスニア代表の2人のMF、元ディナモのネルミン・シャビッチ(27)や元ハイドゥクのヤスミン・ムイジャ(27)などが名を連ねる。このチームで特筆すべきはオリッチとドゥロ。オリッチは強さとテクニックを兼ね備え、両足でシュートが放てる現在のクロアチアリーグで最も恐ろしいゴールゲッター。ワールドカップ予選の大一番ベルギー戦を前にA代表へ初召集を受けた。ドゥロについては無知だったが、試合前に観客席で知合いとなったジャーナリストが「現在彼が最高のMFだ」と語った通り、左足から絶妙のロングレンジパスを通していく。16時にキックオフすると同時にNKザグレブは新参者トシュクを血祭りに上げた。
【写真:得点に喜ぶ選手達】
前半3分、ロヴレクが右から基点となり、ハサンチッチからのアシストをペナルティエリア中央で待つオリッチがズドンと打ち込み先制。7分、フラニャからの左CKを再びオリッチがヘディングで決めて2点目。25分、フラニャの正面のシュートをGKピニャギッチがキャッチングできず、ハサンチッチがボールを奪ってGKをフェイントでかわし3点目。31分、左サイドからのフラニャのセンタリングをハサンチッチがバックヘッドで4点目。39分、左からのパスを貰ったオリッチがペナルティエリア手前から地を這うシュートを決めて5点目、そしてハットトリック達成。前半終了も近い44分、左からオリッチが崩して、フラニャがスライディングでシュートを決めて6点目。無口だったはずの隣りのオジイサンは試合になると「Igraj!
Igraj!」("プレーしろ、動け"といった意味)と叫ぶのだが、それも何処と無しか御機嫌なトーンだ。中盤はワンタッチでのパスを心掛け、左右に相手守備陣を揺さぶっておきながら、崩れかけた場所を見つけるや4人の攻撃陣+両サイドバックが襲いかかる。基点はドゥロ、もしくはハサンチッチ。オリッチはポストプレーも上手いので、安心してサイドを押し上げられるのだ。相手GKがゴールにへばり付くタイプであったが為の最悪の結果なのだが、それを差し引いてもこの攻撃力は脅威だ。後半になると、殆ど2バックの形にして更に攻撃を仕掛けていく。49分にフラニャが放った強烈なシュートはクロスバーを叩いてネットに吸い込まれ7点目。1分後にはハサンチッチからペナルティエリア左のオリッチへ、オリッチこれを決めて8点目。トシュクのFWアンジェルコ・クヴェシッチは最下位のチームながら7節で7ゴールを決めてオリッチと並ぶリーグのトップスコアラーだったのだが、直接対決で4ゴール差を付けられてしまった。クロアチア・リーグの大差での勝利記録は11-1(94年オシエクvs.ハジンカ)、10-0(94年ハイドゥクvs.ラドニク)。それにも迫る可能性は充分にあったが、このあとは勢いが落ちて、決めるべきゴールが決まらなくなる。けれどもこれで充分なホワイト・エンジェルスは「シャンピオンニ、シャンピオンニ、オーレ、オーレ、オーレ!」と声高らかに叫ぶのであった。同じ4-2-3-1のフランス代表やデポルティーボ・ラコルーニャ、レアル・マドリッドと比較したら、パススピードと連動性は明らかに落ちる。とはいえ、もしピッチコンデションが良好だったら....それは次の観戦の楽しみにしておこう。
【写真:隣りのオジイサン(81歳)も
NKザグレブの勝利にご満悦】
4ゴール2アシストのオリッチのVecernji-List紙の評価は今迄見たことない10点満点。2ゴール3アシストのハサンチッチ、2ゴール2アシストのフラニャも9点の評価。チーム総得点25のうち、オリッチ(11)、ハサンチッチ(5)、ロブレク(4)、フラニャ(3)の4人で23点を叩き出している。試合後、敗戦の責任を取って解任となったトシュクのイヴィツァ・ヴィドヴィッチ監督は「ディナモとハイドゥクとも戦ってきたが、NKザグレブが現時点で最も完成されたチームと断言できる」とコメント。クラニチャール監督は「試合前に私は神経質になっていたが、選手達は要求した以上のものを見せてくれた。大差記録については考えてなかったし、選手達もそうだったろう。とはいえ、8-0のあとも選手達はゴールを狙っていた」と満足のコメント。メディアの中にはNKザグレブを「Dream
team」と表現するものもある。:ジダンを加え正真正銘の「Dream
team」となったレアル・マドリッドと比較するのはおこがましいのは百も承知だが、ザグレブの一地区に夢を与えているのは紛れもない事実だ。もう一つ、このクラブには素敵な愛称がある。"詩人たち"という意味の「Pjesnici」。スタディオンが面するクラニチェヴィチェヴァ通りというというのは、クロアチアの詩人シルヴィエ・ストラフミール・クラニチェヴィッチ(1865-1908)にちなんで名付けられ、そこから生まれた愛称である。知将クラニチャールに率いられた"サッカーの詩人達"NKザグレブ。最後までメンバーが欠けることなく、2001/2002シーズンという長編詩を優勝という美しい形で結ぶことが出来るだろうか。
CROATIA
LEAGUE 2001-2002 |
|||
| NK ZAGREB | TSK | ||
| position | name | position | name |
| GK | 1.Vladimir Vasilj | GK | Damir Pinjagic |
| DF | 5.Josip Bulat | DF | Danijel Kukic [59'-Dario Kovacevic] |
| DF | 6.Vedran Jese [76'-Hrvoje Strok] |
DF | Marko Cvetnic [9'-Dario Cingel] |
| DF | 2.Goran Stavreski | DF | Alen Besic |
| DF | 3.Ivica Piric [63'-Predrag Simic] |
MF | Davor Kunert |
| MF | 4.Dalibor Poldrugac [70'-Frane Cacic] |
MF | Mario Garba |
| MF | 7.Ibrahim Duro | MF | Hrvoje Dobranic |
| MF | 11.Krnoslav Lovrek | MF | Josip Radosevicl |
| MF | 10.Antonio Franja | MF | Damir Klaric [46'-Branimir Bizjak] |
| MF | 8.Admir Hasancic | FW | Tin Lovrekovic |
| FW | 9.Ivica Olic | FW | Andjelko Kvesic |
| COACH | Zlatko Kranjcar | COACH | Iviva Vidovic |
| 【NK ZAGREB 8−0 TSK】 | |||
| GOAL '3 | Ivica Olic (Zagreb) | ||
| GOAL '7 | Ivica Olic (Zagreb) | ||
| GOAL '25 | Admir Hasancic (Zagreb) | ||
| GOAL '31 | Admir Hasancic (Zagreb) | ||
| GOAL '39 | Ivica Olic (Zagreb) | ||
| GOAL '44 | Antonio Franja (Zagreb) | ||
| GOAL '49 | Antonio Franja (Zagreb) | ||
| GOAL '50 | Ivica Olic (Zagreb) | ||
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