現地発、クロアチア・サッカー報告(3)

計画されたアップセット〜ヴァルテクス、アストン・ヴィラを下す


2001/9/27 UEFAカップ一回戦第2レグ
「NKヴァルテクス・ヴァラジディンvs.アストン・ヴィラ」


【写真:アストン・ヴィラに挑む
NKヴァルテクスのイレブン】 
  「アストン・ヴィラ、ヴァルテクスに2-3で敗れる!!」
 クロアチア留学に向けての出発が差し迫った9月21日、インターネットでこのニュースを見た僕は瞬間に目が点となった。今季のUEFAカップ一回戦に出場したクロアチアのクラブは4つ。チャンピオンズリーグ予備選でマジョルカ相手に敗退、UEFAカップへと回ったハイドゥク・スプリトの対戦相手はウィスラ・クラクフ(ポーランド)、昨季リーグ2位のディナモ・ザグレブはマッカビ・ハイファ(イスラエル)、3位のオシエクはHITゴリツァ(スロベニア)。そして4位のヴァルテクス・ヴァラジディンは一番クジ運が悪く、イングランドの名門アストン・ヴィラが対戦相手となる。

 UEFAカップ予備選。これにおいてはヴァルテクスはクジ運良く、サッカー後進国リヒテンシュタインのクラブ、ファドゥーツと対戦。それでも第一戦のアウェー戦を3-3のドロー、第二戦のホームでようやく6-1と勝利して退けることが出来た。一方、アストン・ヴィラは昨季のプレミアリーグで8位に終わり、インタートト・カップ3回戦から登場。ここでクロアチアリーグ昨季5位のスラベン・ベルーポと対戦する。7月14日、アストン・ヴィラがクロアチア北部コプリヴニッツァ市のグラドスキ・スタディオンに赴いた第一戦、61分にパボ・ツルナッツのゴールでスラベン・ベルーポが先制。89分にデイビット・ジノラのゴールで追い付くも、ロスタイムにゴラン・ゲルシャクが値千金の勝越しゴール。不覚にも1-2と敗戦してしまう。思わぬ敗戦にジョン・グレゴリー監督も面子が立たないと感じたのか、ホームでの第2戦では新加入のピーター・シュマイケルやハサン・カシュルール、ムスタファ・ハッジを投入。リー・ヘンドリーの2ゴール(19分、41分)で第一のクロアチアの刺客を退けた。以後は準決勝のレンヌ(フランス、2-2、アウェーゴール2倍ルール)、決勝のバーゼル(スイス、5-2)で下してUEFAカップの出場権を取得。またUEFAカップ予備選でディナモ・ザグレブがフローラ(エストニア)との試合に挑む直前に、欧州カップ戦に使えるようディナモからFWボシュコ・バラバンの獲得に成功。クラブ関係者はUEFAカップ一回戦で第二のクロアチアの刺客と戦うことを喜んだか悲しんだか知らないが、バラバンはきっと因縁めいたものを感じたであろう。

 さてUEFAカップ一回戦で戦うことになった両チームを比較してみることにしよう。歴史の違いは一目瞭然。また選手の知名度は雲泥の差。貴方はアストン・ヴィラに対して、ヴァルテクスの選手達の名前をどれだけ耳にしたことがあるだろうか?

クラブ名

ヴァルテクス・ヴァラジディン
(NK VARTEKS VARAZDIN)

アストン・ヴィラ
(ASTON VILLA FC)

本拠地

ヴァラジディン(VARAZDIN)

バーミンガム(BIRMINGHAM)

歴史 1931年6月3日、「SLAVIJA」という名前で創立。戦争中は活動を休止し、1945年に「NK TEKSTILAC」として復活。1958年に地元の織物企業VARTEKSがオーナーとなり「NKヴァルテクス」となる。
ヴァラジディンは15世紀以来、繊維手工業の盛んな地域であり、1918年に衣服メーカーとして「Varazdinska tekstilna industrija」("ヴァラジディン織物産業"の意味)が創業。1948年に上記の名前が縮まって「VARTEKS」となった。VARTEKS社は1952年から衣服の販売ネットワークを形成。国内至るところに当社のお店を見ることが出来る。旧ユーゴ諸国にも支社を持ち、欧米にも販売を広げ、年間生産の80%以上は輸出している。雇用者数は4,200人。
1874年1月、バーミンガムのヒースフィールド・ロードにあるガス灯会社により創立。1875年にSt.Mary's Rugby Unionと初めて対外試合を行った時は前半がラグビーで後半がサッカーだった。スコットランド人ジョージ・ラムゼィのもとサッカークラブとして発展、1897年にはイングランド史上初めての国内選手権とFAカップのダブルクラウンに輝く。64年後にトッテナム・ホットスパーが達成するまで、ダブルクラウンをした唯一のチームでもあった。1982年にはチャンピオンズ・カップ決勝でバイエルン・ミュンヘンをトニー・モーリーのゴールで1-0で勝利、ビッグ・イヤーを獲得している。

スタジアム

NK Varteks Stadion
収容人員8,970人。
Villa Park
収容人員39,339人。

タイトル
・成績

旧ユーゴスラビア・リーグ、クロアチア・リーグ含めて優勝経験無し。
1992年発足のクロアチア・リーグでの成績は8位、7位、5位、6位、3位、6位、10位、5位、7位、4位。
国内カップ戦では旧ユーゴ時代含めて3度決勝に進出し、全て準優勝。
1961年ヴァルダル・スコピエ戦(1-2)、1996年クロアチア・ザグレブ戦(0-2,0-1)、1998年対クロアチア・ザグレブ戦(0-1,1-2)。カップ・ウィナーズ・カップには2度出場。1996/97シーズンは2回戦でロコモティブ・モスクワに敗退。しかし1998/99シーズンはルダール、ヘーレンフェーンに勝利し、3回戦でマジョルカに敗れるものの、準々決勝までコマを進めた。
国内リーグ優勝 7回(1894,1896,1897,1899,1900,1910,1981)
FAカップ優勝 7回(1887,1895,1897,1905,1913,1920,1957)
リーグカップ優勝 5回(1961,1975,1977,199,1996)
チャンピオンズ・カップ 1回(1982)
スーパー・カップ 1回(1983)

監督

Branko JANZEK John GREGORY
選手
(★は新加入)
1 GK Danijel MADJARIC
2 DF Antun ANDRICEVIC
3 DF Goran BOROVIC
4 FW Dino KRESINGER
5 MF Danijel HRMAN
6 DF Matija KRISTIC
7 DF Ivan REZIC
8 MF Dejvis MUKAJ(Alb)
9 FW Veldin KARIC
10 MF Miljenko MUMLEK★
11 FW Sasa BJELANOVIC
12 GK Zeljko RUMBAK
13 MF Marko MIKIC
14 DF Goran GRANIC★
16 MF Dragan SACER
18 MF Andrija BALAJIC★
19 MF Hrvoje SKLEPIC
20 MF Nikola SAFARIC
21 MF Igor RADETIC
23   Zoran IVACIC
24 MF Silvester SABOLCKI
25 MF Zoran KASTEL
26 FW Oscar DROBNE(Slo)
27 FW Drazen HORVAT
30 MF Alen MARAS

1974.11.13
1974.1.16
1972.8.3
1982.3.20
1975.8.7
1978.10.10
1979.9.15
1976.12.21
1973.11.16
1972.11.21
1979.6.11
1969.8.21
1982.11.12
1975.7.9
1982.2.7
1972.8.22
1980.2.5
1981.3.11
1982.1.2

1979.11.12
1972.10.22
1975.2.6
1979.10.27
1982.2.27
1 GK Peter SCHMEICHEL(Dan)★
2 DF Mark DELANEY(Wal)
3 DF Alan WRIGHT
4 DF Olof MELLBERG(Swe)★
5 DF Alpay OZARAN(Tur)
6 MF George BOATENG(Hol)
7 MF Ivan TAYLOR
8 FW Juan Pablo ANGEL(Col)
9 FW Dion DUBLIN
10 MF Paul MERSON
11 DF Steve STAUTON(Ire)
12 GK Peter ENCKELMAN(Fin)
13    Boaz MYHILL
14 MF David GINOLA(Fra)
15 DF Gareth BARRY
17 MF Lee HENDRIE
18 MF Steve STONE
19 FW Bosko BALABAN(Cro)★
20 MF Mustapha HADJI(Mor)★
21 MF Thomas HITZLSPERGER(Ger)
22 FW Darius VASSELL
23 FW Stefan MOORE
25 MF Jonathan BEWERS
29 MF Stephen COOKE
30 MF Hassan KACHLOUL(Mor)★
31 DF Jlloyd SAMUEL(Tri)
39 MF Wayne HENDERSON
1963.11.18
1976.5.13
1971.9.28
1977.9.3
1973.5.29
1975.9.5
1968.6.4
1975.10.25
1969.4.22
1968.3.20
1969.1.19
1977.3.10

1967.1.25
1981.2.23
1977.5.18
1971.8.20
1978.10.15
1971.11.16
1982.4.5
1980.6.13

1982.9.10
1983.2.15
1973.2.19
1979.5.23
1982.2.27


 前のレポートでNKザグレブが「詩人」という意味の「Pjesnici」と呼ばれていることは紹介したが、NKヴァルテクスは親会社にちなみ「洋服の仕立て屋」という意味の「Krojaci」と呼ばれている。そんな今季の洋服屋チームについて説明していこう。フォーメーションは3-5-2。現U-21代表FWサシャ・ビエラノヴィッチ(22)の188cmの長身を活かすために最前線に置かれ、セカンドストライカーとしてヴァルディン・カーリッチ(27)が周囲をめまぐるしく動き回る。控えFWはスロベニア人オスカール・ドロブネ(26)。昨季はこの3人で31ゴール11アシストを叩き出した。攻撃的MFは二人。まずは移籍金が支払われずディナモから2年振りに帰還することになったMFミリエンコ・ムムレク(28)。国内リーグきってのゲームメーカーで、98-99シーズンのカップ・ウィナーズ・カップの躍進の原動力となっている。もう一人はアルバニア代表経験を持つデビス・ムカイ(24)。また控えにはユース代表に名を連ねるフルヴォイエ・スクレピッチ(21)やニコラ・シャファリッチ(20)などがいる。両サイドには優秀なタレントがいて、右が「ヴァラジディンの風」の異名を取る現U-21代表シルベスタル・サボルチュキ(21)。左のダニエル・フルマン(26)との組合わせは昨季のリーグで最も優れた両サイドと認められている。また代表経験のあるアンドリヤ・バライッチ(29)もハポエル・ベールシェバ(イスラエル)から帰還した。ボランチは長身のゾラン・カステル(28)が構える。守備は3バックだが基本的にラインディフェンスを引いている。中央が今季オリンピア・リュブリャナから獲得したゴラン・グラニッチ(26)。右がクロアチアU-21代表のイヴァン・レジッチ(22)、左がマテヤ・クリスティッチ(22)。GKにはダニエル・マジャリッチ(26)が昨季のジェリコ・ルンバク(31)からレギュラーを奪い取った。この日の登録メンバーでクロアチアA代表経験のあるのは3人のみ(ムムレク3cap,バライッチ3cap,サボルチュキ1cap)。ディナモやハイドゥクが20代前半の選手でチーム形成しているのに対し、ヴァルテクスは20代後半に入った中堅世代が多い。チームの骨格は昨季にイヴァン・カタリニッチ監督(現リエカ監督,A代表コーチ)が作り上げたのだが、4月29日にハイドゥク・スプリット相手に0-6の敗戦を喫したことがアンジェルコ・ヘリャヴェッツ会長の怒りに触れ解任されてしまう。当時のハイドゥクが絶好調だったとはいえ、僕が唯一観戦したヴァルテクスの試合がこれであったということはこのチームの過小評価せざる得なかった。けれども後任のブランコ・ヤンジェクは構成をいじくることなく、今季は選手の流出を食い止める一方で、ムムレクやバライッチといった帰還組が加わったことにより戦力は確実にアップさせたのだった。クロアチア・リーグが開幕して7試合をこなし、5勝1敗1分の3位。まずまずの好成績を残しつつ、ヴァルテクスはクラブ史上に残る一戦を迎えた。
 9月20日、場所はバーミンガムのヴィラ・パーク。20時45分キックオフ。試合開始直後はアストン・ヴィラが押すも、ヴァルテクスは次第にペースを掴み始まる。前半終了直前、ムカイからのパスにビエラノヴィッチがシュートを決めて先制。しかし後半が始まると共にアストン・ヴィラはアグレッシブになり、打ち合いの展開へ。54分にコロンビア代表アンヘルが同点ゴール。67分、カステルの左からのパスにカーリッチが決めて再びヴァルテクスが突き放すも、73分、アンヘルがカシュルールのクロスを頭で合わせて2-2。その後は激しい攻防となり、86分、再びムカイのクロスからビエラノヴィッチが決めて突き放し、ヴァルテクスが3-2の大金星で終えたのだった。

 9月27日、僕はバスに揺られながらザグレブの北、ヴァラジディンへと向う。この日のSportske Novosti紙は街とチームの様子をこう書いている。「商店でも市場でも話題はサッカーのことばかりだ。今まで経験したことのない状態である。3-2という貴重な勝利を収め、折り返しの第2戦がヴァラジディンにも歴史的な試合となる。しかし、今夜は困難で避け難い続きとなる。ネヴェンコ・ヘリャノベッツ会長は語る。『もう入場券のことを要求しないでくれ。全ての電話を拒絶している。もう電話という圧力に耐えることが出来ない。今夜の一戦に10000人の観客がやってきて、スタジアム新記録となると断言できるだろう。入場口で厳しいチェックがあるから、チケットを買うことに成功した者は早く会場に来るよう警告する。』」。ヤンジェク監督はこの一戦に向けてこう語っている。「チームはリフレッシュし、全員が健康だ。全てこの試合のために生きてきたようなものだ。選手には結果について考えるよりも、今夜は皆の期待に応えられることを要求している。アストン・ヴィラがチームであることは言うまでもない。グレゴリー監督はベストメンバーで挑んで来るだろう。我々も第一戦と同じペースを作り、自分達のプレーをしなければならない。」 キャプテンのムムレクも意気込みをこう語る。「ヴァラジディンの人々は長くこの試合を待っていた。バーミンガムでの結果は我々を優位な位置へと後押ししてくれるが、それは大きなプレッシャーでもある。3-2の勝利のあと我々は喜びに浸ることなく、困難となるだろう第2戦のことを意識してきた。アストン・ヴィラを倒すことに成功してからから、本当の宴が始まる。」

【写真:クロアチア国旗をまとうヴァルテクス・サポーター。
左から二人目がドイツからのヴィラ・サポーター】

 試合開始より5時間半も早い、15時30分にバスはヴァラジディンに到着した。まだ街は何事もないように静かな状況である。救済措置として急遽、バックスタンドの600席が追加で売り出されていた。スタジアム入口近くにあるバーのTVでは、同じくしてUEFAカップで戦うハイドゥク・スプリトの試合が放送。ホームでの試合を2-2で終えたハイドゥクは大勢のトルツィダ(サポーター)を引き連れ、クラクフに乗り込んでいた。しかし前半にフランコウスキ(元名古屋グランパスのトーマス)に得点を許し、劣勢に立たされる(ビデオで見ると明らかにオフサイドだったのだが)。後半、サイドを中心に攻撃するも堅い守りが崩せず、56分にDFフルヴォイエ・ヴェイッチ(22)がイエロー2枚で退場してしまう。MFイゴール・ムサや新加入のFWドミトリー・ラドチェンコ(元ジュビロ)を投入しても効果なく0-1で敗北、UEFAカップ一回戦敗退が決まる。同じく2日前、ホームで2-2と終えたディナモ・ザグレブがマッカビ・ハイファと対戦するためにイスラエルに赴いていた。クロアチア国営放送でも生放送されたこの一戦で、ディナモは攻めまくり、アギッチのミドルシュートで先制。しかし40分、DFディノ・ドルピッチ(20)がペナルティエリアでFWビトンと引張り合いながら倒れると、審判はドルピッチにレッドカード、マッカビ・ハイファにPKをプレゼントした。これを決められ1-1。後半はなかなか打開できず、ロンチャレヴィッチ監督は72分にアブラモヴィッチ、ザホーラ、ブラドヴィッチの3FWを同時に出すショック療法に出るも結果が残せず、クロアチア二強が共に一回戦で消えてしまうことになった。レッドカードを食らったヴェイッチが22歳、ドルピッチが20歳。若さゆえの失敗だったのだろうか。「ヴィスラ・クラクフvs.ハイドゥク・スプリト」に続き、TVは「オシエクvs.HITゴリツァ」を放送。アウェーの第一戦を2-1で下していたこともあり、この試合はマリヤン・ヴカのゴールで1-0と勝利。二回戦へと駒を進める。国内リーグのライバルはくっきりと明暗が分かれた。

【写真:ヴィラの一員として訪れたボシュコ・バラバン】 
  オシエクの放送は見るまでもなく、僕はデジカメ片手に散策に出る。17時。まだサポーターは現れないが、応援グッズとポップコーンを売る出店が登場。国旗を見にまとったオジサンが通りすぎる車に向かって大ハシャギしている。そして、ドイツから8時間かけて車で駆け付けたというアストン・ヴィラのサポーターが3人。午前にザグレブのヴァン・イェラツィツァ広場でもヴィラのユニフォームを来て街を観光するイングランド人集団を見かけたが、この人達はドイツ人。バーミンガムでの生活経験から、ヴィラの熱狂的なファンになったそうだ。とはいえ、ドイツといえばビールとソーセージ。早速、ステーション・ワゴンを停めた駐車場の前で地元ビールを振舞ってくれ、今から火を起こしてソーセージを焼くから19時に再びおいでと言われる。18時。徐々にサポーターが集まってきた。客層はスプリト同様に老若男女と幅広い。19時。開門が始まり、客の波が押し寄せる。ザグレブと違い、ここヴァラジディンでは東洋人が珍しいらしく、様々な視線を浴びまくる。僕は視線を逃れるため駐車場にいるドイツ人のところに行き、イングランドからのヴィラ・サポーターも一緒にソーセージをパンに挟んでパクリ。聞くと現地からは100人ほどが来ているそうだ。スタジアム正門に戻ると、アストン・ヴィラの選手達がバスで到着。目の前をキラ星のごとく有名選手が通りすぎる。その中にはボシュコ・バラバンも。19時30分、この試合でのプレス手配をしてくれた友人達としばし再会を喜び、スタジアムの中へ。しかし特別席はヴァルテクスの選手を視察にきた代理人が30人以上も訪れたこともあって我々3人が座る場所がない。仕方なく客席へと移動。椅子にはバルテクスのカラーである青と白の厚紙が配られ、裏には両チームのメンバー表が。これはスタジアム全ての席においてである。クロアチアにおいてこのような用意周到ぶりは本当に珍しい。ヴィラの選手が練習に出てくると共に強烈なブーイング、そしてヴァルテクスの選手が登場すると拍手だけでなく、女性からは「Bjela!!」(ビエラノヴィッチ)といったように黄色い声が飛ぶのだ。これも本当に珍しい。選手紹介。公式戦ではこの日が初先発となったボシュコ・バラバンに対して最大のブーイングが飛ぶ。そしてヴァルテクスの応援歌が流れ、観客は手元の厚紙を振りまくる。続いて定番のクイーンの「We are the Champion」が。しかしサビがリフレインされることなく、選手が入場するから曲を落とせとピッチの上のオジサンが手を上下に振る。雰囲気作りにも全て手作りの匂いがする。イングランドでの生放送を最優先したのだろうか、21時05分という異例のキックオフに合わせて両チームの選手が入場してきた。今年4月、僕はここで親善試合「クロアチアvs.ギリシャ」戦を観戦した。ヴァラジディンの市民がギリシャ代表に対して常に温かい拍手を送る光景を見て、ヴァラジディンの人達は寛容だなあと驚いたものだった。しかし、今日は全く違う。アストン・ヴィラを倒すために市民の気持ちは選手と一丸となっているのだ。

【写真:手前はバラバン、奥がジノラ。 
前半はヴィラの攻撃を抑え込む。】

 ムムレク、シュマイケルのキャプテン同士がペナント交換をして、お互いのピッチを決める。21時5分、デンマークのフォルクォルト主審の笛がなり、アストン・ヴィラのボールでキックオフ。第一戦のヴィラの2トップはコロンビア代表のアンヘルとU-21イングランド代表のヴァッセルだったが、今日はジノラとバラバンで挑んだ。中盤ではカシュルールとハッジのモロッコ代表コンビがポジションチェンジを繰り返し、FWでありながら中盤で起用されたヘンドリーも前へ前へと仕掛けて行く。とはいえ、ヴァルテクスは決して引かず、前半頭から真っ向勝負を挑んでいった。中盤でのプレスでヴィラのパスミスを誘い、SBのオーバーラップでガランと空いたサイドのスペースを突いていく。ヴィラDF陣はムムレクの散らしから変幻自在に動くカーリッチを捕らえられない。6分にムムレク、7分にはレジッチがFKを放ち、9分に左CKからクリスティッチのヘディングシュート。11分にはムムレクのスルーパスからカーリッチがシュマイケルと1対1に。しかしシュマイケルを交せずにシュートは打てず。続けて左右のクロスからビエラノヴィッチに頭に合わせる攻撃へと転換。アストン・ヴィラも25分にジノラからハッジへスルーパスを出すがシュート打てず。1分後にはムムレクが左足からミドルシュートを放ち、シュマイケルがパンチングで防ぐ。ジノラはフェイントを織り交ぜたドリブルで存在感を際立たせる一方で、バラバンは完全に沈黙している。34分、カーリッチ、ムカイがサイドチェンジし、フルマンが左からペナルティエリアのビエラノヴィッチに合わせクロスボールを上げ、後ろに落としてムムレクがシュート、しかしこれは右へ。37分にはムカイ、40分にはカステル、43分にはサボルチュキがシュート。前半は0-0で終ったが、ヴァルテクスの勇敢な戦い振りに観客から万来の拍手が送られた。

【写真:シュマイケルと1対1となるカーリッチ。
最後までヴィラDF陣は彼の動きに惑わされた。
撮影:Sport-Net】 
 後半に入り、アストン・ヴィラは頭からバラバンに代えてアンヘルを投入。また前半終了時にDFメルベリが負傷。MFストーンを投入して、3-5-2にシステムチェンジする。50分、ビエラノヴィッチがヒールパスでカーリッチへ、カーリッチはペナルティエリアに突進し、DFディレイニーと交錯して倒れるが、シュミレーションを取られてイエローカード。そのチャンス以降は完全にアストン・ヴィラがペースを握る。54分にはジノラの左足のクロスからハッジへ(シュートは打てず)、55分にはヘンドリーがミドルシュート。56分にはムカイのパスをアンヘルがカット、左のジノラに展開し、ジノラのクロスはアンヘルに合わず。そんな劣勢下にヤンジェク監督は58分に司令塔ムムレクを代えてバライッチを投入。チーム最高のタレントであるムムレクの交替を知るや一部のヴァルテクスから悲鳴に似た声が上がる。その悲鳴が予言するかのように、守備を固めるはずのバライッチ投入が裏目に出た。彼を左アウトサイドに入れて、それまでそのポジションに居たフルマンを後ろに下げることで4-4-2のフォーメーションを取るはずが、守備においてバライッチがサイドを守らずしてセンターバックの位置に入ってくるのでフルマンが混乱。ヤンジェク監督も指示を出すが、解消されそうにない。63分にグレゴリー監督がFWダブリンのカードを切る。アストン・ヴィラは中盤を完全に支配、キープ力のあるジノラがMFの位置に下がり、一つドリブルを加えてからクロスやパスを配球するチャンスメーカーに徹する。ハッジやアンヘルもがドリブルで突進してシュートを放つ。一方、ムムレクを失ったヴァルテクスは必死にロングボールで前線へとクリアしていく。69分、ヘンドリーのCKからストーンのシュートはGK正面に。しばらくしてFWのカーリッチも含めたヴァルテクスの選手達は、パスの貰い手へのチェックを心掛けることでペースを取り戻そうとし、サイドからのクロスはGKマジャリッチが次々と防いで行く。またグラニッチを中心にしたディフェンス陣もペナルティエリア内で奮闘ぶりを見せた。70分、バライッチがドリブルで突進、ペナルティエリア手前でボーテングがスライディングで止めに入るが、今度はこぼれた球を背後から入ったカーリッチが左足でシュート。さすがシュマイケル、左脇を抜けようとするボールに飛び付いてワンタッチ、向きを変えたボールは左ポストを叩く。これにビエラノヴィッチがスライディングで飛び込むも再びシュマイケルがボールを外へと追いやった。続いてのCKにビエラノヴィッチが得意のヘディングを試みるが、これもシュマイケルが難なくキャッチ。シュマイケルの壁は相当の厚さだ。試合終了が近付くにつれ、アストン・ビラは攻め疲れからボールを繋がらなくなってきた。観客の声援も一段と大きくなる。88分、アストン・ビラは右CKを得るとシュマイケルがゴール前へと上がってきたが、別の選手によるヘディングシュートはバーの上へ。ロスタイム表示が5分と表示されると、長いと感じた観客から大ブーイングが起こる。そしてロスタイム2分、ヴァルテクス守備陣の緊張の糸が初めて切れた。ペナルティエリアの手前で右サイドからのパスを受けたハッジが右足でフェイクを入れ、そのまま正面を向いて右足を振りぬくとボールは左ネットに突き刺さった。スタジアムはただただ沈黙。しかしこれで目が覚めたのだろう。6分まで伸びたロスタイムをヴァルテクスはきちんと守り抜いたのだった。フォルクォルト主審の笛が鳴り、スタジアムは歓喜に包まれる。トータルスコア3-3、アウェーゴール2倍ルールでUEFAカップ一回戦における最大のアップセットに成功した。選手達は一列になって手を繋ぎ、各スタンドに向って駆け出し、最後は頭からスライディング。そしてワインを回し飲みをする。本当の宴が始まった。前半はヴァルテクス、後半はアストン・ヴィラと流れは変わったが、試合を通じて守備的に通さなかったのが良い結果をもたらしたのだろう。シュート数はヴァルテクス13に対し、アストン・ヴィラが8。枠内でもヴァルテクスは6と、ヴィラの倍を放っている。今夜の彼らは勝利に相応しい戦い振りだった。おめでとう、ヴァルテクス・ヴァラジディン、そしてヴァルクスのサポーター達!


【写真:勝利後、一列になってスタンドに駆け出す選手達 撮影:Sport-Net】 

【写真:記者会見でのグレゴリー監督】

 試合後、初めて記者会見という場に足を踏み入れた。グレゴリー監督は沈痛な面持で席へと座る。いつもはマスコミが喜ぶような過激な発言で馴らす彼だが、今日はそうとは行かなかった。「ヴァラジディンで勝利するためにやってきたのだが成功しなかった。最初の試合でのヴァルテクスの3ゴールが常に我々に重くのりかかり、その時に我々の勝利を棒に振ったようなものだ。充分に成功に値した相手チームを祝福するよ。」 また意外に冷静な顔付きのヤンジェク監督は「特別に困難な試合だった。前半は素晴らしくプレーしたが、後半は少し引き過ぎてしまった。打撲を負ったムムレクを代えざるえなったが、それが我々のプレーに影響を与えてしまった。とはいえ、我々は力を集結することに成功し、2回戦へと進めることに値したのだ。」とコメント。ムムレクは「ファンタスティックな観客に感謝する。充分すぎるほど素晴らしかった。彼らの存在がこの試合で勝利する最も大事なファクターであった。終了間際のゴールで印象を少し壊してしまったが、それでも全てが幸福に感じるよ」と、今日のサポーター達を持ち上げる。僕はプレス関係者に配られたワインとヴァルテクス・グッズに大喜びし、その後は友人達とスタジアムのバーで祝杯を挙げる。するとサポーター達と同席して歓談しているムムレクを発見。そんな彼に近付き、「おめでとう」の言葉と交換に、試合で配られた厚紙にサインを頂く。僕は単なるミーハーに過ぎないのだが、今夜の成功はサポーターと選手達の距離の近さが生み出したといっても過言ではなかっただろう。

 ヴァルテクスの2回戦の対戦相手はデンマークのブロンビーに決まった(第1戦10/18、第2戦11月1日)。1964年創立という新しいクラブながら、リーグ優勝8回、国内カップ3回の優勝を誇る。とはいえ、アストン・ヴィラほど厳しい相手ではないだろう。このままでは「ヴァルテクスは強いチームだ」と信じ込みそうだ。しかし、ヴィラとの一戦から3日経ったクロアチア・リーグ第9節、ヴァルテクスは最下位のトシュクと対戦。アウェーでの対戦とはいえ、トシュクは前節、NKザグレブ相手に0-8の大敗を喫した"超"弱小チームだ。それが、なんとなんとヴァルテクスが1-4で敗北。勝利の宴に酔いしれ過ぎたのだろうか。ミステリアスなクラブ、NKヴァルテクス・ヴァラジディン。これだからクロアチアのサッカー・ウォッチングはやめられない。

UEFA CUP 2001-2002
1st round, 2nd leg
NK VARTEKS VARAZDIN vs. ASTON VILLA

2001.9.27  NK Varteks Stadion

NK VARTEKS ASTON VILLA
position name position name
GK 1.Danijel Madjaric GK 1.Peter Schmeichel
DF 6.Matija Kristic DF 2. Mark Delaney
DF 7.Ivan Rezic DF 3. Alan Wright
DF 14.Goran Granic DF 4. Olof Mellberg
[45'-18.Steve Stone]
MF 25.Zoran Kastel DF 5. Alpay Ozalan
MF 5.Danijel Hrman
[90'-2.Antun Andricevic]
MF 6. George Boateng
MF 24.Silvester Sabolcki MF 17. Lee Hendrie
MF 8.Devis Mukaj MF 20. Mustapha Hadji
MF 10.Miljenko Mumlek
[58'-18.Andrija Balajic]
MF 30. Hassan Kachloul
[63'-9.Dion Dublin]
FW 9.Veldin Karic FW 14. David Ginola
FW 11.Sasa Bjelanovic FW 19. Bosko Balaban
[46'-8.Juan Pablo Angel]
COACH Branko Janzek COACH John Gregory
NK VARTEKS 0−1 ASTON VILLA
1st leg [3-2]     
GOAL '90  Mustapha Hadji (Aston Villa)

ホームページ掲載の記事・写真などの無断転載を禁じます。全ての著作権は長束恭行またはSport-netに属します。

現地発!! クロアチア・サッカーレポートに戻る