U-21欧州選手権
「クロアチアvs.チェコ」観戦記

(2000.6.1 in Trencin)


 ジリナからトレンチンまで列車で1時間のはずが、バスを利用したら2時間も掛かってしまった。バスがトレンチンのバスターミナルへと近付くと、スタジアムの照明塔も視界へと入ってくる。13時半、僕はバスターミナルに降り、バッグを背にして一目散に照明塔へ向けて歩き出した。ここトレンチンもさほど大きく無い街なのだが、丸みを帯びた独特の照明塔を備えた立派なスタジアムを抱えている。スタジアムに到着し、今回もクロアチア側寄りのメインスタンド席を買い求めようとするが、切符売りのオバサンにその意思がなかなか通じない。「あんた、殆どがチェコのサポーターが埋まるんだから」−ようやく意思が通じた時に返ってきた反応は極めて妥当なものだった。"HT G3 V 56"というおよそ何処か判らない席のチケットを手にし、僕はスタジアムを跡にしてホテル探しを始めた。汗を拭き拭き、ガイドブックで目星を付けていたランガリチオ・ホテルに辿り着いたら既に廃業とのこと。続けてホテル・トレンチンに頼ったが、ここも廃業。跡地に残るカフェの人に「この近くに安いホテルは無いか?」と聞くと、街の中心にある高級ホテル「タトラ」しか無いという。喉の乾きも限界にきたので、売店で2リットルのスプライトを買い込み、ついでに店の人に安ホテルを聞いてみたところ、近くにあるペンション"スヴォラド"を教えて貰う。シャワー/WC、TV付きで一泊600コルナ(約1500)円とリーズナブル。レセプションでペンション内の規則を見せて貰うと今時「未婚のカップルは宿泊不可」なんて記載されていることに親近感が湧く(笑) 荷物を部屋に置き、トレンチン市街を散策。ここトレンチンは険しい丘の上に古城が建ち、その古城が中心として街が形成されている。車両が入り込めない中央のミエロヴ広場はカフェが建ち並び、花壇やベンチも設けられていることから、温かい陽射しの中で憩いを求める青年や老人達が集う。また数多くの小学生の団体が遠足で訪れている。ほのぼのとした雰囲気に満ち溢れたこの街は、過去の訪問地の中でも5本の指に入るぐらいのお気に入りとなった。昨日無理したこともあって疲れが溜まっており、15時20分頃にペンションに戻って仮眠。試合開始を2時間半後に控えた18時、チケットと応援グッズをバッグに詰め込んで街へと飛び出した。

【写真】友好関係のクロアチアとチェコのサポーター

 ミエロヴ広場に出ると既に顔見知りのBBB(ディナモ・サポーター)とアルマダ(リエカ・サポーター)がビール箱を足元に置いて一杯やっている。「Dobar dan!」−挨拶と共に「まあ一本飲んで」と恒例の駆付け一杯のビール瓶を手渡された。お金を払おうとすると、「滅相もない。気にせず飲んで」とゴチになる。彼等はトルナバでのスペイン戦を終えた翌日にはトレンチン入りし、既に滞在3日目とのことだ。「今日のスタメンについて何か情報は持ってないかい?」と聞かれ、この街のネットカフェの存在を知っている僕はビールを飲み干した後に情報収集へと向う。クロアチアのサッカーサイトでは、スペイン戦で怪我をしたスモイエの代役としてシェーリッチをストッパーに置いてビシュコビッチを左アウトサイドに起用、そして今までの3-4-3をやめて3-5-2のフォーメーションにすると報じていた。そしてツートップはショコタ&シミッチ。すぐに広場に戻ってサポーター達に報告すると、アルマダはリエカ所属のバラバンがスタメンを外されたことが相当気に食わず、「シミッチよりはバラバンだろ!!」と主張する。今日の試合の展望を話したあと、彼等より先にスタジアムに向うことにした。途中、以前に列車で一緒になったコホルタ(オシエク・サポーター)の学生さんと再会、彼からはこんなことを聞かされる。「ここトレンチンで酒に酔った一人のクロアチア・サポーターが問題を起して、警察からパスポートを取上げられたそうだ。警察は私達に対して過敏になっているから気を付けないといけない。日本人の君は大丈夫だと思うが。」−「もしかして捕まったのはバビロン?」−「いや、彼ではないけどね(笑)。」 でも今まで見たきたメンバーを考えると一人ぐらいは問題を起こしそうだよな......。スタジアム手前でビシュツァンのユニフォームを着込み、僕もテンションを上げていく。スタジアム外では別のBBB&アルマダと出会い、挨拶と共に握手。彼等はチェコ・サポーターと交流していた。母国語が非常に似通っていることもあって、会話は普通に話して何とか通じるという。両者とも同じスラブ民族ということもあって友好的な関係を結んでいるのだが、チェコ・サポーターはクロアチアのユニフォームを着ている僕を見てキョトンとしている。「彼は日本のクロアチア人みたいなものさ」−クロアチア・サポーターから何とまあ嬉しい表現で僕を紹介してくれ、チェコ・サポーターとも握手して全員で記念写真。勧められた瓶入りの酒をぐいっと飲み、彼等とも別れてスタジアム内へ。

【写真】ユーリツァ・ヴラニェシュ

 僕の席は前から5列目ではあるが、トラックを挟んだ上に視点が低く、両ベンチの屋根が邪魔となってピッチの1/3が死角となっている。余りに酷くてチケットを買い直そうと思ったほどだ。スタンド内にいる座席案内係のオジサンは指定以外は座っちゃダメ、とかなり厳格。うーん、と悩み込んだところにクロアチアの選手達がジャージ姿でグラウンド視察に降りてきた。全選手のサインを集めるためにはこれが最後のチャンスだと、サイン帳片手にフェンスの最前列へ。選手達はクロアチアのベンチで雑談してから1人2人と控室へと戻るところを狙う。まずはイゴール・トゥドール。「Danas pobjeda!(今日は勝利を!)」とクロアチア語で話し掛けると、トゥトールの眼から試合への意気込みが伝わってきた。控えGKのシルビエ・チャブリナの次はユーリツァ・ヴラニェシュ。声を掛けると「How are you?」と英語で挨拶してきて、向こうから右手を差し出してくれた。目の前に立つヴラニェシュは知的さを漂わせる好青年だ。写真(右)にも気軽に応えてくれた。そしてキャプテンのイヴァン・レコからもサインをゲット。更にシュシャク監督、ダリオ・スモイエ、ボシュコ・バラバンからサインを貰う。バラバンも手を差し出し、健闘を祈るべくお互いのゲンコツを合わせた。結局のところ、サインを貰えなかったのは無視されたアンソニー・シェーリッチと、この時ピッチに降りてなかったスティペ・プレティコサの二人のみ。サインに関しては大収穫。そして忘れてはいけないのはイゴール・ビシュツァン。彼には「BISCAN」の名前が入ったユニフォームの背中を見せると「オォ」と驚いてくれ、僕の着ているユニフォームの背に直接サインをしてくれた。全ての人に「Danas pobjeda!」と声を掛けたのだが、誰もが「今日はやってやるぜ!」という意気込みと自信を見せた。チェコに勝利さえすれば、オランダvs.スペインの結果に関係なくグループ2位とオリンピック出場が確定する。「Danas pobjeda!!」

 スタジアムはみるみるチェコのサポーターで埋まっていき、フェンスには無数のチェコの国旗で埋め尽くされた。ここトレンチンは地理的にもチェコ本国から10km近くしか離れておらず、グループリーグの3戦いずれもチェコ代表はトレンチンで試合を行っている。一方、クロアチア・サポーターはメインスタンド左手にあるゴール裏席の一角に押し込められた。最初のオランダ戦の時と比べるとサポーターの数は半分ぐらいまでに落ち込んでいる。両チームの練習が始まると、太鼓の音頭と共に「チェヒ、チェヒ」の大合唱。ここは完全なるチェコ・ホームだ。メインスタンドもチェコのユニフォームを着た応援グループで占められ、スプリトから来たというクロアチア・ユニにクロアチアの帽子を身に付けたオジサン達と共に肩身の狭い思いをする。練習も終了し、FAIR PLAYの旗がピッチの中央へ。そして20時20分、選手入場。クロアチア国歌の次はチェコ国歌で、小節の効いた演歌調の歌がスタジアム全体に響き渡る。両チーム握手のあと、両キャプテンのコイントス。そして20時30分、スウェーデンのニルソン主審の笛でチェコボールにてキックオフ。キックオフと同時に、周囲の見難い席に居た人々が一斉に上の空席へと動き出す。これはチャンスと思い、上の席にいたスプリトのオジサンの横に座り込み、一緒に応援することにした。クロアチアは事前の情報通り、3-5-2のフォーメーション。GK/プレティコサ、左ST/シェーリッチ、リベロ/トゥドール、右ST/ビシュツァン、ボランチ/ヴラニェシュ&ブライコビッチ、左MF/ビシュコビッチ、右MF/サボルチュキ、トップ下/レコ、FW/ショコタ&シミッチ。左サイドはビシュコビッチだけでなく、シェーリッチも攻め上がるようだ。前2試合では3トップが全く機能していなかっただけに、3-5-2へと戻したことは賢明な判断だろう。更にDFラインは今までより高めに維持している。一方、チェコは4-3-3。実際のところ右SBのルカス・ドシェクが中盤の位置まで上がることで3-4-3ともとれるフォーメーション。なおかつ前線の選手の動きは実に流動的だ。ただし、要注意だったヤロリムは累積警告で不出場。このあとは、試合の展開を時系列で追う。

【4分
クロアチア】
中央でキープしたショコタがオーバーラップした左のシェーリッチへパス。目の前にコースが空いていたことから、25mの距離から思い切ってロングシュート。ボールはGKドロブニーの目の前でバウンドし、体勢を崩して捕ろうとしたドロブニーの手元でファンブル。その上、手の甲で自らのネットで押し込む形になる。クロアチア先制1-0。
偶然か、それとも初戦のオランダ戦でGKのミスに泣かされた見返りか。立ち上がりのクロアチアのゴールにスタンドはブーイングとなり、僕を含めた僅かのクロアチア・サポーターは喜び騒ぐ。しかし、先制後のクロアチアのサイド攻撃は過去2試合からと全く変り映えのしないものであった。
【6・8分
クロアチア】
ブライコビッチから右サイドからサボルチュキへパスが渡るが、チェックが厳しくてクロスは上がらず。8分にもレコの股抜きのパスからサボルチュキが早めにアーリークロスを放り込むが、FWのシミッチに合わず。
【9分
チェコ】
トゥドールがバロシュを倒してFKを得る。ペナルティエリア斜め右からシオンコのFKのクロスボールはプレティコサがキャッチ。
【10分
クロアチア】
中盤でキープしたレコは左でフリーに近いビシュコビッチへと展開するが、ビシュコビッチはトラップし損ね、チャンスが無駄に。
【11分
チェコ】
ビシュツァンの裏を狙ってロビングボールを放り、FWのバロシュがボールをキープ。カバーに戻ったビシュツァンを切り返しで交わし、後ろから駆け込んで来たシオンコへパス。シオンコのシュートは枠を逸れる。
チェコの選手は足技に非常に優れ、スピードに乗ったまま右足から左足へ、左足から右足へとボールを持ち替えながらドリブルし、そして瞬時の切り返しとフェイントでDFを置き去る。3トップの中央バロシュは決して大きくはないのだがフィジカルとキープ力に優れ、両サイドのシオンコ、トマス・ドシェクはスピードに秀でている。一方、クロアチアのショコタ、シミッチはクサビに両サイドの裏にと精力的に動くものの、堅固なチェコDFにマークされ、ペナルティエリアまではボールが運べない。
【13分
チェコ】
オーバーラップしたビシュツァンの裏を狙ってカウンター。ボールを受けたバロシュが走り込んでトゥドールをフェイントで交わし、右のトマス・ドシェクへパスを送るが、これはシェーリッチがクリアで逃げる。その後のCKはショートコーナーにして再びボールを持ったヘインツが中へ折り返し、DFレンギエルが合わせたヘディングシュートはGKプレティコサ正面へ。
【15分
チェコ】
早いリスタートからヘインツが左サイドをえぐり、中央で待つトマス・ドシェク目掛けてグラウンダーのクロス。これはトゥドールが足を伸ばして跳ね返す。
【17分
チェコ】
ティーツェは浮き球で再びクロアチアの左サイドへとボールを送る。そのボールをキープしたヘインツはヴラニェシュを交わして中を見てから低いクロス。シェーリッチがクリアし損ねたボールはトマス・ドシェクに渡り、DFを抜けながらシュート。プレティコサが間一髪でセーブ。
DFビシュツァンのオーバーラップからの攻撃参加がクロアチアの武器だったが、それにつけ込んだチェコの執拗なカウンター攻撃により、ビシュツァンはすっかり鳴りを潜めてしまう。それだけチェコの前線はナイフのように鋭く、かつハンマーのように重いカウンター攻撃を展開する。このあとクロアチアも前線へとボールを運ぶもゴールへと結び付かない。
【18〜20分
クロアチア】
ショコタとのワンツーでシミッチが左サイドへと抜けるも、スペースへのボールが強すぎてクリアされてしまう。19分にはブライコビッチから左でマークの無いビシュコビッチへパスが送るがこれも不正確。20分にブライコビッチからのパスを背後から貰ったショコタが身体を反転させながら左足でミドルシュートを狙うが、ボールは力なくGKドロブニーの正面に。
ショコタを追うティーツェとレンギエル。
FW陣はまたして空回り。
【23分
クロアチア】
ショコタから右のサボルチュキへいいボールが流れ、ペナルティエリアに侵入。DFをかわしてクロスを挙げる体勢へと持ち込もうとするが、DFグリゲラと接触して倒れる。PKを誘う形だったがノーファウル。
【24分
クロアチア】
ヴラニェシュがDFラインの裏へ浮き球を送り、それにシミッチが走り込む絶好のカウンターチャンス。しかしシミッチは左へと流れてしまい、低くて早いセンタリングを入れるも、まだペナルティエリアにショコタが到着しておらずボールは左から右へと流れてしまう。クロアチアのサイド攻撃は相変わらず噛み合っていない。
【25分
チェコ】
シオンコはバロシュとのワンツーでビシュツァンを交わして左サイドを上がる。更にフェイントでトゥドールとブライコビッチをかわしてから上げたクロスボールはトゥドールがヘディングでクリア。チェコのクロスボールはクロアチアとは違って確実に中央へ速く送られる分、効果的な武器となる。
【30分
クロアチア】
ヴラニェシュが相手の股抜きを絡めた巧みな足技でチェコ守備陣を切り裂き、ペナルティエリアまで上がるがカット。このプレーにはチェコ応援団からも拍手が上がる。
【31・32分
チェコ】
ティーチェの左からのロングクロスはシェーリッチが危なげなクリアでCKに。ヘインツの右からのショートコーナーから今度もティーチェが右からゴール前へのクロス。これはトゥドールが高さを活かしてクリア。
【34分
クロアチア】
ヴラニェシュから左サイドのブライコビッチへ。DFのプレッシャーが無いにもかかわらず、クロスは大きくゴールを越えて行く。
【37分
チェコ】
ヴラニェシュが背後からボールを奪われ、ルカス・ドシェクが中央にぽっかり空いたスペースにいる兄弟のトマス・ドシェクへパス。更にトマス・ドシェクはペナルティエリアに走りこんだシオンコへ股抜きのスルーパス。GKプレティコサと1対1になるが、ビシュコビッチが背後から足を入れてクリアしピンチをすくう。
【44分
チェコ】
右SBのルカス・ドシェクのパスはペナルティエリアへと走り込んだシオンコへ。チェックに入ったトゥドールと接触、シオンコがダイブ気味に倒れるが、この微妙なプレーにニルソン主審は厳しすぎるPKの判定。なにせシオンコの身体の向きは外を向いており、全くゴールに直結しないプレーだったのだ。このPKをルカス・ドシェクが右に蹴り込み、プレティコサの読みも当たったが、手を伸ばすのが遅れてボールはネットに吸い込まれる。チェコ、同点に追いつく。1-1。
前半終了間際の同点ゴールにチェコ・サポーターは興奮と共に湧き上がり、前半の出来には納得の雰囲気。一方、僕の前の席に座っていたクロアチアのUEFA関係者は帽子を取るや否や、もう片方の手に思いっきり叩きつけた。チェコはコンビネーションが確立し、速い攻撃の形が出来ているのに対して、クロアチアはゴールの気配すら無いことから、彼が怒るのも当然だろう。クロアチアのファウルは多いのは仕方ないが、あのPK判定は厳しすぎるぜ....。
ここトレンチンのスタジアムでは、マスタード付きの腸詰が人気とパンのセットが人気のようで、ハーフタイムに多くの人がビールと一緒に美味しそうに食べている。小腹が空いた僕も売店へと向うが、その行列に面食らう。仕方なく別のところで紐状チーズを買うが、これが今日の試合のようにしょっぱいのであった。クロアチアは後半頭からシミッチに替えてバラバンを投入する。クロアチアのボールで後半が始まった。
【47分
クロアチア】
左スローインのボールを上手くトラップで受けたバラバンは中央をドリブル、そして25mほどの距離から彼ならではの思い切りの良いミドルシュート。しかしボールは僅かに右ポストの横を逸れていく。
【50分
チェコ】
プレティコサの中途半端なフィードでボールを奪われ、トマス・ドシェクのヘディングパスを受けたシオンコは、シェーリッチを引き連れながらペナルティエリアに侵入。シオンコはシェーリッチと絡んでまたして倒れるがノーファウル。シェーリッチはシオンコをダイブ行為として遣り合うが、彼はストッパーが本職では無いだけにかなり危ないチェックだった。
【54分
チェコ】
自陣エンドラインからロングボール一発のカウンター。トマス・ドシェクが俊足を活かして右サイドのボールに追いつき、競り合ったトゥドールを足技で抜き去って内へとを疾走。GKと1対1になるが、インパクトの瞬間にトゥドールが背後から長い足を伸ばしてボールをクリア。しかしクリアボールはサポートのバロシュの眼の前へと転がり、10mの距離からGKの位置を見極めゴール左隅へと流し込む。チェコ逆転、1-2。
この試合も存在感を
見せつけるトゥドール
【57分
クロアチア】
トゥドールが右スペース目掛けてロングパス。追い付いたサボルチュキは2人のDFに倒されてFKを得る。右コーナーポストに程近い位置から、レコは回転の掛かった最高のボールをゴール前へと放り込む。トゥドールは頭というよりは肩に当て、ボールはチェコ・ゴールの左上にフワリと吸い込まれる。クロアチア同点に追い付いた。2-2!
逆転ゴールを許したトゥドールがミスを帳消しにするゴール。今日のトゥドールには迫力がある。これが追い込まれたクロアチアの意地であり、抵抗であろうか。しかし今度は急造DFのシェーリッチが地獄を味わうのだった。
【61分
チェコ】
最後尾のシェーリッチが致命的なミスパス。それをインターセプトしたバロシュが右サイドを加速。抜き去られたシェーリッチも必死に追い駆け、ペナルティエリアでバロシュと押し倒してしまう。判定はこの試合2度目のPK。トゥドールは血相を変えて主審に詰め寄るが、逆にイエローカードをくらう。このPKはDFのペトルーシュにゴール右上に決められて、再びチェコが勝ち越し。2-3。
63分、ブライコビッチに替えて、今大会初出場となる"隠し玉"イビツァ・バノビッチを投入。バノビッチはトップ下のポジションへと入り、攻撃力アップで起死回生を狙う。
【63分
クロアチア】
レコの中央右寄り30mのFKはDFがエンドラインにクリア。続くCKからレコのボールをニアに入ったショコタがヘディングシュートするがボールはポストの右へ。
【64分
チェコ】
クロアチアが前掛りなのを狙ってカウンター。シオンコがドリブルで右サイドを駆け上がり、更に右のバロシュへパス。そしてヘインツ目掛けてクロスを上がるが、GKプレティコサがセーブ。
【65・66分
クロアチア】
レコの中央30mからミドルシュートを放ち、枠を捕らえるが、GKドロブニーが僅かにボールに触れて外へ。その後のCKも弾かれる。66分にはビシュコビッチの右クロスにバラバンが胸トラップするもコントロールに失敗。
場内マイクで地元スロバキアがイングランドに1-0で勝っていることが紹介され、スタジアムは大きな拍手と歓声で湧き上がる。チェコとスロバキアは分離したといえど、今でも兄弟のような関係にあることを証明した瞬間だった。
【69分
クロアチア】
ヴラニェシュとのワンツーでバノビッチが中央を上がり、右前のショコタを走らせるスルーパス。ショコタのセンタリングは跳ね返され、再びショコタの手元に。二度目のセンタリングも跳ね返されたのちサボルチュキ→バノビッチ→左サイドのレコと渡り、左足からの強烈なボレーシュートはGKドロブニーがパンチング。こぼれ球を再度拾ってクロスが上がり、ビシュツァンがヘディングシュートするもGKがセーブ。
【71分
チェコ】
GKドロブニーからのロングキックをトゥドールがクリアし損ね、ボールは背後のFWシオンコへ。シオンコはGKと一対一になる大ピンチだったが、シュートはGKプレティコサの正面を突く。
流れはクロアチアに傾きつつある。71分に疲れの見えたサボルチュキに替えて、スピードのあるミキッチを右サイドに投入。ビスチャンは前線へと上がり、最後尾はトゥドールとシェーリッチの2人のみを残して、最後の攻勢に賭ける。
【72・74分
クロアチア】
バノビッチからボールを受けたミキッチが中央20mからミドルシュートを狙うがポストの左へ。74分にはレコの右CKからファーポストのショコタがダイレクトシュート。蹴り損ねたところをバノビッチが再度シュートを狙うも枠外へ。
【75分
クロアチア】
ミキッチが右サイドをえぐってセンタリング。クリアの後、中央20mの距離でボールを拾ったレコが強烈な低いミドルシュートを放つ。バウンドしたボールはGKドロブニーを打ち破るが、惜しくも右ポストを叩いてしまう。
猛烈な攻撃を仕掛けながら決定的なチャンスまでをも逃したクロアチア。運にも見放されたレコはシュートがポストに叩かれると同時に頭を抱えた。場内マイクではスロバキアがイングランド相手にもう1点追加したことが放送され、又してスタジアムでは別の意味で歓声が。
ゴールを決めて喜ぶシオンコ(右)
【79分
クロアチア】
バノビッチからのパスからペナルティエリアでレコがシュートを狙うもDFに囲まれて打てず。その後、ボールを得たショコタもDFのマークがきつすぎてシュートが打てず、苦し紛れに左に出したパスがインターセプトされる。↓
【80分
チェコ】
インターセプトからヘインツが右から左へと大きくサイドチェンジ。そのロビングボールにトゥドールはトマス・ドシェクと重なったこともあり足が届かず、完全フリーの状態でシオンコにボールが渡る。最後の砦、プレティコサにドリブルで詰め寄り、カバーに入ったシェーリッチも軽く交わして右ネットに正確無比なシュートを決める。2-4.....。
4点目となるシオンコのゴールはクロアチアの息の根を止めるものに等しかった。チェコ・サポーターは勝利を確信し、「チェヒ!、チェヒ!!」のコールを繰り返すと共にウェーブが始まった。スプリトから来た隣りのオジサンは憮然とした表情で、メインスタンドに張ったクロアチアの応援幕を外した。それに呼応するかのように、ゴール裏の一角のクロアチア・サポーターの席では新たな横断幕が掲げられる。そこに書かれている文字は「USTASE」−ウスタシャ........そう第二次大戦中、ナチスの傀儡政権を建国し、多くのセルビア人を虐殺した悪名高きファシスト組織だ。不謹慎な横断幕に気付いた警官隊が詰め寄り、その幕を排除しようとクロアチア・サポーターの間で引っ張り合いになった末、無残にも中央からビリビリッと破れてしまった。何でも有りの彼等なのだが、最後にかますジョークとしては超ブラック......。
そんなスタンドの騒ぎをヨソにして、否応が無しにクロアチアは攻めなければならない。しかしミスによるカットから、チェコのカウンターを浴びる。もう限界なのか....。
【85分
クロアチア】
レコの左CKのボールはウィファルシがクリア。ペナルティエリア手前にこぼれてきたボールをミキッチがミドルシュート。ミスキックであったが、前線に残っていたトゥドールが上手くコースを変えて、チェコゴールに流し込む。3-4。
またしてトゥドールが1点を取り返すが、クロアチア・サポーターの喜びは無に等しい。五輪出場には勝利が大前提。あと2点を取り返すのは至難の業だ。せめて同点に追い付いて、チェコを首位から引きずり下ろしてやりたいところ。地元スロバキアはイングランドとの試合が終わり、2-0の勝利を決めたことが放送され大拍手。またまたウェーブが始まる。ロスタイム表示は4分。チェコはこの試合のMVPであるシオンコをベンチに下げる余裕。そしてクロアチアは何も出来ぬままタイムアップを迎えた。チェコのグループ首位が決まり、五輪出場とファイナル出場を決めた。選手とサポーターの歓喜は一体となり、選手全員がバックスタンドからゴール裏、そしてメインスタンドのサポーター一人一人にハイタッチしていく。一方、1勝2敗、勝点1のグループ最下位に終わったクロアチアの選手はすごすごとドレッシングルームへと戻る。キャプテンのレコは涙を流しているのを見せたくないのか、ユニフォームのネックの部分を何度も頭の天辺へと引っ張って顔を隠した。初の五輪出場を期待されていた彼等の無念さを思いやると可哀想でならない。けれど、彼等のファイティング・スピリッツは充分に伝わった。有り難う、若き勇者達よ.....。君達が新たな大舞台で活躍することを期待しているよ。

 その後、腸詰をヤケ食いしながら、試合終了後も閉じ込められたクロアチア・サポーターを待つ。チェコ・サポーターが殆ど去ったところで、ようやく彼等は解放。そして以前より飲む約束をしていたトルツィダ(ハイドゥク・サポーター)3人と一緒にパブへと行くことした。3人の名前はユライ(21歳)、ドラジェン(25歳)、ミロスラフ(26歳)で、スロバキア周辺国の観光を含めて車でやったきたというグループ。今季二度に渡ったハイドゥク戦絡みのピッチ乱入事件にも加わり、ブタ箱入りしたという生粋のウルトラだ。今度はヤケッパチの僕が「Let's go Irish pub!」と叫び、「まあまあ」とトルツィダが慰めることとなる。地元の方が案内してくれたパブへと入り、1人のスロバキア人を含めた5人でテーブルを囲み、早速ビールを注文。今夜はヤケ酒といくぞ!! クロアチアの敗戦の悔しさに場は沈むどころか、お互いの国のエロ言葉の話題で盛り上がってしまう。万国共通の3大話題といったら、音楽、サッカー、そしてエロだ。ミロスラフダはパブにいる地元女性を口説くことに一生懸命であるし。
 そんな中、トルツィダと犬猿の仲であるBBBがやってきた。一人の中年男性は友好的らしく、ユライと話し込んでいる。しかし僕と顔見知りの若いBBBは僕に対してのみ挨拶はすれど、トルツィダとは距離を置き、遠いテーブルにと座る。中年男性とトルツィダとの込み入った話は、試合終了近くに掲げられた「USTASE」の横断幕についてだった。この幕はBBBがラツィオの「アルカン」横断幕事件と同じジョークの意味合いで準備したものだったのだが、トルツィダの彼等にはこの行為が許せないようだった。そのあと、2002年ワールドカップの話題へとなる。クロアチア代表がワールドカップに出場するならば、彼らはもちろん応援のために来日するのだが、日本の物価の話をすると発狂した。まず物価の基準となったのが「ビール」というのは如何にも彼等らしいのだが。「日本ではこの500mlのグラスビールを飲もうとすると安くて3ドル、平均でも5ドルぐらいじゃないかなあ」−「何だって!! クロアチアもスロバキアも1ドルしないんだぜ!! 飛行機ですら1000ドル掛かるというのに、俺達は日本でどれだけ出費を我慢しなくちゃならないんだよ!!」−怒りに似た不満を日本人の僕へとぶつけてきた。そりゃそうだよな。本当に日本は世界各国からのサポーターを迎えられるのか、そして迎える資格がある国なのか?
 酔いもすっかり回り、スロバキア女性を頑張って口説いているミロスラフを除けば誰もがウトウト・ムード。そんな時に新たな刺激がやってきた。酔っ払った地元男性がユライにサッカーネタで絡んできたのだった。「クロアチア代表は良いチームだよね。俺はプロシネツキが好きだな」−「なにぃ!! 奴は年寄りだぜ。ドーピングしてんだよ!!」−トルツィダを目の前にしてディナモの選手への誉め言葉は禁句である。「そうそう、クロアチアにはズベズタ(レッドスター)があるだろ」−「てめえ、何言ってやがんだ!! ズベズタはセルビアのチームだ。ふざけんな! ズベズタなどファックしてやる!」−余りの地元男性の失言ぶりに、傍観していた僕とドラジェンは"アチャー"の表情。そしてユライは怒りの感情を殺しつつ地元男性に言い放った。「イングランドのフーリガンは最高だ。だが俺達はな、他の国のサポーターとは遣り合わないんだよ。そして軍隊や警官とも遣り合わない。あくまで俺達が戦う相手、それは特別警官隊だ」−余りにもタイムリーな殺し文句に僕は笑いを殺すのに必死だった。前述のピッチ乱入事件の時に一部のトルツィダは「俺達は特別警官隊と戦う」と事前予告していたし、BBBが特別警官隊と乱闘したのを何度も目にしている。クロアチアのサッカーサポーターと特別警官隊は長ーい付き合いなのだ。
 地元男性が帰ったことでその場は収まったが、もう全員の疲れがピークに達していた。時計も1時30分を回り、そろそろ僕も帰ることに。「次はワールドカップの予選で会おう。君がクロアチアに来る時は一緒に応援しよう」と言われ、「それとは別に、必ずやポリウド(ハイドゥクの本拠地)でのハイドゥクの試合に行きますよ」と約束。何度も手を振りながら彼等と別れ、店を跡にした。
 ベッドになだれ込むと、「ビールの酔い」と「敗戦の悲しみ」と「交流の想い出」がグルグルと頭の中で渦巻き、いつの間にか泥のように眠っていた。ここスロバキアは遠くて近き土地であったが、シドニーは近くて遠き土地でしかなかったのだった。

(完)

U-21 EUROPIAN CHMPIONSHIP A-Group
CROATIA vs. Czech Rep.

2000.6.1  FK Dukla Trencin Stadium

CROATIA Czech Rep.
position name(club) position name(club)
GK 1. Pretikosa(Hajduk) GK 16. Drobny(Ceske Budejovice)
DF 3. Seric(Verona) DF 2. L.Dosek(Slavia Praha)
['89-12.Polak(Boby Brno)]
DF 4. Biscan(Dinamo) DF 3. Petrous(Slavia Praha)
DF 5. Tudor(Juventus) DF 4. Grygera(Petra Drnovice)
MF 8. Vranjes(Leverkusen) DF 5. Lengyel(Ceske Budejovice)
MF 15. Viskovic(Rijeka) MF 6. Tyce(1860Munchen)
MF 16.Brajkovic(Rijeka)
['63-19.Banovic(Zagreb)]
MF 8. Ujfalusi(Slavia Praha)
MF 18. Sabolcki(Varteks)
['72-17.Mikic(Dinamo)]
MF 19. Heinz(Sigma Olmouc)
MF 10. Leko(Hajduk) FW 7. Sionko(Sparta Praha)
['90-18.Simak(Chmel Blsanyl)]
FW 9. Sokota(Dinamo) FW 10. T.Dosek(Slavia Praha)
FW 11. Simic(Dinamo)
['46-7.Balaban(Rijeka)]
FW 11. Baros(Banik Ostrava)
['66-14.Brabec(Petra Drnovice)]
【Croatia 3−4 Czech Rep.】
GOAL '4 Seric (Croatia)
GOAL '44 L.Dosek (Czech Rep.) [PK]
GOAL '54 Baros (Czech Rep.)
GOAL '57 Tudor (Croatia)
GOAL '61 Petrous (Czech Rep.) [PK]
GOAL '80 Sionko (Czech Rep.)
GOAL '85 Tudor (Croatia)

 

  Team

1

Czech.Rep

7

2

1

0

8

5

2

Spain

5

1

2

0

2

1

3

Netherlands

3

1

0

2

3

5

4

Croatia

1

0

1

2

4

6

他の試合結果

Spain 1-0 Netherlands [A]
Italy  3-1 Turky [B]
Slovakia 2-0 England [B]

3位決定戦(6/4)
Spain 1-0 Slovakia

決勝戦(6/4)
Italy 2-1 Czech Rep.


試合の写真画像についてはSport-Netから許可を頂いた上で、利用させて頂いています。THANKS!


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