トップへ 講演・他へ エトセトラへ 開発機器へ リンク集へ 本へ アルバムへ プロフィールへ

Top Page > 著作

支援技術開発と利用者ニーズ

Development of Assistive Technology based on User's Needs

畠山 卓朗(星城大学)

Takuro HATAKEYAMA, Seijoh University, 2-172 Fukinodai, Tokai City, Aichi, Japan

1.はじめに
 障害のある人々のための支援技術の開発者から次のような言葉を聞くことがしばしばある.「一生懸命取り組んだのに,利用者から喜んでもらえない.ニーズに添って開発したのに」 多大な時間と費用を投入したにもかかわらず,成果物がうまく活用されないまま眠ってしまうことほど,開発者として残念なことはない.果たしてどこに問題があるのか.実は問題の大半はニーズの取り違えにあるといって過言ではない.本稿では,支援機器開発に際して,開発者にはどのような視点が求められるのかについて考察する.

2.どのような視点で取り組むか
 生活支援技術の研究開発においてもっとも重要かつ困難な課題は「ニーズ把握」である.われわれ技術者は,ともすれば技術先行型に陥りやすく,技術の素晴らしさを利用者に押しつけがちである.そのような観点で開発された機器は,当初珍しさも手伝って一時的に使われることはあっても,しばらくするとまったく使われることなくほこりをかぶってしまうケースをしばしば見掛ける.
 対象者が真に求めているものは何か,これから開発しようとする機器が生活の中で果たす役割は何か,周りの人々から理解や協力が得られるのか,経済性は十分に考慮されているのかなどについて,綿密な検討が必要である.
 そのためには,工学者の立場を一歩踏み出して,「一人の生活者」として障害のある人や高齢者と関係を持つことが重要である.そのような姿勢は,ともすれば「工学者らしくない」と誤解されがちである.しかし,そのような取組みがない限り,利用者の真のニーズは見えてこない.
 サリドマイド児に対する動力義手のパイオニアとして名高いBo Klassonは「障害者用の機器開発に携わる者は,1日に少なくとも1人の患者(利用者)と接しなければならない」[1]と述べている.
 では,果たして,個別対応ばかりを重ねていくだけで良いのか,そこから汎用性のある機器は生まれるのだろうかという疑問が生じる.この疑問に対しては,筆者はつぎのように考えている.「とにかく目の前にいる障害のある人が抱えている問題に取り組もう.そしてそのプロジェクトを成功させよう.そのような経験を何回か積み重ねていくうちに,次第に利用者が共通して抱える問題が見えてくる(共通項の発見).それこそ,汎用性への糸口である」と.
 また,Bo Klassonは「リハビリテーションの観点からは,患者が機器を使わないで問題を解決するより良い方法を見つけることができれば,それは失敗ではなく成功である.あいにく,機器の開発に興味をもつ人々はこのような結果を失敗とみることが多い.」[1]とも述べている.この言葉にもあるように,目的達成のためには,機器利用だけではなく人的サポートをも含めた複数以上のアイデアおよびその組合せを提案できることが必要である.

3.機器開発が失敗する要因
 以下に支援技術の研究開発がうまくいかない要因を筆者の経験を交えながら整理する.
a. 利用者像が見えていない
b. 利用者の能力を過小評価・過大評価している
c. 利用場面に対する配慮が不足している
d. 技術指向が強すぎる
e. 介護者の介在を否定している
f. 価格的に現実味がない
g. 必要性・重要性に対する社会の認識が十分育っていない
 aについては,ニーズ調査段階では確かに利用者像は捉えていたものの,機器設計から試作開発に入っていく過程で,利用者像を見失ってしまっているケースをしばしば見掛ける.bについては「まさかこんなことはできないだろう」と判断したり,その反対に「当然これはできるだろう」などと実態を詳しく調査する前に先入観に囚われているケースがある.筆者の経験では,前者のケースを見掛けることが多い.cについては,研究室レベルでは何ら問題なく動作した機器が,利用者の生活場面に持ち込んだとたん,うまく動作しなくなるといった場面にしばしば遭遇する.例えば,赤外線通信を行う機器が,インバータ式照明器具を点灯したとたん動作不安定になることがある.dについては,例えば,オートマチックにこなしてくれる機器は,ともすると機器を使いたいという利用者の動機付け(モチベーション)を低下させてしまうことがある.特に,重度の障害がある人自身が残存機能をなんとか活用して自立したいと考えている場合には,むしろ技術は控えめであるべきである.eについては,利用者自身が完全に自立して機器を使えるようにするのはもちろん素晴らしいことであるが,機器が複雑化し高価格になりがちである.そのような場合は,自立操作できることが望ましい部分と,介助者や周辺の人々に支援を求めてもよい部分を整理すると良い.それにより,機器をシンプルにできる.fについては,何百万円あるいはそれ以上する科学計測のための機器をそのまま障害のある人の生活支援に役立たせようとする研究をしばしば見掛ける.研究は成功裡に終了しても,被験者が生活の中で使い続けることができないといったケースをしばしば見掛ける.それは時には大きな罪となる.使い続けることは困難であるといった説明が必要なことはもちろんであるが,被験者になった人にとっての希望をつなぐための何等かの手段について研究者は知恵を絞る義務がある.さもなければ,安易に被験者をお願いすべきではない.gについては,とくに知的な障害のある人に対する生活支援などでこの問題をしばしば感じる.すなわち,「知的な障害がある人には時間管理や金銭管理はもともと無理」などの根拠のない先入観がある.このことは機器利用以前の問題であり,障害に対する正しい知識を伝えることも含めて,世の中の人々の認識を変えていく必要がある.

4.真のニーズを育むことの大切さ
 ニーズには3つの要因が含まれると言われている.すなわちデザイア(desire,欲求,願望),デマンド(demand,要望),そしてニード(need,必要)である[2].例えば,何等かの原因で歩行することが困難になり,車いすを使うことを余儀なくされた人がいるとしよう.その人が2階へ上がる階段を前にして,「この階段を再び登れるようになりたい」と心の中で願う気持ちはデザイアである.そして,その気持ちが顕在化し,「階段を登れる車いすを開発してほしい」と研究者に協力依頼したとしよう.それはデマンドである.そして,なんとか依頼者の要望に応えようと研究者は努力し,長い時間と経費をかけて,ようやく階段を登ることができる車いすの試作開発に成功した.しかし,その車いすは依頼者が予想していたものとは異なり,相当な重量があり,動作音が激しく,バッテリー消費が大きいなどの問題を抱えていたとする.この時点で依頼者から発せられた言葉は「私が求めていたモノとはちがう」ということであった.では,「求めていたモノ」とは何か.それは,階段を上がることというよりもむしろ,1階と2階の間を自由に行ったり来たりすることであったのである.それこそまさに真のニードである.具体的な解決方法としては,スロープやエレベータの敷設ということが考えられる.依頼者から発せられたデマンドをそのまま真に受けとめ開発にとりかかる例をしばしば見掛けることがある.真のニーズを見極めるためには,依頼者からのデマンドの中身を十分な時間をかけて分析し,いきなり機器開発に入るのではなく,出来る限り多様な問題解決のためのプランを提示しながら,徐々に真のニーズに近付けていくという過程が必要である.製品レベルの機器開発においては,立場や状況の異なる複数のユーザもしくはユーザニーズを把握したメンバーが参加したグループを設置し,概念設計段階からグループとの間で緊密な連携関係を保ちながら検討を進める.

5.バリアフリーとユニバーサルデザイン
 一頃流行した言葉にバリアフリー(barrier free)がある.ここでいうバリアとは,障害のある人が社会生活を営む上で支障をきたす状態のことである.例えば歩道と車道などの間にある段差も車いす利用者にとってはバリアとなる.このバリアを無くすように施設などを設計することをバリアフリーと呼ぶ.これに対してユニバーサルデザイン(universal design)は道具や機器を設計する際,「はじめからできる限り,すべての人に利用可能なように最大限の努力をもってデザインされなければならない」[3]という考え方である.近年では「バリアフリーからユニバーサルデザインへ」というスローガンを目にすることもあり,ユニバーサルデザインですべての問題が解決できるかの如く言われることがある.しかし,ほんとうにそうであろうか.特に重度の障害がある人の生活支援技術領域においては,今後とも個々の障害に対応する設計(障害対応デザイン,adaptable design)は不可欠である.一方,一般の機器,道具,施設などを障害のある人にも便利に使えるように配慮する必要性がある(障害配慮デザイン,accessible design).そして,それらの機器や道具が年月を経て洗練され,障害を持たない人にとっても便利に使われるようになったとき,それはまさにユニバーサルデザインに成長したと言える.例えば,眼鏡,ライター,長柄の靴ベラなどは,もともと障害のある人のために開発された道具であると言われている.バリアフリーな社会を推進していくためには,障害対応デザイン,障害配慮デザイン,ユニバーサルデザインの3つの手法[3]が重要である.

6.おわりに
 とくに,若い研究者や技術者および学生に向けて,筆者が重要と考える視点を述べた.ここまで述べてきたとおり,従来のハードウェア先行型の機器開発には限界が来ている.最新の技術を搭載した様々な家電製品や携帯電話を前にして,若者を除く多くの利用者は機能のほとんどを使いこなせないままでいる.今後の機器開発,特に障害のある人や高齢者が使用する機器に対しては,人間中心の開発[4]が欠かせない.黒須等は著書[5]の中で「機器を作る側が『してあげる』主義を廃し,ユーザビリティ評価をとおしてユーザとユーザ環境を学ぶ姿勢をもつことが要求される」と述べている.また,土屋は著書「ハートウェアのすすめ」[6]の中で「どうしても使ってみたいという気を起こさせるためのハードを設計するためには,マシン・オリエンティドからヒューマン・オリエンティドへの脱却が必要である」と述べている.さらに「もっと人間を見つめ直して,ハートのあるハードの設計に取り組んでほしい」[6]と著書の最後で締め括っている.

謝辞 日頃,貴重なご助言をいただいている(株)福祉技術研究所 市川 洌,神奈川工科大 高橋 吉彦,名古屋大 大西 昇,渡辺 豊英,生田 幸士,宇都宮大 春日 正男,鎌田 一雄,筑波技術短期大 岡本 明 の諸氏に深謝いたします.

参考文献・引用文献
[1] Bo Klasson:リハビリテーション機器の実用化における問題点(山本澄子訳),リハビリテーション工学国際セミナー講演論文集,pp.76-92(1981)
[2] 上田 敏:リハビリテーションを考える,青木書店(1983)
[3] 相良二朗:バリアフリーかユニバーサルデザインか−21世紀のまちづくり−,http://staff.aist.go.jp/e.ono/sagara.htm(1998)
[4] Norman,D.A.:The Invisible Computer,邦訳 パソコンを隠せ、アナログ発想でいこう! 岡本明,安村通晃,伊賀聡一郎訳,新曜社(2000)
[5] 黒須正明,伊東昌子,時津倫子:ユーザ工学入門−使い勝手を考える・ISO 13407への具体的アプローチ−,共立出版(1999)
[6] 土屋和夫:「ハートウェア」のすすめ ハード・ソフト設計法の再検討;講談社ブルーバックス(1986)


第2回福祉工学シンポジウム 特別講演 配布資料

Top Page > 著作

トップへ 講演・他へ エトセトラへ 開発機器へ リンク集へ 本へ アルバムへ プロフィールへ