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話題を追って[障害者や高齢者のためのAAC]

“心の自立”を支えるコミュニケーション支援とは

Home Care Medicine 誌 2002年2月号

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 近年,音声言語による意思の疎通が難しい障害者や神経難病患者,高齢者に対して,電子機器やその技術をコミュニケーション支援に活用する「Assistive Technology」(AT :支援技術)や「Augmentative and Alternative Communication」(AAC:拡大・代替コミュニケーション)の分野が急速に発達しつつある.ハイテクやローテクなど,さまざまなツールを用いたAACの取り組みをリポートし,在宅ケアの場における残存能力を生かしたコミュニケーション支援のアプローチを探る.

コミュニケーションとは何か
コミュニケーションとは自分の意思で“生きる”ことの証

 横浜市総合リハビリテーションセンターでは,生活の場に応じた福祉機器の研究開発や選定・供給などのサポート事業を行っている.センターでは,行政に寄せられた相談に対して,リハビリ専門医,保健婦,ケースワーカー,理学・作業療法士,そして工学技師を含めたチームで取り組み,必要に応じて利用者の自宅を訪問し,利用者の実状に合った福祉機器やコミュニケーション・エイドの供給を図っている.これまで数多くの障害者や言葉の表出が難しい人のコミュニケーションをリハビリ工学の専門家としての立場から支援してきた同センターの畠山卓朗氏に,コミュニケーション支援の重要性について聞いた.

互いの意をくみ取ろうとする
「相互作用」で成り立つ

 「コミュニケーション」というと,「人と人との意思の伝達」「自分の気持を相手に伝えること」といった意味で使われることが一般的だが,畠山氏は,その意味をもう少し広く,「『人と人』,『人と生活環境』,『人と社会や自然』などをも含めた意思の伝達(あるいは働きかけ)として捉えたい」と話す.そして,その本質は「相互作用」にあると言う.
 「人間のコミュニケーションにおいて,音声言語(発声)と非音声言語(身振り,表情など)の割合は,ほぼ3 対7 だと言われています.ですから,必ずしもそれは言葉である必要はなく,ジェスチャーやアイコンタクトでも,何でもよいのです.しかし,私たちはどうしても言葉に執着しがちで,その人の全体像を見ようとしません.言葉で相手に自分の気持を伝えることよりも,それ以前に,相手の全体像を見て気持をくみ取ることが必要であり,大切なことなのです.コミュニケーションとはつまり,互いに相手の意をくみ取ろうとする相互作用で成り立つものだと思います」

コミュニケーションは生きることの証

 在宅医療やケアの現場において,コミュニケーションの問題は後回しにされがちだ.適切な医療とケアの供給体制の確立,深刻な介護者の負担軽減など,差し迫った課題が優先されるから仕方がない,といった意見もあるだろう.しかし,畠山氏はコミュニケーションに対する支援の重要性を次のように語る.
 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)のご主人と奥様のこんなエピソードがあります.ALS は眼球運動と肛門括約筋が最後に残ると聞いていたのですが,この方は,症状が進行し,眼球を動かすことも不可能になっていました.センターのスタッフが,訪問時にご主人の介護のことで奥様に尋ねたところ,奥様はご主人の肛門に指を入れてYes,Noを聞き,それをスタッフに伝えたのだそうです」
 こうしたコミュニケーションの取り方は一般的な形ではないにしろ,この夫婦の間には,確かなコミュニケーションが存在している.高度医療によってただ「生かされている」のではなく,確かな意思と尊厳を持って「生活している」姿がそこにはある.
 「このご夫婦の姿から,コミュニケーションの原点を教えられたような気がします.現実問題として,コミュニケーションを取るのが非常に困難なケースもありますが,それでも私たちは,その重要性を認識し,その支援に対して最大限の努力を払う必要があると思うのです」
 さらに,コミュニケーションはその人だけの問題ではない,と同氏は言う.
 「コミュニケーションが取れるようになり,介護される人の表情が明るくなれば,介護する人や家族の気持も明るくなり,癒されるものです.その人を取り巻く人々にとっても欠かせないものだと思うのです.機器を使ったり,身体の一部を使ったり,コミュニケーションの形はさまざまです.他人がそれを見て,とやかく言うのはナンセンスであって,本人や家族にとってどういう意味があるかということが一番大切なのです」

「自己表現の場」であることをケアスタッフは認識すべき

 では,こういったコミュニケーションの本質をどのように捉えたらよいのだろうか.
 脳挫傷の後遺症などで発声に障害を持つ人の場合,50 音の文字盤や音声出力機能が付いた文字盤を使って他者と「会話」をし,コミュニケーションを図ることができる(図1).障害によって彼らが感じる不都合は,ロボットのような合成音の不自然さといった機器への不満ではなく,すべての文字を指し終わる前に文字盤を指す指先を見て「先読み」をされることなのだという.
 例えば,夏の暑い日に,果物で何が好きかと尋ねられた人が,「す」の文字を押そうとすると,「あ,スイカでしょ」と先読みして,次の「会話」に進もうとする.健常者やケアスタッフが障害を持つ人や言葉の表出が難しい人とコミュニケーションを取る場合,文字盤で「会話」をしているつもりでも,「実は相手の言うことに耳を傾けるよりも,一方的に伝えていることが多いのかもしれない」と畠山氏は,コミュニケーションが自己満足で完結してしまうことの危うさを指摘する.
 「ある青年は,『先読みされると,僕の自己表現を途中で奪われてしまった気がする』と話しています.医療従事者や在宅ケアにかかわるスタッフは,コミュニケーションとは,その人にとってかけがえのない自己表現の場であるということを理解しておく必要があります」

図1 指さし文字盤

図1.50音の文字盤を使って他者と「会話」をし,コミュニケーションを図ることができる.文字盤には音声出力機能が付いた機器も市販されている

ATとは,生活を主体的に組み立て生活に働きかけるための道具

 現在では,コミュニケーション支援を目的としたさまざまなツールやコミュニケーション・エイドなどの福祉機器が開発され,比較的容易に手に入るようになっている.
 電動車いすを利用すれば,歩行できなくても移動することができるのと同様に,コミュニケーション・エイドを用いれば,言葉が発声できなくてもコミュニケーションを取ることができる.このように障害を代行するための技術が,支援技術(AT:Assistive Technology)である.しかし,ATは,こうした機能の代行が唯一の目的ではない.
 「障害を持っていると,“あきらめる”ということが意外に多いのです.例えば, 脊椎を損傷して寝たきりのご主人がテレビのチャンネルを替えたいと思ったとします.ある人はチャンネルぐらい奥さんに替えてもらえばよい,と思うかもしれません.しかし,本人は,ただでさえこんな不自由な身体になってしまい家族に申し訳ないと思っているから,頼むことをためらい,あきらめてしまう.そんなときに,テレビのチャンネルを自分で替えることができるちょっとした道具があれば,“あきらめること”を減らし,1人でいられる時間を増やすことができます.そのなかで楽しみや,家族のなかでの役割を見出すことができるかもしれません」(図2)

図2 呼気によるテレビ操作

図2.息を吹いたり吸ったりすることでテレビの電源操作やチャンネル切り替えができる装置
自分の意思で動かせる身体部位は右手の指先数ミリ程度.指先に取り付けたスイッチを数回操作し,テレビの電源を入れ,チャンネルを選択することから1日が始まる.

 さらに,例えば,ちょっとした機器を使って電話の受け答えができたとしたらどうだろう.「電話ができれば,家のなかでその人の世界が完結するのではなく,社会とつながることができるかもしれません.電話線は細い線ですが,社会とつながる太い線でもあるのです」このように,通常のコミュニケーションが難しい人でも,ATのサポートがあれば,周りの人が動いて初めて自分の生活が組み立てられるのではなく,自分と機器が一体となって,1日1日の生活を主体的に組み立て,生活に働きかけることができるようになる可能性がある.「小さな道具やきっかけが,生活の質を大きく変えることがある」と畠山氏は言う(表).

表.機器導入の意義
●介護負担の軽減
●自分でできることを増やす
● 1人でいられる時間を増やす
●家庭における役割付け
●社会との接点を保つ

(コラム)
 60歳代後半のALS患者(Aさん)の場合
自分の意思で動かせる身体部位は右手の指先数ミリ程度.自発的な呼吸が困難なため,気管切開をし,人工呼吸器を装着している.Aさんの日常生活は毎朝6時に目を覚ますことから始まる.奥さんは,ふだん,この時刻にはまだ就寝している.目が覚めると,環境制御装置を用い,指先に取り付けたスイッチを数回操作しテレビの電源を入れ,チャンネルを選択し,朝のニュース番組を30 分間ほど見る.その後,テレビをいったん消し,コミュニケーション・エイドの電源を入れ,闘病記の執筆にかかる.1 時間ほど文書作成作業をした後,コミュニケーション・エイドの電源を切る.再び,テレビの電源を入れ,好みのチャンネルを選択し,朝の番組を楽しむ.そして,7時30分には,奥さんが「おはよう」と笑顔を見せる―.ここでは生活そのものが営まれています.だれが決めるのでもなく,彼自身による彼自身のための生活です.その後Aさんは,ついに一冊の闘病記を完成させました.その後,病状がさらに進行し指先がほとんど動かなくなり,額にスイッチを張り付け,眉毛を動かすことでスイッチを操作するようになりました.残念ながらお亡くなりになりましたが,額の動きだけで10 年頑張られました.彼は病に倒れても,生涯,それまでの生活の流れを変えようとはされませんでした.(畠山氏)

図 指先に取り付けた操作スイッチ

 ハイテクvsローテクではなく柔軟な組み合わせをコミュニケーション・エイドには,言語障害や運動障害がある人が自分の意思を他者に伝えたり,自分の思いや考えを整理する場合に利用するツールなどがある.例えば,文字盤のキーを指先やスティックの先端で押して操作したり,残存機能を利用して1つないしは2つのスイッチを用いて,五十音表の行と列を選択することで言葉を入力し,作成した文書を音声合成音で発声させるというものだ.合成音というと,以前は,ロボットのような不自然な発声しかできなかったが,技術の進歩に伴い,声には抑揚が付き,より自然に近い発声が可能になっている.
 畠山氏によると,現在研究開発が進められているテーマには,「歓び」「悲しみ」「怒り」などの感情表現を音声合成出力できる研究があり,利用者の表現力を飛躍的に高めることが期待できるという.
 こうしたハイテク機器を用いたコミュニケーションは,無機質で冷たいという一面的な印象から,受け入れられにくい場合がある.しかし,同氏は,コミュニケーションに対する支援に当たっては,そのアプローチの方法を幅広く柔軟に捉えることが重要だと語る.
 「支援の在り方を巡っては,ローテク派とハイテク派に二分して捉えられがちですが,そうではないのです.米国ノースウェスタン大学のチルドレス博士が1991年に行った来日講演で,『Not Low Technology. Not High Technology.Just the Right Technology』(ローテクでもハイテクでもなく,その人に合ったテクノロジーを!)と話されましたが,まさにその通りだと思います.テクノロジーとは,状況に応じて適宜使い分け,組み合せて利用すればよいのです.他者と心を通わせたいという気持が,コミュニケーションの原点なのですから」

(五十嵐 麻子 著)


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