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介助犬使用の有用性を拡げる支援技術

畠山 卓朗*1 今崎 牧生*2 ワカ*3 矢澤 知枝*4
黒木 速人*5 杉井 清昌*6 新井 文吾*7

Assistive technology for individuals with severe physical disabilities
aided by a service dog

Takuro Hatakeyama*1, Makio Imasaki*2, Waka*3, Tomoe Yazawa*4,
Hayato Kuroki*5, Kiyomasa Sugii*6, and Bungo Arai*7

*1: 星城大学 リハビリテーション学部  *2: 心療内科医  *3: 介助犬  *4: 介助犬トレーナ
*5: セコム(株)IS研究所,2002.8〜 東大先端研  *6: セコム(株)IS研究所  *7: セコム(株)開発センター

*1: Faculty of Rehabilitation, Seijoh University  *2: Psychosomatic Medicine Doctor
*3: Service dog *4: Service dog Trainer
*5: IS Research Center, SECOM Co. Ltd.,
Aug. 2002〜 Research Center for Advanced Science and Technology, the Univ. of Tokyo
*6: IS Research Center, SECOM Co. Ltd.  *7: R&D Center, SECOM Co. Ltd.

Abstract: This paper describes assistive technology for severely physically disabled individuals aided by a service dog. In order to enhance independent living for people severe physical disabilities, the use of service dogs is now in progress in Japan. For people with severe physical disabilities, a major problem is how to make contact with the outside world in emergency situations. To resolve this difficulty we focused on using a combination of a commercial advanced security system and an emergency switch operated by a service dog upon receiving a recipient instruction. Another focus for our attention was how to improve communication between the service dog and those with severe physical disabilities. One method was to try playing メcatchモ with the service dog and recipient, by using a commercial toy to throw a sponge using a control switch.
Keywords: service dog, security system, playing with service dog, assistive technology

1. はじめに
 
高位頚髄損傷による四肢マヒのある人が介助犬のサポートを受けながら自立生活を行う上で,緊急時に外部への通報をいかに行うことができるかは大きな課題である.筆者等は,介助犬による緊急通報システムのスイッチ操作に取り組み,実使用に漕ぎ着けた.また同時に,介助犬による玄関ドア操作も実現した.さらに,飼い主(以下,レシピエントとする)と介助犬とのより豊かなコミュニケーションを持つことを目的に,市販の玩具(ボール投げ装置)を改造し,レシピエントのスイッチ操作によりボール投げ遊びができるようにした.この装置の導入により介助犬の遊びやストレス解消につなげることができたので報告する.

2. 取り組みの背景
 
視覚に障害がある人々の歩行時の安全を助ける盲導犬は広く知られている.わが国で活躍している盲導犬は875頭である(2001年3月,日本盲導犬協会ホームページ資料[1]より).これにたいして,おもに肢体不自由のある人々の日々の生活を支援する介助犬の普及はたいへん遅れている.その稼働頭数は約27頭である(2002年4月現在).
 介助犬の仕事には以下に述べるようなものを例としてあげることができる[2][3].自力で立ち上がれない人の起立を助ける,ドアを開ける,冷蔵庫を開けて中のボトルを持ってくる,車いすの移動補助,靴下を脱がせる,電話の送受話器を取る,などである.
一方,より重度の障害がある人々からの介助犬使用のニーズが高まっている.とくに,緊急時にいかにして外部へ通報することができるかが大きな課題となっており,早急にその対応策を検討する必要性がある.

3. 従来からの緊急通報システム
 
ここでいう緊急時とは,レシピエント自身の身体に変調を来す,家屋内に侵入者があった,火災やその他事故が発生した場合,などが想定できる.レシピエント自身で緊急通報できるようにすることの他に,レシピエント自身が緊急通報装置を起動できない場合を想定し,介助犬がレシピエントの指示により,あるいは介助犬が緊急事態を察知し緊急通報信号を発生できるようにすることが望ましい.一方,従来の緊急通報システムは,利用者が携帯するペンダントスイッチのボタンを押す仕組みになっている.誤操作や誤動作を防止する目的で,敢えて「押し難い」構造のスイッチとなっている.例えば,ペンダントの表面から数ミリ程度窪んだ位置にスイッチがある場合や,ペンダントの両側面に取り付けられたスイッチを同時に押す場合などがある.これらは,重度の障害のある人々にとっては操作不可能なことが多く,同様に介助犬が操作することは不可能に近い.一方,従来の緊急通報システムは,利用者が携帯するペンダントスイッチのボタンを押す仕組みになっている.誤操作や誤動作を防止する目的で,敢えて「押し難い」構造のスイッチとなっている.
 例えば,ペンダントの表面から数ミリ程度窪んだ位置にスイッチがある場合や,ペンダントの両側面に取り付けられたスイッチを同時に押す場合などがある.これらは,重度の障害のある人々にとっては操作不可能なことが多く,同様に介助犬が操作することは不可能に近い.

4. 提案する緊急通報システム
 対象は頚髄損傷(C5レベル)による四肢マヒのあるレシピエント(共同発表者)とその介助犬ワカ(ラブラドールレトリバー,4歳)である.緊急通報システムには,セコム(株)技術陣の全面的な協力を得て,介助犬が操作しやすい操作スイッチの選定,通報手順などの検討を行った.提案する介助犬使用による緊急通報システムの概念図を図1に示す.

図1 介助犬使用による緊急通報システム概念図
Fig.1 Conceptual view of the Emergency System aided by a service dog.

5. システム運用
 
緊急事態が発生した場合,利用者は介助犬にたいして「ゴー・ツウ・セコム!」(「セコムに連絡して」の意)と発音の強弱がはっきりした言葉で指示を行うこととした.指示により介助犬は引き紐スイッチの紐を口でくわえて引っ張る.引き紐スイッチからの信号は宅内通報装置に送られ,電話回線を介してセコム・コントロール・センターに届けられる.センターでは登録情報を確認し,利用者宅と声による通報内容の確認を行い,必要と判断された場合は緊急発進基地から警備要員を派遣する.
 なお,利用者が外出あるいは帰宅時には,ライフカードと呼ばれる薄型のキーを宅内通報装置から引き抜いたり,差し込んだりする必要がある.そのため,宅内通報装置とは別に,玄関の室内側に利用者自身で操作しやすい位置にオプションの操作パネルを設置し,利用者自身で操作できることを確認した.
 この他,来客が訪問した場合に,「オープン・ザ・ドア」と介助犬に指示することで玄関ドアを開けるための自動ドアユニットと介助犬が鼻先で軽く押すことができる操作スイッチを設置している.

6. 介助犬とより緊密に関係を持つための「遊び」
 
介助犬から一方的にサポートを受けるのではなく,介助犬のストレス発散も兼ねて,介助犬と一緒に遊べる工夫ができないかという発想に基づき,その手始めとして「ボール投げ遊び」を取り上げる.
 レシピエントがスイッチを操作し,スポンジボールを数メートル程度投げ,そのボールを介助犬がキャッチし,レシピエントに持ち帰るという遊びである.ボール投げ装置には「2002FIFAワールドカップTM 決めろ!Vゴールマシン」(エポック社製)を用い,本体内部の電源スイッチ部分から線を引き出し,外部の操作スイッチを押すことでモータが駆動できるようにした.

7. 評価と考察
7.1 介助犬によるスイッチ操作
 介助犬が操作しやすいスイッチの検討を行った.その結果,「口で紐をくわえて引っ張る」(引き紐スイッチ),「前足でスイッチを押す」(軽作動力押しボタンスイッチ),「鼻先でスイッチに軽く触れる」(軽作動力押しボタンスイッチ)を選択し,それぞれをうまく操作できることを確認した.ただし,引き紐スイッチの場合,最初のうちは強く紐を引っ張りすぎて引きちぎってしまうということがあったが,「イージ・テイク」(EASY TAKE: やさしく引っ張って)という指示を出すことで比較的短時間の内にうまく操作することができるようになった.目的の動作に応じて(緊急通報,ドア開け,その他など),スイッチの種類を使い分けることが有効と考える.図2,3に介助犬ワカによるスイッチ操作の様子を示す.

図2 介助犬ワカによる引き紐スイッチ操作[3]
Fig.2 Photograph showing the string switch being operated by a service dog.

図3 介助犬ワカによる押しボタンスイッチ操作[3]
Fig.3 Photograph showing the push switch being operated by a service dog.

7.2 緊急通報システム
 
十分なトレーニング期間を設けた後,本稼働に移行した.すなわち,宅内装置の設定により,コントロールセンターには接続することなしに,介助犬による通報動作が確実にできることを確認した.一方,本稼働にあたってはセコム・コントロール・センターのスタッフに対して,介助犬による通報という新たな利用形態を周知徹底していただいた.
 一方,利用者側の感想としては,「万が一の事態に備え安心感を持てるようになった」がある.
 当初,介助犬による誤報が心配されたが,1年間経過した現在までに一度も発生していない.

7.3 ボール投げ遊び
 
介助犬は,普段仕事がない場合は休憩している.ボール投げ遊びができるようになってからは,目を輝かせ,ボール投げ遊びを心待ちにするようになった.
 これは介助犬自身のストレス発散に大きな効果を果たしているものと考える.それと同時に,レシピエントにとっても介助犬と「遊び」をとおして両者の関係をよりフレンドリーにさせることができるということを実感できた.図4にレシピエントの残存機能を活用した玩具へのボールをセットしている様子を示す.また,図5に懸命にボールを追いかける介助犬ワカの様子を示す.

図4 残存機能利用による玩具へのボール装填[3]
Fig.4 Photograph showing a sponge ball being loaded into the toy.

図5 ボールを追いかける介助犬ワカ[3]
Fig.5 Photograph showing a service dog chasing a ball.

8. おわりに
 
介助犬とレシピエントとの関係に,緊急通報システムと,両者の関係をより緊密にするための「遊び」を導入し,当初予想していた以上の効果を得ることができた.2002年5月22日『身体障害者補助犬法案』が国会で可決され,今後,補助犬(盲導犬,介助犬,聴導犬など)が様々な場面で活躍することが期待されている.今後とも,人と補助犬の絆に着目しながらより良い支援技術の検討を進めていきたい.

謝辞
 
今回の取り組みを全社的に支援してくださいましたセコム(株)の関係者の方々に心より深謝いたします.また,写真提供を快諾いただけたHome Care Medicine誌の五十嵐麻子さんに感謝いたします.最後に,日頃から操作スイッチによる障害のある子供たちの玩具遊びに関して貴重な助言と協力をいただいているマジカルトイボックス 小松敬典氏,金森克浩氏,禿(かむろ)嘉人氏に感謝いたします.

参考文献,引用文献
[1] 日本盲導犬協会HP資料:http://www.jgda.or.jp/pdf/q&a.pdf
[2] 介助犬協会HP:http://www.asahi-net.or.jp/~ys9r-yngs/Q&A.htm
[3] 五十嵐麻子:介助犬のサポートが障害者の自立生活の質を高める,Home Care Medicine誌,pp.46-47,2月号,2002


ヒューマンインタフェースシンポジウム2002(北海道大学)にて発表

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