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重度障害者のための新しい入力法(イージーコム)の開発
− コミュニケータヘの応用 − 畠山卓朗 1.はじめに
近年,障害をもつ人々の重度化,高齢化が進んでおり,そのケアのありかたには多くの課題がある.その中でも,進行性神経筋疾患(筋ジストロフィー症,筋萎縮性側索硬化症など)による四肢まひ者のターミナル段階におけるQOL(生活の質)の確保をいかに行うかが大きな課題としてあげられる.この段階の人々に残された身体機能は,指先などわずかな部位に限定され,さらに呼吸機能にも障害をきたし人工呼吸器の助けが必要となる場合が少なくない.これらの人々にとって,自分の表現したいことを相手に伝えられることは切実なニーズである.それができない場合は,心理的な不安やフラストレーションからくるストレスが蓄積し,原因不明の発熱や精神的に不安定な状態を引き起こすことがしばしばある.このような状況は,本人のみならず介護者にたいして大きな負担を強いる.今回,我々は神経筋疾患の障害の特徴を考慮に入れた新しい入力法を開発した.スイッチの操作回数と誰もが容易にイメージできる50音表を組み合わせたものである.この入力法を市販のポケット・コンピュータ(以下,ポケコンと略す)を用い小型コミュニケータとして実現させた.これにより,従来の入力法と比較して使用者に与える操作負担を極力軽減することができたので報告したい.2.従来からの入力法
従来,コミュニケーション・エイドなどの文字選択法(入力法)には,直接法(Direct selection),走査法(Scanning)コード化法(Coding)がある.1)(図1) ターミナル段階にある神経筋疾患四肢まひ者には,その残存機能が少ないことから自動走査法(Auto Scanning)が利用されることが一般的である.この入力法は「ディスプレイをじっと見続け」,「タイミングをあわせてすばやくスイッチ操作」する必要があり,操作者には緊張状態を強いることとなり,疲労を訴えるケースもある.また,この方式に「機械に操られている」という印象をもつ人は多い.最近ではコード化法として代表的なモールス符号をコミュニケーション・エイドに利用しようとする報告がある.2)3) この入力法は,モールス符号を修得するまでの時間がたいへんかかるという難点があり,タイムリーな対応を迫られる進行性疾患の人々には導入が困難な場合がある.われわれの経験では,ターミナル段階にある神経筋疾患四肢まひ者においても,指先などの動きがわずかに残されているケースをしばしば見かける.さらに,その指先を使ってリズミカルなタッピング(軽くたたく)動作が可能な場合がある.しかも,本人の感想によれば,あまり身体的負担とはならない.そこで,このタッピング動作を積極的に活用しながら「操作方法が容易である」,「自分のペースで操作」,「ディスプレイをじっと見つめる必要がない」という入力法の模索を開始した.図1 従来からの入力法 3.新しい入力法(EASYCOM)
3.1 システム概念
われわれが考案した入力法を,ここではEASYCOM(イージーコム)と呼ぶ.この入力法は,前述のコード化法と走査法(逐次)との中間的なものに位置付けられる.操作の基本要素は,センサー(スイッチ)操作の回数,操作時間の短長(短点入力/長点入力)である.図2に示すように,操作者は50音表をイメージしながら,電子音による聴覚フィードバックを頼りにスイッチ操作を行い,文字の選択操作を行う.ディスプレイからの視覚情報は,文字選択操作時には必ずしも必要ではなく(但し,特殊機能の実行やカーソル移動時には必要),文字入力完了後,文字が正しく入力されたかどうかの確認に用いる.図2 システム概念図 3.2 スイッチ操作と時間パラメータ
スイッチがONしている時間をTonとする.また,スイッチがONした後,OFFしている時間(放置時間)をToffとする.EASYCOM入力法では,3種類の時間的閾値を設けている.すなわち,
T1:短点入力/長点入力 判別時間
T2:行,文字確定判別時間
T3:キャンセリング判別時間
である.
これらの時間パラメータの組合せにより,以下に示すような判別を行う.
Ton < T1 → 短点入力
Ton >= T1 → 長点入力
Toff >= T2 → 行,文字 確定
Ton >= T3 → 取り消し(キャンセル)3.3 操作法
3.3.1 字の選択
文字の選択は,50音表の配列に従い,先ず行の選択を行い,つぎにその行のなかで文字を選択する.
(1) 行の選択
図3に示すように,行はア〜ナ行とハ〜ワ行の二つのフロックに分けてある.ア〜ナ行の選択は,短くスイッチ操作(短点入力)する回数でどの行かを選択する.ハ〜ワ行の選択は,最初に長めにスイッチを1回操作(長点入力)することでブロック移動を行う.この時,電子音が[ピー]と鳴る.その後,短くスイッチ操作する回数でどの行かを選択する.目的の行を選択したら,しばらくそのままにしておくと,[プッ]という電子音が鳴り行が確定する.その後,文字選択に移行する.
(2)文字の選択
選んだ行のどの文字かは,短めのスイッチ操作の回数で選ぶ.文字を選んだら,しばらくそのままにしておくと,[ピッピッ]と電子音が鳴り文字が確定する.図4,5に,文字選択の一例を示す.
3.3.2 濁点,ふ号,数字などの選択
50音表のア〜ワに相当するそれぞれの行には,半濁点(。),濁点("),ふ号(, .一「」()・)が割り当ててある.また後述する特殊機能により数字入力モードに設定した時には,1〜0の数字を割り当てている.(図6)行を選んだら,しばらくそのままにしておくと,[プッ]という電子音が鳴り,行が確定する.ここで前述の文字選択を行わず,しばらくそのままにしておくと[ピッピッ]と電子音が鳴り目的の記号や数字が選択される.![]()
図3 EASYCOM 50音表 図4 操作例 「ス」を選択 ![]()
図5 操作例 「ム」を選択 図6 濁点,ふ号,数字などの選択 3.3.3 特殊機能の選択
スイッチを長めに操作(長点入力)する回数に応じて,以下に示す特殊機能を選択することができる.長点入力
×1:空白文字/ブロック移動
×2:1文字削除
×3:数字/カタカナモード変更
×4:小文字変換
×5:全消去/復活
×6:印刷
×7:カーソル移動/文字入力モード変更
×8:終了
それぞれの機能を選んだら,しばらくそのままにしておくと,[ピッピッピッ]と電子音が数回鳴り目的の特殊機能が実行される.3.3.4 その他の機能
(1)選択操作の中断
文字選択途中あるいは特殊機能選択途中のいずれの状態においても,スイッチを入力し続けることで,[プー]と電子音が鳴り,選択操作の中断(キャンセル)ができる,
(2)カーソル移動
モード特殊機能選択によりカーソル移動モードに入るとスイッチ操作によりカーソルをディスプレイ上で自由に移動することができる.短くスイッチ操作するたびにカーソルが左へ移動する.最初に長めにスイッチ操作すれば,右移動状態となり,そのあと短くスイッチ操作すれば入力した数だけ右へ移動する.その他,文字列先頭への移動,文字列最後への移動などができる.短点入力:入力回数だけ左移動
長点入力後,短点入力:右移動
長点入力
×2:1文字削除
×3:空白文字挿入
×4:1つ前の空白文字まで移動
×5:文字列先頭へ移動
×6:文字列最後へ移動
×7:文字入力モードヘ戻る
(3)消去した文字列の復活
誤って,特殊機能の消去や印刷を選択した場合,結果的にディスプレイから文字列が消去してしまうが,再び消去(復活)を選択することにより直前の文字列を復活させることができる.
(4)特殊モードからの脱出
呼び出しモード数字モード,カーソル移動モードのいずれのモードにあっても,スイッチを入力し続けることで文字入力モードヘ戻ることができる,さらにスイッチを入力し続けると呼び出しモードとなり,[ピッピッピッピッ・・・・]と電子音が連続して鳴り響き近くにいる人に呼びかけることができる再びスイッチを操作すれば文字入力モードに復帰する.作成したメッセージを,介護者に読んでもらったりする時に利用する.4.生活の場で利用可能な小型コミュニケータの実現
病院や家庭など,実際の生活の場に導入するための機器を設計する際,できるかぎり小型であること,取扱が容易であることなどが要求される.また,使用者の様々な利用形態(図7)にも適応できることが求められる.今回,EASYCOMを市販ポケコン(シャープM製,PC-E200)を用い図8に示すような小型コミュニケータとして実現させた.ポケコンを応用した場合,電源スイッチおよび若干のキー操作など立上げ操作に介護者の手を煩わすこととなり専用機と較べて難点がある.しかし,EASYCOMの有効性を確かめるには,現時点でポケコン利用が最適と考えた.使用者の残存機能に応じて各種操作スイッチを接続可能なように,ポケコンが持っているZ80バスに接続可能な1ビット入力インタフェースを新たに開発した.プログラム言語はBASICで記述し,PC-9801からシリアル・インタフェースを介してダウンロードする.ただし,ポケコン機能の制約上,カタカナのみの液晶表示が可能である(ひらがな,漢字は不可能).また,一度に表示可能な文字列は72文字(24文字×3行)である.![]()
図7 コミュニケータの利用形態 図8 小型コミュニケータ 5.適用例
現在,横浜市内の病院に入院中の進行性筋ジストロフィー症の四肢まひ者Aさん(男性,47才)において使用評価中である.2年前,気管切開手術を行い,発声によるコミュニケーション手段を失った.6ヵ月桂前までは,手の平に指で文字を書くことも可能であったが,病状が進んだため他者による判読が困難になってきていた.本人の希望があり,おもにベッドサイドでの使用を行うこととなった.図9にその使用場面を示す.スイッチ操作にはリズミカルな入力操作が求められることから,転作動力(数十グラム程度以下)のものの利用が望ましい.ベッド上での長座位姿勢時にはポケコンの入力キーを用いる.また,仰臥位あるいは側臥位時のために図10に示すフィンガースイッチを開発した.操作方法については,最初スイッチの時間的な短長操作に若干戸惑うものの,5分間程度の練習により,ディスプレイを見なくても文字選択操作が可能になった.現在,使用開始後約4ヵ月になる.体力的な面にも配慮しながら毎日15-30分間程度の使用を行っている.彼は,家族や病院スタッフとの日常的な会話にはこのEASYCOMをほとんど利用していない.それらの用件にたいしては,従来からの方法(顔の表情や,口を動力かすこと)でなんとかこなしている,むしろ,家族への依頼事などを記した簡単なメモ,我々への機器の改良にたいする提案,病院スタッフヘの伝言などに利用している.彼が,EASYCOMを利用し始めてから大きな変化が生じた.それは,以前はまわりの人々にはほとんど表情を見せることがなかった彼が,わずかではあるが明るい表情を見せるようになったことである.また,彼専用の電動車いすを製作するにあたって,不平や不満が続出し,なかなか最終的な仕様が決定することができない状態が続いていたが,EASYCOMを用いて改良希望事項を彼自身にまとめてもらうことにより,自分のニーズがどこにあるかを彼自身が整理することができた.図9 コミュニケータの利用場面 6.おわりに
EASYCOMのもつ道具としての位置付けは,あえて言えば日常的な会話の場面に用いるためのものではない.文字に書き表すことで自分の考えを整理し,簡単なメモや日記をつけるといった利用のしかたが中心となろう.臨床評価の対象となったAさんの場合,書くための道具を手に入れることで,心理的な不安や不満が格段に減少し,彼をとりまくスタッフを驚かせた.今後とも,生活の場で手軽に導入できる「紙と鉛筆」を実現していきたい.
最後に,EASYCOMの基本原理を考案するのに多大な助言をしてくださった横浜市総合リハビリセンター狩野俊照氏,ポケコン用1ビット入カインタフェースの実現に協力してくださったラボアルファ研究所寺田真一氏に深く感謝いたします.参考文献
1)奥英久:肢体障害者用コミュニケーション・エイド,第3回リハエ学カンファレンス講習会テキスト,2.1-16,1988
2)数藤康雄,ほか:符号化入力式コミュニケーション機器の開発,第3回リハエ学カンファレンス講演論文集,437-438,1988
3)坊岡正之,ほか:1入力による2値コード化法の基礎的研究,第4回リハエ学カンファレンス講演論文集,255-258,1989
第6回ヒューマ・インタフェース・シンポジウムで発表
畠山卓朗・他:重度障害者のための新しい入力法の開発 −コミュニケータへの応用−,第6回ヒューマン・インタフェース・シンポジウム前刷集,pp.211-216,1990
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