トップへ 講演・他へ 著作へ エトセトラへ 開発機器へ リンク集へ 本へ アルバムへ プロフィールへ

Top Page > 著作

障害がある人やお年寄りをささえる北欧の社会システム

ストックホルムは誰にとっても住みやすい街

畠山 卓朗

1991 Jan.


街角に立って...

 昨年(1990年)秋,私はスウェーデンの首都ストックホルムを訪れる機会を得た.この季節,スウェーデンの空は厚い雲一面におおわれる.昼下がり,私は交差点近くの街角に立っていた.ちようど近くのパスストップに市バスが到着した.バスストップにはひとりのお年寄りの女性がバスのドアが開くのを待っていた.そのあと私の目の前で起こった出来事は,旅の疲れも手伝ってか,すぐには理解することができなかった.到着したばかりのパスの車体全体が,音もなく右前方に傾き,そしてドアが開いたのである.まるで,紳士がぴざまづいて淑女にあいさつするかのように.お年寄りは歩道と水平になったパスの入り口に難なく乗り込んでいった.乗客を乗せ終わったバスは,自らのからだを水平に持ち上げ,何事もなかったかのように走り去った.
 ストックホルムの地下鉄駅など公共的な場所にはかならずエレベータが設置してある.しかも,改札口に近い,いちばん便利なところにである.それにしても,杖をついたお年寄りを多く見掛けるのとは対象的に,車いす利用者を見かけることがほとんどないのはなぜだろうか.その理由は,しぱらくしてわかった.

ひざまずくバス
お年寄りもらくらく乗れる不思議なバス

完備された輸送サービス

 冬の長いスウェーデンでは,車いす利用者にとって,街中での移動は想像以上にたいへんである.そこで用意されているのがトランスポーテーションサービス(輸送)である.街中では車いすのまま乗り込むことができる赤色のリフト付きバンを頻繁に見掛ける.通学だけではなく,病院,買い物,演劇観賞など利用する前日の午後4時までに予約しておけばよい.料金は通常の公共交通機関を利用するのとほとんど同じ金額である.

エイド・センター訪問

 市内南部にあるテクニカル・エイド・センターを訪問した.昔,ビール会社の倉庫であったというビルを改装した建物は,わが国の近代的な建物とは対照的である.しかし,その内容の充実ぶりにはたいへん驚かされるものがあった.ここには,常時1万点以上の様々な補助器具が展示されており,それらの器具を障害をもつ人自身や家族,関係者が実際にいつでも試すことができ,専門家のアドパイスも受けられる.また,車いすの修埋や,個々の人にあわせたいす作りも行われている.倉庫の一室には,数多くの車いすが整然と並べられ保管されていた.これらの車いすは,不要になったものを回収して修理し,新品同様にみがきあげたものである.約六百円を支払えぱ誰でもが3ケ月間利用することができる.スウェーデンでは,夏のバカンスにはほとんどの人が郊外のサマーハウスに出かけるという.その季節には,保管されている車いすのほとんどが貸し出され倉庫はからっぽになるという.

ひとり暮らしを援助する社会システム

 高層アパートの6階に住む,ある障害がある人のお宅を訪問させていただいた.彼女は重い障害により首から下を自らの意志ではまったく動かすことができない.彼女は,口にくわえたビニールチユープに息を吹き込んだり,吸い込んだりすることで巧みに電動車いすをあやつり家の中を自由に動き回る.また,同じチユープを用い部屋の照明を操作したり,電話をかけたり,玄関の電子ロツクを開けたりすることができる.実は,彼女は現在ひとりで暮らしている.彼女には2人のお子さんがいるが,2人ともすでに独立している.このアパートには彼女も含めて障害がある人用に改造された部屋が10戸ある.それぞれの部屋は,本人と相談しながら好みに応じて改造を行うという.彼女のひとり暮しを可能にする秘密,それはヘルパーさんによる24時間サポート・システムである.前述のビニールチユープの操作でコール(呼び鈴)システムを働かせ,−階にあるヘルパーさんが待機している部屋に通報が届く.いつでも,ちよっとしたことでも気軽に用事を頼むことができる.また,1日に数回,へルパーさんから定期的に連絡を入れ,応答が無いときは直ちに急行する.私が訪れたとき,彼女は息操作によるパソコンで論文の執筆中であった.彼女は週一回大学に通って人文学を学んでいる.彼女を送り迎えしているのも,やはりあのトランスポーテションサービスである.

息でパソコン操作している様子
補助機器とヘルパーが彼女のひとり暮らしを可能にしている

そして,この横浜で...

 5日間あまりの短いスウェーデン滞在であった.しかし,生活に密着した様々な器具の開発,新しいサポート・システムへの取り組み,そしてそれを支える人々の層の厚さ,そして何よりも障害をはねのけて自立生活をエンジョイする人々.そのどれもがスウェーデンで着実に根をおろしているのを目の当たりにした.いまこの横浜では全国に先駆けて地域リハサービスシステムが展開しており,その動向にたいしては全国からもあついまなざしがよせられている.しかし,サーピス内容の充実など今後の課題は大きい.スウェーデンを訪ねてあらためて感じたのは,小さな子供からお年寄りまで,障害をもつ持たないにかかわらず誰にとっても住みやすい都市環境作り,使いやすい道具作りといった視点での取り組みが,今後高齢化がますます進むなかで必要になっていくだろうということである.日々のリハビリテーションサービスの中にもこの経験を活かしていきたい.



(1991.1 Take Off)

トップへ 講演・他へ 著作へ エトセトラへ 開発機器へ リンク集へ 本へ アルバムへ プロフィールへ