横浜市における福祉機器の適合評価・供給システムについて 畠山 卓朗 横浜市総合リハビリテーションセンターは,横浜市におけるリハビリテーションの中核的機関として,昭和62年10月に開設した.リハビリテーション専門機関としての様々な機能を有するが,中でも地域リハビリテーション・サービス・システムはわが国でも他に類を見ない特徴的な機能である.必要に応じてセンターの専門スタッフがチームを組んで直接利用者宅へ訪問し,個々の利用者の生活に適したリハビリテーション・サービスを実施する機能である.センターで扱う福祉機器の多くが,この地域リハビリテーション・サービス機能の一環として供給される.以下では,地域リハビリテーション・サービス・システムの概要,横浜市独自の福祉機器にたいする公的資金援助制度の誕生から今日に至るまでの経過を紹介する.
1.地域リハビリテーション・サービスの仕組みと福祉機器の供給
リハビリテーション・サービスを希望する障害者・高齢者(以下,利用者とする)は,各区に設置した福祉保健サービス課の相談窓口に申し出る.相談内容は直ちにリハビリテーションセンターの相談窓口につなげられる.そこでは利用者にとって有用な情報の提供が行われる.しかし,相談内容によっては,利用者の生活環境を直接見なければ問題解決につながらないようなケースも少なくない.そのような場合,センターでは,相談内容に応じた専門スタッフからなる評価訪問チームを構成する.評価訪問チームのスタッフの主な専門性は,リハ医師,保健婦,ケースワーカ,理学療法士,作業療法士などであり,さらに必要に応じて工学技師がこれに加わる.訪問は,利用者の居住地域の福祉保健サービス課と連絡をとりながら実施する.利用者の生活の場を実際に見ながら,必要となるサービス・メニューを決定したり,福祉機器をどのように活用したらよいかを,利用者やその介護者を交えながら検討を行う.最終的には,リハ医師がセンターの専門スタッフにたいし,依頼せんを発行する.依頼せんの内容に従い各専門スタッフは利用者宅へ訪問し,サービスを実施する.また,サービス途中でも,適宜カンファレンスを行い,サービス内容の修正や調整を行う.
福祉機器の導入を検討する場合は,センターで保有する機器あるいはメーカや販売店の機器を借り出し,実際の生活の場で試す.また,必要に応じて,一定期間の機器の貸し出しを行うこともある.サービスの進行状況は,スタッフ間はもちろんのこと,各区の福祉保健サービス課にも報告するように努める.この理由は,サービス終了後においても,利用者の状況把握をリハセンターが長期にわたりフォローしていくことは現実的に不可能なためである.従って,利用者の居住地域の福祉保健サービス課がフォローしていくことがもっとも理にかなっているからである.
一定期間評価し福祉機器の適用があると判断した場合,センターのケースワーカは担当区の福祉保健サービス課と連携し,公的資金援助制度(日常生活用具,補装具,後述する横浜市独自の制度など)が活用できるかどうかの調整を行う.機器の導入時は,センターの専門スタッフの立ち会いのもとに販売店が設置導入を行う.センターのスタッフは,適正に導入が実施できたかどうかのチェックを行う.また,設置後の数週間〜数カ月は定期的に電話や訪問でフォローを行う.その後は,半年,さらに年単位でフォローを行うこととなる.また,その間に,利用者のニーズや病状に変化が現れたような場合は,前述したように担当区の福祉保健サービス課が窓口となりフォローを行う.2.横浜市における機器導入のための公的資金援助制度とその変遷
今日,利用者の日常生活におけるニーズはますます多様化し,かつ可能な限り自立した生活を送ることを希望する障害者が増えている.そのため,従来からある日常生活用具や補装具の給付制度だけではそれらのニーズには十分に応えられなくなってきている現状がある.これまで横浜市総合リハビリテーションセンターは横浜市と連携をとりながら,福祉機器を利用者が少しでも活用しやすくするための様々な取り組みを実施してきた.
平成元年度には,臨床工学サービス事業をわが国で初めて発足させた.この事業は,従来制度に含まれない福祉機器を個々の利用者にもっとも適した状態で,かつ安価に届けることを目的としている.すなわち,事業費で購入した原材料(市販のいすや電気製品,電子部品,素材など)を加工し,組み合わせて供給する.利用者が支払うのは,導入した福祉機器の原材料の実費のみである.センターのスタッフが行った設計や加工に要した費用は支払う必要がない.また,重度の障害であればあるほど福祉機器に関しても試行錯誤の課程が必要となる場合が多いが,とくに最終的に渡された機器に含まれない素材や部品などの経費について利用者は支払う必要がない.これらの経費は事業費で賄われる.また,生活保護や非課税の世帯の場合は,減免措置(最大35,000円まで)の制度を設けている.この制度により,これまで福祉機器の導入に躊躇してきたような利用者も導入に積極的になる傾向が生まれている.
平成3年度には,重度障害者自立支援機器交付事業として,移動リフターの助成制度(限度額100万円)を生み出した.また,平成4年度には機器品目が増加し,移動リフターに加え階段昇降機(限度額100万円),段差解消機(限度額55万円),環境制御装置(限度額60万円),コミュニケーション機器(限度額30万円)を追加した.さらに平成5年度には,住宅改造費がそれまで40万円であったのが150万円まで引き上げられたとともに,横浜市障害者・高齢者住環境整備事業と名称変更し,それぞれの機器の設置に必要な費用の助成も可能にした.(ただし,収入による自己負担分が発生する場合がある)
この横浜市独自の制度の特徴は,福祉機器導入の適否の判断を誰が行うかという点にある.すなわち,従来制度の日常生活用具等では,福祉事務所の担当ケースワーカのみに任されていた.近年の福祉機器は様々な技術を駆使したものが登場しており,ケースワーカの知識だけでは十分対応しきれなくなってきている.担当者によっては十分な判断がされないまま利用者への機器の導入が行われたり,またその反対に十分適用可能な人にたいしても機器が支給されないといった事態も発生している.しかし,横浜市の新しい制度では,窓口は福祉保健サービス課であるが,この制度を利用するためには,リハセンターの専門スタッフの判断が大きく関与する仕組みとなっている.市販の機器をそのまま利用できないような場合でも,前述の臨床工学サービス事業と連携しながら,機器を使いやすい状態で供給することが可能である.
さらに,ある利用者の生活において,複数種類の機器の必要が認められると判断した場合は,必要な種類の機器の数だけ助成を行うことが可能である.また,利用者の病状が変化したり,生活内容が変化した場合などでも,必要と判断される場合には何度でも助成を行うことも可能である.これにたいして,従来制度では,一定年限以内では給付されないといった場合が多い.
以上述べてきたように,横浜市独自の福祉機器供給システムは,地域リハビリテーション・サービスというわが国では新しい形態のサービス・システムを発足させ,機器の適合評価や指導さらには研究開発を行うスタッフが一丸となって利用者の生活支援に取り組むという環境の中で育まれてきたものである.
制度やシステムはその時代の生活様式や技術進歩の変遷とともに変化していくべきものである.ここで紹介した横浜市における取り組みを参考にしながら,国内各地で新しい福祉機器の評価・支給システムの模索が開始されることを期待したい.表 障害者・高齢者住環境整備事業(横浜市) 平成9年3月現在