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テクノロジー/障害/コミュニケーション

畠山 卓朗

■「テクノロジー」から「道具」へ
 「テクノロジー(工学・技術学)」という言葉を聞いて,読者の中には「特別なもの」という印象を持たれる方も少なくないのではないでしょうか.ある方から教えられたのですが,「メガネ」,「ライター」,そして「長柄の靴ベラ」などは,実は,最初は,障害がある人のために生み出された道具なのだそうです.それらの道具は,初めは,「特別にデザインされたテクノロジー」であったのでしょう.それが,人々の目にとまり,関心を呼び,形を少しずつ変えながら,現在のように,一般の人々の間でも使われるようになり,すなわち「テクノロジー」から「誰にとっても便利な道具」に徐々に進化していったのではないかと思われます.
 このATACカンファレンスでも,たびたび「テクノロジー」という言葉が登場しますが,その意味では,まだまだ「特別な道具」の域にあるのだと言うことができます.しかし一方では,障害がある人が適切な「テクノロジー」に出会い,それを日常的に使いこなすことで,やがてその人にとっての欠かせない「道具」になることも事実です.
 個々の人に合った「テクノロジー」を見つけるためには,まずは様々な支援のための機器や手法があることを知り,つぎに実際に自分の目で見て試し,そして,情報交換することが大切だと思います.

イラスト メガネ

誰のためのデザイン?

■「障害」を感じ取り,そこから分かること
 からだに「障害」がない人にとって,「障害」ということを日頃,意識することはめったにないでしょう.しかし,実は,私たちは普段の生活の様々な場面で,数多くの「障害」に出会っているのです.例えば,重いスーツケースを持って何段もの階段を上り下りするとき,暗くなった劇場の中で,空いた席を見つけようとするとき,騒音の多い場所での電話による会話,慣れない外国で言葉に困る時,などなど... しかし,それらの多くは一過性であるため,強い印象として記憶に残らなかったり,なんとかその場を切り抜けることで,やり過ごしています.それらのことを,Temporary Disability(一時的な障害),Situational Disability(状況によって生じる障害)と呼びます.

写真 自動販売機

屈んだ姿勢で自販機から品物を取り出す

 昨年のATACカンファレンス1999(東京)では,黎明プロジェクト(ダイアローグ・イン・ザ・ダーク)と呼ばれる体験イベントが開催されました.白杖を一本持ち,真っ暗闇の空間の中にいきなり導かれます.そして全盲のナビゲータに案内されながら暗闇の中を歩きます.最初の内は,一歩足を踏み出すことすら怖いのが,暫くして気が付くと,真っ暗闇の空間を楽しんでいる自分に気が付きます.遠くで聞こえる小川のせせらぎ,靴の裏を通して感じる地面の様々な表情,真っ暗闇の中で楽しむブランコ,暗闇の中に設けられたカフェの椅子に座りながら,出されたほのかに香る赤ワイン,などなど...普段は眠っていた感覚が,静かに目を覚まします.
 今回のATACカンファレンスでも,いくつかの疑似体験の機会が設けられています.ぜひ,ご自分の目で見て,聞いて,感じて,そして表現してみてください.


■「コミュニケーション」...その背景にあるもの
 障害がある人にとってのコミュニケーション...まず,最初に思い浮かべるのは,人と人とのコミュニケーションです.
 そこにおける問題は,とかく発信側(障害がある人側)にあると考えられがちですが,必ずしもそうであるとはかぎりません.受信側が,発信しようとする人の気持ちを真剣に聞き出そうという姿勢が不足しているとコミュニケーションの関係がうまく成立しません.その典型的な例としては,五十音文字盤利用における「先読み」問題があります.受信側は発信側の負担を少しでも減らしてあげようという「優しい」気持ちから,ついつい「先読み」をしてしまいがちです.しかし,発信側にとっては,最後の言葉まで自分で指し示すことそのものが,自己表現と考えている人が少なくないのも事実です.相手の表現にじっくり,耳を傾けるだけの心の余裕を常に持ちたいものです.また,言葉にはならない言葉(身振り,表情などの非音声言語)にも注目する必要があります.

写真 文字盤利用場面

五十音による文字盤を用いて相手の意思を読みとる

 一方,コミュニケーションをより豊かにするためには,どのようにしたらいいのでしょう.
 普段の生活の中で,好きな音楽を聴いたり,テレビで映画を観たり,パソコンでゲームをしたりなど,とても楽しい経験をした時など,それを誰かに伝えたいと感じたことは誰にでもあることです.それが,まさに新たなコミュニケーションの意欲を引き出すことにもつながります.

概念図
広義のコミュニケーション(I-You-They世界は佐伯 胖氏による)

 このように,人におけるコミュニケーションは,人と人だけではく,人と生活環境,人と社会・自然・動物などをも含めたコミュニケーション,すなわち広義のコミュニケーションを捉えていく必要があると思います.
 このカンファレンスをとおして,日々の活動に活かせる「何か」を発見してくださることを,心より期待します.

■ 参考文献 佐伯 胖:「学ぶ」ということの意味,岩波書店(1995)


ATAC2000 in 京都,基礎セミナー資料(2000.11.25)
畠山卓朗:テクノロジー/障害/コミュニケーション,ATACカンファレンス2000テキスト,pp.1-3(2000.11)

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