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出会いをサポート
畠山 卓朗
在宅生活を送る重度肢体不自由のあるAさんは,訪問スタッフの間では「スタッフ泣かせのAさん」というレッテルが貼られていた(人にレッテルを貼ることほど失礼なことはない!).Aさんは気管切開をしていて発話が困難であり,書字もできないため,目や唇の動きを家族に読み取ってもらって意思の伝達を行っていた.
サービスに対する要求内容が一貫せず,本人が望んだようにサービスされたにもかかわらずなかなか満足してくださらない.例えば,電動車いすの処方において,アームレスト(ひじかけ)の高さがぴったりと合ってない,背もたれのシートの張り具合がどうも良くない,座面の角度が合っていない,フットプレート(足載せ板)の大きさが小さすぎる,シートの色が気に入らないなど,不満な点を数え上げだしたらきりがない.
たまたま1個の操作スイッチで文章を書くことができるコミュニケーションエイドの試作装置が出来上がった.Aさんにはそれを用いて現在感じている要望事項(不満な点)を書き出してもらおうということになった.ただし,この方針に対して支援スタッフの中からは「不平不満を煽り立て,収拾がつかない状態になりかねない」という懸念の声が上げられた.
一週間後,私たちが訪問すると,コミュニケーションエイドのプリンターから打ち出された紙にぎっしりと文字が並んでいた.
最初に私たちの目に飛び込んできたのは「一刻も早く改善してほしいこと」として,いくつかの項目がリストアップされていた.その数行下には,「しばらく様子をみたいこと」がリストアップされていた.さらに,その数行下には「今のままの状態でよいこと」がリストアップされていた.そして,その下に書かれていたメッセージにスタッフは目を見張ることとなった.「いつもお世話になり,心から感謝しています」と.
「スタッフ泣かせのAさん」から,まさかそのような感謝のメッセージが発せられるとは誰一人として想像しておらず,強く胸を打たれた.また,「スタッフ泣かせのAさん」というレッテルを貼ってしまったことをスタッフ全員が深く恥じた.
私たちは考えごとを整理する時,しばしば,紙と鉛筆を用いて頭の中にあることを書き出しながら整理する.思考の外部化である.自分の考えや思いを客観化,つまり,編集加工が可能な状態にしているのである(認知心理学者,三宅なほみ氏の言).
以前のAさんにはこの手段が提供されておらず,その状態でスタッフとのやりとりが行われていたのである.思考の外部化ができるようになったAさんは,自分が本当に求めていることは何なのか,スタッフに伝えたいメッセージは何なのかを紙に打ち出し,何度も見つめ,さらに時間をかけながら整理することができたのである.まさに,Aさんにとっては「自分との出会い」であった.一方,支援スタッフにとっては「ほんとうのAさんとの出会い」の始まりであった.
ATAC2005 in 京都
畠山卓朗:出会いをサポート,ATAC2005 Proceedings,こころリソースブック編集会(2005.12)![]()
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