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ITサポータに求められる条件

畠山 卓朗

1.はじめに
 IT(Information Technology,情報技術)サポータに適している人とはどの様な人を指すのでしょうか.ITに関する知識なら誰にも負けない,コンピュータ言語を駆使してプログラムを作成することができる,電子回路の設計が得意,などなど様々なことが思い浮かびます.では,それらの知識や技術を持ち合わせていない人はITサポータとしては不向きなのでしょうか.確かに,ITに関する基礎的な知識が必要であることには間違いはありませんが,実は上述したことがら以前に,サポータを目指す人には必要不可欠な条件があるのです.以下では,ITサポータを目指す人にぜひ育んでほしいと思われる条件をいくつか述べたいと思います.それらの条件を兼備えた上でさらに上述したような知識や技術を有するのであれば,より大きな可能性が生まれることと思います.

2.サポータに求められる条件
1) 旺盛な好奇心
 読者の中には「テクノロジーは苦手」と考えている人がおられるかも知れません.多くの場合それが「ITも苦手」につながります.もし救いがあるとしたら,何事にも好奇心が持てるかどうかということだと思います.自分のまわりにいる人に関心がある,身の回りにあるモノや道具の形や仕組みに面白さを感じる,どんなことでも構いません.好奇心なら誰にも負けないという人ならサポータとしての大切な条件の一部を備えています.たとえ「テクノロジーは苦手」と考えている人でも,目の前の支援を求めている人に関心が持てるのであれば,テクノロジーの壁は必ずや乗り越えることができます.
 では,好奇心を育むにはどうしたらいいのでしょうか.子どものような何ものにも囚われることがない自由な心を持つことではないかと思います.「これは何?」「どうしてこうなっているの?」「こうしたらもっと面白いのに」など子どものこころは自由に物事を捉え見つめます.優れたサポートは,そのような旺盛な好奇心から生まれます.

2) 多様な価値観
 何もかもそつ無くこなすことができる人は,それができたこと自体にあまり価値は見いだせないことでしょう.「できて当たり前」の世界です.しかし,重い障がいのある人にとって何か一つでも自分でデキルことは,生きていることを実感し,生きる意味を見いだし,時には他者に対する役割があることを見いだす手がかりを生み出します.「できて当たり前」の世界にいる人は,障がいのある人の喜びの瞬間を見落としてしまいがちです.なぜ見落としてしまうのでしょうか.それは,ITに関心が強い人の中にはしばしばテクノロジー,例えばパソコンの画面に目を向けてはいても,それを使っている人の表情を見ていないことがあります.顔の表情がうまくできない人でも,目の表情がそれを物語っている場合があります.モノではなくその先にいる「人を見る」ことから始めてみてください.そこには私たちが普段感じることはない,忘れてしまった大切な価値が埋もれているかも知れません.

3) 複数の提案ができる
 障がいのある人から提案を求められた時,読者はどんな提案の仕方をされるでしょうか.ITに詳しい人であれば,テクノロジーを十分に駆使した提案をされるでしょう.ようやく一つ覚えた知識をこの際なんとかうまく使ってみようと考える人がいるかも知れません.一方で,人の手でサポートすることが大切と感じる人がおられるかも知れません.どれも間違いではないのですが,つぎのように考えてみてはどうでしょう.与えられた課題に対して,すべてテクノロジーを駆使した場合にはどういう解決方法があるのだろう,そこにはどんな利点と欠点があるのだろう.反対に,すべてのことを人手で解決するとしたら,そこにはどんな利点や欠点があるのだろう.さらに,ある部分はテクノロジーを用い,残りは人手で行うことも考えます.つまり一人のサポータの中に様々な提案者がおり,それぞれが提案し議論を行うのです.ただ,考えているだけでは,アイデアが浮かんでは消えていきますので,アイデアが浮かんだ瞬間に紙に書き出してみることをお勧めします.これを思考の外部化と言います.これにより,自分の考えを客観化し整理することができます.複数の提案まで絞り込み,相談者にそれぞれの提案の利点・欠点を説明しながら提示します.これにより,相談者は唯一の解決方法ではなく,自己選択・自己決定の場を与えられます.

4) 生活次元で考える
 ITサポートはITに主眼を置いてサポートを行う,当たり前のような話しですがこれは正しいことでしょうか.実はここに落とし穴があります.例えば,「口にくわえたスティックでキーボードを操作したい」という相談があったとします.通常思い浮かぶ具体的なサポートの中身は,口にくわえるスティックと標準キーボードに代わる入力装置の選択です.スティックに関しては,口にくわえる部分の材質や形状,重さ,スティックの長さ,さらにはスティック先端の材質と形状などが検討項目です.一方,入力装置に関しては,小型のキーボード,あるいはそれ以外の特別な入力装置の利用などの検討が必要です.
 しかしここで,パソコンを操作するとはどんなことなのか,改めて考えてみてください.そこには上述した検討項目以外の様々な検討課題が埋もれているのです.例えば,スティックは四六時中,口にくわえたままにしておくのでしょうか.疲れた時や,誰か人が尋ねてきた時,スティックを自分で一端収納し,作業開始と同時にスティックを自分で口にくわえられるようにする必要があります.一方,作業中に書類や解説書の頁をめくって欲しいときに,誰かを呼ぶ手段(例えば,呼びリン)が必要にならないでしょうか.夕暮れ時になり部屋が薄暗くなったら自分で照明を点灯するといった手段(例えば,環境制御装置[1])が必要になります.
 以上のように,生活の流れの中でITサポートを捉えることで解決すべき課題が明確に見えてくるようになります.

3.利用者を捉える3つの視点
 ここでは,ITサポータにおいて大切と思われる3つの視点(図1)を述べます.
 第一番目の視点は観察者としての視点です.私たちは障がいのある利用者に最初に出会ったとき,様々な情報を受け取ることになります.この視点は利用者の全体像を捉える上でとても重要です.後述の二つの視点を捉えた上でも,時にはこの視点に立ち帰る必要があるように思います.
 第二番目の視点は対話者としての視点です.利用者に接近し,目線の高さを合わせて向かい合い,利用者の願望や要望に十分な時間をかけて耳を傾けます.
 著者は長い間,前述の二つの視点で仕事をしてきたように思います.しかし,ある障がいのある人と出会うことで,これらの視点の先にさらにもう一つの視点があることを教えられました.
 第三番目の視点は,共感者としての視点です.利用者の世界をサポータ自らの中でどこまで捉えられるかが大きな課題です.
 もしも,サポータ自身が機器を利用しなければならない立場になったとしたら,ほんとうにその機器を使いたいと感じるかどうか.希望しないとしたら,どのような機器であってほしいかなど,サポータ自身が想像力を働かせる必要があります.
 実は著者自身もあたかも障がいのある利用者の世界が見えているような錯覚に陥っていることにハッと気づかされた経験があります.国立療養所南九州病院に入院中の轟木敏秀氏(故人)があるとき著者に向かって「僕のベッドに一度寝てみませんか」と語ったことがあります.当時の彼は人工呼吸器を装着したまま四六時中,天井を見て生活することを余儀なくされていました.彼の言いたかったことを解釈すれば「僕が見ているほんとうの世界が,あなたには見えていますか?」です.

4.おわりに
 以上,ITサポータに求められる条件を考察してみました.ここで述べたことが一足飛びにうまくできるようになるとは考えないでください.行動し,気付き,そして考察してみる,その繰り返しの中で自分に合った方法を見つけていってください.ITサポートはサポータだけが行うのではなく,利用者自身,その家族,周辺にいる人々をも含めたチームで育んでいくものです.サポートが成功することを心から祈ります.

「観察者」の視点        「対話者」の視点

 


「共感者」の視点
図1 対象者を捉える3つの視点[2]
(イラスト 粟野あゆみ)
※図を描く上で文献[3][4]を参考にした

参考文献
[1]畠山卓朗:環境制御装置 -機種と適応-,脊椎脊髄ジャーナル,Vol. 4,No. 5,pp.367-371 (1991)
[2]畠山卓朗:自立支援のためのテクノロジー活用と今後の課題,Quality Nursing,Vol.9, No.9,pp.10-15,2003
[3]J. J. Gibson: The Ecological Approach to Visual Perception, LEA,1979
[4]佐々木正人:アフォーダンス,新しい認知の理論,岩波書店(1994)


ATAC2005 in 京都,プリカンファレンス
畠山卓朗:ITサポータの条件,上級サポータ虎の巻,こころリソースブック編集会(2005.12)

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