子供たちは,物心がつく以前より,外界と様々な形で「相互作用」を行い,それを通して,日々成長します.一方,重い障害がある子供にとって,外界との「相互作用」は,もっとも苦手なことです.外界に働きかけようとしてもそのための手段を持たない,発信行動は見られるものの,それをうまく汲み取ることが出来ないなど,発信側および受信側,双方において問題を抱えています.
近年,障害がある子供達に対するテクノロジー(工学技術)利用に関心が集まっています.ここでは,複雑なテクノロジーではなく,むしろ,シンプルなテクノロジーが果たす役割が認識されつつあります.
例えば,操作スイッチによる玩具遊びもその一例です.個々の障害に合わせた操作スイッチを子供が獲得することで,玩具遊びに参加することができるようになることがあります.それが出来るようになれば,次に,誰かに対して働きかけたいという気持ちになるのは,自然な流れです.時には,悪戯心を満足させたり,誉められたいという気持ちになったり,何かをやれたという達成感を味わうなど,シンプル・テクノロジーはそれらのことを現実にする世界への入口です.
ここである一人の障害を持つお子さんを紹介します.I君は先天性の難病で,生後5ヶ月から人工呼吸器を装着しています.自分の意志で動かせるのは,眼球と右手親指のみです.I君が3歳頃のことです.ある朝,母親がいつものように病室のカーテンを開けようとしていて,I君の眼が母親に向かって合図を送っていることに気がつきました.母親は「カーテン?」とI君に確認したところ,眼で「イエス」の合図が返ってきました.そこで,母親は窓際の方へベッドを近付け,彼の掌にカーテンの端を触れさせ,少しだけ開ける動作をしたところ,I君は嬉しい表情を示しました.次の日の朝,母親は工夫して,今度は長い棒を持ってきて,棒の先端をカーテンに引っ掛け,棒の端をI君の掌に添えて,彼の合図に従い少しずつ開けるようにしました.著者がI君と初めて出会ったのは,彼が小学校1年の時です.テレビやビデオゲームの操作も,母親との二人三脚で行っていました.その後の彼は自分に合った操作スイッチを獲得し,コミュニケーションエイドをマスターしました.そして,養護学校高等部を卒業し,さらに最近ではインターネットや電子メールを使いこなすまでに大きく成長しました.しかし,最初にご紹介したI君の「僕がカーテンを!」という気持ちを,母親がしっかりと受け止め,具体的な形で実現させたことが,現在のI君を創り出していることに間違いは無いと確信します.
以上のように,テクノロジー利用は,人と人との関係性の中で位置付けられて初めて,障害を持つ子供達の生活の幅や夢を大きく拡げる可能性があります.■参考にしていただきたい書籍
福島 勇:デキルことを活かすシンプル・テクノロジー,こころリソースブック出版会,1997
2001.6.16 第28回日本脳性麻痺研究会(パシフィコ横浜) パネルディスカッション,パネラー