![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
学位論文
障害者の生活を支援する電子情報技術とその実用化に関する研究
畠山 卓朗 論文オリジナルはココをクリック( PDF形式ファイル,890KB ,121頁)
論文要旨
本研究の目的は,工学が寄与できる技術を通して,障害のある人の生活支援を行い,これをさらに加速することを意図したものである.本研究では,著者が専門とするコミュニケーション支援関連領域において,未解決となっている課題を整理し,工学的な視点から解決方法を模索し,メーカや関連機関の研究所などの技術者や研究者などの協力の基に,先端的な技術を駆使してシステムを開発し,さらにユーザである障害者に依頼し試用評価を行い,その結果をまとめた.つぎに,本研究の特徴であるが,まず第一の特徴は,工学と障害という全く次元の異なったものを,それぞれの特徴を適切に把握し,融合させることで,対象となる人の持つ可能性を最大限に引き出そうという視点にある.
第二の特徴として,本研究で研究開発するシステムは,障害のある人を対象として行うものであることには間違いないが,一方では,常にユニバーサルな利用を意識して進めたということである.この背景には,重度の障害がある人は,ある意味では極限状態におかれた人である.障害のない人でも特定の状況下では,障害のある人と同様の状況に置かれることを私たちは日々の生活の中でしばしば経験している.例えば,自動車のヘッドライトが点灯しなくなった時,ダッシュボードの下を覗きながら,操作マニュアルを見ようとするのは非常に困難である.このような時,手以外の身体を用いた動作でコンピュータに指令を送り,マニュアルを音声で読み上げるシステムがあれば大変便利である.また別の例では,海外旅行したとき,街のあちこちに掲げてある看板の文字の意味が分からなくて困ることがある.このような時,手に持った携帯型の装置を看板の方に向けると,使い慣れた言語で看板の意味を読み上げるシステムがあれば便利であろう.さらに,スキーで怪我をし,しばらく病院のベッドの上での生活を余儀なくされた場合,天井を見るばかりの生活に飽き飽きするばかりでなく,外の風景を眺めてみたいと思うことがしばしばある.そのような時でも,自由に窓の外を眺められるシステムがあれば生活が楽しくなる.このように障害の有無に関係なく,身近な共通の問題という視点から発想しようとするのが本研究の大きな特徴である.以上に述べた点を要約すると,この視点からの機器開発を具体的に進めるためには,D.A.Normanの「人間中心設計」の考え方が重要である.
第三の特徴は,あくまでも臨床に根差した生活支援技術の研究であるということである.すなわち,ユーザとなる障害のある人が眼前に存在し,個々のユーザに具体的に生活支援技術を提供する必要性に迫られる環境の中で進めた研究である.この種の研究は,とかく技術志向に陥りやすいが,あくまでもユーザを中心に置いて研究を進めることで,有用性の高いシステムが開発できる.
第四の特徴は,介助者の存在を明確に位置付けていることである.この理由は,従来の機器開発においては,ユーザと機器という関係で捉えることが一般的であるが,現実の生活の中では,介助者や他者との関係を無視することは困難であり,機器設計にもそれらの人々の存在を十分に考慮に入れて行う必要がある.
以上に述べた四つの特徴の持つ視点は,今後高齢化社会が進む中で,誰にとっても分かりやすく,かつやさしく使える機器の必要性が益々高まって来ており,一般の機器開発においても有効であり,ぜひ実行していく必要がある重要な考え方である.以下に本論文の構成について述べる.
第1章序論では,本論文の背景となる障害者に対する生活支援技術に関して歴史的経緯を述べた.つぎに,障害の定義と生活支援技術の関連性について,世界保健機関の国際障害分類を基にして述べた.さらに,コミュニケーション支援領域に限定して,過去20年間の主な取組み状況を整理した.また,今後早急に取り組むべき研究テーマとそれを具体化するために必要な要素技術を整理した.最後に,著者が考える工学的支援の理念とともに研究の目的や特徴について述べた.第2章では,重度肢体不自由者の情報アクセスのための支援技術として,パソコンのマウス操作と同等の機能を,首振り動作と息を用いて実現するインタフェースについて述べた.まず最初に,障害者を対象とした入力装置に必要となる設計条件を考察し,これを基にシステム操作に頭の首振り動作と呼吸気を用いる装置の設計について述べた.つぎに,ユーザの頭部に装着したポインタとパソコン側にセットしたコントローラとから構成されるポインティング・デバイスを赤外線により結合し,頭の振り角に応じてマウスカーソルを移動させる方式と,それを評価した結果について述べた.評価結果からは,ポインティングに要する時間も従来の入力装置に較べて遜色なく,さらに操作者の操作負担は比較的小さく,安定したポインティング特性を有していることや,介助性にも優れていることが分かった.そして,評価の結果,明確になったいくつかの問題点に対する解決方法について考察した.
第3章では,視覚に障害のある人々の社会参加促進のための支援技術として,音声情報案内システムについて述べた.まず最初に,視覚に障害のある人々のための音声情報案内システムの現状と課題を整理した.そして,これまでは実現されていなかった方向情報の提示が可能な新しい赤外線利用システムについて述べた.ここでは,赤外線を用いた方向知覚および情報伝達の原理を述べた.また,このシステムを用いて,公共施設等利用場面と個人利用場面の二つの場面で評価を実施し,それぞれの場面で有効に利用できることが分かった.また,利用者の感想などから明確になった今後の課題について考察した.
第4章では,神経筋疾患患者の生き甲斐追求のための支援技術について述べた.まず最初に,わが国における神経筋疾患患者の現状と課題を整理した.つぎに,人間にとってのコミュニケーションとは何かを述べ,人と人のコミュニケーションのみならず,人と日常生活,人と社会・自然・動物なども含めた広義のコミュニケーションが,重要なことを述べた.そして,工学がそれらを実現する上でいかに重要かを述べた.さらに,10年の間に実施した臨床工学サービスの中から,筋萎縮性側索硬化症患者に対する支援機器供給状況を調査・分析し,その傾向を述べた.そして,神経筋疾患患者が環境との相互作用を保つことができるためのインタフェースの一例として,新たに開発したシステムについて述べた.ここでは,一つのスイッチを用いて,ベッド周辺を見渡すための電動ミラー操作用インタフェースについて述べた.最後に,工学的な立場から神経筋疾患に対する支援の在り方について述べた.
第5章では,将来,生活支援技術の研究領域に挑もうと考える学生,若い研究者や技術者に向けたメッセージを述べた.
第6章結論においては,第2章,第3章,第4章で述べた支援技術が具体的にどのように役立っているかについて述べるとともに,今後の課題と本研究の成果についてまとめた.
本研究で著者が取り組んだテーマは,コミュニケーション支援領域の一隅に焦点を当てたに過ぎない.今後,本研究を継続して行うことで個々のテーマをより良い方向で改善するとともに,未着手となっている課題を発掘し,具体的な取組みを行っていきたい.そして,最終的にはコミュニケーション関連機器の体系化を目指す.一方で,一般の民生用情報機器などの開発に対して,障害者の利用を含めた機器設計がなされるようにするための,具体的な提案や指針を作成して行きたい.
以上述べた取組みは一個人でできるものではないため,多くの研究者の参加が必要であり,障害のある人々をも含めた研究開発体制の必要性を感じており,関係者の理解と協力を切に希望する.
名古屋大学 大学院工学研究科 博士論文(工学) 論工博 第1507号 2001.10.31指導教官:大西 昇 教授(名古屋大学),春日正男 教授(宇都宮大学),渡辺豊英 教授(名古屋大学),生田幸二 教授(名古屋大学)
論文オリジナルはココをクリック( PDF形式ファイル,890KB ,121頁)
Top Page > 著作 > 論文要旨 ![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()