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技術支援における経験情報の知識化

Knowledge management of empirical information on Assistive Technology

畠山 卓朗(星城大学リハビリテーション学部)   渡辺 崇史(日本福祉大学福祉テクノロジーセンター)

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キーワード:支援技術,経験情報,知識化,情報共有

1 はじめに
 長年にわたり障がいのある人を対象に,工学技術を基礎とした生活支援(以下,技術支援とする)に取り組んできた.今回,これまでの仕事を振り返るとともに,今後のより良い支援の在り方を目指すことを目的にディスカッションを重ねた.その過程で,これまで個々の支援技術者が各々の価値観で行ってきた支援においても,大切であると感じている事柄に関していくつもの共通点があることが見えてきた.また,他者の経験事例の中に様々な気づきを見いだすことができた.それら重要と感じた事柄や具体的な支援事例を知識化,すなわち支援者間で支援のための情報を文書の形で共有するための取り組みを試行したので報告したい.なお,知識化情報の利用対象者としては,中間ユーザ,障がい当事者・家族,販売・設置業者,機器開発者などを想定している.

2 知識化の意義
 支援現場では日々様々な出来事が起きている.例えば「苦労した末に支援の糸口が見つかった」,「機器導入がスムースに進み自立生活がスタートした」,「思うように支援が進まず見通しが見えない」,さらには「利用者から支援拒否を申し出られた」などのように枚挙にいとまがない.
 一つ一つの事柄は,個々の支援者にとっては,次なる支援への動機付けとなり,時には同じことを繰り返さないための反省材料として活かされる.
 成功事例については学会や研究会などで報告されることはあるものの,とりわけ失敗経験に関しては個々人の意識の中に深く潜行し「思い出したくない出来事」として封印されがちである1).
「支援がなぜうまくいったのか」だけでなく「なぜ失敗したのか」についても十分な考察がされないまま次々と支援をこなしていく過程の中で,同じような失敗を繰り返してしまうことがある.
 これは同一の支援技術者におけることだけではなく,他の支援技術者においても類似の状況が起きていることがディスカッションを通して感じ取れた.
以上のことは,新規の支援機器開発現場でも同様のことが言えるように思われる.
 類似の過ちや失敗を繰り返させず,支援(あるいは開発)を出来る限り成功に結びつけるためには,支援技術者間での情報の共有が不可欠である.ただし,ここでの情報は,これまで「当たり前」のこととして文章化されることがあまりなかった.文章化されることで他者の目に触れ情報が客観的に評価され,さらに他者から提供された情報や助言が加味されることで生きた情報として定着させる.

3 経験情報の知識化
 図1に今回提案する経験情報知識化DB(データベース)の構成(試案)を示す.図中,長方形はデータベースを構成するテーブルである.定石テーブル,事例テーブル,関連技術テーブル,経験情報テーブル,役立ち度テーブル,納得度テーブルなどである.テーブル間は,リレーションシップが定義してあり,一方のテーブルのフィールドに他方のテーブルからアクセス出来る.以下にそれぞれのテーブルの概要を説明する.

図1 経験情報知識化DBの構成(試案)
図1 経験情報知識化DBの構成(試案)


3.1 定石テーブル
 ここでいう定石とは支援において最善とされる,対処のあるべき姿や手順のことを意味する.ベテラン支援者が支援における重要な視点を簡潔に記述した情報を蓄積する.具体的な入力項目は,定石番号,名称,解説,情報提供対象者分類などである.

3.2 事例テーブル
 このテーブルの入力項目は,畑村1)による失敗知識データベース2)を基礎にし,それに定石テーブルとのリレーションシップに関連した項目を付加する.事例は失敗経験にのみ限定せず,試行錯誤の結果,成功につながったような事例も対象とする.入力項目は,事例番号,事例名称,代表図,事例発生日付,事例発生場所,事例概要,経過,原因,対処方法,対策,知識化,背景,後日談,原因シナリオ,行動シナリオ,結果シナリオ,情報源,データ作成者,作成日,定石番号などである.

3.3 関連技術テーブル
 事例に関連した技術情報(例えば,素材選択,加工技術・方法,設置方法など)を蓄積し,類似した支援を行う際に,ゼロから調べるといった無駄を極力省く.入力項目は,関連技術番号,名称,解説,図,などである.

3.4 経験情報テーブル
 事例テーブルを利用する情報閲覧者が,自身の経験した情報をコメントの形で蓄積する.入力項目は,事例番号,コメント,情報提供者情報などである.

3.5 役立ち度テーブル
 情報閲覧者にとって個々の事例テーブルの情報がどの程度役に立ったかを段階評価してもらいその結果を蓄積する.入力項目は,事例番号,評価データ,コメントなどである.

3.6 納得度テーブル
 ベテラン支援者に定石テーブルの情報を見てもらい,蓄積された個々の情報にどの程度納得がいくかを段階評価してもらいその結果を蓄積する.入力項目は,定石番号,評価データ,コメントなどである.
 試案作成にあたり,今回は,定石テーブルと事例テーブルを中心にコミュニケーション支援に取り組んできた著者等の経験をもとに経験情報の蓄積を試みる.

4 取り組み状況
 定石テーブルに関してはこれまでに15件の入力を試みた.それぞれの定石は,ニーズ把握,支援計画,機種選定,制度利用,設置・運用,チームワーク,機器開発などのキーワードに関連した内容であった.
 次に事例テーブルに関してはこれまでに17件の入力を試みた.電子部品の選択を誤り危うく火災事故につながりかけた事例,機器開発の途中でユーザニーズを見失いユーザ不在に陥った事例,表示ランプ色の視認性に配慮して赤色を選択したところ夜間の利用者の不安を招いたという事例,寒冷地での機器利用におけるトラブルとその対策事例,などであった.
 その他のテーブルに関しては本原稿作成時点では未着手であるが,今後作業を進める.また,試作したデータベースをインターネット経由で試験的に公開することを検討している.

5 今後の課題
 蓄積された情報が適切な内容であるかどうか,定期的な情報の吟味を行うための仕組みが必要である.
 今回,コミュニケーション支援を中心に知識化を試みたが,将来的にはリハ工学協会の各SIGによる様々な支援テーマを対象とした経験情報の知識化が進められていくことが切に望まれる.

参考文献
1) 畑村洋太郎 失敗学のすすめ,講談社,2000
2) 失敗知識データベース 
  http://shippai.jst.go.jp/fkd/Search


2006 第21回リハ工学カンファレンスにおいて発表
畠山卓朗,渡辺崇史:支援技術情報の知識化,第21回リハ工学カンファレンス講演論文集,pp.75-76(2006)

関連資料
 サポートの定石(pdf) Ver. 051130
 事例のサンプル(pdf)

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