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2001年4月1日
「デンバーからの伝言」

「豪華絢爛、八木敬之のバンド遍歴」
スペシャル!
 
極私的Kozoさんソロアルバム
紐育レコーディングレポート




人生起こっていいことと、起こってはいけないことがあり、人としてやっていいことと、やってはいけないことがある。しかし状況によって想像を越える色々なことが起こるのも人生だったりするわけで、今回は、夢にも思わなかった素晴らしいことが私の身の上に起こり、しかも調子に乗ってやってはいけないことをやってしまったという話である。いまだに夢でも見ているような気もするが、物理的な証拠が残っているはずなので、やはり夢ではないのだ。なんということだ。


 



ことの始まりは、KozoさんのソロアルバムのレコーディングをNYでやるという話を矢堀氏のWeb Pageかなにかで知ったことによるものだ。その後米笑氏の掲示板でつついたところメンバーおよび日程が明らかになったのだが、日程的にはモロに春休みであり、メンバー的には絶対に見逃してはならないミュージシャンが揃っているわけで、これはいっちょ行ってみるかということにしたのだった。矢堀氏の冗談を真に受け、サックスも一応持っていくことにする。


レコーディング前日の3月15日には、冬学期最後の試験終了と同時に空港へ直行し、夜7時の便でNYへ。多少到着が遅れ、ラガーディア空港についたのは12時半。その後タクシーに乗ってホテルへ向かったら予約をしているはずなのに何故か空室が無いという。とにかく数ブロック離れたホテルを紹介され一件落着。夜中の1時半にホテルの横の韓国料理屋でスープメシおよびキムチその他山盛りを食し、英気を養う。


翌日(3月16日)は、10時からレコーディング開始であったが、ちょいと遅れて11時頃に到着。場所は47th streetと7th Avenueという、まるっきり観光地の真中。当日並ぶとミュージカルのチケットが半額で買えるという、観光客にはおなじみのTKTSのすぐそば。こんなところにスタジオがあるのかと思ったが、地味なビルのエレベーターを登ると本当にあった。


スタジオに入ってみると、懐かしい矢堀氏の顔が。さらにはKozoさんも。世間話などしていたのだが、なにやらトラブルが発生している模様。そこらへんの話については矢堀氏のレポートに詳しいので省略するが、なんだかんだと時間が経って、いよいよリンカーン・ゴーインズ(b)ならびにボブ・マラック(ts)が登場した。ミュージシャン同士やあやあと挨拶(この時点で私はまだ単なるビジターなので横から見ている)。


様子を見ていると、まだ機材トラブルが続いているようで、手持ち無沙汰なのをいい事にボブ・マラックに話し掛けたりする。例によって20年前から知っているなどといって近づき、知っている限りのネタを持ち出して取り入る。いつも笑顔を絶やさず人の話を聞いてくれて非常によい人。



<ボブと記念写真。この顔の大きさの違いは何だ>

 


なんとなくリハが始められそうな雰囲気になり、ミュージシャンはセッティング開始。私もなんとなくスタジオ内に入り、ボブの練習を眺めたりするが、とにかく音が物凄いので驚く。フュージョン系の録音が多いので、結構軽めのセッティングをしているかと思っていたが、実はオットーリンクのメタルマウスピースを使って、もろ「ニューヨーク系サックス」という感じの音色+音量+フレーズ。Kozo氏より一曲目に「Moment's notice」をやると告げられ、「練習しなきゃ。10年くらいこの曲やってないんだ」などといってまたバリバリ吹き始める(本当に「バリバリ」という表現がぴったりくる)。実は、まだ録音準備ができていないとき、スタジオ内で「ちょっと合わせてみよう」といって一回合わせたのだが、そのときのプレイが物凄かった。


<スタジオ風景。まだ機材が完璧ではなく、ボブはブースから外に出て音合わせ>

 



さて、ようやく録音開始という段階になり、私たちビジターは狭いコントロールルームから追い出される。ロビーの排気ダクトのようなところから聞こえてくる演奏はとにかくご機嫌。


その後、機材関係はあまり順調とはいえない状況で、Kozoさんの新曲(バラード)、Double Black Featherおよび、Beat Kidsを録音。リンカーン、ボブともに前もって丁寧に楽譜を読んできていたようで、音会わせの段階でいろいろな確認をしている。で、やってみると1回目からほぼ完璧な音楽にしてしまうので恐ろしい。殆どの曲が2テイクくらいで終ったんじゃないだろうか。ボブのテーマの唄い方、コードの変わり目でのフレーズの繋ぎ方などは、本物だなあと改めて感じた。当然音は最高。リンカーンは堅実ではあるが、非常に音楽全体を考えたプレイ。とにかく楽曲の捉え方が素早くて深い。


さて、そんな事をやっている間にもトラブルは続き、待ち時間が妙に多かったりするわけで、完全にミーハーと化している私はこの機に乗じて前もって用意していたCD(リンカーンとボブが参加しているマイク・スターンの「Play」)にサインなどを頂く。実はあとでスコット・キンゼイにもサインを貰ったりして完全にご満悦であった。


<これがそのサイン。マイク・スターンの鼻の下に注目。誰がやったかは秘密>



さて、初日の夜10時になって、スコット・キンゼイが登場(この日は演奏せず顔見世だけ)。例によって大ファンという触れ込みで近づき、ちょっと話をして、上記のとおりサインなど貰ったりする。その後スコット+日本からの遠征組で食事に行ってその日は終了。


 


翌日(3月17日)もやはり10時からであったが、やはりトラブルは続いている模様。しかし今日は朝一番からスコットが乗り込んでいて、自宅で作ってCDに焼いてきたプリプロをPro Toolsに移している。そのプリプロが・・・まさにトライバルテック(笑)。既に自分のソロも入れてあるがこれがまた恐ろしく格好良くて腰を抜かした。


この日はスコットディということで、ボブはお休み。一曲目の矢堀新曲が結構時間が掛かってようやく終了というところで、ロビーのようなところで和んでいると、突然矢堀氏が「八木さん次のMystic Islandやらない?」などと発言。Kozoさんも「やっぱりこの曲はサックスがあったほうがええなあ」などということになり、私は突然ビジターからミュージシャンへ変身せざるを得ない状況に。いや、本当は非常に嬉しかったんですが、同時にこれはリンカーンやスコットという世界超一流の人々と一緒に演奏する事を意味するわけで、異常に緊張したりする。


というわけで、何故かスタジオに置いてあったサックスを持ち、一応リンカーンおよびスコットに仁義を切る。いやな顔されたらやめようかとも思っていたのだが、ふたりともにこにことOKしてくれ、やおらスタジオに入り楽器を取り出す。昨日ボブが吹いていたブースにはすでにスコットのキーボードがセッティングしてあるのだが、他にブースも無いため、スコットの真横で吹くという恐ろしい、いや、素晴らしく光栄な状況になった。


軽く合わせたあと本番開始。演奏は・・・正直言って決して満足行くものではなかったが、何回やっても100%満足のいく演奏ができるとも思えず、スリーテイクくらいで「キメ」ました。米笑さん考案のスリップビートの術中にもハマりっぱなし(笑)。但し、音は比較的よく出ていたと思う。演奏中は横にいるスコットが気になってしょうがなかった。なんというか、異常に冷静なバッキング+ソロだし。この曲は私とスコットがソロをとったのだが、始めにソロをとった私がどちらかというと下品なアプローチであるのに対して、スコットは浮遊感漂うスペイシーなソロ。よく言えば好対照になっていると思う。


こうして私のNYレコーディング体験も終了。一応キメテイクが終った後で、スコットおよびリンカーンに挨拶。"I really appreciate to play with you guys, the greatest musicians in the world"などというと、向うも"I appreciate to play with you too!"などといってくれる。なんていい人たち。


 


<リンカーンと矢堀氏とで記念写真>



さて、私は楽器を置きに一旦ホテルへ。戻ってみるとこの日最後のTales of the templeがほぼ終わりに近づいていた。リンカーンのライン、スコットのソロ、矢堀氏のソロ、Kozoさんのビート、改めて凄いメンバーだなあなどと感無量になってぼんやりしている間にレコーディング終了。どさくさに紛れてメンバーと記念写真など撮って貰う。撤収時には、スコットのキーボード運搬係となり、一緒にホテルへ、ヤマハのやたらでかくて思いフライトケースで、しかも雨が降っていたりしたのだが、こちとら浮かれているので全く苦にならず、ホテルの部屋までお邪魔して、e-mailのアドレスなど交換し、握手をし、再開を誓って別れる。



<スコット、Kozoさん、矢堀氏と私で記念写真>



さて、改めて考えてみると、今回は本場の、いや、「本当の」ミュージシャンの「ミュージシャンシップ」に圧倒させられた。技術的に凄いのはもちろんだが、Kozoさんと矢堀氏も含めて皆音楽に対して真摯であり、真剣であり、フレキシブルであり、責任感がある。同時に、如何にお互いのコンフリクトを無くし、限られた時間でいい音楽を作っていくかということに常時気を配っていて、そういう意味では驚くほど寛容でもある。なんというか、そこらへんのバランスが非常に上手くとれていて、個人のプレイに対して拘るのはもちろんだが、音楽全体へのコミットメントも非常に高いし、同時に時間的な制約も良く理解しているような気がした。


それにしても凄い経験をしたものだと思う。日本のサラリーマンでこれだけのメンバーと、しかもNYでレコーディングした人はさすがに存在しないだろうから、まさに「前人未到のサラリーマン新記録達成」といったところか。今回ほど「アメリカに留学していて良かった」と感じた事も無い(笑)。なんかバチがあたりそうだが。


最後に、今回の素晴らしい体験をすることを許してくれた、Kozoさん、矢堀氏、スコット、リンカーン、ボブ、今回の仕掛け人であるジュエルサウンドの里さんと関係者の皆さんに改めて感謝したい。どうもありがとうございました。



 


極私的メンバー紹介

Kozo (ds)


Kozoさんとはフラジャイルで一緒に演奏をさせてもらい、「手数王ライブ実践篇」にも出演させてもらっている。手数やスリップビートなどトリッキーなプレイが強調され、今回のCDでもリーダー作ということもあり、まさに派手な技のオンパレードであるが、実はバラードのプレイも素晴らしいということを改めて発見。Kozoさん自作のバラードでのプレイは実は結構聴きものだ。ボブと熱帯魚飼育という共通の趣味を持っていることが判明し、盛り上がっていた。


Koichi Yabori (g)


学生時代からの長い付き合いであり、今回の相撲三部作も確か初演のときは私が一緒だったはずだ。今レコーディングではギタープレイのみでなく、作曲、アレンジ、ミュージシャンリレーション、エンジニアリレーション(笑)、と大変だった。ご苦労様。リンカーンに「なんでNYにいるのにマイクに連絡しないんだ」などといわれ、マイク・スターンの家に電話して緊張しながら留守電にメッセージを残す姿はなかなか可笑しかった。


Bob Malach (ts)


私がこの人の演奏を聞いたのは確か1980年頃で、ジョルジュ・グルンツと言う人のビッグバンドのレコードだった。その頃から注目していて、91年頃にはドイツでレニ・スターンのバンドで演奏するのを聞いている。上にも書いたが、オットーリンクのメタルマウスピースを使って、実に「ニューヨーク」という感じのプレイをする。音の太さと迫力にも吃驚。あまりリーダー作は無いと思うが、先日ストリングスをバックにした作品を録音したそうで、また近日中にストレートアヘッドなカルテット(自己のリーダーではないが)の録音も控えているとのこと。ただし、どうも両方ともヨーロッパ盤のようで、アメリカではやはりこういう系統はウケないのかなとも思う。明らかに過小評価されているミュージシャンの一人。



以下はサックス吹きしかわからない秘密の会話の一部。

  • 使用楽器はマーク6の8万番台。マウスピースはオールドオットーリンクの「6番くらい」だそうだ。

  • リードはバンドレンジャバの4か、「イシモリ」の3番。リードカッターでサイドを調整しているとの事。日本のイシモリ楽器ブランドの小物を愛用しており、リード、リガチャー、サムフックなど「とにかく素晴らしい」といっていた。

  • 現在はNYのとなりのニュージャージー州に住んでいるが、以前はマンハッタンに住んでいたとのこと。とにかく80年代のマンハッタンは「ハプニングしていた」そうで、伝説の7th Avenue Southでやった、マイケル・ブレッカー、ドン・グロルニック、ウィル・リー、スティーブ・ジョーダン(?)のカルテットの演奏テープをいまだに持っているらしい。

  • サックスは子供の頃にお兄さんの影響で始めたとのこと。師事した先生は伝説のジョーアラードとエディダニエルズ。サックスの奏法についての本を執筆中とのことで、出版が楽しみ。

Lincolne Goins (b)



ベース一本抱えて現れる、なんというか、「ニューヨーカー」そのものといった感じの人。NHL(プロホッケー)のニューヨークレンジャーズの大ファンで、セッション中もロビーのテレビ中継を気にしていた。私が知ったかぶりして「今年のコロラドアバランチは云々」などと話を振ってみたら、「あのプレイヤーはどう思うか」「チェコ人のなんとかは知っているか」とか妙に厳しいつっこみが帰ってきた。上のサインを見てもらえばわかるように大の親日家。
セッションマン、サイドマンの活動が多く、地味な印象もあるが、実際に目の当たりにしたらとんでもなかった。特にTales of the Templesでの演奏はこのCDのハイライトのひとつになると思う。
ちょうどマイク・スターンの次回作のレコーディングが終ったところで、翌日からミックスダウンだとかいっていた。


Scott Kinsey (key)



 ロサンゼルスからやたら重いキーボードを二台も抱えてやってきた。とにかくこの人の音楽に対する真摯な態度には感心を越えて感動させられた。同時に、なにか意見を言うときも「俺はこうしたらいいと思うが、お前はどう思うか」というように、リーダーであるKozoさんや、プロデューサーである矢堀氏の考えを尊重する姿勢を崩さない。演奏は・・・とにかく実際の音を聞いてもらえればOKでしょう。
 雑談中に。「私はトライバルテックをDr. Heeのころから聴いてる」などと振ったら「俺もだ。そのころ高校生でマイク・スターンの『アップサイドダウンサイド』なんかと一緒に買って、良く聞いていた」などという答えが返ってきて唖然。若いんだな(笑)。
そのトライバルテックの話。最近のレコーディングはスコヘンとゲイリーウィリスが「なんかやれ(Do something)」などとスコットに命令して、しょうがなくなんか適当にやるとそれがそのまま曲になったりするそうな。そのトライバルテックは今年も12月来日で話が進みつつあるらしい。再会が楽しみ。




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