第35話
『お金一銭もない』
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 いつも使っていた財布は、「時蔵(父の名前)の形見」と大切にしていなかった割には、見つからないと大騒ぎになっていた。度々財布紛失騒ぎが起きるので騒ぎのを根源私が預かることにした。その代わりに母の手元にあった違う財布を使うことにした。その財布は、小銭入れと札入れがついており、手頃な大きさで母も気に入った様子だった。
 その財布を見失っても「時蔵の形見を盗られた」と大騒ぎすることはないが、財布紛失騒ぎを起こしていることは常習だ。財布の中身をときどき確かめるのも私の仕事のひとつである。財布は常に1万円以上3万円未満の現金を入れておくようにしている。
 小銭入れと札入れの方向が反対なためにひと騒ぎが起きる。大きな買物がないとは云え、母もときどき買い物をする。お金がどれほど残っているか確認するときに、母は小銭入れのがま口側しか開けない。従って、そこにはお札は入っていない。
 お札が目に入らないと心配になって電話がかかってくる。「お金が一銭もないの。買い物に行けないわ」カミさんも心得たものだ。「お義母さん、がま口だけじゃなく、反対側のお札入れを見てみたら?」 母「あら、入ってたわ(ガチャリ)」これで一件落着。これを週あたり2〜3度は繰り返している。