メール有難うございました |
このホームページを立ち上げてから、もう約一年になります。この間多くの方からメールをいただきました。本当にありがとうございました。
ところが、大変印象深く読ませていただきましたのに、私の不精からお返事をいまだ差し上げていない方が少なからずいらっしゃいます。この場を借りましてお詫び申し上げます。
また読者の中には経済学に馴染みの無い方も当然ながら、いらっしゃるようです。ご自分が文科系だから、良くわからないとおっしゃるのです。しかし経済学も文科系なのですから、どなたでもおわかりいただけるものと思っています。
しかしながら、辻村の仮説というのはたしかに入門書の最初の15ページぐらいの範囲だけで理解できる程度のものなのですが、考えてみれば、後に経済学会の会長になったり、文化功労者になったりする人間に、望遠鏡の絵を使ってまでして説明したのに、皆様方には小文「消費選好場と相対性」を添付しただけですから、当然と言えば当然かもしれません。
私としましては、慶応義塾の悪徳ぶり、や辻村仮説の馬鹿馬鹿しさは、悪党黒田昌裕などの電話内容などをお聞きになると、賢明なる読者の皆様は自ずとお分かりになるはずだと思っていたわけです。
事実たいていの皆様には、そのようにご理解いただけたようです。ただ一部の方には、自分の力で、問題となっている経済学が理解できないという点で、少し歯がゆく、物足らなかったようなのです。それはその通りです。
そこで「限界効用とは何か」について、ご希望の方には雰囲気だけでもご理解いただけるように努めることとしました。そのためには三十数年前に辻村氏に出した質問状と同じような内容のものとするのがベストだと思います。
科学は測定可能な変数の間に存在するか、または存在すると想定されうる関係のみを研究対象にすることは、言うまでもありません。勿論経済学も科学であるためには、そうあらねばなりません。
現在でも基数的効用を仮定すればというような、奇妙な仮定に出くわすことが多いのですが、これらは実際に、何かを尺度として効用を測定できない限り、科学とは無縁のものであるとして無視することにします。
この点にかんしては、後ほど自然とおわかりになるのではないかと思います。
ところで現代の消費の理論は基数的効用という測定不可能な概念をしりぞけてしまったのですが、効用という言葉や、限界効用という言葉は、その伝統性ゆえ現在でもよく使用されます。
勿論正しい意味を理解していない限り、混乱のもととなります。それ故何よりもまず、序数と基数の違いについて、はっきりしておかねばなりません。
| 序序数と基数 数 |
私たちは基数的な数に慣れています。長さが10メートル、重さが100グラムと言ったりするのが、その例です。
これらは、いづれも何らかの尺度、つまり「ものさし」によって測られた数です。「ものさし」の10倍とか100倍とか言っているわけです。
ここでは10メートルは5メートルの2倍であるとか、100グラムの重さは30グラムの重さと加えられると130グラムになるとかの周知の算術が適用されます。
昔の経済学者は効用をあたかも測定できるかのように考えて「理論のようなもの」を組み立てたのでした。
しかし、例えば「日本酒」二合と「焼き鳥」三本を飲食して、たしかに満足感は得られますが、この満足感を何単位の満足感であるか、つまり何単位の効用であるかということは測定できませんし、知ることもできません。
それゆえ、さらに「日本酒」一合を追加して、「日本酒」三合と「焼き鳥」三本を飲食すると何単位の効用が増加するかというような議論、つまり基数的効用理論は無意味ということになります。
ちなみに「日本酒」二合と「焼き鳥」三本の満足感に比べて、「日本酒」をさらに一合追加することによって増加する満足感、つまり効用は「日本酒」二合と「焼き鳥」三本の組み合わせにおける「日本酒」の限界効用と定義され、また「日本酒」二合と「焼き鳥」三本の組み合わせの満足感に比べて、「焼き鳥」をさらに一本追加することによって増加する効用は「日本酒」二合と「焼き鳥」三本の組み合わせにおける「焼き鳥」の限界効用と定義されていたのです。
経済理論が無いということになると困るのは、商売上がったりとなる経済学者ですから、今度は序数的効用なる怪しげなものを考え出しました。
簡単な例をあげてこの序数的効用を説明してみることにしましょう。いつまでも「日本酒」だとか「焼き鳥」だとか言っているのも、効率が悪く、面倒なのでX財、Y財と呼びかえましょう。
今、財X、Yの三通りの組み合わせ
A;(X財3単位、Y財7単位)、 B;(X財10単位、Y財12単位)、
C;(X財13単位、Y財2単位)の序数的効用
、
、
について考えてみましょう。
は効用(utility)を表しています。
=20、
=60、
=20としてみましょう。
勿論先にお話したように、これらの数値は、例えばAの組み合わせを消費することによって得られる満足感、または効用を何らかの尺度で測った大きさが20であるなどと言っているのではありません。
この場合われわれが言えるのは
=
、
>
ということだけなのです。
ここで
−
=40などということは意味がないし、また
は
の3倍であるなどと言っても意味がないのです。
序数的効用の数値と言うのは、何らかの尺度の何倍かであるということを示すものではなく、財の幾通りかの組み合わせから得られる効用の大小関係だけを示す背番号のようなものに過ぎません。効用指標と呼ばれることがあるのは、ここらあたりの事情を強調するためです。
われわれは
=
、
>
という関係を示すために、上の序数のセットを使用したのであって、両者は全くの同義なのです。
それ故上の序数のセットにおいて
=60というのを
=21に置き換え、
=20、
=21、
=20、という新しい序数的効用のセットを作っても、はじめのセットと同義なのです。
当然このような効用のセットは無限個作ることができます。
例えば
、
、
とも正ですから
、
、
をそれぞれ2乗しても、
=400、
=3600、
=400、となり、三者の間で大小関係は変わりません。それ故これもはじめの効用のセットと同義なのです。
勿論
−
=3200、だとか
は
の9倍であるなどと言っても無意味なのです。
また
、
、
にそれぞれ15を加えても、
=35、
=75、
=35、となり、これも同義の効用のセットであると言えます。
いずれのセットも見かけの上では異なりますが、全く同等のことを、つまり
=
、
>
という関係を述べているに過ぎません。
大変しつこく言いましたが、序数的効用の値というのは、順序を示すだけで、大きさそのものには何ら意味がないのです。
勿論
、
、
の間に上のような選好の序列があると仮定すれば、消費者は何の制約もないなら、効用を最大にするためには、組み合わせB;(X財10単位、Y財12単位)、を選択するはずです。
現代の消費の経済学というのは或る意味において、これと五十歩百歩なのです。
けれども、こんなものは当然、理論でもなんでもありません。効用は測定不可能ですし、検証もできないからです。この三つの組み合わせの大小関係だけなら、わざわざ序数のセットで書かなくても
=
、
>
という関係ですっきり表現できるのですが、組み合わせの数が多くなると、等号や不等号では処理できなくなります。
| 天天才アイちゃんは序数を理解していますす |
なお、余談ながら、いくつかの「数」を大きさの順に選ぶということは、驚いたことにチンパンジーでも、軽々とやってのけます。有名なチンパンジーの「天才アイちゃん」のすばらしいワザがネット上でご覧いただけます。まるで百人一首のカルタ取りの名人を彷彿させるようなスピードです。お急ぎでない方は、ぜひ見てやって下さい。
「京都大学霊長類研究所:実験風景」の「数の認識課題」から14秒の動画です。
http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/ai/video/vi-exp/vi-exp.html
ところで、このような序数的効用をグラフに書くにはどうすればよいのでしょうか。
基数的な数なら、デカルト以来のあのおなじみの方法でやれば良いでしょう。
つまり、測定単位をそろえ、その単位に対応する線分の長さを、例えば100メートルで、これこれと定めておけば、すべての長さが0を基準として、一本の直線の上で、一義的に表現できます。
しかし先にあげたX財、Y財の三通りの組み合わせ、A、B、Cの序数的効用の値は大小関係以外は意味を持ちません。それ故、序数的効用を本来の意味でグラフに書くことはできません。
けれども後での便宜のため、序数的効用の大きさは無意味であり、グラフになど書くことはできないということを、わきまえた上、あたかも何らかの尺度で測った基数的効用であるかのように等間隔に目盛ったグラフで、序数的効用の値を表すことができましょう。
無限個のグラフのうち、先に示した三つの例がX ,Y ,Uの三次元に正確にではなく、大雑把に描かれます。

勿論この三つの絵は全く同じことを、つまり
=
、
>
という関係を述べているのであり、見かけ上異なるのは、こちらが基数的表示方法を使用しているからです。三つのセットの内、どのセットが真のセットか分からないなどと悩むこと自体がおかしいことなのです。皆、同じなのです。
序数的効用という本来の性質を、もっと明確に示そうとすれば、むしろ次の図の方がふさわしいかもしれません。

序数的効用の意味はもう、お分かりになったことと思います。私も序数の意味については、これ以上知りません。
この序数の意味をも理解せず、「習慣形成仮説」なるものを考案し、私の指摘により序数の意味を理解した後も、この間違い仮説を引っ込めず、私を商学研究科委員長の名前をかたってまでして、退学させようとしたのが、辻村や黒田なのです。そしていまだに、こうした間違いを正すことなく、学生に教えているのが悪徳慶応義塾なのです。
ところで、今まではX財、Y財の三通りの組み合わせについて、お話ししましたが、組み合わせの数がもっともっと多くなると、少し厄介なことになりそうです。もう前の三通りの組み合わせの例のように、選好の序列を知り得るというかんじもしなくなることと思います。
今度は、先のグラフのように![]()
平面において、X財、Y財の色々な組み合わせを示す位置ごとに、対応する序数の値を、あたかも、その値を知っているかのように、また基数的効用であるかのように垂直に想い描いてみてください。
ヘアーブラシを、針先が天井の方に向くように置いたような、あるいは生け花で使う剣山を平面に置いたようなグラフがイメージされるはずです。
ところが、これと同義の、別の序数的効用のセットを作ったり、グラフを使ってお話をしようと思うとややこしいことになります。
そこで函数というものに登場していただくことになります。
さて、或る消費者が序数的効用関数を持っているものとしましょう。
簡単のため彼の買う商品の種類が2種類、つまりX財、Y財に限られている場合について考えていきます。
つまり今までと同じです。消費者の序数的効用関数は
=
(
,
)です。
前の例と同様にX財、Y財の色々の組み合わせに対して、
の値がそれぞれ対応します。
この値は先の例のように20とか60とか、前もって与えられてはいませんが、そのような数値が対応しているものと考えてください。
今は効用関数のかたちには、こだわられる必要はありません。ブラックボックスで良いのです。
X財1単位、Y財1単位の組み合わせに対する効用、
(1,1)が、例えば90であり、X財1単位、Y財2単位の組み合わせに対する効用
(1,2)が例えば95であるというように考えてください。
![]()
平面の上にこのような値を、それぞれの組み合わせを示す、あらゆる位置ごとに、基数的効用のように垂直に想い描いてください。
先にお話ししましたようにヘアーブラシのようなグラフがイメージされると思います。
すべての位置でこれをやると、針の数が増えることにより、ヘアーブラシの針の間隔が、ぐっと密になり、まるで毛が密集した筆の先のような状態になると思います。
このようなグラフでイメージされる序数的効用のセットと同義のセットは、前の例と同じく無限個つくることができます。
例えば効用の値は、X財、Y財のすべての組み合わせに対して、正という約束をしていますと、すべての値を2乗しても、大小関係は変わらないので、この効用のセットは初めのセットと全く同義ということになります。3乗しても、4乗しても同じです。
勿論すべての値を100倍しても、750倍しても、あるいは45を足しても、これらの効用のセットは初めのセットと同義なのです。
ですから、どの効用のセットを使ってお話をしても良いのですが、残念なことに序数と基数は見かけは同じなので、或る効用関数が提示されたとき、それが序数的効用関数として正しく理解されているかどうかは、この効用関数と同義のもう一つの別の効用関数も同時に議論していくのがわかりやすいと思います。
このような効用関数は何度もお話しましたように無限個作ることができますが、簡単のため前と同様、すべての値を2乗した効用関数を採用することにしましょう。このように初めの大小関係と同じ大小関係を別に作ることを単調増加変換すると言います。この言葉が出てくる時は、ああこのことを言っているのかと思い出して下さい。
この2つの効用関数は全く同義なのですが、基数的効用関数でないと、わきまえた上、前と同様、われわれは効用関数の値の命ずるまま、あたかも基数的効用関数であるかのように
,
,
の3次元に効用曲面を描くことができます。実際ここに正確に書いてみせることはできませんので、印象派的手法を使ってみることにしましょう。小道具は望遠鏡を使います。望遠鏡は伸び縮みするタイプのもので、そのスケッチは下の通りです。

太い筒の中に細い筒が順々に入っています。どのように伸ばしても、縮めても、筒の右端の断面a,b,c,d...は細い筒ほど右に位置しています。
今度はこの望遠鏡をカーアンテナのように、細い筒が上になるように立て、そして![]()
平面に置いてみましょう。

次にこの望遠鏡に、かければ透明になってしまう薬をかけてみましょう。そして望遠鏡が透明になった直後、この望遠鏡が伸び縮みをはじめ、しばらくして静止したものとしましょう。
すると印象派的な効用の丘の出来上がりです。
もはやa,b,c,d...の真の高さについては何も言うことはできません。しかしながら望遠鏡がどのような状態にあるとしても
aの高さ<bの高さ< cの高さ < dの高さ.....
という関係は保たれているはずです。
勿論ここで b の高さは
aの高さよりどれだけ高いとか、c の高さは
aの高さの何倍であるなどといっても a,b,c...は測定不可能なのですから無意味です。
なお a の効用水準を持つX財、Y財の組み合わせを結んだ曲線は、経済学で最初に教えられる「無差別曲線」という曲線です。
![]()
平面はa,b,c,d...などの序数的な効用水準で示される無差別曲線群で満たされることになります。
われわれが、消費者が序数的効用関数を持つ、つまり
にかんする一定の無差別曲線群を持ち、北東方向へ行くほど効用水準は高くなりますが、基数的な意味での効用水準に対する情報は全く持っていないというのは、この印象派的効用の丘のような効用曲面を持っているというのに「似ています」。
透明なのですから、われわれはこの効用の丘に関して、その高さにも、等高線の形状にも全くの無知です。しかしこの効用関数の持ち主である消費者は、たとえその基数的な意味での効用水準は知らなくても、色々な
の組み合わせから得られる効用の大小関係を判別し、彼の効用を最大にするように行動するものとしましょう。
するとわれわれは彼の行動の結果としての経済資料から、彼の効用の丘の等高線の形状を推定する可能性を持つのです。
やや話が先走り過ぎたようです。それ故話を元にもどします。
先に述べましたように序数的効用関数
=
(
,
)は
のすべての組み合わせに対して、それぞれ一義的な、つまりそれぞれ1個だけ、
の値が対応します。勿論この値は順序を示すだけであり、背番号のようなものと解されるべきですが、効用関数そのものは、基数的効用関数と序数的効用関数とは全く見わけがつきません。
序数的効用の値が大小関係を示す以外、無意味であるということを強調するために、
=
(
,
)と
の単調増加函数の一つ
(
)=
=
=
をあたかも基数的効用であるかのようにグラフを書いてみます。
これを先の印象派的効用の丘の例で言えば、a=50,b=60,c=70,d=80などという数値をつけ、この数値は序数であり、差は問題ではなく、順序だけが意味を持つのであると言っても、これらの数値は、その高さをなんらかの尺度で測定し、a=50,b=60,c=70,d=80などと言っているのとまぎらわしいから、これらの数値の大きさが無意味であることを強調するため、a,b,c,d....に順序が変わらない別の数値をつけ、この数値も何らかの尺度で測られた高さであるかのように、二つの状態をグラフに書き、一緒に考えていこうということになります。
勿論この2つのグラフはまったく同じことを言っているのです。まったく同等で、無差別なのです。
=
(
,
)、および
(
)=
=
の印象派的グラフ及び、両者に共通な無差別曲線が次にえがかれます。図がまずいのはお許し下さい。

勿論
=
(
,
)、
(
)は全く同義なのであり、効用の大きさ、つまり効用曲面の高さが見かけ上異なるのは、基数的な表示方法を使用しているからです。
効用は順序的な数でしかないのです
われわれは効用を測定できなくとも、消費者が一定の選好の序列を持っているだけで、つまり序数的効用関数を持っているだけで、所得と、X財、Y財の価格が与えられると需要量が一義的に決定されると教えられます。
つまり或る一定の選好の序列を表すためには、たった一つの効用関数だけが対応するわけではありませんが、無差別曲線さえ一定であれば、任意の効用関数を採用しても、消費者の効用極大化行動により、一定の所得と価格に対して、全く同じ均衡需要量が決定されると教えられます。
これは当り前のことで、先に示した
=
(
,
)、及び
(
)=
=
において、効用水準は同じ
の組み合わせに対して異なった数値を示しますが、当然これらの数値は序数であり、
=
(
,
)、及び
(
)=
=
は全く同義なのですから、すべての
の組み合わせに対応する効用の間で大小関係は同じであり、またこの大小関係しか意味をもたないのですから、所得制約の範囲では、所得線と最高位の無差別曲線の接点が効用極大となるX財、Y財の組み合わせとなるわけです。これは先に
、
、
のうち、
を選択したのと同じリクツなのです。
なお所得線は
=![]()
+![]()
で与えられます。
は所得、
、
はそれぞれX財、Y財の価格です。そして所得線の傾きは−
となります。
学校で教えられる消費の理論とは、たいていこんな程度のことなのです。
それでは先のX財、Y財の三通りの組み合わせ
、
、
のうち、効用が最大になる
を選択するというのと、所得制約の中で、X財、Y財のあらゆる組み合わせのうち、所得線と最高位の無差別曲線の接点で示される組み合わせで効用が最大になるというのでは、一体何が違うのでしょうか。
勿論組み合わせの多い少ないという違いは当然ですが、それ以外では、先の三通りの組み合わせの例では、消費者が三通りの組み合わせに対して、選好の序列を持ち、実際にBの組み合わせを選んだのなら、Bの序数的効用はA、Cの序数的効用より大きかったであろうということでしょう。
しかし
、
、
の値は数値例として与えられただけですから、実際に「組み合わせB」がもっとも効用が大きいとか、消費者が効用極大化行動をとるということを直接に証明したり、検証したりすることはできません。
A,B,Cの組み合わせの内、消費者がBを選んだのなら、それは無意味に、偶然に選んだのではなく、消費者が効用極大化行動をとり、Bが最も効用が大きかったと考えられるのではなかろうかと遠慮がちに考えられるだけです。それ以上何も言えません。次の機会に、X財、Y財のどんな組み合わせを選ぶのか予想もつかないのは当然です。予測などまったく出来ません。実際こんなものは科学でも理論でもありません。
後者の場合も所得制約の中で、消費者が効用極大化行動をとるものとすれば、所得線と最高位の無差別曲線の接点であるX財、Y財の組み合わせを選ぶはずであるということは簡単な図からも明らかでしょう。
先の三通りの例と同じく、消費者が序数的効用関数を持つとか、効用極大化行動をとるということは、決して直接に検証はできません。それよりも実際に消費者が所得線の一点で表される或る組み合わせを選んだとすれば、その組み合わせが所得制約の中で、最も高い効用指標を持ち、消費者が効用極大化行動をとった結果だと考えようということに他ならないわけです。
今までの議論では、実際に
期に観察されたX財、Y財の組み合わせ(
、
)は
期における所得制約の中で、最も高い効用指標を持つ組み合わせであり、この組み合わせを表す点で無差別曲線は所得線と接するわけですから、無差別曲線のこの点における傾きは所得線の傾き
に等しいはずであるということが要請されます。
次の期
+1期も、その次の期
+2期も、いつの期においても、実際に観察されるX財、Y財の組み合わせはその期における最高の効用指標を持ち、その組み合わせを示す点における無差別曲線の傾きは、その期の所得線の傾きに等しいはずということになります。
勿論これはただの約束にすぎません。ただこの場合には先の場合と違って、いくつもの実際に観察されたX財、Y財の組み合わせを示す点における無差別曲線の傾きを教えてくれるわけですから、この点とその位置における無差別曲線の傾きを経済資料として、沢山集めることが出来、その結果として、安定した無差別曲線群が描けるなら、つまり安定した序数的効用関数が存在するということを知ったなら、新しい所得線に対して、最高の効用指標を持つX財、Y財の組み合わせを予測できるということになります。
もし安定した序数的効用関数が存在しないなら、消費者が序数的効用関数を持つとか、効用極大化行動をとるとかいうことでさえ無意味と言うことになってしまいます。これを調べるためには先に示した一般的な効用関数ではなく、具体的な効用関数を採用する必要があります。実際にどんな効用関数を採用すれば良いかはわからないわけですから、簡単なものから始めるのが常道でしょう。
ここでは辻村が採用した効用関数を検討するのが、一番話がしやすくなるものと思われます。これは同心長円の無差別曲線です。
=
(
,
)=![]()
+![]()
+
(![]()
+![]()
)..........@
(
)=
=![]()
(
,
)
=![]()
![]()
+![]()
+
(![]()
+![]()
)
........A
そして今一度印象派的効用の丘を描いてみましょう。

何度も言いますが
(
)の方が背が高く見えるのは、基数的な表示方法を使用しているからです。
ところでこのような効用関数を採用しますと数学嫌いの人は、このような式が高級で難しいものだと勘違いなさる方がいらっしゃいます。
とか
とか
、
などは本当の値が分からないので仮に符号をつけているだけなのです。(この符号はパラメターと呼ばれたりします)
例えば仮に、順に1000,2500,−8,−10だとすれば、
=
(
,
)=1000
+2500
−
(8
+10
)
ということだけですから、X財、Y財の或る組み合わせ、例えばX財8単位、Y財4単位の組み合わせにおける効用指標はこの式の
,
のところにそれぞれ8と4を代入すれば得られます。電卓を使えば簡単です。(足し算よりも掛け算を先にすることを思い出してくださいね)
(8,4)=1000
8+2500
4−
(8
8
8+10
4
4)=17664
というわけです。
当然同じ位置における
(
)は{
(8,4)}
ですから、17664
17664で312016896ということになります。
あまり何度も言いますと、怒り出される方もいらっしゃるのではと恐れますが、X財、Y財のどの組み合わせに対する効用の値、つまり効用指標も何らかの「モノサシ」で測った大きさではなく、大小関係のみを示す指標に過ぎません。ですから例えば
(11,6)と
(8,4)の差がどれくらいなのかを言っても無意味なのです。(ただし前者の方が後者よりも、X財、Y財とも多いので、より大きいことが、また両者、ともに正であることが約束されています。)
つまり
(11,6)=1000
11+2500
6−
(8
11
11+10
6
6)=25336
と計算し、
二つの効用の差、つまり、25336−17664=7672などと言っても、この値は全く無意味なのです。
ちなみに、これは
(
)では{
(11,6)}
−{
(8,4)}
=641912896−312016896=329896000 となります。
ところで冒頭、基数的効用理論の説明をさせていただいた時に、限界効用の定義についてお話しました。
それによりますと、例えばX財8単位、Y財4単位の組み合わせにおけるX財の限界効用は
(8,4)と
(8+1,4)つまり、
(9,4)の差として定義されていました。
(9,4)=1000
9+2500
4−
(8
9
9+10
4
4)=18596と計算されますから、
この数値例では「(8,4)におけるX財の限界効用」=
(9,4)−
(8,4)=18596−17664=932となります
さらにこの組み合わせよりX財を1単位追加することによって増加する効用、つまりX財9単位、Y財4単位の組み合わせにおけるX財の限界効用は
(10,4)−
(9,4)と定義されます。
(10,4)=1000
10+2500
4−
(8
10
10+10
4
4)=19520と計算されますから、
「(9,4)におけるX財の限界効用」=
(10,4)−
(9,4)=19520−18596=924となります。
組み合わせ(10,4)より、さらにX財を1単位追加することによって増加する効用、つまりX財10単位、Y財4単位の組み合わせにおけるX財の限界効用は
(11,4)−
(10,4)と定義されます。
先と同様に、
(11,4)=20436と計算されますから、
「(10,4)におけるX財の限界効用」=
(11,4)−
(10,4)=20436−19520=916となります。
同様に組み合わせ(11,4)より、さらにX財を1単位追加することによって増加する効用、つまりX財11単位、Y財4単位の組み合わせにおけるX財の限界効用は
(12,4)−
(11,4)と定義されます。
(12,4)=21344と計算されますから、
「(11,4)におけるX財の限界効用」=
(12,4)−
(11,4)=21344−20436=908となります。
このように、X財8単位、Y財4単位の組み合わせから、X財を1単位ずつ追加していきますと、効用は増加し続けますが、この関数形では、その増加の程度は8ずつ減少していきます。
基数的効用理論では限界効用逓減の法則などと呼んでいました。
勿論序数的効用について議論しております私たちは、限界効用は序数の差でありますので、無意味ということをよく知っておりますよね。
ところで今度はX財8単位、Y財40単位の組み合わせから、Y財はそのまま固定しておいて、X財のみを1単位ずつ追加していくことによって増加する効用、つまり限界効用はどのように変化するのか見てみましょう。
前と同様に計算しますと、
(8,40)=99744
(9,40)=100676
(10,40)=101600
(11,40)=102516
(12,40)=103424
というように、X財を1単位ずつ追加していきますと効用は932,924、916,908ずつ増えますが、その増加の程度は8ずつ減少しています。これは先の場合と全く同じで、Y財が4単位でも、40単位でも何ら変わりは無いように見えます。しかし序数的効用を前提としている私たちはこうした議論が無意味であることをよく知っています。序数の差など一切無意味なのです。
今まではX財の増加を考えてきましたが、今度はY財の増加を考えてみましょう。
先ほど計算しましたように、
(8,40)=99744でした。今度はX財はそのままでY財を1単位ずつ追加していきますと、
(8,41)=101839
(8,42)=103924
(8,43)=105999
(8,44)=108064
というように、効用は2095,2085,2075,2065ずつ増えますが、その増加の程度は10ずつ減少しています。
次にX財を8単位から20単位に変えて、Y財を1単位ずつ追加していきます。
(20,40)からスタートです。
(20,40)=110400
(20,41)=112495
(20,42)=114580
(20,43)=116655
(20,44)=118720
というように、効用は2095,2085,2075,2065ずつ増えますが、その増加の程度は前と同じく10ずつ減少しています。これらの結果はX財が8単位でも、20単位でも関係なく生じるわけですが、これを見て、独立財であるとか、そうでないとか論争するのは馬鹿げています。勿論Y財の限界効用の逓減速度が10であるなどというような議論も同じく馬鹿げています。
私たちは限界効用なる概念が序数の差であり、無意味であるということを知っています。
今までは数値例
=
(
,
)=1000
+2500
−
(8
+10
)
でお話をしてきました。
なおX財
単位、Y財
単位の組み合わせ(
,
)から、Y財については、そのままにしておき、X財だけをさらに1単位追加したときの組み合わせ(
+1,
)に移ることによって増加する総効用、つまり効用指標を、位置(
,
)におけるX財の限界効用と定義してきました。考え方としてはそれでよいのですが、厳密に言いますと、極限の概念が入りますので、正確ではありません。
(つまりこれは坂道の勾配について、話をしている時に、階段の勾配について話をしているようなことなのです。同じ道なら坂道でも、階段でも、一段の奥行きが充分小さいなら、どちらでもたいした違いはありません。実際一段の奥行きが0に限りなく近づくと階段と坂道は同じものになってしまいます)
それ故今後X財の或る位置(
,
)における限界効用を
(
,
)というように偏導関数で表記することとさせていただきます。
Y財の同じ位置における限界効用も同様に、
(
,
)と表記させていただきます。
言葉でお話する時は今まで通りで進めます。
難しそうとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、このほうがやさしいのです。と言いますのは
=
(
,
)=1000
+2500
−
(8
+10
) .......B において
あらゆる位置において、その位置よりX財のみを1単位だけを追加することによって増加する効用、つまり(
,
)におけるX財の限界効用を表記する
(
,
)は簡単な公式計算をするだけで
(
,
)=1000−8
となることがわかっております。
先のように、例えばX財30単位、Y財50単位の組み合わせにおけるX財の限界効用は
(30,50)と
(30+1,50)つまり、
(31,50)の差として定義されているだけですと、2個所の効用指標を計算し、その差を求める必要があったのですが、そんな手間は必要なくなりました。
(
,
)=1000−8
において、両辺の
,
それぞれに30,50を代入すれば出来上がりです。
(30,50)=1000−8
30=1000−240=760
と言った按配です。
上式をご覧になれば、お分かりのように、この数値例ではX財の限界効用は、どの位置においても
の値とは無関係に
の値だけで決まります。また
が1単位追加されるたびに8ずつ減少します。これは前に実際に計算してお見せした通りです。
こうしたことは何度もお話したように限界効用が序数の差であるのですから全く無意味なのです。
同じようにあらゆる位置において、その位置よりY財のみを1単位だけを追加することによって増加する効用、つまり(
,
)におけるY財の限界効用を表記する
(
,
)は簡単な公式計算をするだけで
(
,
)=2500−10
となることがわかっております。
ご覧になれば、お分かりのように、Y財の限界効用は、どの位置においても
の値とは無関係に
の値だけで決まります。また
が1単位追加される毎に10ずつ減少します。これも前に実際に計算してお見せした通りです。しかし限界効用の値というのは序数の差なのですから何の意味も無いのです。
これは上の数値例の式と同義の、言わば、望遠鏡を引き上げた式を同時に検討することで、明確にご理解いただけるものと思います。
望遠鏡を引き上げた式は下の通りでした。
(
)=
=![]()
(
,
)
=
1000
+2500
−
(8
+10
)
......C
この式において、あらゆる位置において、その位置よりX財のみを1単位だけを追加することによって増加する効用、つまり(
,
)におけるX財の限界効用を表記する
(
,
)は簡単な公式計算をするだけで
(
,
)=2(1000−8
){1000
+2500
−
(8
+10
)}......D
であると分かります。X財、Y財のあらゆる組み合わせにおけるX財の限界効用はこの式に任意の
,
を代入することによって求められます。
同じようにあらゆる位置において、その位置よりY財のみを1単位だけを追加することによって増加する効用、つまり(
,
)におけるY財の限界効用を表記する
(
,
)は簡単な公式計算をするだけで
(
,
)=2(2500−10
){1000
+2500
−
(8
+10
)}......E
であると分かります。
今回の効用関数 C は先の数値例の効用関数 B の2乗になっているのですが、両者は全く同義で無差別なのは今さら、ご説明させていただくまでもないでしょう。
先の効用関数 B
においてX財やY財の限界効用が独立財のようになっていたことや、各々一定の大きさで減少していたことが、何の意味も無いことが、今回の効用関数の限界効用の式D、E
をご覧になることではっきりご理解いただけたと思います。
序数の差などというのは定義によって最初から無意味なのです。この小文の初めから今まで、私は序数の差は無意味であると言うこと以外なにも言っておりません。
| 無差別曲線の傾きと限界効用の関係 |
ところで![]()
平面の或る位置、例えば(
,
)における無差別曲線の傾きは、
単位のX財と
単位のY財を消費することによって或る満足を得られる消費者が、X財、Y財のこの組み合わせからX財1単位を手放し、その代わりとして何単位のY財を入手すれば最初の状態と満足の度合いが変わらないかということを示しています。
例えば(
,
)における無差別曲線の傾き
が−3であるとすれば、これは
単位のX財と
単位のY財を消費している消費者にとって、X財1単位を手放しても、その代わりとしてY財3単位を入手すれば、最初の状態と満足の度合いが変わらないということを示しているのですが、これは勿論この消費者にとって、X財1単位を手放すことによって失う効用は、Y財3単位を入手することによって得られる効用に等しい、つまり(
,
)におけるXの限界効用は(
,
)におけるYの限界効用の3倍であるというのと同義なのです。(これは極限の概念を使用しての話なのですが)
序数的効用関数について議論しているわけですから、(
,
)におけるXの限界効用の値が200だとか15であるなどということは無意味です。(
,
)におけるXの限界効用が15であるとすれば、(
,
)におけるYの限界効用は5でなければならないということを言っているのです。
前者と後者の比率だけを問題としているのです。つまり前者の後者を「モノサシ」としての大きさが3であると言っているのです。
このように無差別曲線の各位置における傾きは、「その位置におけるXの限界効用とYの限界効用の比率」とウラオモテの関係にあるのですが、この関係は先に何度もお話しましたように、限界効用が序数の差であり無意味なものとしましても無差別曲線の定義として必ず成立しています。
X財やY財などというような話ばかりをしていますと、集中力が欠けて良くご理解していただけないかもしれません。それ故もう少し理解しやすいと思われる例を使って、ご説明しましょう。
| おメカケさんの限界効用 |
若いおメカケさんを20人、年増のおメカケさんを30人、持っている王様がいるとしましょう。
この王様が、この状態の時の効用水準が何であるかにかかわらず、この状態から若いおメカケさんを1人手放し、その代わりに年増のおメカケさんを2人手に入れることによって満足の度合いが変わらないなら
....これは当然若いおメカケさん20人、年増のおメカケさん30人、という組み合わせを示す位置での無差別曲線の傾きについて述べているのと同義です....若いおメカケさんをX,年増のおメカケさんをYとすればこの位置での無差別曲線の傾き
は−2であると言っているのですが、われわれは若いおメカケさんを手放すことによって失う限界効用は、100か1000か全くわからなくとも、これは年増のおメカケさん2人を入手することによって得られる効用に等しいから、年増のおメカケさんの限界効用の2倍でなければならないと言っているのです。
前者を100とすれば後者は50であり、前者を2000とすれば後者は1000でなければなりません。
この関係は限界効用が序数の差であり、無意味であるとしても、無差別曲線の定義として必ず成立しなければなりません。
効用は測定不可能ですし、序数としてしか意味を持たないのですから、勿論若いおメカケさんの限界効用が100だと言っても無意味であり、100だとすれば、年増のおメカケさんの限界効用は50だということしか言えません。
つまり若いおメカケさん20人、年増のおメカケさん30人、という組み合わせを示す位置における、若いおメカケさんの限界効用と年増のおメカケさんの限界効用の比率だけしか意味を持ちません。
”この時われわれは年増のおメカケさんの限界効用を「モノサシ」として測った若いおメカケさんの限界効用の大きさは2だと言っているわけです。”
若いおメカケさんの限界効用というのは年増のおメカケさんがいなければ、何の意味もないのです。つまり年増のおメカケさんとは、独立ではありえないのです。
勿論ここでの例は正確ではありません。正しくは極限の概念を使わなくてはなりません。
しかしこれで多分或る位置における無差別曲線の傾きとその位置におけるX財の限界効用とY財の限界効用の比率がウラオモテの関係にあるのをご理解いただけたことと思います。
なお私はおメカケさんのような制度、風習に賛成したり、女性を蔑視したりする者ではありませんし、年配の女性が若い女性より魅力がないというつもりも毛頭ございません。ただ限界効用を自分の頭の中で考えていただきたいと思って書いたまでなのです。誤解を受けやすい例をあえて使用しましたのも、こうした情熱からなのです。この点充分お含みおきください。
以上の議論は全く同義で、無差別な2つの効用関数B,Cについて実際にこの関係を例示して見ますと一目瞭然です。
![]()
![]()
,
の、どの組み合わせ、つまり![]()
平面の、どの位置におけるX財の限界効用もY財の限界効用も、適当な
,
を上式に代入することによって、それぞれ分子、分母の値として、簡単に計算できますが、これらの数値は当然無意味です。
ところで両者の比率にマイナスをつけた値がその位置での無差別曲線の傾きとなっています。
上の二式において、この比率がどの位置においても同じになっていますのは、今更ご説明するまでもありませんよね。
先に(
,
)における無差別曲線の傾き
が−3であるとすれば、などという言い方をしましたが、実際はこの数値例のように無差別曲線の傾きを初めから知っているわけではありません。
効用関数@,Aで言いますとこの関係は次のようになっています。
![]()

しかし前にお話しましたように、消費者が序数的効用関数を持ち、効用極大化行動をとるものとすれば、実際に
期に観察されたX財、Y財の組み合わせ(
、
)は
期における所得制約式の中で、最も高い効用指標を持つ組み合わせであり、この組み合わせを表す点で無差別曲線は所得線と接するわけですから、無差別曲線のこの点における傾きは所得線の傾き
に等しくなっているはずです。
効用関数@,Aで表される無差別曲線、つまり選好の序列が実際に存在するなら、この関係は次の二式で示されます。
![]()

一見して明らかなように、この
式は約分されて、
式と同じになってしまいます。つまり私たちは
式しか観測できません。ですから消費者が@式や@式の単調増加関数、ここではA式によって表される選好の序列を実際に持つなら、
式が観測されるはずです。
実際に過去のデータの間に
なる関係が観測されて、パラメター
、
、
、
の値が分かったものとしましょう。すると私たちは@や@の単調増加函数によって表される不変の選好の序列があるものと考えて差しつかえないことになります。
、
、
、
の値が分かったわけですから、今期のデータとして実際に観測された
を
式に代入してみましょう。
すると例えば左辺の分子は100、分母は10と計算されたとしましょう。
この時X財を
単位購入した時のX財の限界効用は100であるとか、Y財を
単位購入した時の限界効用は10であるなどと言っても意味が無いし、X財の限界効用の逓減速度がいくらであるなどというようなことを言ってもナンセンスです。
何度もお話しましたように(
,
)におけるX財の限界効用と(
,
)におけるY財の限界効用の「比」は100対10であると、つまり10対1であるということなのです。
別の言い方をしますと、(
,
)におけるX財の限界効用の(
,
)におけるY財の限界効用を「モノサシ」とした大きさは10であるということなのです。
選好の序列を表す@式が妥当ならば今期の相対価格は10であるはずです。
ところで今期の相対価格が10でなかったなら、どうでしょうか。
ここでの効用関数を前提とする限り選好場(無差別曲線群)が変位、もしくは変形したとの結論を下さざるをえません。
勿論ここで選好場変位、もしくは変形をシステマティックに導入することが出来ないのなら、消費者が序数的効用関数を持つとか、効用極大化行動をとるとかいうことでさえ無意味なこととなってしまいます。
それでは今期の相対価格が10ではなく。例えば8であったとしましょう。この時私たちは(
,
)におけるX財の限界効用と(
,
)におけるY財の限界効用の比が、前期から今期にかけて10対1から8対1に変わったと言っているわけです。
それでは(
,
)におけるX財の限界効用が小さくなったのでしょうか。
それとも(
,
)におけるY財の限界効用が大きくなったのでしょうか。あるいは前者は大きくなったけれどもそれ以上に後者が大きくなったのでしょうか。ひょっとして後者は小さくなったけれどもそれ以上に前者が小さくなったのでしょうか。
この設問に答える前に、宇宙空間に一人の男(別に女でもいいですよ)と一つの物体だけしか存在せず、そして前者と後者の比が10対1であるような状況を考えてみることにしましょう。次にこの比が8対1に変わったとしましょう。
この時この男が(または、この女が)「自分自身が小さくなったのか、または物体の方が大きくなったのか、あるいは自分は大きくなったのだけれどもそれ以上に物体の方が大きくなったのか、あるいは物体は小さくなったのだけれどもそれ以上に自分が小さくなったのか」のいづれが起こったのかを自問してみたとしましょう。
勿論彼(彼女)はこれに答えることはできません。
というより、この設問自体が無意味なのであって、これに答えるためにはもう一つ別の物体が存在しなければなりません。
(言うまでもないことですが、この時でさえ絶対的な大きさの変化についていうのは無意味です。3番目の物体を「モノサシ」として、自分と初めの物体の大きさを、比率変化の起こる前と後でそれぞれ測ることができてはじめて自分が小さくなったのか、あるいはその他の可能性のいづれが起こったのかに答えることができるのです。「モノサシ」との比率だけについて言えるのであり、「モノサシ」が大きさを変えたかどうかなどというのは無意味なのです)
先のおメカケさんの例でも、例えば若いおメカケさんと年増のおメカケさんの限界効用の比率が2対1から3対1に変わったとすれば、相対的に若いおメカケさんの値打ちが上がったということしか言えません。相対的に年増のおメカケさんの値打ちが下がったと言っても同じです。
辻村の著書では限界効用が、相対的に食い合いをするなどと書いているのですから、お笑いです。
| ポアンカレの著書から |
フランスの数学者、科学者であるアンリ・ポアンカレ(1854−1912)は彼の「科学と方法」の「緒言」で次のように述べています。
「空間の相対的であることは何人も知るところ、というよりもむしろ何人も口にするところであるが、しかも実際にはあたかも空間を絶対的と信じているかのような考え方をしている人々の如何ばかり多いことであろう・・・・。」
経済学でも同じことが言えます。「空間」を「限界効用」で置き換えてみますと次のようになります。
「限界効用の相対的であることは何人も知るところ、というよりもむしろ何人も口にするところであるが、しかも実際にはあたかも限界効用を絶対的と信じているかのような考え方をしている人々の如何ばかり多いことであろう・・・・。」
ポアンカレは絶対的な大きさなどは存在しないと言っているのです。彼は第二篇「数学的推理」の第一章「空間の相対性」において次のように言っています。
誰にてもあれ絶対的空間について語るものがあればそれは意味なき言を弄するものである。
これはこの問題を反省したほどのすべての人によって以前からいい古された真理であるが吾々は
これを あまりにも忘れ勝ちである。
わたくしが巴里の一点、たとえばパンテオンの広場に立って「明日またここに来よう」という。人あって「空間の同一点に帰って来るという意か」と問うならば、ややもすれば
わたくしは「しかり」と答えようとするであろう。
さりながら
わたくしの答えは誤っている。この地球は明日までにパンテオンの広場を伴ったまま進行して
広場は二百萬粁以上を走っていることになるからである。
また
わたくしが言葉を精密にしようとつとめても得るところは何もない。この二百萬粁は
地球が太陽に対する運動に於いて走った距離であって太陽はまた
銀河に対して位置を換え、さらにその銀河自身もその速度は吾々に知られぬながら運動していることは
疑いないからである。
かくて一日にパンテオンの広場がどれだけの距離を変位するかは吾々はまったく知るを得ない。また永遠に知る由もないであろう。
畢意わたくしのいおうとしたことは「明日わたくしはパンテオンの圓屋根と破風とをふたたび見るであろう」というに帰する。
パンテオンがなければ
わたくしの言句は何等の意味もなく空間は消え失せてしまうことになるであろう。
これが空間の相対性の原理のもっとも通俗な形の一つであるがデルブフが特に力説した形がさらに一つある。
すなわち一夜のうちに宇宙のすべての大いさが一千倍に増大したと想像してみよう。世界はそれ自身に相似のままで(ただしここに相似とはユークリッド幾何学第三巻におけると同じ意味である)、ただいままで一米の長さであったものが一粁になり、一粍であったものが一米の長さになるに過ぎないものとする。
わたくしの臥している寝臺もわたくしの身體さえも同じ割合に増大しているのであるが、翌朝わたくしが目醒めたとき、かくも驚くべき変化に当面してわたくしは如何なる感を経験するであろうか。安んぜよわたくしは
何事もさらに認めないであろう。
この大変転は如何に正確に測ればとてその一端をも暴露することはできない。わたくしの用いる尺度が測ろうとする物體とまったく同じ割合に変化しているからである。
実はかかる変転は空間があたかも絶対的なるかの如く論ずる人々以外には存在しないのである。
わたくしがしばらく彼等と同じ論じ方をしたのは、とりもなおさず彼等の見方に矛盾が含まれていることを一層明らかにするためにほかならない。
実は空間は相対的であるから何事も起こりはしなかった。吾々の何事も認めなかったのはその故であるという方が正当であろう・・・・。
ポアンカレは形が相似でない場合も同様であることを示し、全く当り前のことではあるが、次のように結論している。
”いずれの場合においても絶対的の大いさは問題であり得ない。何か道具を用いて大いさを測ることが問題である。この道具は尺度でもよい。また光の経過した道程であってもよい。
吾々の測るのはその大いさの道具に対する比に過ぎない。
もしこの比が変じたならば、変化したのは大いさであるか、はた道具であるか吾々は
これを知るべき何等の手段をももたないのである”
宇宙空間に只一つの物体しか存在しない時、その物体の大きさが無意味なのは言うまでもないことです。(この物体とは観察者である自分のことになるのでしょうか。)
また、二つの物体があっても、それぞれの大きさについて言うのも無意味です。片方の物体を物差しにした、もう片方の物体の大きさしか無意味なわけです。相対比しか意味を持ちません。この比が変わったなら、変わったとしか言えないわけです。
| 辻村の「習慣形成仮説」の定式化 |
ところで@式や@式の単調増加関数によって表される固定した選好場では、現実の資料を説明できない時、つまり
式の左辺によって示される限界効用の比率が変わったと考えざるをえない時、辻村江太郎がなしたのは
式を次の式に変形することでした。
そしてこの式こそが彼の「習慣形成仮説」の定式化なのです。
![]()
但しここで
はX財、Y財の過去の購入量の総和、つまり「物的」保有量です。
たしかに
式において、つまり
![]()
において、左辺を![]()
平面の各位置におけるX財の限界効用とY財の限界効用の比率というように正しく解釈すれば、この式は間違ってもいないし、独立財であると批判されるいわれもありません。
しかし辻村は、この分子、分母をそれぞれX財、Y財の限界効用曲線、などと馬鹿な解釈をし、「各財の限界効用曲線はそれぞれの財の「物的」保有量の増加などによって変位する」などという説明をしています。経済学の基礎の基礎もわかっていないのです。
式、つまり

の左辺の後の項は定数ではないのです。
辻村の「習慣形成仮説」つまり
が辻村が言うような意味をつけられるのは
![]()
のように効用関数@を一次変換(線形変換ともいいます)した効用関数において、効用指標を基数的に解釈した時だけなのです。ただしA,Bは定数です。
それゆえ辻村の「習慣形成仮説」なるものは、初歩的な経済理論の無理解より生じたものであり、0点なのです。
より正確に言いますと、経済理論の無理解ではなくて、序数の定義の無理解より生じた間違いなのです。
初めから仮説たりえないわけです。
もともと世に出てはいけないはずのものだったのです。
この指摘にかんして、辻村が近著「はじめての経済学」(岩波)の表紙のすぐ裏に、実証経済学の盟友として、名前を掲げた「小尾恵一郎」教授(当時)の反論をご紹介しておきましょう。