見沼くらしっく館:
旧坂東家のお正月風景
え〜、しばらくご無沙汰しておりましたが、お正月の旧坂東家住宅 見沼くらしっく館を訪ねてみましたので、その様子をレポートいたします。
ひとくちに「お正月」といいますが、昨年から首を突っ込んでいる「旧暦の世界」とからめて眺めると、これが一筋縄ではいきません。手元の旧暦カレンダーをみると今年は1月22日が旧暦の元日になります。旧暦では、今年は2月に閏(うるう)が入って13ヶ月あるのです。
そんなことをいうと心配性のひとは1月22日から始まった旧暦の今年は何時終わるんだろうと気をもむかも知れませんので申し添えますと、旧暦の今年の大晦日は新暦の来年2月8日です。暦のお話に興味のある方には別途ご説明したいと思いますが、ここではこれ以上深入りしないことにします。
「小正月」
ところで新旧の暦の問題の他に「小正月(こしょうがつ)」というのがあるのはご存じだと思います。見沼くらしっく館では小正月のことをそれに関係するさまざまな行事とともに紹介していました。いただいてきた資料から少々受け売りをさせてもらおうと思います。
え〜、小正月というのは旧暦の1月15日を中心とする正月のことで、1月1日(元日)を中心とする大正月(おおしょうがつ)に対する呼び名です。月の満ち欠けを基準にしていた旧暦では、1年の最初の満月の日にあたる1月15日から1年が始まるとされていました。大正月は公式的あるいは儀式的な行事が多いのに対して、小正月には生活とくに農作に関係の深い行事が多いのだそうです。(以上、H16.1.15見沼くらしっく館発行のパンフレットより引用しました)今年の小正月は2月5日です。
上の写真はかまどのわきの荒神様に飾られた繭玉(まゆだま)です。繭玉は蚕(かいこ)の繭がたくさんとれるように米の粉で団子をつくり柳や楢(なら)、樫(かし)の枝にさして台所や座敷に飾ったもので、養蚕にかぎらず作物の豊作を祈っています。繭玉にはさまざまな形があって、秩父地方の「削り花」もその一種であるとのこと。見沼くらしっく館には接骨木(にわとこ)の枝を削って花とつぼみの形を作って竹の先に通した削り花がありました。上の繭玉のうしろに飾られているものが神棚用の削り花、右の写真が庭に立てられたものです。なお、見沼くらしっく館のある片柳では「作花(さくばな)」と呼んでいるとのことです。見沼くらしっく館にはこの作花の作り方の図入り説明パンフレットが置いてあります。
「七福神」
お正月の座敷にはお目出度い掛け軸が付き物です。
奥座敷の床の間に飾られた掛け軸の絵は明治時代に描かれた「福禄図」で、福禄人(寿)のうしろに皇帝と廷臣、唐子が一緒に居る大変お目出度い図柄になっています。福禄寿、つまり幸福と富と長寿を願うのは何時の世も変わらない人の気持ちです。
この福禄人(寿)を含めた七体の福の神様がお正月に欠かせない七福神です。宝船に乗り込んだ七福神のお姿は大変喜ばれております。
ながきよの とおのねふりのみなめさめ
なみのりふねの おとのよきかな
お目出度い七福神のお歌です。ちなみにこの歌はお終いから読んでも同じということは昔から有名でして、落語をお聴きのかたはご存じだと思います。
さて七福神が出たところで、今回の目玉。見沼くらしっく館のわき座敷にさりげなく掛けられていた掛け軸に注目してみましょう。「狭山・所沢方面の武蔵野七福神招き歌」と説明書きにある一幅の書です。小さくてよく見えない?ごもっともです。右の写真をマウスでクリックしてみてください。拡大された写真をご覧になれます。
右から横に書かれた表題「武蔵野七福神」は読めますが、さて本文はどんなことが書いてあるのでしょうか。ところどころ読める字を頼りにしようにも大部分がなじみのない文字です。落語の「手紙無筆(てがみむひつ)」ではありませんが、物知りのご隠居ならぬ宮内正勝先生にお願いしてしてみました。
「あ〜、こういうものをいきなり持ってきちゃあいけないよ。二、三日前に電報かなんかで知らせるもんだ」・・なんて、落語の兄イのようなことは言わずに、目の前ですらすらすらと読んでいただきました。
機嫌よき身にや恵比須の住所(すみどころ)
円満に福徳人の寿老神 南
開運を毘沙門天の誓ひかな
音楽や弁才天の妙寿力
堪忍の施し布袋のちえぶくろ
清浄の□□に和して福禄寿
大黒の富や五穀のまもり神
甲子(大正三年と推定) 七十七老人
どうです。読めたでしょう。□二つは書いた人にも読めないのではないか?と思える難字だそうです。寿老神のあとに「南」とあるのは寿老人(神)や福禄寿が南極星の化身といわれる(平凡社「世界大百科事典」)ことと関係付けられそうです(この部分は筆者愚考)。書を読む楽しみは昨年秋の「幕末体験見るさわる展」で他ならぬ宮内先生から教えていただいたので、今回はお忙しいところをお世話になりました。
「新春企画 びっくり徳利展」
お正月の8日から25日まで見沼くらしっく館で行われた企画展示「びっくり徳利展」、そのなかでも特に出色の「油壺」展示を覗いてみましょう。頭髪を固定する固練りの髪油(鬢付け油)の容器は普通「油壺」と呼ばれますが、これも徳利の仲間です。今回展示されていたものの大半は江戸時代後半から明治、大正頃の日本各地窯(よう)の国産陶磁器で古陶愛好家には垂涎のお宝です。その一部を下の写真でご覧ください。
「企画展示 全国だるま展」
お正月の縁起物をもうひとつ。1月27日から3月7日まで企画展示「全国のだるま展」も行われています。だるまの名品といってよい各地のだるまが勢揃いしています。
旧坂東家住宅見沼くらしっく館では四季折々、さまざまな展示と行事で自然と調和したなつかしい暮らしのあれこれを紹介していますが、年末年始は小正月の行事をふくめて特に話題の多い時期です。今年は2月6日の「初午」展示で一連のお正月行事が終了して、早くもお雛様の飾りが始まっています。今回のレポートはそれらの中からほんの一部だけ取り上げてご紹介しました。
あとがき:
旧坂東家住宅の象徴である囲炉裏にはいつも薪の火が焚かれていて自在かぎに下げられた鉄瓶のお湯で淹れたお茶をいただくことができます。今回はいつも見ていた大きなかまどにも火が焚かれていてお湯がぐらぐら沸いていました。
大きなお釜で沸かしたお湯は火をおとしてもなかなか冷めないのだそうです。お餅つきやお味噌つくりなどにはこのかまどが大活躍します。今年は2月21日(土)に季節の行事「味噌作り」が予定されています。時間のある方は是非お出かけください。
平成16年2月8日 稲林 記
(訪問日:1月17日と2月7日)
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