気まぐれパテント・エッセイ−
宇宙の発明2題
(1)
宇宙工場の発明は完成していたか?
古い、宇宙の話題である。
1950年台末、「大気圏外で電極を組立て、ガラスで封入して地球へ送り返す真空管の製造方法」という出願があったそうだ。
当時、出願公開制度はなかったので、審査官の間でどんなに激論になろうと、特許庁外部には秘密のはずなのだが、どこかから洩れたらしく、某無線雑誌に掲載されてしまった。発明者のMさんが洩らしたのかもしれない。
トランジスタも、街に出回ってはいたが、それほど普及はしていなかった。能動素子としては、真空管が、専ら使用されていた。真空管は、電子デバイスの主役だった。
結論からいうと、「真空管の製造方法」の発明は、“製造装置を大気圏外へ打ち上げるロケットがないから実施不可能である”という理由で、拒絶されてしまったらしい。
出願が拒絶されただけだったら、それほど話題になることもなかったかもしれないが、同じ頃である1957年10月、初の人工衛星スプートニク1号が宇宙を飛んだ。出願後の事情とはいえ、ロケットがないという拒絶理由は、ちょっと立場が悪くなった。
さらに、1964年1月打ち上げられた通信衛星リレー2号に搭載された送信機の進行波管は、ガラスに封入されていなくて、電極がむきだしの裸だったそうである。宇宙の真空中で使う真空管だから、真空バルブに封入する必要はない。当然といえば当然だが、なんだか原理が、拒絶された真空管の製造方法と、似ているようでもある。真空管の製造方法の出願が拒絶された話題が、また蒸し返された。
ついでにいうと、1982年8月、電電公社(現NTT)が、半導体レーザ用の結晶をつくるのに、宇宙空間の無重力状態を利用して金属を混合する計画を発表した。地球上では、地球の引力が邪魔をして、材料がうまく混ざらない。無重力の宇宙空間は、ある種の実験に都合がよい。宇宙空間を実験や製造工場として使うアイデアは、その後もたくさん出願され、特許されたものもある。スカイラボ(1973)、アポロ、ソユーズ(1975)、スペースシャトル(1982ー)それからソ連のブラン(1988)と、「宇宙ステーション」の発明、宇宙でものを生産するための発明も、真空管ではないが、数多く生まれた。ちなみに、特許分類としては、主にB64Gに分類される。
「真空管の製造方法」の発明を実施不可能として拒絶した審査は、正しかったのか?
原則論を言えば、発明は、一部でも実施できないと、全体として実施不可能である。出願の当時に実施できない発明は、特許要件を有しないとして、拒絶される。たとえ出願の一日後に実施できたとしても、出願の時点で実施できない発明は、断固、実施不可能なのである。
しかし、と首をかしげる人がいた。「・・・・真空管の製造方法」の場合、発明が実施不可能かどうかは、そうはっきり言いきれたのか。
着想の主要部たる真空管の製造に限っては、完成しており、問題はなかった。真空管を製造する作業を、かりに、地球上から宇宙の機械をリモコン操作するとして、リモコン装置が必要だったとしても、当時の技術で実施可能と考えられた。
拒絶理由の原因になったロケットであるが、古くは、H・ガンシュウイント(1891)をはじめとしてR・B・ゴストコフスキー(1900)、ツィオルコフスキー(1903)など、理論は数多く発表されていた。理論だけでなく、実際に、1926年ゴダードがマサチューセッツで液体推進ロケットの打ち上げに成功していた。W・V・ブラウンの流れをつぐドイツのVー2(1942ー)などは、すでに相当の高空で実用になっていた。漫画の世界では、鉄腕アトムは、地球上のみならず、宇宙でも大活躍していた。詳細はともかく、ロケットなる航行装置が可能であることは、子供でも知っていた。
そうなると、ロケットも含めて、発明は完成していたともいえなくもない。だったら、特許してもよかったんじゃないかという考え方もあろう。事実、そういう考えをいう人が、当時の特許庁内にもいたようだ。
しかし、現実には、特許されなかった。どうしてか?
審査官の拒絶の心証に決定的だったのは、ロケットが重力の加速度に逆らって宇宙へ飛び出した例がまだない、という事実だった。
あるいは、ごく短時間であれば、大気圏外を航行する航空機は存在したかもしれない。しかし、短時間ただ飛んで、そのあとあっというまに墜ちてしまうのでは、真空管を製造することはできない。できた真空管を地球上に持ち帰ることもできない。
かくて、ロケットを使った「真空管の製造方法」の発明は、構成の一部であるロケットを実施できないという理由で、発明全体として、大正10年法1条「新規なる工業的発明を為したる者は其の発明に付き特許を受くることを得」の特許要件を満足しないとされた。一部でも実施不能であれば全体として実施不能、とする考え方は、現在でも生きており、特許法第29条柱書きの発明でないとして、拒絶される。
実施できないものなら特許しても世間に影響はないだろうという説があるが、この説は正しくない。発明未完成といっても、永久機関とは違い、ロケットは、その動作理論自体が否定されたわけではなかった。
いつか実施できるだろう。だからといって、先に特許だけとっておいて、完全に実施できるようになってから改めて特許権を行使しようというのは、ルール違反である。
発明の成立性の審査において、審査官に要求されるのは、出願時に存在する技術を正確に評価することだけである。そのうち誰かが完成させるだろう(その“誰か”が出願人自身であろうとも)、だから、はやいうちに特許しておこう、ということにはならない。
現在、アンティークなどを除いて、真空管はほとんど需要がなくなったが、真空管の製造方法も特許の対象にはなる。だからといって、真空管を宇宙で作って地球に持ち帰る発明を思い付いて出願しても、発明の実施は可能であろうが、少なくとも先に挙げた某無線雑誌は公知例になり得るので、念のため。
(2)
UFO特許される?
「真空管の製造方法」が拒絶されてから約40年後登場した、特許2936858号「飛翔体の推進装置」の発明は、いかがであろう。
“強磁場の発生態様を制御して空間の曲率成分の変化を局所的に準反対称に制御し、空間に発生した重力と等価な空間歪み力を当該飛翔体の推進力とする”らしいが、そんな強い磁場が可能かなど、発明者には失礼ながら、どうもうさんくさい。現に、審査段階で、実施可能か疑わしい旨の拒絶理由を受けたが、実験成績証明書は出せないので、代わりに権威ある研究者による証明書を提出する、ということで、拒絶理由を撤回させた。その後、インターネットなどで「UFOが特許された」といわれ、“権威ある研究者”なる人物が実はそうでもなかったり、いろいろと物議をかもしたものの、不可能という決定的な証明もされていない。
真空管を作らなくても、短時間、ただ飛ぶだけでいいのだが、同じ原理で宇宙を飛翔した乗り物はまだない。10年後はどうか。野次馬として、楽しみではある。
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