フロッピーディスク誕生異聞
 



この話はウソです。


 フレキシブル磁気ディスクの発明は、IBM社で誕生した。米国特許3416150号(1969.12.22 米国出願)、日本では特許727930号となった。当時の発明者が、どんな課題を、どう解決したか、明細書のみをもとにフィクション構成した。なお、“FLOPPY”の商標は、実際は(株)日立製作所に登録された(登録1283374)もので、特許権とは別である。

 A=発明者、B=Aの先輩

[A]取り替え自由で持ち運びできるコンピュータの外部メモリ、ついにできそうですよ!
[B]テープでは、やはり、ダメ?
[A]ダメ。ダイレクト・アクセスできませんから。やっぱり、ディスクです。
[B]問題だったドロップアウト、情報の読み損ないだが、どう解決したんだ?
[A]塵の害ですね。カバーをかけましたよ。ディスクを入れるカバー・コンテナを改良したんです。簡単でしょ、そこまでは。
[B]従来のハードディスクも、コンテナでカバーしてたんじゃなかったかい。
[A]動いてないときはね。で、回転中もカバーするので、苦労しました。駆動だけなら、中央に穴を開ければ、解決でしたが。
[B]データの読み書きの問題があるよな。
[A]そこです。これが、今回考えた包装カバーです。見てください。
[B]ほう、蓄音器レコード盤のジャケットみたいだが(当時は8インチ)。
[A]従来、ディスクをむき出しで使うと、塵埃でドロップアウトが生じたんでしたね。
[B]これまでだって、コンテナでカバーはしてたじゃないか。気密に、防塵して。
[A]そうです。ディスクを稼働していないときは、それでよかったんです。
[B]ディスクをコンピュータで稼働するときは、コンテナカバーの底を取り除いて、コンテナの内部にディスクを装着した状態で、カバーの上部を駆動装置と結合して、ディスクからコンピュータに、IPLとかマイクロプログラム転送をしたわけだ。
[A]それじゃあ、結局、ディスクは、塵にさらされます。ディスク表面は、できるだけ、ドロップアウトフリーの状態に維持しなければなりません。第一に、塵挨その他の汚染粒子がディスクの表面に沈着しないようにすること。第二に、ディスク表面に汚れがあれば、それを除くこと。第三に、稼働中にディスク表面が汚染にさらされないように保護すること。加えて、頑丈で、郵送可能で・・・・
[B]安価であること。これも、ぜひ。
[A]そこで考えました。そういう目的のために、カバーにはディスクの隣接表面と摩擦接触する内側表面を持たせました。その状態で、ディスクを回転させます。
[B]ちょっと待ってくれ。君の発明したカバーというのは静止しているんだよな。ディスクは回転させて?
[A]え、あ、そうです。ディスクは、カバーの中で回転してるんです。カバーは、静止してます。肝心のディスクの回転という前提を説明し忘れていましたか。
[B]いや、私こそ、まだよく分からないもんだから。それで、カバーとディスクの運動の関係は?
[A]一対のシートとスペーサ層とを設けます。シートは、外側の保護層と、多孔性、非帯電性で、低摩擦の材料の内側層を持っています。ディスクは、2枚のシートの内側表面とスペーサ層とのすきまに、収用されます。
[B]回転ドライブは、中央の孔からだね。
[A]ディスクが回転して、カバー内側の両表面と物理的に接触します。これによって、磁気ディスクの記録表面を清掃し、汚染から守ります。それで、ドロップアウトに起因する誤りが減少するというわけです。
[B]何度もすまないが、ヘッドは回転しないんだろう?
[A]勿論、回転はしませんよ。
[B]わからないのは、一体、ヘッドからディスクに、カバーごしに、どうアクセスするの?
[A]あーっ、それ、それ。簡単です。カバーの中央から半径方向に、細長い孔を開けました。孔からディスクの一部が露出します。この孔を通じて、ヘッドがアクセスします。
[B]はっはあ、それで、セクターを検出するのに、周辺に小さな孔をたくさんあけたのか。
[A]はい。カバーが透明なら、セクター孔は不要でしたがね。
[B]そうか! それで、ヘッドによるダイレクト・アクセスが可能になったのか。うーん、やったね! ただ、塵埃は、まだ心配だ。
[A]その点ですが、カバーの内側に低摩擦材料で非帯電性の材料を塗布してはどうか、検討しています。ディスクはカバーの中で、物理的に接触しながら回転しますから、記録表面を拭って、清掃効果を生じます。
[B]なーるほど、それなら、完璧だ。
[A]今回完成したカバーにディスクを収用して組立たものは、頑丈で、軽い。コストも安くできます。カバーごと郵送も可能です。
[B]よくわかった。いい発明だ。ところで、君、包装カバーを完成したといったが、ディスクはカバーと一体の構造だよね。カバーだけで使うんじゃないだろ?
[A]え? それは、そうですが・・・・
[B]あのね、大切なことだと思うんだが、これは、包装カバーの発明なの? ディスクを含んだ記録媒体全体の発明じゃないのかな。
[A]でも、改良したのは、包装カバーの構造ですよ。
[B]それはそうかもしれないが、結果としては、ディスクは、従来のハードなものと違って、ペラペラでもよくなったわけだし。カバーと磁気ディスクとを一体とした新しいメモリ媒体の発明じゃないか。カバーしたままの状態のディスクからコンピュータに情報を転送できるし、読み取りのドロップアウトを減少させた効果が得られたわけだから。
[A]そうですねえ。そういわれると、発明は、磁気記録ディスク+包装カバーの組立体ですね。しかしね、他社に、包装カバーだけ作ったり売ったりされるかもしれませんよ。
[B]それなんだよなあ。
[A]ディスク+カバーで特許請求したとして、他社が、カバーだけ多量に製造販売した場合、特許侵害で訴えると、ディスクは含んでないとか、カバーの中に記憶媒体以外の物だって入れられるとか言って逃げますよ。寄与侵害(=間接侵害)と訴えて、勝てるとは思いますが、面倒じゃないですか。
[B]だったら、カバーのみとディスク+カバーの組合せと、両方クレームすれば。
[A]そうか。そうですね。では、両方クレームする方針で、特許出願の手続はすすめてOKですね?
[B]いいとも。それから、ディスク自体はフレキシブルでいいということで、なにか、トレンディな商品名を考えよう。たとえば、ドロップアウトフリーとか、ドロッピーとか、“フロッピー”なんてどうだ。
[A]あ、“フロッピー”、そのネーミング、最高だ。

(以上の会話はフィクションです。)

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