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[反復可能性は100%でなくてよい=「倉方黄桃」事件判決]

 永久機関や錬金術と違って、微生物、動植物の発明は、理論上可能という証明(この立証責任は出願人にあります)はないが、逆に、不可能という積極的な論拠もない場合があります。しかし、出願の時点では、何かの事情で、未だ産業上利用することができる発明という証明ができなかった場合、出願の段階では未完成という拒絶理由に該当するわけですが、なかに、いつまでたっても完成しないで、実施不可能のままというものもあって、未完成のものと自然法則に反するものとは、境界を判別できると限りません。
 チャクラバーティ博士のバクテリヤと同じ頃の、日本の倉方さんの黄桃(育出増殖法)の植物特許を紹介しましょう。
 昭和52年、東京の倉方英蔵さんが、桃の新品種について出願し、のち特許されました(特公昭59ー34330号、特許1459061)。倉方さんは、とても古くから研究されてたようで、昭15(1940)年に朝鮮にお住いの頃偶然できた新種をさらに改良した「晩黄桃」を花粉親とし、米国種を交配育成した「タスバータ」を種子親として、両親を交配しました。そして、果実が甘い花粉親の形質と果実が大きい種子親の形質との両方を兼ね備えた新種である「倉方黄桃」を作出しました。
 出願時の発明の名称は、ズバリ「倉方黄桃」でしたが、その後、「桃の新品種黄桃の育出増殖法」と補正しました。偶然できた新種を元の親にしたといいますから、新品種である桃自体の発明というより、育出増殖方法の発明とする方が適当と思われたのでしょう。
 園芸農業の団体から特許無効審判の申立てがあり、偶然できたものを親品種にしているから手法も結果も不確実である、反復可能性がない、とわれ、発明完成といえるかが主に争われました。倉方英蔵さんは惜しいことに判決前に亡くなりましたが、遺族があとを継ぎ、東京高裁(現在知財高裁)は発明の完成を認めた特許庁の審決(無効審判請求不成立、特許を維持)を支持しました。
 判決は「・・・・反復可能性がないときは、その発明は未完成というほかない。しかしながら、ここにいう反復可能性とは、反復実施すればその都度100%ないしそれに近い確率をもって一定の結果が得られることを意味するものではない。利用する自然力如何によっては必ずしも反復実施の都度確実に一定の結果を得られるものではないし、そうであっても産業上利用できる発明として特許性を認めることができる技術的思想の創作が存在し得るからである。」「・・・・技術的思想として重要な意味を持つのは、新品種の育種であり、理論的にみてそれが再現される可能性があるということに存する(その点で「新品種の育種」と「新種の発見」とは区別される。)。」「・・・・形質遺伝に係る遺伝構造の同一の観点からではなく、現実に発現する遺伝形質(特に、育種目標とする形質)自体の同一の観点からみるならば、本件作出過程により同じ形質が再発現する確率は、高いものとはいえないにしても、その可能性はあり得るものと認めるのが相当であるから、この限りにおいて、本件作出過程につき、遺伝形質の面から反復可能性を否定することはできない。」(平4(行ケ)14号、昭9,8,7東京高裁、ほか同趣旨判決:平8(行ケ)144号、昭11,5,11東京高裁)と判示しています。
 事件は、さらに最高裁に上告され、高裁判決は維持されました(平成10年行ツ19、平成11年行ヒ180、最高裁は棄却及び不受理平成12年2月29日)。最高裁始めての植物特許判決です。なお、特許権の登録は、平成9年に抹消されています。
 さて、黄桃の裁判で、反復可能性という要件が問題にされました。
 どんなにすごい結果でも、ただ一発、1回だけというのは、法則といえません。ちいさな成功でも、ある確率で繰り返し成功するなら、常識的には、何かの法則性が認められます。反復して成功100%なら、間違いなく法則ですが、100%である必要はない、という判示でした。
 有名な御木本パールの特許(「真珠素質被着法」特2670、特24525号など)も、最初はほんの数%も成功しなかったそうです。課題とそれを解決する手段との因果関係つまり自然法則がはっきりしていれば、反復の率が小さくても、発明成立を認定するの妨げにはなりません。
 では、逆に、反復しさえすれば、いいのか。
 私は、全てイエスとは、いい難いですね。
 反復が100%に足りない場合、たとえ数字の上で高い確率であっても、自然法則が論理的にはっきりしないときには、発明は未完成、実施不可能とされるおそれがあるかもしれない、と考えています。
 かりに、特許されても、発明の範囲とそうでない範囲との境界がはっきりせず、権利の内容を特定できないために、権利者と実施者との間で、何かのトラブルを生じるおそれもあります。
(タイトル名は内容と関係ありません。)
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