福井県のT様

足羽山は怪しい山
 
 先日は福井市国見岳で大変お世話になり、ありがとうございました。おかげさまでタクシー会社はすぐ見つかりタクシーで落とした財布も無事戻りまして、元気が出て、三国山中腹でタダで仕入れた岩清水を飲みつつ、徒歩で足羽山へ向かいました。
 突然ですがTさん! 疲労は妄想を呼ぶものですが、それにしても、足羽山には、意地の悪い魔物が住んでいるのではないでしょうか。この山は私が近所までいくと突然姿を消すのです。慌てて探したら建物と建物の間にこっそり隠れていたりします。おまけに、登ろうとすると、私が前進しただけ山が後退するのです。逃げる山を追いかけ、しがみつくように歩いて登り、山頂とおぼしき場所の巨大な像の足元まできましたら、心臓は普段の倍以上の周波数で発振するわ、汗だらけで気持ちわるいわで、CQを出す気力も失せ、早々に下山してすることにしてしまいました。
 しかるに今度は、山が私を追いかけてきて、歩いても歩いても私の背中から離れません。やがてあたりがすっかり暗くなり、駅の方向さえわからなくなる始末。しかたないのでコンビニから出てきた女性に福井駅はどっちでしょうと尋ねると、彼女は、えーっ、遠いですよーとあきれたように云い、私が行こうとしていたのと全く逆の方向を指さしたうえ、大丈夫ですかーと当方がはずかしくなるくらい顔を近寄せてきて聞くのです。くたびれ男が行き倒れ寸前と心配してくれたのでしょうか。そこで見栄をはってわざと元気に歩きまして、振り返ったら彼女はまだこちらを見ていました。足羽山の魔物から脱出できたのは、きっと彼女のおかげです。柴又の寅さんならロマンスが生まれたでしょう。ともかく足羽山は怪しい山ですから、ローカルの方々といえどもご注意されたほうがいいと思います。
 さて、駅は、幸いにも、コンビニの女性が心配してくれたほど遠くはなく、白紙のログシートに駅のスタンプを押してソバを食ってシャツを着替えてなんとか落ち着くことができました。CQなんぞ出さず下山したのは正解でして、急行能登東京行きの入線時刻と私が思っていたのは、実は発車時刻だったのです。電車にのって、金沢あたりまでは覚えていましたが、次に気が付いのは大宮で、なんとよく寝たものです。よほど疲れていたのでしょう。こんなことでは、もしもTさんに車で送っていただかなかったら、鮎川に着くどころか三本木辺りで行き倒れていたかもしれません。本当にありがとうございました。末筆ながら、Tさんの健康とご活躍をお祈り申し上げます。
 
                         1996,08.19 
 
(コンテストログは零点ですが提出します。多分失格で、委員の方に無用の手数をかけることでしょうが、せっかく福井で多くの方々に親切にしていただいた記念ですから。ところで、寅さん俳優渥美清さんは8月4日亡くなりました。再度合掌)