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繁殖を良くする魔法の薬
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酪農技術を語る上で、大切なことは大きく分けて三つあると思います。
牛 (遺伝改良)
エサ(飼料原料の選択、設計、給与方法)
管理(繁殖、カウコンフォート、分娩を含む移行期、施設、扱い方)
飼料設計は重要ではありますが、すべてではありません。うまくいかないからといってころころ設計を変更しないこと。酪農成績に影響を与えるのは複合した要因であり、一意対応(原因が一つ)ということはほとんどないと言っていいと思います。
例)セレンをやれば後産が取れる。
ベータカロチンをやれば繁殖が良くなる。
ビオチンをやれば足痛がなくなる。
こんなに簡単なわけがないですよね? 私たちはともすれば一つの原因を探そうとするきらいがありますが、よく考えたらそんなに単純なわけがなく、でてくるのはトータルの技術レベルの結果なのです。今日、私の話を聞きに来てくださった方の中にも、魔法の薬を求めて来られた方もいると思いますが、残念ながら何もありません。昔から言い古された話の繰り返しをするだけです。飽きのくるような、「基本」を大切にすることでしか酪農成績は良くならないということです。幻の魔法の薬を追い求めるのはやめるというのが一番いい薬だと思います。 |
| 繁殖を良くする唯一の方法は、授精をすること
で、いきなり基本中の基本で申し訳ないのですが、「授精をしていますか?」という話です。
私たちは乳牛の繁殖検診を主な業務としており、毎月2回ないし1回、酪農場を定期的に訪問しています。近年、日本の酪農の進歩はめざましいものがあり、例えば乳量を見ても、世界に引けを取らないものになって来ました。これもひとえに酪農家の方々の日々の努力のたまものと、頭の下がる思いです。繁殖に関しても、繁殖成績に影響があるとされている要因、例えばカウコンフォート、飼料設計、給与方法、移行期の管理、暑熱対策、分娩衛生等の問題に、皆さん熱心に取り組んでおられ、成果を上げています。
しかし、残念ながら、毎日の診療の中で私が感じるのは、繁殖成績を悪くしている最大の原因は、相変わらず発情の見逃しと人工授精のし忘れであるということです。これは、毎月のPGの使用量からも言えることです。(例外はありますが、PGを打って発情誘起させるということは、いい黄体があるということ、つまりいい発情が来ていたのに授精しなかったということなのです。)
繁殖を良くする唯一の方法は、授精をすることです。人工授精をするためには、発情を発見しなければなりません。いろいろな問題に取り組み、牛がよい発情を示したとしても、それを見逃したり、管理上の手違いで人工授精がなされなかったりすれば、非常にもったいないことです。
現場には、片づけなくてはいけない仕事が山とあり、発情発見・人工授精は、ついつい後回し、余分の仕事といった位置づけになっているように見受けられます。少ない労働力をやりくりして規模拡大してきた現状の中では、それも仕方のないことです。直検をしながら発情の見逃しを指摘すると、「見逃したのは私が怠け者だからだ。明日からはもっとちゃんと見よう。」と反省されますが、忙しい酪農家さんにこれ以上働けとは言えません。それに、いくら反省したって忙しさが同じならきっとまた見逃してしまいます。根本的な問題として、労働力の慢性的な不足ということがあるのです。また、だからといって「作業量的にこれ以上は無理だから仕方ない。」そう言ってあきらめてしまうのももったいないと思います。もっと効率よく、やる気を失わず、繁殖作業を行う方法はないものでしょうか?
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私が今日提案したいことは2つです。
まず、発情発見と人工授精という繁殖のための作業を、面倒なものでなくし、やる気を失わないように環境を整え、さらにより積極的に、効率のいい、やる気の出る楽しいものにしたいということ。
2つめは、そのために獣医師による繁殖検診を活用していただきたいということです。 |
| なるべく面倒でないようにする
なぜ見逃したのか、その原因を聞いてみると次のようなことでした。
・忙しくて牛をあまり観察していなかった。
・その日は外出していて、見逃した。
・自分以外の人(従業員や家族)は発情を見つけてくれない(見つけられない)。
・遠くの方でスタンディングを見たが、仕事が忙しくて見に行かなかった。
・見に行ったが、耳票が付いていなくて(または見にくくて)牛が誰だかわからなかった。
・夜だったので暗くて、牛の番号が見えなかった。
・番号を見たが、あとで忘れてしまった。
・発情を見つけたが、授精するのを忘れた。
・従業員の人が発情を教えてくれたが、番号を忘れた。
・授精しようと思ったが、牛を見つけられなかった。
・授精しようと思ったが、牛が逃げてつかまえられなかった。
・搾乳機械が故障して種付けどころではなかった。
・難産があって種付けどころではなかった。
・・・つまり問題は、「発情発見や人工授精の優先順位が低く、ついつい手を抜いてしまうような面倒な状況に置いている」ということではないでしょうか。これではやる気も出ません。面倒でなくするために次のようなことをしてください。
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1.見やすい大きな耳票が両耳に付いていること。
耳票が片耳にしかついていなかったり、耳票が小さかったり、文字が消えかかって見づらかったりすると、それだけで発情発見率が下がります。また、同じ番号の牛が2頭いると間違いのもと。逆に、1頭の牛に左右違う番号がついていると、これまた間違いのもとです。「番号一つ、間違いゼロ。」検定番号と、共済番号、どちらか歩み寄って同じ番号にしてもらうわけにはいかないものでしょうか?
特 に育成牛において、個体の識別ができていないことが多いようです。個体の識別は全ての管理の基本となります。昨日入社した新入社員でも牛の番号がわかるようにしておいて下さい。
また、発情の60%は夜間に発現すると言われています。牛の番号がよく見える程度の照明を準備してください。
2.簡単に牛をつかまえられること。ゲートにはさむなど。
3.筆記用具を持ち歩くくせをつけること。種付けの記録を忘れないように、精液タンクのそばに必ずノート(カレンダー)と書くものを吊しておくこと。
4.発情発見と授精の間で間違いが入らないようにする。口頭ではなく、紙に書いて報告する。
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| 楽しく、やる気が出るようにする
1.家族(従業員)
発情発見率を上げるには、発情を見つけてくれる目が多い方が良いことは言うまでもありません。牛のことを理解し、発情がどんなものかを知り、積極的に繁殖管理に参加し、興味を持って取り組んでくれる人が一人でも多い方が良いのです。しかし、ただ「発情を見つけてくれ」と言うだけでは家族や従業員の方は参加してくれません。なぜ彼らは発情に興味がないのか、どうしたら参加してくれるようになるか一度じっくり考えてみるべきだと思います。
まず、上述したように、彼らにとっても繁殖管理は余分の仕事なのです。毎日片づけなければならない作業が山ほどあるのに、プラスαの仕事にはなかなかやる気は出ません。かといって、アメリカのように発情発見一頭あたりいくら与えると報酬制にしても、日本ではうまくいかないでしょう。大切なのは、発情発見の重要性を理解してもらうことと、それによって経営に参加しているんだという意識を持ってもらうことではないでしょうか。以下、そのためのヒントを列挙します。
・毎日、デモンストレーションを怠らないこと。「遠くの方で発情を見つけたら、とりあえず今やってる仕事はほっといて、走って見に行く」というような姿勢を従業員に見せましょう。
・従業員の人が発情を見つける動機付けをしましょう。最も簡単な報酬は、ほめることです。従業員だけでなく、家族もちゃんとほめてください。奥さんや、息子さんが発情を見つけてくれたら、少し大げさかなと思うくらいほめてください。最初は照れますが、がんばって! これで夫婦仲まで良くなるかもしれませんよ。
・ミーティングを行い、繁殖成績がどう変化したか発表します。ミーティングにおいて、発情発見がいかに重要か、酪農経営がどれだけ従業員の人の発情発見にかかっているかを毎回強調して伝えましょう。
・従業員(家族)に愚痴を言わない。逆に夢を語りましょう。
・役割を与えましょう。
従業員が、牛に興味を持ち、自分の仕事に誇りを持つことができれば、きっと当たり前のように発情を見つけてくれるはずです。
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2.自分(経営者)
自分自身のモチベーションを高めるには、種付けの必要な牛がこんなにいるんだということを、常に自分に見せるようにしておく必要があります。そこで有効なツールとして、繁殖ボードと獣医師による繁殖検診があります。
・繁殖ボード
繁殖ボードは、一目で次のようなことがわかります。分娩牛の数、種付け中で鑑定待ちの牛の数、鑑定済みの牛の数、何月産み予定の牛が、だいたい何頭いるか(導入計画)、乾乳牛の数。乾乳し忘れの牛や、分娩遅れの牛は目立ちます。休憩しお茶を飲む部屋、またはあなたが牧場で最も多く時間を過ごす部屋に設置して下さい。休憩しようと思って腰をかけたが、繁殖ボードが目に入り、思わず発情を見に行きたくなってしまったならしめたもの。「うちのデータは全てコンピュータに入っているのでボードは必要ない」と言う方がいますが、コンピュータとボードは違います。その違いは、デジタル時計とアナログ時計の違いに似ています。コンピュータは立ち上げて数字を追いかけないと理解できませんが、ボードのアナログな情報は勝手に眼に飛び込んでくるし、一目で全体像を把握できるのです。
・モチベーションとしての繁殖検診
繁殖検診の前に、データを整理して検診リストを作ります。この時点で、種の付いていないやつが多いなあとか、すごく遅れてるやつがいるなあとか認識することができます。個体の所見ももちろん貴重な情報です。PGの使用は即、発情発見率の向上につながります。排卵や黄体があれば、見逃したことがわかります。受胎が遅れて太ってきたものも指摘します。繁殖検診は定期的に行うのがミソです。訪問後しばらくは張り切って種付けする気になると言います。「繁殖検診の前後は、やる気が出る。」「繁殖検診のあとは頭の中がすっきりする。」たまっていた妊娠鑑定を済ませることができるので、妊娠していればそれでOKだし、ついていなくても問題がなければ次回発情予定日を聞くことができる。問題がある牛も全部診るので雲が晴れたようになる、ということですね。
・雄牛の利用
一つの方法は、雄牛を入れることです。24時間、365日、発情発見と授精をやってくれます。問題点は危険なことと、雄牛を入れると観察がおろそかになるということです。また、雄牛には当たりはずれがあります。分娩日に関しては、定期的に検診を受けていれば、ある程度正確に予想することができます。
・実際の観察では、いろいろ便利な方法が提案されています。
個体を覚える。25日発情発見トライアル。出血後19日・発情後21日の牛の確認。チョークの利用。 |
| 以上、いろいろ述べましたが、要は発情発見という仕事の位置づけが、酪農家や従業員の方の意識の中で、どれくらい高いかが問題だと思います。効率のいい繁殖管理のための作業体系を整備して、楽しく繁殖に取り組んでいただきたいと思います。
繁殖ボードについてのお問い合わせは、
(株)ナスアグリサービス HPアドレス:http://www.nastokyo.co.jp/ Tel:0120−03−7432へ
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