難産について
助産を行う場合、可能な限り清潔に、優しく丁寧に行うことが周産期疾患を防ぐ上で決定的に重要である。産道に与える物理的なダメージと細菌汚染が大きいほど、後産停滞や産褥熱、子宮炎、子宮蓄膿症などに罹患する確率が高くなり、繁殖成績が低下する。また乾物摂取量を低下させ、泌乳量に重大な影響を与える。
お産が軽かったのになぜか死産であったという場合は、仔牛の分娩発来機序がうまく働いていなかった可能性がある。その場合、子宮の汚染を排除する機序も働かないことが多いため、ハイリスク牛として扱う。

難産には避けられないものもあるが、適正な飼養管理で予防可能なものもかなりある。難産となる誘因を最小限にする。
(例)
適正な発育・種雄牛選定・乾乳中や分娩時の自由な運動・分娩場所の環境(精神的、行動学的、細菌学的に)乾乳時の栄養管理・異常分娩の早期発見
分娩時仔牛死亡率の目標:経産牛で3%以下 未経産牛で8%以下 
これ以上の場合は上記の要因について管理方法を再検討する必要あり。

原因
1.胎仔過大 骨盤に対して胎仔が大きい
2.失位
3.弱い陣痛
4.その他
 奇形胎仔・子宮捻転・低カルシウム血症による子宮筋無力症・熱射病などによる母体の衰弱
難産介助の3つのポイント
1.待ちの姿勢
 早すぎる介助はかえって難産をひどくする。胎胞は産道を広げる役割があるので、原則として自然に破水するのを待つ。仕事が忙しいと早く次の作業に取りかかりたいという気持ちが働き、引張らなくていいものを、衛生的でない手技でむりやり引っ張り出してしまい、後産停滞や子宮炎の原因を作りだしている例をよく見かける。自然分娩が最良であり、介助は必要最小限にするべきである。陣痛開始から経産牛で2時間、未経産牛で3時間待つ。

例外
・異常を感じたら失位の確認だけは早めに行うこと。
・出血を見た場合は早期胎盤剥離の可能性が高いので積極的に牽引する。。

2.衛生的に行う。
産道に手を入れる場合は、手指や外陰部のまわり、尾の裏まで徹底的に消毒を行い、必ず直検手袋をはめること。たとえ双仔の確認だけであっても必ず行う。バケツ2〜3個にたっぷりお湯を入れ、消毒剤を溶かす。タワシやブラシで、牛も自分の手もゴシゴシこする。蛇足だが、手袋を肩にとめるのに安全ピンか洗濯バサミを使うと良い。手袋のズレを気にすることなく介助に集中できる。下らないと思われるかも知れないがこんなところで差が付くように思う。また、仔牛が初めて口にするのものが糞尿であってはならない。初乳中の免疫を受入れるため、初生仔牛の腸管はザルのように目が粗く何でも通過させてしまう無防備な状態にある。介助する場合は仔牛が出てくる先に清潔な敷物を敷く。オガ粉など細かい敷料は産道に入り込みやすいため、分娩エリアの敷料はワラなどの長いものがよい。
3.潤滑剤を惜しみなく使う。ひとつの介助につき500cc。
 十分に時間をかけて、仔牛のおでこや肩に潤滑剤を塗りつける。500ccを消費するには最低15分はかかる。産道に与える物理的なダメージを最小限にし、産道を少しでも開かせる。それと同時に、介助者の焦る気持ちを落ち着かせる効果がある。落ち着いてよく触ってみたら、逆子だと思っていたのは実は側頭位下胎向(仰向けで首が残っている)だったとか、仔牛は小さいのに出ないと思ったら双仔の足をそれぞれ1本ずつ引っ張っていたというようなことがある。胎位の異常があるといくら引っ張っても出ないので、焦らず落ち着いて確認してから牽引する。
難産介助のコツ
・必要な道具をまとめて置いておく
必要なものが揃っていると人間はいい仕事をすることができる。(バケツ2個・ブラシ・パコマ・産科チェーン2本・産科ハンドル2本・潤滑剤の入った500ccのボトル・直検手袋・安全ピンまたは洗濯バサミ2個・牽引器・清潔な敷物)

・牽引器は両刃の剣と知る
熟練した人が使えば、牛も人も楽になる効果的なすばらしい道具である。その反面、なれない人が無茶な使い方をすると仔牛も母牛も殺してしまう凶器ともなりうる。牽引器で出すのではない。牽引器で現在までの進行を維持し、牛の陣痛に合わせて産道を広げるのを助けるために使う。

・牽引方向は後方から下方へ
最初は後方へと引っ張るが、仔牛が出るに従い、徐々に引く角度を下げる。特にヒップロックしてしまったときは垂直下方、あるいはさらに乳房を回り込んで前方に引くと出ることがある。この方が産道に与えるダメージが少ない。これを考えると、牽引器は滑車タイプよりもジャッキタイプの方が使いやすい。滑車の場合は引く方向が決まってしまうため、仔牛が出るに従い、固定する先を変える必要がある。

・仔牛の生死確認をまず行う
仔牛の舌を握る。逆仔の場合は肛門に指を入れてみる。

・娩出後は双仔の確認を行う
双仔は失位が多い・・・つまり失位で難産であった場合はもう一頭入っている確率が高い。

最後の判断
自分の手に負えないと思ったらすぐに獣医師を呼ぶ。獣医師には帝王切開という奥の手がある。獣医師は仔牛が生きている間に帝王切開をやりたいということを忘れないで。仔牛も死に、親もへとへとで子宮内も汚染され産道に大きなダメージがある状況では、帝王切開は適用されず切胎術の適応となる。人の産科でも帝王切開が積極的に行われる時代である。早めに帝王切開をすることができれば、母仔共に健康に助けることができ、その後の受胎も確率が高い。
どの時点で獣医師を呼ぶのか、担当獣医師と前もって打ち合わせをしておくとよい
仔牛が出たら
羊水を吐かせるため、フェンスやゲートなどに逆さにつるし、胸を数回圧迫する。口から手を入れて喉を刺激したり、鼻孔内を乾草などで刺激するのもよい。呼吸が開始しない場合は口をふさぎ、鼻から息を入れて人工呼吸を行う。
呼吸開始剤(ドプラム)を2cc静脈内または舌内に注射する。(要指示薬であるので、常備薬として獣医師からもらっておき、鍵の付いた薬品庫に保管しておく。)
呼吸が弱く、チアノーゼを起こしている場合は酸素を吸わせるのも良い。酸素ボンベを持っている人は、あらかじめプラボトルを半分に切って、仔牛のマズルの大きさに合わせて酸素マスクを作っておく。後は通常の分娩時と同じ。母牛が元気なく、仔牛を舐めてくれない場合は、人間が行う。タワシで仔牛の体をこすりながら、バスタオル5〜6枚使用して仔牛を乾かす。初乳を早く飲ませ、臍帯を消毒する。ビタミンEとセレンの合剤を注射するのもよい(イーエスイー2cc筋注)。難産で生まれた仔牛は通常分娩の仔牛より弱い可能性があるため、保温などに気を使ってやる。
母牛の処置
ハイリスク牛として処置する(別項参照ハイリスク牛
。分娩直後の子宮内への抗生物質投与ととオキシトシンの投与は必須である。産道に対するダメージが大きい場合は、氷で冷やしたり、消炎鎮痛薬の投与も検討する。
・氷で冷やす:直検手袋を氷で満たし、しばる。破れないように二重か三重にする。氷が溶けるまで腟内に挿入しておく。浮腫と疼痛を緩和し、消炎効果がある。