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BSE雑感
−BSE(牛海綿状脳症)発生による狂牛病騒動− |
| 心配するほどの確率ではない! 今、女房が子供を連れてハワイに留学しています。周りの人はみんな、「飛行機大丈夫?」「炭疽菌大丈夫?」と心配してくれますが、私はそれよりも女房が慣れない右側通行で交通事故に遭わないかということの方がよっぽど心配です。航空機ハイジャックテロや、炭疽菌の被害者よりも、交通事故による死傷者の方がよっぽど多いからです。 要は確率の問題です。 BSE(牛海綿状脳症)の場合も同じで、イギリスでは18万頭の牛が発症し、40万頭が感染の疑いありで殺処分、廃棄となりました。それでvCJD(ヒトの若年性の新型クロイツフェルト・ヤコブ病){1)下記参照}の患者が約100人。日本では発症牛が今のところ3頭ですから、今日本人が国産牛肉を食べて、vCJDにかかる確率は数千億分の1だと思われます。そんなものを心配するぐらいなら、普通の食中毒とか、たばこの害とか、交通事故を心配する方がよっぽど建設的だと思いませんか2)? |
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もともと、脳などのいわゆる特定危険部位以外のもの、つまり食肉はたとえ発症牛のものでも大丈夫ということでした3)。また、食肉検査所における検査体制が整った現在、食肉となる全ての牛がBSEの検査を受けており、国産牛肉の安全度はさらに高まったと言えるでしょう4)。 プリオン病というのは発見されたばかりでまだ分かっていないことが多く、vCJDがBSEのプリオンを食したため起きたと証明されたわけではありません。最近では、vCJDとBSEは無関係という説も出されるくらいです。よく分かっていないということは逆に怖いということでもありますので、「だから心配しなくていいよ」とは言えませんが、その確率はすごく低いということだけは理解して欲しいと思います。 |
| それでも「100%安全だというお墨付きがなければ食べたくない」とおっしゃる方は多いです。ひとつ言いたいのは、世の中に100%のことなんて滅多にないということです。特に生き物の世界ではそうです。そして、私たちは、生き物を食べることでしか命をつなげない罪深い存在なのです。食品に100%の安全を求めると食べるものがなくなってしまいます。ダイオキシン、環境ホルモン、有機水銀、PCB、ポストハーベスト、放射能、O157、サルモネラ、クリプトスポリジウム、アニサキス、エキノコックス・・・キリがありませんね。99.999・・%位の安全度で十分だと、私は毎日おいしくいただいております5)。 |
| BSEの発生が英国より輸入した肉骨粉によるものだったとすると、官僚や政治家が確かに悪かったのでしょうが、私はそれよりも、国民の不安をあおり立てているマスコミの姿勢に対し、怒りを通り越してあきれ果てています。不安をあおればあおるほど視聴率も上がり、雑誌も売れると言うことでしょうか?日本の畜産という大切な産業を守っていこうという姿勢がかけらも感じられません。
テレビの討論会では、「これからどうすればいいのか?」ということを話し合うべきなのに、おきまりの官僚バッシングばかり。科学者が客観的なデータを示すと、「あんたそれで100%安全だと保証できるのか?」とくってかかっていた議員の方もいましたな。消費者の味方ヅラをしてはいるが、サイエンスの手法が分からず場を混乱させているだけ。こういう人がいると建設的な討論は成り立たないのです。 |
| 「特定危険部位以外は食べても安全です」と、検査体制が整う前に安全宣言を出してしまい、焼き肉パフォーマンスで事態を収拾しようとして、消費者心理を逆撫でした政府も悪かったと思います。また、消費者も過剰に反応しすぎました。畜産物の安全性に責任を負う私たち産業動物獣医師も、肉骨粉の輸入を看過してしまいました。水俣病や薬害エイズのことは国民みんなが知っていたのに、教訓が生かされませんでした。分かっていたはずなのに、どうして阻止できなかったのか。放っておけばこうなることはかなり確実に判っていたはずなのに何もしなかった責任が、私たちみんなにあるのではないか。いや、済んだことはこの際おいときましょう。大切なことは、壊滅寸前の畜産食肉産業6)をなんとかせねばということです。 |
| 獣医の勉強会の後で毎月行ってた焼き肉屋さんもつぶれてしまいました。今回のBSE発生による「狂牛病騒動」は、日本の景気回復に大きな影を落としています。そういう意味では、農家から消費者まで全員が被害者だと思います。これからも新たな発生があるかもしれません。私からすれば、新たな発生が見つかるということはちゃんと検査で摘発しているということだと思うのですが、消費者は「まだまだ危ないのだ」と受け取ってしまうでしょう。事態は収拾に向かうにはほど遠く、予断を許さない状況です。1日も早く消費が回復するよう、何かできることをやっていきたいと思います。 |
| 追記 案の定、女房は渋滞中に追突されて首が痛いと言ってきました。たいしたことなかったんですけどね。ハワイはテロ事件以降、日本人観光客が激減し経済は大打撃を受けています。免税店は60%売り上げが落ち、50人の人員削減をしたとのこと。飛行機に乗っても、ラディンさんの仲間に会う確率は低いと思うので、皆さんぜひ行ってあげてください。 2001.12.14. |
| 1)汚染された牛肉を食べると狂牛病になって足がふらふらになったり(ニュースで流れるイギリスの発病牛の映像のイメージ)、よだれを垂らして凶暴になったり(狂犬病のイメージ)すると思っていませんか? 牛肉を食べても人は狂牛病にはならないし、狂犬病にいたっては全く別の病気で、関係ありません。BSEとの関連が疑われているのは人の若年性新型クロイツフェルト・ヤコブ病という病気です。症状は痴呆で、発病すれば致死的ということです。口から入って、熱に強く、脳を冒し、かかれば致死的・・・みんなが怖がるのも解るなあ・・・。でも、「どんなに強力なビーム砲でも当たらなければどうということはない」ってことですよ。 2)年間の交通事故死亡者数は1万人くらいでしょうか。WHOによると喫煙は年間9万5千人の日本人を殺しているということです。つまり、人々はそれくらいのリスクは覚悟の上で、車に乗ったりたばこを吸ったりしているのです。それなのに、それより遙かに低い確率のvCJDをおそれて牛肉を控えるというのはバランス感覚が狂っていると言えないでしょうか。 3)ただ加工の段階で不適切な処理をすると脊髄の飛沫などが混入する可能性があったため、今ではそれも改善されています。 4)科学的には、30ヶ月齢以下の牛は検査対象から外してもいい筈だと個人的には思っています。 5)もちろん、「沈黙の春」にならないよういろいろ情報に目も向けております。特に放射能や環境ホルモンは、私たちの世代ではなく子や孫の世代に悪影響を及ぼす可能性があり、要注意です。こういうことのモニターのためにも、野生動物の獣医学が重要なのだと思います。 6)酪農産業にも影響が出ています。廃用牛は出せないか、出せてもほとんどお金になりません。出荷した牛からBSE陽性牛が出ようものならおしまいです。同居牛は今のところ疑似患畜扱いで殺処分ですが、「科学的根拠が薄い」と見直しを求める声があがっています。殺処分を免れたとしても、乳業メーカーがBSE発生農場の乳を受け入れてくれるかどうかが問題です。牛乳は関係ないという科学的なことはさておき、消費者心理には逆らえないのでしょう。 参考文献 |