テイスティング・ルーム 第38回(後編)
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者からセミプロまでいますが、
自分勝手なことをしゃべっているには変わりありません。
話の内容については、まあ信用できるでしょう。
なにせ呑んじゃってるんですから。
登場人物
Iさん: マスコミ関係の会社に勤務。
おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。Kさん: 金融関係の会社に勤務する男性。
仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。Sさん: 昼は国際派ビジネスマン、夜はバー&モルト逍遥の達人。
歯に衣着せぬコメントとおやじギャグが痛快な男性。マスター: とあるバーのマスター。?代の男性。
マ:それでは、気を取り直して、本日の4本目に行きましょう。
ダグラス・レインのトップ・ノッチ・コレクションから出ている
ポートエレン21年ですね。
ヴィンテージの記載はありませんが、
おそらく2003年のボトリングですので、
蒸留は1982年だろうと思います。
K:そういえば、昨年リリースされたトップ・ノッチの
ポートエレン20年にもヴィンテージの記載はありませんでしたね。
I:そうですか。
なるほど、メモメモ。
S:アルコール度数は?。
マ:カスク・ストレングスで58.9度になっています。
ちなみに、瓶詰本数は339本ですね。
I:樽の種類は?。
マ:今からお注ぎしますので、色を見ていただければわかるのですが、
シェリー樽熟成です。
しかも濃い。
K:シェリー党総裁のIさんのために特別にご用意しました(笑)。
I:うっわぁ、綺麗な赤。
K:本当に綺麗ですね。
貴婦人のような。
マ:香りは、いかがですか?。
S:最初に感じるのは塩素系。
続いてくるのはシェリーリキュールの甘さ。
それから来るのはレザー(皮革)。
K:僕の最初の印象は、煙。
スモーキーさが通り過ぎると、消毒、フェノール臭。
その後から濃いレーズンの香り。
S:だんだん変わってきた。
レザーが前に出てきた。
あとピートから来る馬糞もある。
K:レザーもありますけど、かすかに黒胡椒とかも感じます。
S:なるほど、黒胡椒ね。
I:メモメモ。
マ:先ほどのサウンド・オブ・アイラのようなシェリーのクセはありませんね。
S:21年前の最上級の樽を使っているから、大丈夫(笑)。
ああ、消しゴムの香りがする。
K:削りカスですか。
それとも、プラスチック消しゴム?。
S:黄色い鉛筆の頭に付いている消しゴム。
K:ああ、なるほど。
マ:時々ラムで感じることがありますね。
消しゴムの香り。
I:もお、我慢できませ〜ん。
行きま〜す。(しばし、沈黙)
I:お、いっし〜い。
マ:味わいもラムっぽいですね。
K:確かにダークラムっぽい印象がありますね。
I:やばい、これおいしい。
S:さっきのカリラとどっちが好き?。
I:どちらも嫌いじゃないんですけど。
でも、どっちが好きかと言われれば、こっちのトップ・ノッチ。
S:こっち、ノッチ(笑)。
反対だったら、どうしようかと思っていたけど、ほっとした(笑)。
K:最初は、軽いんだけれど、一口ごとにボディの厚みが出てきて、
旨みが、増して来るんですよね。
マ:確かに、最初軽いですよね。
平たい感じがある。
K:最初の一口は、軽くスーっと入るんですよね。
で、重ねていくにつれて、ぐいぐいと引き込まれていく感じがある。
I:なるほど。
言われてみれば、確かに。
S:胡椒っぽいピート。
K:まず最初に、シェリーの甘さというよりは、ドライな印象がある。
それで、一口ごとに、旨さが重ねられていって、厚みが増してくる。
マ:最初は、意外に薄っぺらだなと思いましたが、
だんだんボディが出てきますね。
I:これ、欲しいなって思いました。
K:晩酌用というよりは、自分にご褒美っていう位のお値段ですね。
I:誰か、プレゼントしてくれないかなぁ。
K:ところで、Sさんの馬糞ていうのは、何から来るんでしょうか?。
S:たぶんピートとシェリーが合わさったときに感じることが多いね。
土っぽい感じ。
土壁とかに通じるものがある。
K:Iさん、メモしておいた方がいいよ。
I:はい。馬糞=ピート+シェリー(笑)。
S:ゴムっぽさも感じるけれど、ピートが効いていて、十分に許せる範囲。
それに対して、こちらは許されざるもの(笑)。
I:そうですか。私は、嫌いじゃないんですけど。
K:ちょっとだけ加水してみますね。
マ:いかがですか?。
K:加水した方が、立ってきて華やかになりますね。
マ:切り立てですし、度数も高いですから、少し加水した方が良いかもしれませんね。
ちょっと硬いかもしれないですね。
I:これは、本当においしい。
素敵。
K:今日のは開封したてですけど、先日名古屋のAというバーで
開封後1週間くらいの物を飲んだときには、今日よりもピートを強く感じましたね。
スモーキーなヘビーピートの印象がハッキリとありました。
I:誰かプレゼントしてくれないかな。
って、2回も言っちゃうくらい、おいしい。
K:僕も、これまで飲んだポートエレンのベスト10くらいには入ると思いますね。
S:明日、明後日の状態が気になるね。
シェリー特有の硫黄が強くなったりするんじゃないかとかね。
K:うーん、この間飲んだ一週間めの物には、それほど硫黄は感じなかったですね。
マ:硫黄ではなくて、ピートが強くなるってこと?。
K:そう感じましたね。
まあ、僕とSさんとでは、硫黄に対する感性にも違いがあるとは思いますが。
I:それにしても、本当に美味しいですね。
綺麗な色も好きですね。
マ:良い出来ですね。
ところが、こっちのカリラの残り香は・・・。
S:焦がしたゴム、それからアーモンド。
マ:マニラの郊外に、スラム街があるんですけど。
K:ほお。
マ:そのスラム街は、ゴミがうず高く積まれていて。
I:はい。
マ:そのゴミが腐敗して発生するガスが、ゴミの山のなかで自然発火して燻っている。
不完全燃焼していて。
その匂いがこれです。
S:なんでそんなこと知ってるの。
K:謎の日本人バーテンダー(笑)。
S:同じシェリー熟成だけど、一緒にしてほしくないね。
こっちのカリラと、このポートエレン。
K:まあまあ、サウンド・オブ・アイラがお好きな方も、こちらにいらっしゃいますので。
I:あのぉ、えっと・・・「嫌いじゃない」に訂正します(笑)。マ:さて、それでは、本日最後のボトルに行きましょう。
Sさんが持ってきてくださったアードベッグの6年です。
I:若いですね。
マ:Sさんに代わって解説させていただきますが、
1996年にグレンモーレンジが
アードベッグ蒸留所を
アライド・グループから買収しました。
そして、グレンモーレンジとして
蒸留所の操業を開始したのが1997年。
その記念すべき年に、蒸留されたモルトを
ボトリングしたものが、
このベリー・ヤング・アードベッグです。
K:1997年蒸留の、2003年ボトリングですね。
S:そうね。
よくオーナーが代わった場合に誤解することが多いことがある。
たとえばブルイックラディ蒸留所を、マーレイ・マクデヴィッドが買収して、
ラベルを一新して新しいものをリリースすると、
マーレイ・マクデヴィッドが作った物のように錯覚する人がいる。
「今度のブルイックラディは、マーレイ・マクデヴィッドになって、
新しいラベルになって、美味しくなったね」っていうけれど、
マーレイ・マクデヴィッドが製造したわけではない。
そこのところを勘違いしていることが多い。
K:実際は、前のオーナーのときに製造された樽からボトリングしたのが、
マーレイ・マクデヴィッドだということ。
S:そういうこと。
だから、本当は、買収後10年くらい待たないと、オーナーが代わったことの
意味は語れない。
マ:蒸留所を買収すると、貯蔵庫にある樽もすべて、
新しいオーナーが引き継ぐわけですね。
それで、新しい原酒を製造しながら、引き継いだ樽から
新しい製品を販売していくことができる。
I:なるほど、メモメモ。
マ:ベリー・ヤング・アードベッグとして、6年で出してきたのは、
ちょっと言い訳ぽいんだけれど。
アードベッグ蒸留所としては、コミッティという会員組織があって、
その会員限定で、グレンモーレンジが買収したことの意味を
議論してほしいという意味でリリースしている。
K:だから、ここのところに「For Discussion」と書いてあるわけですね。
S:そう、まさにその通り。
K:Exclusive Committee Reserveという表記もありますね。
S:メンバーがコミッティから直接購入するしかない。
しかも、一人2本までの限定ね。I:アルコール度数は?。
マ:58.9度ですね。
K:日本の酒屋では絶対に買えない。
S:バーでも、まだ見ていない。
マ:私も、コミッティのメンバーなんですけど、
まだ案内が来ていないんじゃないかな。
おかしいな。
S:わしのところには、去年の11月頃に来ましたけど。
マ:どうして来ないんだろう。
S:ところで、昨年のウイスキーマガジン・ライヴでも、アードベッグのセミナーで
熟成6年のサンプルがテイスティングできたという話もありましたね。
マ:本当におかしい。
S:じゃ、テイスティングしましょうか。
K:そうですね。
色は、薄いですね。
飴色から麦わら色。
レモンよりは濃い。
I:ああ、煙っぽい。
K:最初の一瞬に、熟したトロピカルフルーツの印象があるんだけど、
そのすぐ後に、スモーキーなピートがウワっと襲い掛かってくる感じ。
S:ちょっとだけ塩素。
マ:グレンモーレンジ買収前後の裏話をすると、1990年にアライドが
アードベッグ蒸留所を再開したときに、ピートの使用量を抑えていたらしい
という情報があります。
その当時のアライドの判断としては、80年代以前のピートを効かせたアードベッグが、
マーケットに受け入れられず、操業停止に追い込まれたというものだった。
それで、ポートエレン・モルティングから調達するモルトのピートの使用量を減らしたと。
I:メモメモ(笑)。
マ:グレンモーレンジが、アードベッグを買収したときに、
本来のアイラ最強のピートにしなければいけないと言って、
フィノ値を最高レベルにしたということですね。
K:フィノ値はどのくらいなんでしょうか?。
マ:おそらく50ppm以上じゃないかと思います。
K:アライドの頃は、どのくらいですか?。
マ:そうですね。
当時は、アライドグループのラフロイグ蒸留所から、アードベッグに製造要員を
派遣していましたので、ラフロイグと同じくらいのフィノ値だったとすれば、
35ppmくらいだったんじゃないかと思いますね。
K:なるほど。
I:そういえば、あまり乳酸ぽさも感じませんね。
マ:良い指摘ですね。
個人的には、グレンモーレンジが買収してからは、使用している樽の品質も
向上しているだろうと思っています。
K:香りには白葡萄があるね。絞りたてのフレッシュジュース。
マ:良い香りですね。
K:味わってみましょうか。S:鉛筆の削りカス、ウッディ。あと、鉛筆の芯。
クリーンな感じがあって。
K:するね、鉛筆の芯。
でも、正統派という感じの酒質。
十分にモルティで、ニュー・ポッティではなくて。
マ:乳酸臭さも、カビくささもなくて。
K:Sさんの仰る通り、クリーンですね。
マ:ウーガダールをここで飲んだ時に比べれば、
今日のベリー・ヤングのほうが高く評価できますね。
K:ただ、あれは順番が悪かったからね。
マスキングされてしまったから、正当に評価できたとは言いにくかった。
S:前に封空けされていたし、誰かさんに。
K:それは、味わいの評価とは関係ないんじゃないかな。
僕は、今でもシェリーとバーボンとのバランス、コストパフォーマンスの点では
ウーガダールを高く評価していますよ。
まあ、マスキングも、良い勉強になりましたよ。
S:並べたバーテンダーに文句を言ってください(笑)。
K:将来がとても楽しみですね。
この酒質で、10年、12年、15年と熟成していったらどうなるか。
マ:甘いですね。
乳酸臭さもないから、良い出来ですね。
S:最後に葡萄の種もある。
マ:やばいな。
これ、旨すぎたから。
K:どういう意味で。
マ:最終回なのに、オチが付かないから(笑)。
S:葡萄の種は、香りにも、余韻にもあるね。
K:そうですね。
白葡萄のジュースみたいだし。
マ:アイラモルトだから、6年熟成でも十分に美味いですね。
90年代にオープンした蒸留所のことを考えたら、
個人的にはわざわざVery Youngを名乗る必要もないように思いますけどね。
K:アードベッグは、オフィシャル30年でも感じますけど、
Young Oldという言葉にこだわりがあるみたいですね。
マ:そうですね。
8年熟成がYoungだから、6年でVery Youngにしているということでしょうか。
I:なるほど。
S:このVery Youngアードベッグは、ファースト・フィルの樽だけを
ヴァッティングしているとのことです。
K:そうですか。
ただ何樽のヴァッティングか、何本瓶詰めされているかは、わからないんですよね。
S:そうね。
K:この色と香り・味わいですから、バッティングされているのは
バーボン樽だけですよね。
マ:そうだろうと思いますね。
S:ただ、バニラを感じない。
ちょっと不思議ね。
マ:全てファースト・フィルの樽を使っているのに、
色があまり出ていないところも不思議です。
S:確かにそうね。
マ:名残りは尽きませんが、そろそろ最終回の締めくくりに行きましょうか。
それではIさん、どうぞ。I:今日の1番は、トップ・ノッチです。
ぞっこんですね。
プレゼントしてくれる人をまず探して、見つからなかったら、
貯金をおろして買いに行きなす。
S:早く行かないと売り切れちゃうよ(笑)。
I:それで、今日の2番めはアードベッグです。
甘い、すっきりした感じが良かったですね。
S:カリラが2番目じゃなくて、ホッとしたよ(笑)。
I:3番目は、フル・シェリーのカリラです。
みなさん、アンバランスとか仰いますが、私はこのコッテリとしたところが良かったです。
マ:1人くらい支持する人がいないと、バランスが取れないしね。
I:4番目は、タリスカーですが、これもとても美味しいと思います。
ただ、最近の私は、シェリーにベタベタなもんで。
マ:最初の1本をお忘れでは?。
I:10のアルテミスですね。
あれは別格なんで。123本のモルトのエッセンスが詰まっていて、
えも言われぬ美味しさでした。
マ:Kさんは、いかがでしたか。
K:今日の5本のうち、自分の持ってきたものは除きますね。
今日飲んだ4本は、3本がアイラで、1本がアイランド。
ラインアップが、モルトハウスISLAYのテイスティング・ルームの最終回に
ピッタリだと感じました。
I:なるほど。
K:しかも、シェリー樽熟成が2本、バーボン樽と推測されるものが2本で、
バランスも取れている。
S:1本だけ、アンバランスと思うけど。
K:まあ、まあ。
それで、最終回の教訓としては、ラベルのカッコ良さだけで選ぶと外れることも
あるということですかね。
1ショット飲んで選べば、絶対に外れることはない。
S:確かめていたら、売り切れてしまっていて、買えないこともある。
これも教訓。
特に、美味しいものほど買えなくなる。
K:教訓となった1本を除いて、あとの3本は、最終回に相応しい、
とてもハイレベルなものであったと思います。
最初に飲んだタリスカー1979は、3年前に飲んだときの印象よりも、
しっかりとした存在感を感じさせてくれたように思います。
トロリとしたボディ、胡椒っぽい辛さ、大人しいけれども、唸らせる
だけのものがありました。
マ:そうですね。
K:Sさんが、持ってきてくださったアードベッグの6年は、
バーボン樽のファーストフィルだけを使っているだろうと推測されるわけですが、
丁寧に作られた原酒を、上質の樽で熟成されているように思います。
スモーキーなピート、フレッシュな白葡萄のジュース、クリーンな印象。
まったく雑味を感じさせない。
あと5年、あと10年後にリリースされるであろうオフィシャルの
アードベッグが今からとても楽しみです。
3本のハイレベルな戦いのなかで、首ひとつ抜け出しているのが、
トップ・ノッチのポートエレンです。
シェリーのエキス、葡萄のフルーティさ、スパイシーさ、
いろいろの表情が楽しめて、一口ごとにボディと旨みが増してくる。
この立体感が出てくるところが面白いと思いますね。
今日が最終回ということで、本当に残念ですが、
この3年数ヶ月は、本当に勉強になりました。
みなさん、本当にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願いします。
S:来月から、月1回名古屋のバー探訪に行きますので、よろしく(笑)。
K:Eとか、Nとか、Bとか。
いろいろありますので、ご案内しますよ。
一緒に、モルト・トレイルしましょう。
マ:うちのサイトにも、名古屋の情報を寄せてくださいね。
K:そうですね。
わかりました。
S:いよいよ、最後の締め括りね。
今日飲んだなかで、わしが一番意外だったのは、Kさんの持ってきた
Decenial Artemis of Scotland。
マスターも、言っていたように、これまでの経験では、いろいろな原酒を
混ぜれば混ぜるほど、美味しくならないんだろうと思っていた。
最初の香りと味わいは、繊細で本当に美味しかった。
後半に少しエグミは出るけど、気になるほどではないし。
K:ありがとうございます。
S:で、サウンド・オブ・アイラは置いといて(笑)。
残りの3本は、全部グッド・ベリーグッドにした。
トップ・ノッチのポートエレンは、複雑な味わいで、厚みもあって。
わしの嫌いな硫黄ではなく、わしの好きなレザーとラバーだったんで、よかった。
I:革とゴムですか。
うふふ。
S:ははは。
一応、SMファンなもんで。
Single Malt(爆笑)。
S:タリスカーの方は、最近のタリスカーが失くしてしまっている
タリスカーらしさがあって、良かった。
黒胡椒がしっかりとあって。
K:そうですね。
それは、僕も同感。
S:Very Young Ardbegは、全てファーストフィルというところが、意外に感じられた。
鉛筆の削りカスとか、もうちょっと時間の経過した樽のような個性もあった。
それから、バーボン樽特有のヴァニラは、もしかしたらKさんの言われた
白いグレープジュースに変化したのかも知れない。
それから、クリーンな印象が、とても新鮮だった。
若さはあるけれど、美味しい若さ。
K:若さといっても、ニュー・ポッティじゃないところも良いですよね。
S:そう。そのとおり。ストレートでクリーン。
以上です。
K:本当にお世話になりました。
I:ありがとうございました。
S:かえす返すも、残念ね。
マ:また、やりましょうね。
一同:賛成!。終わり