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■ リサーチダイバーの安全確保
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▼ 1.安全確保の重要性と管理責任
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◆ 1−1 安全の追求は最優先されなければならない。
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当然のことであるが、どんなに優れた調査研究活動を水中で実施したとしても、従事した調査員に事故が発生すれば、調査の続行ができなくなるばかりでなく、社会的にも大きな責任を負うことになる。
調査作業に熱中すると、データ収集第一、安全第二になりがちである。安全第一は唱えるだけでなく、実行すること。無事にデータを持ち帰ることが、大前提として調査が行われているのであり、安全の追求と確保が最優先されなければならない。


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◆ 1−2 管理責任
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 作業潜水とレクリエーションダイビング(スポーツダイビング、レジャーダイビングとしても同じ)、まず潜水を大きく二つに分けて考える。
 作業潜水は、行うべき目標の実行と完成が、任務として指示され命令されている。レクリエーションダイビングでも、水中撮影など目標は設定しているだろうが、それは自由な自分の意志で実行するものであり、誰からも命令されているものではない。また、レクリエーションダイビングでも実施前の打ち合わせで、いくつかの指示が出されるであろうが、指示のほとんどが安全確保のためのものであり、目標実行を命令強制する指示は出されない。作業潜水でも指示された潜水が危険であればそれを拒否することはできるが、仕様書、作業指示書などによって約束されているから、いずれは実行し完成させなければならない。作業の実施には納期があり、費用対比効果も考えなくてはならないから、ある程度無理を承知で実行しなければならない場合もある。
 レクリエーションダイビングでも技術の講習の場合は、初級講習であっても、中級、上級、あるいは指導者になるための講習であっても、教師(インストラクター)の指示は守らなければならないものと考えられるので、事故が発生した場合には教師の責任が大きく取り上げられる。初級講習が修了して、一人前の判断ができると認定された後には、上記講習以外の水中活動では、起こった事故の責任は、本人がその大部分を追うことになる。つまり自己責任が、スクーバダイビングの原則である。
 作業潜水では、もしも事故が発生すれば、その作業を指示し命令した事業者(事業者については、後で労働安全衛生法の項で述べる)が、その指示や命令に無理が無かったかどうか、現場、職場の安全管理が適正であったかどうか、その管理責任を追及される。
 レクリエーションダイビングでは、写真コンテスト応募のための撮影で無理をしても、それは本人の責任である。
 もしも、健康上の理由で事故が発生した場合、作業潜水であれば健康診断が適切に実施されていたか否か、また、健康管理が適切であったかどうか、事業者の責任が問われる。レクリエーションダイビングでは、健康診断を行わなかったとしても、(指導者は健康診断を受けることを薦めはするが、強制はできない)それは事故者本人の責任であるし、健康管理も原則として本人の責任である。


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▼ 2.スクーバダイビングの特性
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◆ 2−1 作業潜水の定義
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スクーバは作業潜水には向いていないという。それでは、作業潜水とはなにか。
 作業潜水とは、なしとげなければならない明確な任務を持つ潜水である。作業潜水の対極にあるレクリェーションダイビングは、任務として潜水するのではなく、自由な意志で、主として楽しみのために潜水を行うものである。したがって、レクリェーションダイビングは、いつでも好きな時に自分の意志でダイビングを切り上げることができる。すこしでも安全が疑われる状況になったらすぐに引き返せるし、また引き返さないといけない。だから、レクリェーションで死亡事故を起こす者は、どこまでやったら危険なのかを知らない無知であったことを物語る。一方、任務のある作業潜水では、危ないからといって、任務を簡単にほうり出してしまうわけには行かない。危険と任務の実行とを秤にかけて、なんとかして危険を避けて任務をなしとげようとする。スクーバダイビングでは、その判断はすべて、ダイバー自身に任せられているのであるが、忠実に任務を実行しようとすると、どうしても危険な方へ、秤が傾いてしまいがちである。
 作業を管理する側の立場では、作業潜水にスクーバは使いたくない。その理由は二つあり、一つは前述したように、任務を実行しようとすると、どうしても危険な方へ秤が傾いてしまい、それを止めることができにくいことである。そして、もう一つは、ダイバーの潜水できる時間が、背負っているスクーバタンクの容量で制限されてしまうことである。
作業潜水というと、あまりにも港湾作業のイメージが強いが、調査研究の為の潜水も作業潜水である。業務としての水中撮影も作業潜水である。


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◆ 2−2 作業潜水器材の変遷
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 本格的な作業潜水はヘルメット潜水で始まった。ヘルメット式潜水器の歴史はおよそ200年、船の修理、サルベージ作業で始まり、水産に関連しては、アワビやウニを採る「海産潜り」として普及した。
 やがて、より軽量な器材で潜水しようとマスク式潜水器が考案された。空気の消費量が少なければ少ないほど深く潜ろうとする時には有利になる。ヘルメットは、大きなヘルメットの中を換気しなければならない。小さいマスクは、ヘルメットとは比べものにならない程換気に必要な空気が少なくてすむ。つまり、小さいマスクの方が空気の消費量が少なくてすむ。
水産業に関連しては、空気消費量が少なくて、深く潜れる大串式、山本式のマスクが定置網の潜水に用いられた。定置網は少なくとも水深50mまでは潜水しないと仕事にならない。ヘルメット式では、水深50mは限界を越えている。戦前から戦後にかけて、マスク式潜水については、日本は先進国であった。しかしながら、医療の設備も知識も不完全な当時である。減圧症患者も続出したはずである。本当に命がけ、健康をかけての潜水であった。
 テングサ、トコブシ、アワビ・サザエなどの海産物採集には、浅利式マスク(後に旭式)、海王式マスク(後に金王式)が、伊豆を中心にして盛んに用いられ、現在でもそのまま用い続けられている。
また、旭式は、自転車の空気入れよりも一回り大きい程度の小さな手押しポンプで水深3m程度まで潜水できるユニットを開発し、潜水服もセットにして、北洋で活躍するサケマス独行船のスクリューに絡まる刺し網の除去に使用されて、大きな効果を発揮した。
日本で開発された、これらのマスク式潜水器は、フィンを使って泳ぐ発想がなかった。フィンを使えば、これらマスク式でも泳げたのに、足首に重い鉛を取り付けて海底を歩いた。フィンで泳ぐ潜水は、1950年代にスクーバとともに日本に入って来たのが始まりである。
スクーバによって、泳げる者ならばだれでも、科学者であろうが、スポーツマンであろうが、水を泳ぐのと同様に水中を泳ぎ、自由に水中で活動することが可能になる。これまで、潜水というと専門の潜水士だけが行い得るものと考えられていたのだが、スクーバによって、これがすべての人に開放された。
一方で、港湾土木作業は、ヘルメット式潜水器がほとんどを占めており、マスク式潜水器が入り込む余地はなかった。ヘルメット式潜水器が行う港湾土木作業の中心は、「石ならし」または「石張り」と呼ばれる作業である。海底に構造物を置いて構築する場合、まず海底を平らにならさなければならない。石を敷き詰めて平らにする。海底で石を動かす時に、だぶだぶのヘルメット潜水服に空気を入れて、その浮力で持ちあげることが出来るので、「石ならし」の仕事にはヘルメット式が適している。
ヘルメット式の最大の欠点は、技術の習得に時間がかかることだ。二三年の経験では、子供扱いだ。一方、スクーバは、1年の経験で指導者になることも可能である。
今ならば未だ、「石ならし」の現場に行けば、熟達した60歳代、70歳代のヘルメットダイバーたちが元気に働いているが、やがては、伝統芸能?として保存しなければ、見られるところがなくなってしまうだろう。
 ヘルメット式潜水のダイバー人口は、千人を切っているだろう。一方、スクーバダイビングの人口はどんどん増加している。
 しかし、スクーバを作業潜水に使うには、安全管理の上で問題があった。前項で述べたように、@船上、岸の上からの責任を持った管理ができないこと。自己責任ですべての安全管理が行われるというと格好が良いが、水面で監督する者としては、糸の切れた凧のようなものである。A潜水時間に限りがあること、の二点である。
しかしながら、とにかくフィンで 泳ぐというコンセプトは非常に魅力があり、かつ有効である。定置網に使った山本式でも、大串式でもフィンで泳いだならばもっと効率の良い運用が出来たはずであった。
後から考えて見れば、軽量の潜水器をつけて泳ぐためには、とにかくフィンを履けば良いだけのことだった。旭式でも金王式でも、フィンを履いて泳いでみたら、とても快適であった。
 これらのマスク式と、スクーバとのもう一つの大きなちがいは、デマンドレギュレーターの使用である。スクーバではダイバーが吸い込んだ時だけ空気が供給され、吐いている時、呼吸していない時には空気の供給は停止しているデマンドバルブと呼ぶレギュレーターが使われている。一方、従来のマスク式潜水器では、空気は常時流れているので、フリーフロー式と呼ばれる。消費される空気の量はいうまでもなくデマンド式の方が小さい。空気消費量が小さいことは、深く潜る時には絶対に必要な条件である。
先にあげたスクーバの作業潜水用潜水器としての欠点は、空気の量が限られること、連絡がとれないことであった。これも簡単に解決できる。背中に背負っているタンクを水面・船上に移して、ダイバーと船上の間をホースで繋いでやれば良い。つまり送気式にすれば良いのだ。これで空気量は無限になる。デマンドバルブを使って空気の消費量を抑えてやれば、コンプレッサーは小さいものですむ。
こうしてホースでデマンドバルブに空気を送る潜水器が出来あがった。これをフーカー式潜水器と呼んでいる。
現在、作業潜水の潜水器のほとんどが、ヘルメット式からこのフーカー式に移り変わりつつある。作業潜水のもう一つの必須事項は、船上の監督と水中のダイバーが交話できることであるが、これは、顔の全面を覆うフルフェースマスク、つまりマスク式のマスクを進化させたものを使うことによって可能になっている。
さらに、現在使われている作業潜水用のフーカー式は、ホースで空気を送りつつ、背中に小さいタンクも背負っている。これは、もしもコンプレッサーが停止したり、ホースが岩の下敷きになったりして拘束された時にホースを切りはなして、このタンクの空気で水面に浮上するためのものである。スクーバと同じデマンドバルブを使っているので、このようなこともできる。


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◆ 2−3 スクーバの長所
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作業潜水用の潜水器として、送気ホースが必要であり、連絡通話が必要であることを述べたが、スクーバの圧倒的な長所は、実はこの送気ホースがなくても潜れることなのである。徹底した独立性がスクーバの特色であり長所である。
 例えば、現在レクリェーションダイビングのメッカとも言われている沼津の大瀬崎には、年間で9万人ものダイバーが訪れる。日曜休日には、数百人のダイバーが同時に潜水している。もし、送気ホースが必要であったならば、数百本のホースが交錯することになり、数百台のコンプレッサーが岸辺で回転していることになる。レクリェーションとしてのダイビングの成立は、ホースが無いことが条件になっている。
 調査の為のダイビングも送気ホースの無いスクバの手軽さに頼っている。
 送気ホースがあるということは、必然的に船の上にコンプレッサーが必要であるし、船上とダイバーを連絡するホースを操作する連絡員と、そして後述する法規によれば、送気バルブを操作する送気員も必要になる。一人のダイバーを潜らせるために別に2名の要員が必要になる。これによって、確かに安全度は向上するが、予算的に実行が難しくなる。 スクーバならば、タンクと軽量な潜水器材をボートに積み込んで、それで全てだ。
さらに、スクーバは岸から水に入り、沖に向かって泳ぎだして行き、広範囲を調査することもができるが、送気式では難しい。潮間帯に近い浅瀬の調査は、送気式では困難である。
 スクーバでなければ、現在実施されているほとんどの潜水調査作業は事実上出来ない。
 スクーバでは安全の確保が、潜水する各ダイバーの自己責任にかかっているのだから、安全管理がダイバー本人にすべてお任せになってしまうのであるから、自己管理が出来るダイバーの錬度がまず大事である。調査の難易度を正確に判断して、難易度に対応した錬度を持つダイバーが、安全確保の手段を十二分に講じて、慎重に行わなければならない。



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▼ 3.法規的に見た安全確保
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◆ 3−1 労働安全衛生法
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「労働安全衛生法の目的は、労働災害の防止と、快適な職場環境を形成し労働者の健康を確保することである。」この目的を達成するために、@事業場内の責任態勢の明確化、A、危害防止基準の確立、B事業者の自主的活動を促進させる。要するに、事故を防ぐための具体的な方法と手段を基準化して、それを守らせる法律である。
この法律に基づいて労働一般の基準、規則として、労働安全衛生規則が定められている。危険が大きいと考えられている潜水に関連しては、特に高気圧作業安全衛生規則が定められている。
 ダイバーが労働者として、圧縮された気体を呼吸して行う潜水は、潜水器の種類、業務の内容にかかわらず、すべて潜水士の資格が必要とされる。この資格を持たない者を潜水作業に就業させれば、事業者は処罰される局面がある。
 例えば、水深1mのプールの掃除を、スクーバを使って学生がアルバイトをする場合には潜水士の資格が必要である。一方、深さ10mまで、海士さんが素潜りで潜水してアワビ漁をおこなっても、これは、圧力のかかった気体を吸い込んでいないので、潜水士の資格は必要ない。
 ここで、労働者と事業者について述べておこう。働いて賃金を得ている人はすべて、労働者である。プロ野球の選手は労働者である。高校の野球選手は労働者ではない。
 先の例で、プール掃除をしているアルバイト学生は労働者であるが、ボランテイアとして、クリーンアップ活動に参加して掃除をしている人は、労働者ではない。
 ダイビングのインストラクターは労働者である。ダイビングツアーの引率者も労働者である。引率されてダイビングを楽しんでいる人は、労働者ではない。賃金をもらって調査を行うダイバーは労働者である。卒業論文のために調査を行う学生のダイバーは、労働者ではない。労働者出なければ、潜水士の資格は不要である。
 潜水士の資格は、労働を行うための資格であるが、フリーターという職業?もあるくらいで、世の中は、アルバイト全盛である。労働と遊びの間の壁は低くなっている。せっかく習い覚えたダイビング技術である。仕事があればやってみたい。最近では、潜水士の資格試験を受ける者も、一般のレクリエーションダイバーがとても多くなった。作業ダイバー予備軍というところだろう。

 潜水士の資格試験は、発足した当初は、委託して行う試験であったが、その後国家試験になり、所定の試験場に出向いて受験する。国家試験としてはやさしい類であるが、潜水漁業を行っている漁業者などは、受験の経験が少ないので合格するのに苦労している。
 なお、この資格の、受験課目に実技は要求されていない。実技は民活にまかされている。実技までを官が管理すると、技術の進歩がまったく停滞してしまうだろう。その意味では、進んだ制度と言えるかもしれない。


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◆ 3−2 ダイバーの健康管理と健康診断
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 潜水事故の原因を大別すると、健康異常、つまり病気、無知と技術未熟、思いあがり、三つに分けられる。事故原因の説明図参照。
 病気による事故の防止は。健康診断を定期的に行い、健康管理を適切に行うことに尽きるが、これは、規則によって義務づけられないとルーズになってしまう。健康管理・健康診断についても労働安全衛生規則で基準が定められており、義務づけられている。
 労働者(潜水士)に規則に定められたとおりの健康診断を受けさせ、適切な健康管理を行うのは、事業者の責任である。
 労働安全衛生法をはじめとする労働関係の法規の世界は、労働者と事業者で成立している。労働者は、雇用され仕事をして報酬を受けている者であり、個人である。事業者は、労働者を雇用している者であり、株式会社とか有限会社とか法人である。完全な個人経営の場合は事業者も個人になるが、それでも何何商店とか何何組とか法人格に近い名称で呼ぶような組織となっていることが多い。
 潜水士の受験に合格して喜んでいればそれで終りということでは困る。労働につく場合には、規定の健康診断を受けなければならない。もしも、事業者がこれをおろそかにしていた場合には、正当な権利として健康診断を受ける請求をする必要がある。そのための知識であり、資格である。事業者も潜水士を雇い入れればそれだけで良いと言うものではない。規則どおりの健康診断を受けさせなければいけない。
一般の人たちは、勤務を開始した時に1回目、その後は、1年が経過する毎に1回づつ、定期的に健康診断を受ける。このことは、労働安全衛生規則で定められている。いうまでもなく、労働安全衛生規則は、潜水士のためだけのものではなく、日本全国全ての労働者のための規則であり、潜水士はその中のほんの一部分である。この健康診断を便宜的に一般健康診断と呼ぶことにする。潜水士は、健康を損ねやすい有害な業務に従事しているという理由で、一般健康診断を受けた上にさらに潜水業務を開始した時、その後は六ヶ月毎に一回づつ定期的に特別な健康診断を受けなければならない。このことは、高気圧作業安全衛生規則で定められている。これを潜水士の健康診断と便宜的に呼ぶことにする。
潜水士は、一般健康診断を年に一回、その上に、潜水士の健康診断を六ヶ月毎に一回づつ、つまり、年に3回の健康診断を受けることになる。
高気圧作業安全衛生規則で定めるところの、潜水に不適な疾病は、以下のとおりである。

1 減圧症その他高気圧による障害又はその後遺症
2 肺結核その他呼吸器の結核又は急性上気道感染、じん肺、肺気腫その他呼吸器系の疾病
3 貧血症、心臓弁膜症、冠状動脈硬化症、高血圧症その他血液又は循環器系の疾病
4 精神神経症、アルコール中毒、神経痛その他精神神経系の疾病
5 メニエル氏病又は中耳炎その他耳管狭窄を伴う耳の疾病
6 関節炎、リュウマチスその他運動器の疾病
7 ぜんそく、肥満症、バセドー氏病その他アレルギー性、内分泌系、物質代謝又は栄養の疾病

もしもレクリェーションを楽しむダイバーが慢性の心臓疾患で、潜水中に発作を起こした場合、それが悲劇的に結末になったところで、引率しているインストラクターがその発作そのものについての責任を追求されることはない。しかし、これが作業潜水の労働者の場合であると、健康管理が適切であったかどうか、また心臓疾患を見抜けなかったことの責任を追求される。もしも、健康診断の書類が入社以来六ヶ月毎に診断が適正に行われているように連続していないならば、問題になる。
、事業者にとって、ダイバーの健康管理は最も優先されるべき安全確保事項であるが、なによりもダイバー本人が十分な自覚を持つことが必要である。
 喫煙は、循環器系統の病気(心臓および脳の動脈硬化、心筋拘束など)を促進するので、長く潜水の世界で仕事を続けようとするのであれば、直ちに止めなければならない。深酒も、一般的な意味で健康に悪いだけでなく、酔いが残っている状態で潜水すると、減圧症が促進されてしまう。


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◆ 3−3 減圧表について
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高気圧作業安全衛生規則(以下では簡略にわかりやすくするために、潜水士の規則と呼ぶことにする)が作られた大きな目的の一つは、減圧症をはじめとする潜水障害の予防である。
 潜水士の規則では、減圧症予防のための減圧表が定められている。もしも潜水事故が発生すると、労働基準監督署は、潜水士の規則で定められている減圧表にしたがって潜水が適正に行われたか否かを調べる。
 ところが、現在のスクーバダイビングは、プロレベルであればほとんどの場合、減圧コンピューターに従って減圧を行っている。潜水士の規則に示されている減圧表に準じたコンピューターがあれば良いのだが、今後ともこれが製作される見込みはない。
 現在、世界的にプロのダイビング用として、最も広く使われている減圧表は、米国海軍の標準空気減圧表であるが、これと、潜水士の規則の減圧表は数値が比較的近い。減圧コンピューターに内蔵されている減圧表も米国海軍の減圧表に比較的近いので、減圧コンピューターを使っていても、実質的には潜水士の規則からそれほど逸脱しているとは思われない。もしもの場合には、こんな弁解をして許してもらうしかないだろう。
 減圧コンピューターは、減圧停止の指示だけでなく、水温、潜水時間、潜水深度の記録も行ってくれるし、ラップトップコンピューターに接続して、潜水データを記録し処理することもできるので、調査の記録装置としても有用である。
  空気に余裕があるならば、減圧コンピューターが浮上を許可しても、さらに5分から10分、余分に最終停止を延長する。たとえば、3mで5分の停止が指示されていれば、プラス5分で3mで10分停止してから浮上する。この停止時間延長をセフティストップと呼んでいる。


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◆ 3−4 潜降索 (さがり綱)
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元来、この潜水士の規則は、送気式のヘルメット潜水を対象にして生まれた。以後、スクーバやフーカー式潜水が主力となるにしたがって少しづつテキストの改訂を行ってきたが、基本的な変更はしていないで増改築をしてきたようなものだから、混乱している部分がある。私たちとしては、混乱をときほぐしつつ、規則を最善に運用しながら安全確保を策して行かなければならない。
ヘルメット式潜水では、潜水墜落と吹上げが、重大な事故の原因になっている。どちらも、潜水服中の空気の膨張と圧縮のためにバランスを失った結果である。これを避けるために、アメリカ式のヘルメット潜水では、ダイバーの海底への昇降は、簡単な台(ステージ)に乗ってデリックで上げ下げする。一方、日本のヘルメット潜水は、イギリス式で、服の中に空気を出し入れして中性の浮力を作り、自力で潜降したり浮上したりする。
イギリス式の方が格好が良いし効率的であるが、一歩間違うと墜落事故を起こしてしまう。そこで、必ずロープを海底に降ろして、ロープを伝わって昇り降りを行い、墜落と吹上事故を防止しようとした。だから、潜降索の使用が規則に明記されている。
「第33条 事業者は、潜水業務を行うときは、潜水作業者が潜降し、及び浮上するためのさがり綱を備え、これを潜水作業者に使用させなければならない。」
※ 規則では、潜降索のことを「さがり綱」と呼んでいる。これはヘルメット潜水の用語である。また、降下索と呼ぶ場合もある。
「事業者は、前項のさがり綱には、別表第2の浮上欄に掲げる水深ごとに水深を表示する木札又は布などを取りつけておかなければならない。」
別表第2に掲げる水深とは、24m、21m、18m、15m、12m、9m、6m、3mであり、3m間隔になっている。
 規則には、ヘルメット式はとか、スクーバはとか、特定していないので、潜水器の種類にかかわらず、とにかく潜降索が必要と解釈する。

 スクーバは魚のように水中を自由に泳ぎまわるのが特徴で、墜落と吹上の心配が一切無いというのが特色である。その後、BCDやドライスーツを多用するようになり、ある程度は墜落と吹上の心配もしなければならなくなったが、原則として、墜落・吹上の心配が無いスクーバでは、潜降索など使ったことのないダイバーがほとんどである。にもかかわらず、潜水士の規則では、スクーバであろうとマスク式であろうと、潜水器の種類にかかわらず、潜降索の使用を義務づけている。
 
スクーバでは、潜降索などいらないと考える人が多いのだが、スクーバダイビングでも、潜降索のおかげで命をひろう事態が考えられる。
 スクーバダイビングの事故で、航行するボート、漁船などと衝突される事故がある。潜降索を伝わって浮上すればこの事故を防ぐことができる。また、後述するように、初心者の講習でも潜降索の使用は、肺の圧外傷事故の防止に役立つ。
 船との衝突事故に関連して、船のスクリューがダイバーを傷つけたり、ホースを巻き込んで切断したりすることのないように、作業に使うダイバー専用船にはスクリューカバーが取り付けられている。スクリューカバーを取り付けると推進効率が著しく劣化して、速度が落ちるので、走行中には取り外し、ダイバー作業に入るときには取り付けられるように巧みに工夫されている。
 調査のためにチャーターする漁船などは、ダイバー作業専用の船ではないので、スクリューカバーなどは取り付けていない。スクリューがダイバーを傷つける可能性もある。潜降索を使用して、必ず潜降索に沿って浮上すれば、スクリューで切られることは無い。
 実際に行われている魚礁調査などでは、まず魚探などで調べて魚礁の位置を確認し、浮標を入れる。浮標の錘は、ダイバーが数人つかまっても動かない程度の重さとし、浮きもダイバーがつかまっても沈まない程度のものにする。浮標がまっすぐに立つように、重錘と浮標を結ぶロープを水深と近似の長さにちじめる。
ダイバーは、この索に沿って潜降し、この索にガイドロープを結び付けて、ガイドロープを伸ばしながら海底を移動して調査を行う。ガイドロープは、いわゆるトワインと呼ばれるもので、太さ5mm程度長さは30mぐらいのものを用意しておく。調査を終了したら、ガイドロープを巻き取りながら浮標の位置にもど利、浮上する。
造成漁場調査でもいろいろなやり方があろうが、上のような方法が一般的であり、かつ安全性の高い方法である、浮標のロープは、潜降索と考えられるから、潜水士の規則にも則ったものになる。
浮標のロープの太さは、10mm程度とし、水面近くでは、3m毎にビニールテープなどで印を付けておく。
アンカーと潜降索を兼用させることはできない。まず、規則違反になる。そして、アンカーロープは垂直に立てることはできない。また、ダイバーが調査中であってもアンカーを上げて船を動かさなければならない事態も考えられ危険である。

 
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◆ 3−5 救命胴衣
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BCDと呼ばれている浮力調整具が普及して、救命胴衣、ライフジャケットという言葉がダイビングの世界で使われなくなってしまった。
 規則では、使われなくなってしまった言葉で呼ぶ救命胴衣を着けなければいけないことになっている。救命胴衣の代わりにBCDを着ければよいのであろうか。BCDは救命胴衣から進化して来たものであり、BCDは潜水用の救命胴衣の理想形の一つである。 だから、当然BCDは救命胴衣である。ただ、レクリェーションダイビングの指導団体がBCDは浮力調整具であり、救命胴衣ではないなどと言うから話が混乱してしまっている。
 BCDではあっても、胸にかける方式のホースネック型のものは救命胴衣の形をしている。プロのダイバーでは、この胸にかける式のホースネック型を愛用している人もいる。ホースネックのBCDは、普通のBCDの価格の五分の一以下である。
ドライスーツを着た場合、服の中に空気を入れて、ある程度は浮力調整ができる。だから、ドライスーツを着ていれば救命胴衣は必要無いと勝手に考えているダイバーもいるが、これは認められていない。BCDは救命胴衣であるが、ドライスーツは救命胴衣ではない。


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◆ 3−6 バディシステム(二人一組の潜水)
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スクーバは、水面との直接連絡が無く、支援が受けられない。誰も助けてくれる者がいないから、二人一組で潜水して互いに助け合うバディシステムで潜水しなければならない。この原則は、レクリェーションダイビングでもプロの潜水調査でも同じことである。
 ただし、有線の通話装置を着けた場合は、一人で潜水しても良い。送気式と同様に、水面からの支援が得られるからである。
 ホースを使うフーカー式の場合には、二人よりもむしろ一人で潜ることが推奨されている状況がある。濁った水の中で二人一組では、ホースが絡んでしまうからである。
潜水士の規則でも、テキストには、バディシステムは義務づけられているように記載されているが、規則として明記されていない。
 国家試験の問題はテキストから出題されるから、テストの問題ではバディシステムは厳守である。しかし、 バディシステムをとらずに事故が発生した場合に、規則に明記されていない以上は、違反にはならないだろう。
 次の項で述べる海上交通安全法に従って、海上保安部に潜水作業の許可申請を行う場合、安全対策について、どのように行うか明記しなければならないが、この部分には、二人一組のバディシステムを遵守するように指導される。もしも、バディシステムを守らずに事故を起こした場合には、ここで問題になる。
 プロの作業潜水でもバディから離れて、一人になった瞬間に事故が起こることが多い。状況の許す限りバディシステムは遵守しなければならない。

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◆ 3−7 労働安全衛生法の遵守
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潜水士の規則はスクーバのために作られたものではない。ヘルメット式の基礎の上に増改築を重ねたものだから整合性の悪いものになっているが、それでも、この規則どおりに潜水していれば、事故が起こる確立は小さい。規定どおりの健康診断を行い、規則正しい生活をして健康を保ち、規定どおりに減圧停止を行い、必ず潜降索に沿って潜降浮上を行い、整備の充分な器材を使い、必ず水中ナイフを持ち、二人一組で協力し合って作業を行えば、一応の技術水準に達したダイバーであれば、事故を起こしたくても起こらないだろう。
 健康診断は受けず、酒飲み、タバコのみほうだいの生活をして、潜降索は使わず、救命胴衣は着けず、水中では離れ離れで一人だけ、それでもほとんどのダイバーは事故を起こさない。こんなにいいかげんで良いのだから、潜水とは相当に安全なものだと安心してしまうと 危ない。


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◆ 3−8 海上交通安全法
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 交通量の多い港付近の海難事故(主に衝突事故)を防止するために港則法が定められており、船の往来が厳しく規制されている。規制と取締りを行うのは海上保安部である。港の中とほぼ同等に衝突事故の発生が心配される東京湾、瀬戸内海、伊勢湾、大阪湾を対象として海上交通安全法が定められている。港則法の適用範囲が拡大されたものだと思えば良い。
 ダイバーにとって恐ろしいものの一つは、浮上した水面において、走っている船に轢き殺されることである。また、ダイバーを潜水させている船も、一定箇所に留まっていなければならないから、他の船に衝突されることが恐い。
 港則法及び海上交通安全法が適用される水域に潜水する場合には、事前(原則として一ヶ月以上前)に所定の書式で、作業の目的、安全管理の方法、潜水の方法、使用する機材、船舶、従事する作業員(潜水士、潜水要員、船舶要員)の名簿などをそろえて、許可を申請しなければならない。一ヶ月以上前にと言う意味は、その間にその水域を航行する船舶に対して、作業が行われることを通達しなければならないからである。
 潜水士を潜水させている船は、前述のように自由に動き回ることができない。別の船舶が接近してきても逃げられない。だから、潜水士を潜水させる潜水船のほかに、潜水船の周囲を監視し、接近してくる他の船舶にコース変更を呼びかける監視船が必要になっている。またその監視船には、海上保安部が行う所定の講習を受講した、受講証明書を保持した者を乗せて、監視に当たらせなければならない。
 許可を申請する書類は、潜水作業のほとんどすべての計画内容を示しているものを所定の書式で制作する。

 交通量の多い港内、及び港の付近の海難事故(主に衝突事故)を防止するために港則法が定められており、船の往来が厳しく規制されている。規制と取締りを行うのは海上保安部である。港の中とほぼ同等に衝突事故の発生が心配される東京湾、瀬戸内海、伊勢湾、大阪湾を対象として海上交通安全法が定められている。港則法の適用範囲が拡大されたものだと思えば良い。
 
 港則法及び海上交通安全法が適用される水域に潜水する場合には、事前(原則として一ヶ月以上前)に所定の書式で許可を申請しなければならない。一ヶ月以上前にと言う意味は、その間にその水域を航行する船舶に対して、作業が行われることを通達しなければならないからである。
 潜水士を潜水させている船は、自由に動き回ることができない。別の船舶が接近してきても逃げられない。だから、潜水士を潜水させる潜水船のほかに、潜水船の周囲を監視し、接近してくる他の船舶にコース変更を呼びかける監視船が必要になっている。またその監視船には、海上保安部が行う所定の講習を受講した、受講証明書を保持した者を乗せて、監視に当たらせなければならない。
 ダイバーにとって恐ろしいものの一つは、浮上した水面において、走っている船に轢き殺されることである。また、ダイバーを潜水させている船も、一定箇所に留まっていなければならないから、他の船に衝突されることが恐い。許可を申請する書類は、下記のように多岐にわたり、なれないと非常に煩雑であるが、許可申請の書類は、実際の潜水にあたっての安全確保の計画書になっている。この計画の通りに潜水作業が行われるならば、事故が発生する可能性は非常に低い。

@ 作業許可申請書:書式の決まったもので、仕様の概略を1枚にまとめてある。
 A 作業届出書  :海域を管理しているセクションに届け出て認証してもらう。
 B 安全対策要綱(作業の概略図も添付する)
 C 緊急連絡系統図
 D 警戒船管理運用要綱
 E 警戒船配置及び警戒要領図
 F 使用船舶及び操縦者一覧
 G 作業要員名簿
 H 作業水域の地図(海図のコピーで可)
 I 潜水士の免許、及び健康診断のコピー
 J 警戒員、船舶操縦者免許などの海技免許のコピー
  これらをまとめて綴じて許可申請の書類とする。

 安全対策要綱には、有線通話機の使用、もしくは二人一組のバディシステムの遵守が謳われている。
 また、作業を行う条件について、次の例のように定める。
  @ 作業区域内において事故等不測の事態が発生した場合。
  A 気象情報、特に注意報の発令に留意し、次の場合は各作業を中止する。
    風速:8m/s.以上
    波高:0.8m,
    視程:1,000m以下,
    潮流0.5ノット以上,
    水中の視界が3m以下の場合。
  B 現場責任者が危険と判断した場合。
  C 船長が危険と判断した場合。
  D 潜水士が危険と判断した場合。
  E 海上保安部から指示があった場合。

 この計画書の遵守は、司法権を持つ海上保安部によって厳しく規制監督されている。計画のとおりに作業が行われずに事故が発生すれば、申請者(事業者)は厳しい処分を受けることになる。
 安全第一と口では言うが、安全はコストがかかるし、面倒である。規制されなければ、作業効率第一、安全第二になる。
 
 


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▼ 4.実技的に見た安全確保
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◆ 4−1 潜水作業水深について
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4−1 潜水作業水深について
1.渚から水深5m
ダイバーが一番嫌がるのがこの水深域の作業である。
いわゆるサーフゾーンであり、ダイバーにとって、最も危険な地帯である。岸から水に入って沖に泳ぎ出るサーフエントリーをする場合には、この地帯は出来るだけ速やかに泳ぎぬけなければならない。しかし、アワビなどの磯根資源の調査はこの地帯を対象にすることが少なくない。身体が波やうねりで転がされている状態であるから、波浪が50センチあったら駄目、うねりが少しでもあったら駄目と、よほどに海が平穏でなければ、満足な調査はできない。
波高計、漂砂の調査機器などの機器の設置などもこの水深地域で行われる作業ある。

2.水深5mから水深10m
うねりの影響を強く受けるので、洋上に台風のある場合には調査の効率が上がらず、結果も満足できない。水面にはうねりが無くても、海底が「底うねり」で巻き上がっていることもある。
 
3.水深10mから水深25m
うねりの影響も少なく、快適に作業が出来る地帯であるが、減圧症については最大限の注意を払わなければならない。これより浅い水深地帯では、減圧症の心配はほとんど無いし、これより深い水深では無減圧の時間も短いので、くり返し潜水には神経質になる。
 10mから25mが最も油断しやすい。空気残圧の限度一杯まで潜水してしまい、浮上しようとすると減圧停止が必要であるのに、空気の残圧がないことに気付く。また、くり返しの潜水も3回、4回と重ねてしまいがちである。

4.水深25mから35m
並型魚礁が設置されることの多い水深地帯である。
エア切れ、器材の不備などで、空気の供給が停止してしまうと危機一髪になる。エキスパートの調査ダイバーのほとんどはこの水深で危ない経験をしている。危機一髪を逃れられたのだから、視点を変えれば、この水深までならば、何かが起こっても何とか出来る。減圧症防止のために、一日の潜水時間は短く限られるので、身体の疲労も小さくてすむ。
熟練したリサーチダイバーにとっては、もっとも仕事がやりやすく、なじんでいる水深地帯ともいえる。。

5.水深35mから45m
 一般のダイバーにとって、窒素酔いの影響がはっきりと出はじめる水深である。また、熟練したダイバーでも、もしもの事態が起これば、脱出出来なくなる可能性も大きい。
 ダイバーは、だれでも、調査よりも自分の生命を優先する。またそうでなければ、事故が続出して、潜水調査は禁止されるであろうが。この水深では、多くを要求すれば命第一で適当にやるから、不正確になる。何か一つだけ、例えば、撮影だけを完璧にやってくれれば良いとか、付着物の採集だけとか、設置状況のスケッチだけとか、1回の潜水では一つの事項だけをしっかりと正確に行なって回数を重ねて行くしかない。
 研究者自らが潜水すると、命よりも自分の研究を優先させてしまう恐れがある。

6.水深45mから55m
 大型魚礁の多くはこの水深に沈設されている。
 深く潜ることが好きで、また、それに慣れているダイバーでなければ潜れない。
 ダイバーは深く潜ることは好きである。深く潜ることが嫌いな調査ダイバーは少ないくらいであり、調査は可能であるが、緊急事態が起こった場合にどうすれば良いかだけの覚悟は固めて置く必要があろう。
 深く潜ることになれば慎重に集中して対処するので、この水深帯での事故の報告は、減圧症の発生以外は、ほとんど無い。

7.水深55m以上
水深55m以上に環境圧潜水(一般の潜水)で潜降するには、二つの空気供給源、つまり送気式のホースと緊急浮上用のタンクを持った潜水器を使用し、もしも窒素酔いのために意識を失っても呼吸を続行できるように顔の前面を覆うフルフェースマスクを使わなければいけないというのが国際的な原則である。マウスピースを使うと、意識を失ってマウスピースを口から離してしまったために溺れてしまう可能性が高いからである。。
 我が国では、定置網の潜水で日常に50mを越えて潜水していた経験者も少なくないので、水深55m以上の潜水調査も普通のスクーバ装備で行われているが、やはり、55mを越える潜水は、上記の国際的な規定に準ずる装備で行うべきであろう。
 水深55m以上は、米国のスポーツダイビングとして流行しはじめているテクニカルダイビングの対象になる。テクニカルダイビングについては後の項で述べる。


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◆ 4−2 窒素酔いについて
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4−2 窒素酔いについて
潜水作業水深を限定するのは窒素酔いである。
窒素酔いとは、潜水深度が深くなるとともに高まる窒素分圧が主な原因になって起こる酔いである。
水深30mを越えると、だれでも窒素酔いの影響を受け始める。なんとなく違和感を感じたり、素人ダイバーでは不安に襲われてパニック状態になったりもする。エキスパートダイバーでは、心機高揚感を持ったりして楽しくなり、水面にもどりたくなくなることもあると言われ、「深海の陶酔」などと呼ばれる。楽しくなるのは空気の質が良い場合であり、空気の質が少しでも悪いと、不快になり我慢できない。
 窒素酔いは、心の持ち方、あるいは練習によってかなり克服することができる。深く潜るほとんどのダイバーは、自分は窒素酔いには強いと思っている。
以下は酔わないつもりのダイバーの状態である。
♯ 水深40mを越えると強いつもりのダイバーでも普通の状態ではなくなる。例えば、スチル撮影をしていて、被写体に合わせて絞りを変えてしまうと、被写体がもとにもどってもそのまま最後まで撮影してしまう。また、一眼レフのファインダーを覗いてピントを合わせても、後で結果を見るとボケている。普通の状態では考えられないカメラ操作のミスが続出する。
♯ 水深50mを越えると、ボードやメモ(濡れても溶けない紙)に字を書いても後で判読できないようなものになる。
♯ 55mを越えると、平衡感覚を失うことがある。
♯ 60mを越えると、意識を保つことに努力が必要になる。
♯ 70mでは、平衡感覚を保って、身体をたてているのが難しくなる。レギュレーターの呼吸抵抗が急激に増加して、息を吸い込むことに力を入れなければならなくなる。カメラのシャッターを押しても、何を撮ったのか、何を撮ろうとしているのかわからなくなる。
♯ 80mでは、意識が断続的にとだえる。

窒素酔いは、「慣れ」ばかりでなく、周囲の状況にも大きく支配される。透明度の良い海では、限度を超えてどこまでも気持ち良く潜ってしまう。スポーツ・レクリェーションダイビングで中級程度の人、タンクの消費本数で100から200本の人に、これまで潜った最大水深は?とたずねると、大体の人が「60m」と答える。どこで?と聞くと、「パラオ」とか「グアム」とか答えてくれる。南の島の透明度の良い海でのドロップオフ(海中崖)では、ほとんど何の酔いも、なんの違和感も感じないで、50mを越してしまう。このことは大変に危険であると考えられるが、目下のところ、これが直接の原因になっての事故はあまり聞かない。ガイドが深い水深に案内するときに、実力を押しはかってからにしているのであろう。
一方透明度が5m以下の濁った海では、20mを越すと、光が全部吸収されてしまって、真の闇状態になり、水深30mでもひどい窒素酔いになったような気分になる。

空気を呼吸して80mを越す潜水は、意地としてはやれないことはないが、実用にはならない。現在、潜水艦の救難など特殊事態の大深度潜水は、水深300mを越えているが、それには、莫大な費用と設備がかかる。それほどまでの費用をかけずに、水深60mから100mぐらいまでを潜る方法がないだろうかという研究も重ねられている。そのような60mから100mまでの潜水を中深度潜水と呼んでいる。中深度潜水は次に述べる混合ガス潜水で行われる。


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▼ 4−3 混合ガス潜水
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◆ 4−3−1 ヘリオックス
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窒素酔いを無くすために、窒素のかわりにヘリウムを置きかえる。空気は、窒素がおよそ80%、酸素がおよそ20%の混合ガスであるが、窒素の代わりに、ヘリウムを80%、酸素20%の混合ガスにすれば、窒素酔いは防止される。ヘリウムと酸素の混合ガスを略称してヘリオックスと呼んでいる。ヘリウムには麻酔作用はない。また、ヘリウムは軽い気体であり、風船やアドバルーン、飛行船を浮揚させるためにも使われているが、ヘリオックスは軽いので呼吸抵抗(吸い込んだり吐き出したりする抵抗)が小さい。
 密度が高く重いガスよりも、密度が低く軽いガスの方が、動かす抵抗は少なくて当然である。
普通の空気を呼吸して次第に深く潜って行くと、周囲の圧力(環境圧)と同じ圧の空気を呼吸するわけだから、呼吸する空気も次第に圧縮されて密度が濃くなり重くなって行く。次第に呼吸抵抗も増大してくる。密度が濃くなれば、粘性も出てくる。水深80mでは、まるでトコロテンを吸い込んでいるような感じになる。
 呼吸している空気の圧力増加にともなう抵抗増加は、ダイバーの肺の換気を悪くして、炭酸ガスの蓄積もおこる。このことも相乗効果をもたらして、窒素酔いを悪化させる。個人的な感覚では、窒素の麻酔作用よりも、換気不良にによる炭酸ガスの中毒症状のほうが効いているように感じる。
ヘリオックスをタンクに充填し、レギュレーターを連結して、マウスピースから吸ってみるとびっくりする。ダイヤフラムが筒抜けになってしまったように、全然抵抗が無い。普通に、レギュレーターを通さずに空気を呼吸しているよりもむしろ軽く吸い込める感じである。これほど軽くても、80mまで潜れば、普通を感じるようになる。


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◆ 4−3−2 分圧についての説明
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混合ガスとは、何種類かの気体が混合されている気体である。
 私たちが呼吸している空気は、酸素が21%、窒素が78%、少量のアルゴンや炭酸ガスなどその他が1%の割合で混合している混合ガスである。混合とは、いくつかの物質が、それぞれの性質を失わずに、均一に混ざり合っている状態であり、化合とは、複数の物質が合体して、全く違った性質の物質となることである。例えば水は、水素と酸素が化合したものであるが、水素の性質、酸素の性質は失われている。空気は混合ガスであるから、その中で、酸素は酸素の性質を、窒素は窒素の性質をそのまま維持している。
 気体の容積は、圧力とか熱とか周囲の状態に応じて変化している。形のない気体はどのようにしてその量をはかるか、一般の人には想像できにくいと思うが、スクーバダイバーはタンクに充填されている空気を買って水中で使うのですぐにわかる。容積10リットルのタンクに200kg/cu(20MPa)充填したと、全く問題なく処理している。すなわち、容積と圧力で量る。
 ところで、私たちが体の中で使っているのは酸素だけである。そこで、混合ガスの中の酸素の量を量らなければならないことになる。窒素酔いが起こったりするので、窒素の量だけを量らなければならないことにもなる。気体の量は、圧力と容積で量るから、混合ガスの中での酸素だけの圧力、窒素だけの圧力を知る必要がある。
混合ガスの中で、混合ガスの成分となっているガスの圧力を分圧と呼ぶ。空気の中の酸素の圧力は、酸素の分圧である。
 分圧の計算はとても簡単で、酸素の混合比が21%であれば、酸素の圧力つまり酸素の分圧も21%になる。
 計算を簡単にするために、空気は窒素80%、酸素20%で計算する。実用上はこれで全く問題ない。
1kg/cu(0.1MPa)の空気の中の酸素の分圧は、その20%であるから、0.2kg/cu(0.02MPa)となる。
 このようなことを法則として書き表すと「混合気体の成分ガスの分圧の和は、全圧に等しい。」となる。窒素80%、酸素20%の空気の分圧は、窒素0.8+酸素0.2で、空気の圧力は、0.2+0.8=1となる。この法則を、ドルトンの分圧の法則と呼ぶ。 


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◆ 4−3−3 酸素中毒
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深く潜水して、呼吸しているガスの圧力が高くなると、当然だが、窒素分圧だけではなくて酸素の分圧も高くなる。分圧の高い酸素を呼吸すると急性酸素中毒(脳型酸素中毒)になる。急性酸素中毒の症状は、痙攣とひきつけであり、これが水中で起こることは致命的である。だから、潜水士の規則でも、純酸素を潜水に使用することは、禁止されている。しかし、実際には、大深度に潜水した場合の減圧は純酸素を使用して行うことが国際的な常識になっている。酸素耐性、酸素に耐えられる限度は、大きな個人差がある。酸素を使用するために、ダイバーは純酸素にある程度は耐えられることを酸素耐性テストを行って証明してから大深度の潜水を行うことも常識になっている。付き添いの厳重な監視のもとに、再圧タンクに入って加圧して純酸素を吸入する。
酸素耐性テストは、水深18m相当で30分純酸素を吸入するテストである。水深18mでの純酸素の圧力は、2.8s/cuである。昔は、水深10mまで(圧力2s/cu)は、純酸素を呼吸しても大丈夫とされていた。しかし、現在では安全度の幅を大きくとって、水深4.5m(この数値には、様々な説がある)で純酸素を呼吸する状態、すなわち酸素分圧で1.45を安全限界としている。今、ヘリウム80%、酸素20%のヘリオックスで潜水するとして、1.45÷0.2=7.25 で、水深62.5mまで潜ると、酸素の分圧が1.45、ヘリウムの分圧が、5.85になって、酸素分圧の安全限界に来てしまう。これは、空気潜水でも同じことで、63m以上は、酸素中毒の可能性があるということになる。60m以上の潜水は、純酸素呼吸を行わなくても酸素耐性テストが必要である。
実際には、昔の基準である水深10mで純酸素を吸う状態、分圧2.0程度までは、大丈夫だろうと、ほとんどの作業ダイバーは考えている。上に記した酸素耐性テストでは、酸素分圧2.8であるから、2.0まではと思うのだ。しかし、最近では、後で述べるナイトロックスなど、レクリエーションでも混合ガスを使うようになってきている。酸素耐性テストに合格しない人も多いと考えられるレクリエーションダイビングまでも考えると、1.45程度が安全である。作業ダイバーでも安全度を高くしておいた方が良い。
 そこで、水深80m以上をヘリオックスで目指すならば、水深4.5mでの純酸素吸入を限界として、1.45÷9.0(水深80mの絶対圧)=0.16 で、16%の酸素ならば良しとなる。
 なお、分圧は全て絶対圧で表される。
 ヘリオックスは、窒素酔いを完全に防いでくれるけれど、減圧症については、空気よりも長い減圧停止時間を要求する。ヘリウムは、窒素よりも速く組織に溶け込み、速く溶け出すのであるが、速く溶け込む分だけ身体の奥の神経中枢組織にまで入り込んで行く。スクーバのように、速く潜降して、速く浮上してくる潜水では、減圧症に関する危険はヘリオックスの方が大きく、それだけに長い減圧停止時間が要求される。この長い減圧停止時間を短縮するためには、水面近くまで浮上してきてからの減圧停止を純酸素を呼吸して行い、できるだけ速く体内のヘリウムを酸素と置き変えて、洗い流してしまおうとする。この純酸素呼吸で、酸素中毒にならない保証の為に、前述した酸素耐性テストが必要になるわけである。


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◆ 4−3−4 トライミックス
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ヘリウムの欠点はもう一つある。熱の伝導度が高いということである。空気の80%を占めている窒素は、効果の高い断熱剤である。つまり熱の伝導度が低い。だから、人間は寒さに耐えられているのだが、ヘリウムの熱伝道度は高い。ヘリウムを呼吸して、全身にヘリウムが入り込んでいると、寒さに耐えられない。実際の状況では、ヘリウムも空気も、寒くなるまでの時間はそれほど変らない。ところが、寒くなってから、身体に震えが来てからでも空気を呼吸している状態では、しばらくの間耐えていられるが、ヘリウムを呼吸している状態ではまったく耐えられない。場合によってはたちまち凍死しそうになってしまう。
温水スーツと呼ぶ、ウエットスーツの中に温水が噴出し、まるで風呂の中で潜水しているような状態にしなければ、ヘリウムを呼吸して冷水中で長時間の潜水はできない。
また、ヘリウムは高価である。
減圧停止時間が長くなる、凍える、高価、これだけの欠陥があるので、ヘリウムの消費は出来るだけ少しに抑えたい。今、なんとか水深40mまでは窒素酔いに耐えて潜れるのであれば、水深40mに相当する窒素分圧までは窒素を使い、それを越える部分にヘリウムを使う。もちろん酸素は不可欠であるから、窒素、酸素、ヘリウムの三種混合ガスとなる。これがトライミックスであり、中深度潜水は、トライミックスが主役である。


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◆ 4−3−5 ナイトロックス
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中深度潜水、大深度潜水は、ホースで混合ガスを送る方法と、リブリーザー(循環式潜水器)で行う方法がある。
作業潜水としては、ホースで送気するフーカー方式で行う。もちろん脱出用のタンクは背中に背負っている。ヘリオックスを使う場合には、温水スーツの温水を送る温水ホースも使う。通話装置の信号線も、場合によっては、ヘッドランプの電源も、これらを全部束ねると随分太いものになる。この束ねた線をアンビリカルと呼ぶ。アンビリカルとは、へその緒のことである。
アンビリカルを通じて送る呼吸ガスは、船上でコントロールしているから、自由に変更することができる。 深く潜水して行くための呼吸ガスはトライミックスまたはヘリオックスを使う。浮上して来るとき、水深30mから水深6mから3mの減圧点までは、酸素32%と窒素68%の混合ガスを使う。最後の水深6mと水深3mの停止は純酸素を送る。中深度潜水でも、減圧停止時間は長く、数時間かかる。この停止時間をできるだけ少なくする為に、酸素中毒にかからないようにしながら、酸素分圧の高い呼吸気体を使うのである。
この時に、水深30mから上で呼吸する、酸素32%、窒素68%の混合気体をナイトロックスTと呼ぶ。窒素:ナイトロジェンと酸素:オキシジェンの複合である。つまり、の酸素と窒素の割合を変えた人工空気である。ナイトロックスUと呼ぶのは、酸素34%、窒素66%で、窒素と酸素の割合は、自由に変えられるが、もっとも普及しているのがナイトロックスTである。
ナイトロックスは、水深30mから水面までの間で呼吸して、減圧時間を出来るだけ少なくしようと使われているわけだから、これをそのまま水深30mまでの普通の潜水に使用すれば、無減圧限界を長くすることが出来る。もしも減圧停止が必要であっても、短く出来る。また、酸素中毒にならない程度に酸素の濃い気体を呼吸すると、身体の疲労が少なくてすむ。いろいろと良いことがあるので、レクリェーションダイビングに使われるようになった。


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◆ 4−3−6  システム潜水とテクニカルダイビング
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アンビリカルで送気して、船上でコントロールして次々と呼吸ガスを変更して行く潜水は、相当に大掛かりである。深い潜水を効率よく安全に実施する為には、船上に再圧タンクを設備しておくことも必要であるから、さらに大掛かりになる。
中深度潜水でも、減圧症(潜水病)を予防するために行う減圧停止は相当に長い。潜水時間は数十分であっても、減圧停止時間は2〜3時間から5〜6時間かかる。この長い時間を水中で過ごすのはつらい。冬の海で水温が低い時は危険である。また、ダイバーが水中にある時は、いつどんな事故がダイバーに起こるかわからない。油断できない。船上のクルー全員が緊張した状態でいなければならない。また、天候の急変で、潜水地点に船をとどめて置けなくなる事態も考えられる。そこで、減圧停止の最後の段階、水深3mでの停止、これが一番長い時間を必要とするのだが、これを適当に省略してしまって、船の上に上がってしまう。減圧症が発症するのは上がってから5分以上経ってからであるから、急いで、3分以内に再圧タンクに入ってしまって、圧力をかける。再圧タンクは減圧症にかかってしまったダイバーを治療するためのものだから、減圧症にかかっても未だ症状の現れないダイバーを治療することなど朝飯前のはず。これが、船上減圧と呼ぶ方法である。船上減圧を始めてしまえば、船はアンカーを上げて、港にもどることも出来るし、海が時化てきても心配無い。クルーもゆったりとすごすことができる。
送気ホース(アンビリカル)、送気するガスを用意するガスバンク、再圧タンクなど、中深度潜水を安全に行う為に必要な仕掛けは、大掛かりなシステムである。そこで、このようなシステムを使う潜水をシステム潜水と呼ぶ。システム潜水は、お金がかかっても、絶対にダイバーを殺さないシステムである。
もう一つ、水深100mまでの中深度を、どうしてもホースを使用せずに、スクーバで潜水しようとする方式として、テクニカルダイビングがある。テクニカルダイビングは、米国、フロリダの水中洞窟の探検において工夫され発展した。洞窟の中に、システム潜水のアンビリカルを曳いて潜ることはできない。なにしろ、フロリダの洞窟は雄大で、移動する距離は数千メートルに及ぶというのだから。
テクニカルダイビングでは、リブリーザー(循環呼吸式のスクーバ)を使う。一般のスクーバは、開放式(オープンサーキット)と呼ばれていて、ダイバーが肺に吸い込んで吐き出した気体は全部外に出してしまう、つまり開放してしまう。だから、高価なヘリウムもすべて泡になって消えていってしまう。
リブリーザーは呼吸して吐き出した気体の大部分は、外に出さない。ダイバーの肺よも少し大きい容積の袋に溜める。袋に口をつけて、息を出したり吸ったりしている様子を想像して見よう。肺から出した呼気は袋に溜まり、再びそれを呼吸する。肺が消費した酸素の分だけを補給し、体内で生成された炭酸ガスは炭酸ガス吸収剤で吸収する。
酸素の補給をセンサーとコンピューターでコントロールすると、驚くほど長時間この潜水器で呼吸を続けることができる。
リブリーザーは精密であり、整備に技術が必要なので、ハードな作業潜水には向いていないと考えられている。
テクニカルダイビングは冒険的である。作業としての調査潜水で、深く潜る必要があれば、システム潜水で行うべきである。テクニカルダイビングは、命がけのスポーツレクリェーションダイビングである。もしも事故が起こってもそれは、事故を起こした当人の責任である。そして、事実、洞窟の潜水では事故が続出しているが、チャレンジはやむことなく続いている。



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◆ 4−4 緊急浮上
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4−4 緊急浮上

環境圧のかかった空気を呼吸するダイバーが、圧力の高い水中から、圧力のかからない水面に浮上するときに息を止めていると、肺が過膨張して肺胞および肺の血管が外傷を受け、重大な障害を引き起こすことがある。最もおそれられているのが、空気塞栓であり、これは、肺胞が破れた部位から肺の血管に空気が入り込んで気泡が血管を詰まらせて塞栓を起こし、塞栓が心臓あるいは脳に進むと死亡する。その他、気胸、縦隔洞気腫、皮下気腫など肺の破損に起因する一群の障害を総称して、肺の気圧外傷と呼ぶ。
 技術が水準に達しているダイバーは、基準の浮上速度より速く浮上しても、肺を傷つけるようなことはない。浮上に応じて空気をうまく吐き出せるからである。およそ、100回程度潜水すれば、たいていの者がこのレベルに到達する。
肺の気圧外傷を防ぐためには、水に慣れているダイバーにとっては、呼吸を停止しなければ良いだけのことであるが、初心者にとってはそんなに簡単なことではない。わかりやすいように、「肺の気圧外傷防止のABC」として教えている。
まずAは、Airway Open:気道確保である。
 このABCは、救急蘇生法のABCに範をとったもので、気道確保は、救急蘇生法でも同じようなやり方である。人間は顎を上に伸ばすように持ち上げると気道が開いて、肺の中の空気が抜けてしまう。つまり、息を止めていることができない。その上に声を出したら、絶対に息を止めていられない。浮上する時に、顎を上げて水面を見上げるように上を向き、声を出す。潜水艦脱出訓練では、「アッ、アッ」と断続的に大声を上げながら浮上する。一般の場合には口笛を吹いても良いし、歌を歌っても良い。もちろん大声を上げても良い。歌を歌いながら、息を止めて肺を破裂させることなど出来ない。
Bは、Breathing 呼吸の継続である。とにかく水中ではいかなるときでも呼吸をとめないように、一定のリズムでなるべく深い呼吸を継続する。上記のような水面を見上げて歌を歌いながらの浮上も呼吸の継続ではあるが、これは、意識して浮上するときのやりかたである。普通の状態の時でも決して呼吸はとめないようにする。
 水中では、何時でも無意識に一定のリズムで、肺を全部使うような深い呼吸をしているようにする。なにかのことで、呼吸が乱れると、呼吸の乱れで異常に気が付いて、一時的に身体の動きを停止して、リズムの回復を待つ。そんな状態になれば、技術的には一人前であり、肺を傷つけることもない。そうなるまで、初心者は意識して、呼吸のリズムを保ち継続しなければならない。
Cは、Control 浮上速度のコントロールである。緊急事態でも急浮上してはいけない。潜水士の規則では、毎分の浮上率は10mである。つまり、10m浮上するのに1分間かける。1秒で16センチの浮上である。相当にゆっくりであるから、潜降索を使わなければ、この浮上率は守りにくい。
レクリェーションダイビングでは、潜降索を使用しないで潜っている人の方が多いが、潜降索を使用しない初心者の浮上を横から眺めていると、まず最初はゆっくりである。まるで止まっているようで、こんなことでは、水面に何時になったら到着するだろうと思うほどゆっくりである。それが、水面に近づくにしたがって速度が速くなってくる。水面に近くなるほど、浮力が大きくなるからであるのだが、終わりには、「危ない!」とタックルして、浮上を止めたいと思うほどの速度で水面に飛び出して行く。こんな浮上をしていれば、そのうちに肺が破れても不思議ではない。そこで、浮上の一時停止をするように教えている。自動車が側道から本道に出る時の一時停止と同じような発想である。
まず、水深3mで停止する。水深3mは、最終的な減圧停止点でもある。耳をすまして、船のエンジンの音を聞く。音の接近が聞こえるようでありれば、船が通りすぎるまで、水深3mで止まって待っている。
 次に水深1mまで浮上して停止する。水深1mすなわち水面から1mの距離を目測するのだから、上を見上げてゆっくりゆっくり浮上しなければ、水深1mを判別できない。上を見上げれば気道が開き、そしてゆっくり浮上するのだから、肺の気圧外傷防止になる。水深1mで一時停止してから、水面を見上げて、顔を上に向けて、鼻の頭から水面にでるような気持ちで水面に出る。
 浮上速度のコントロールは、潜降索を使わないとなかなか難しい。潜降索を使えば、毎秒16センチの割合で浮上して、目印を付けてある3m点でまず止まれば良い。船からエントリーするような場合には必ず潜降索を使用するべきである。
 岸から水に入って行く時は、次第に深くなる斜面に沿って潜降し浮上するような地形では、潜降索は使いにくい。このような地形では、水深計で深度を確認しながら、海底を這うようにしながら浮上してこられる。沖まで泳いで行って、目的地点の真上から垂直に潜降する場合には、潜降索を使用できる。

昔、残圧計が普及していなかったころ、「エア切れ」、 背中のタンクの空気を使い果たしてしまうことは、スクーバダイバーにとって宿命のようなものだった。エキスパートと言われるようなダイバーは、だれでもエア切れで死ぬ思いをした経験が一度や二度はある。この経験を通り越すと、決してエア切れなど起こさなくなり、本当にエキスパートになったものだった。
現在のスポーツダイバーはほとんどエア切れの経験など無い様だ。残圧計の付いていないレギュレーターは皆無だし、タンクの充填圧も昔の150s/cu(15MPa)から200s/cu(20MPa)に向上した。
しかし、調査を行う作業ダイバーは、たくさんの調査項目をかかえて、深く潜水するのだから、どうしても無理をしがちであり、未熟のうちにはエア切れを起こしてしまう状況も予想できる。
 残圧計が普及している現在、調査ダイバーが残圧計のチェックを怠っていることはない。考えられるのは、あと10s/cuは残っていると見ていたゲージが、少し針がずれていて、空気が来なくなってしまったというような残圧計の不備、調査に熱中してすでに空気が尽きかけているのにもう少しと思ってがんばってしまった場合などである。
ここで、水深30mでエア切れになったと仮定して、その状態を想像してみよう。エアの供給が無くなりかけると、空気の供給がしぶくなる。しぶくなるとは、力を入れて吸い込まないと空気が来なくなるという意味だ。空気がしぶくなりかけたら、すぐに水面に向かって泳ぎはじめる。これで、5mは上に上がれる。同時にできるだけ空気を吸い込んでおく。決して、バディを捜そうなどと馬鹿なことを考えてはいけない。この5mが貴重なのだ。たいていのダイバーは水平に25mの素潜りを楽にこなすことができる。水平の25mを垂直の25mに置きかえればよいだけだ。水平25m素潜りのつもりで、ゆっくりと水面に向かって泳ぎはじめる。ここで注意することは、浮上速度が速くなりすぎないことだ。顎は一杯に上にあげて、気道は開いておく。片手はBCDのインフレーターをつかんで、BCDの空気を排出できるようにしておく、10mぐらい泳ぎ上がると、圧力の減少で、BCDが膨張して膨れあがり、浮力が大きくなる。ここから先はフィンを動かさなくてもBCDの浮力で上がって行くはずだ。このとき頭に浮かべるのは、3mと1mでの一時停止である。顎をあげて気道を開放し、大声をあげるか、歌を歌いながら、水面を見上げて、水深3mの見当をつける。これがなかなか難しいので、普段の潜水での減圧停止の時に、水深3mの目測をよくよく覚えておく。水深3mが近づいたら、BCDの空気を全部抜いてしまう。同時に肺の中の空気も全部はき出す。これで、3mから1mの間で、急停止ができるはずだ。停止したらすぐに沈みはじめるから、フィンを使って泳ぎ、沈まない様に停止させる。もしも、水面までの距離目測を誤って、水深が8mぐらいだったとすれば、危ない。3mで停止できずにそのまま浮上してしまっても危ない。3mの目測がポイントである。もしも、早めに停止してしまったら、くわえたままのマウスピースから吸い込んでもみる。多分1回ぐらいは吸い込める。もう一度、気道を開放するように、顎を上にあげて声を出しなら、水面にでる。
エア切れ、直ちに緊急浮上である。レクリェーションダイビングの初心者は、オクトパスブリージングとか、バディブリージングとか、バディに助けてもらう手段をまず考えるが、できればバディに自分はエア切れで浮上するサインだけはして、直ちに自力で浮上する。周りを見回してバディが見えなければ、バディを探すようなことはせずに、もちろん、エア切れの合図などにこだわる必要も無く、そのまま直ちに自力で浮上する。もちろん、バディがすぐ隣にいて、オクトパスを渡してくれるならば、拒否する理由はないが、呼吸が渋くなったら(抵抗が大きくなったら)すぐに浮上すれば、たいていの場合、何事も無く浮上できる。

上に述べたような普通の緊急浮上が間に合わなくなってしまった場合に行う、いくつかの緊急浮上法があげられる。
フリーアセント:すべてのスクーバ器材を捨ててフリーになって浮上する。
ベイルアウト:潜水艦の緊急脱出法の名称であり、実質的にはフリーアセントと同じ。
コントロールアセント:タンクは着けたまま、レギュレーターのマウスピースもくわえたままで、普通の浮上に近いやり方で浮上する。緊急浮上の名称は良く整理されていないので、人によっては同じ呼び名でまったく違うやり方を指していることもある。とにかく、落ち着いて、一瞬を争って、普通の方法で浮上してしまえば良い。浮上の速度はコントロールしなければならないから、強いて名称を使えば、コントロールアセントになる。
 
命がけの最後の手段として、まず、ウエイトを捨ててしまうやりかたもある。ウエイトを捨て、上を向いて気道を開き、大声をあげながら、全力で泳いで、水面に飛び出しても、多分大丈夫だろう。ウエイトを捨てると、水深3mと1mでの一時停止が出来なくなるところが恐ろしいが、水中で窒息死してしまうよりは良い。墜落する飛行機から、パラシュートで脱出する場合の生還率ぐらいはあると思う。これはフリーあせんとに近い方法である。
 ドライスーツを着けていると、緊急浮上はやりにくくなる。ウエイトを捨てると、浮力が付きすぎてしまって危険であるし、ウエイトを捨てないと浮き上がれない。浮上する時にBCDの空気とドライスーツの空気の両方を同時に抜かなければならない。コントロールできなくなったら、身体を横に大の字になってしまうと、水の抵抗で浮上速度が少しは遅くなると言われている。

 息を止めて潜るスキンダイビングの能力がどのくらいあるかによって、緊急事態に水面にもどってこられる水深が決まると考えて良い。水平に25m、息を止めて余裕を持って泳げれば、20mからは浮上できる、水平に50m息を止めて泳げれば、40mぐらいまで大丈夫だろう。
水深10mより浅いところで、空気が来なくなったとしても、ゆっくりと浮上すれば良いだけで、緊急浮上というほどのものではない。水深20m以上になって、緊急浮上といい得るような特別な状況になる。だから、空気がなくなりかけたら、水深10mまで戻っていれば良いわけだ。
現在のように、残圧計、減圧コンピューターがだれでも使う状態になり、タンクの充填圧も200s/cuになった時代に、緊急浮上をするような事態に負い込まれるのは、ダイビング技術が未熟であり、準備計画が杜撰である証拠でもある。空気が少なくなるにしたがって、浅いところに上がってきているならば、エア切れをしても緊急浮上はしないですむ。なお、次に述べる減圧停止が要求されている状況での緊急浮上は、そのまま減圧症にかかることになるので、非常に危険である。

 垂直方向で練習する緊急浮上のシミュレーションは、肺の気圧外傷を起こす可能性があり、危険であるので、初心者講習では実施しない方向でプログラムが編成されている。水平方向のシミュレーションで練習をすることを薦める。すなわち、息を止めて水平方向に向かって、垂直方向と類似した25mの移動練習を行う。


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◆ 4−5 減圧停止
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磯根資源の調査、アワビ、ウニ、イセエビ、昆布などの増殖施設調査、藻場調査などは、水深20m以浅が多く、減圧停止は必要としない場合がほとんどである。一方、人工魚礁の調査はほとんどの場合水深20m以深であり、減圧停止は日常のことである。
ここまでの説明でも、減圧停止にかかわることを記してきたので、それをまずまとめておく。
潜降索は減圧停止点を指示するように、3m、6m、9mの地点にマークを着けるように潜水士の規則では定められている。ヘルメット式潜水器の潜降索は、船の舷側から垂らすように降ろすので、3m、6m、9mのマークは比較的正確に水深を示すが、設標を兼ねて、海底の錘から立ちあげている潜降索では、マークを水深に正確を期待できない。しかし、潜降索はできるだけ、海底から垂直に立てるように努力する。
実際に停止する時の水深は、減圧コンピューターの指示に従って行う。減圧コンピューターの水深指示は信じても良い程度に正確である。
潜水士の規則では純酸素を潜水に使用してはいけないと定められている。しかし、深く潜水した場合には、減圧停止の最終段階、水深3mで純酸素を呼吸すると減圧停止時間を大幅に短縮することができる。残念ながら、一般の潜水では純酸素は使用できないが、特別なシステム潜水では、労働基準監督署に計画を提出して、許可を受けることが可能である。
浮上してきたダイバーに船上で純酸素を吸入させると、症状の発現の予防になる。また軽症の減圧症であれば、純酸素の吸入で抑えてしまうこともできる。しかし、これも純酸素吸入は医療行為にあたるので、一般には許されていない。諸外国では潜水後の酸素吸入は常識となっているほどなので、なんとかこれを出来るようにしようと努力が払われ、現在は、DANという組織の行う酸素プロバイダー講習を受けることによって酸素吸入ができる特例が出来た。スポーツレクリェーションダイビングの指導団体が、これについて取り扱っているので、問い合せて講習を受けることによって、酸素吸入が可能になる。
また、多量の水を飲むことも、減圧症の予防、および治療に役立つ。ただし、潜水前に多量の水を飲むと、尿が多くなり潜水中に尿意をもよおして困る。ドライスーツでは、そのまますることが出来ないが、ウエットスーツならば、そのまましてしまう。ドライスーツの場合には、浮上して落ち着いてから多量の水を飲む。この場合ビールを飲むことは、減圧症にかかりやすい方向になる。アルコールが体内にあることは、減圧症にかかりやすい。

 スクーバダイビングで、一日に3回以上潜水する場合には、長い減圧を覚悟して備えておく。レクリエーションのダイビングは、原則として減圧停止をしないようなダイビングが薦められているが、リサーチのダイビングでは、如何にして完璧に減圧停止をするかが課題である。長い時間停止しているためには、つかまって身体を保持していなければならない。必ず潜降索を使って浮上する。船は潜降索(調査地点に設置した浮標)に接近して、予備のタンク(レギュレーターをつけてあり、そのままマウスピースをくわえて呼吸できるもの)を吊り降ろしてやる。このような減圧停止のやり方、運用は、その場所、使う船の状態に合わせて、それぞれのチームが工夫をこらして十分な準備をしておく。減圧停止をしているダイバーの状態というのは、不安定である。減圧症に罹患しているだが発病はしていない状態だとも考えられる。船に取り戻したと錯覚して安心してしまってはいけない。十分な警戒態勢を保持する必要がある。
 減圧停止を終了して、船に上がったダイバーも、まだ不安定である。何時減圧症が発症するかわからない。水を飲ませる、酸素吸入が出来ればベストである。船上でのアンカー引き上げ作業の手伝いなどは決してやらせてはならない。強い労働、運動をすると、その部位に減圧症の痛みが発生するおそれがある。


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◆ 4−6 潮の流れ
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人工魚礁は潮流のある場所に設置されていることが多い。
二つの理由から、調査は潮流の少ない時に行いたい。一つは、ダイバーの身体が抵抗を浮け、潮に流されるので調査が思うように出来ず、潮に逆らって泳ぐので疲労が大きくなること。もう一つは、魚が魚礁内に少ないことである。潮が速いと、魚は魚礁から出て、魚礁から離れて潮上に出て行ってしまっていることが多い。潮が止まっていれば、魚は魚礁の上にもどってくる。魚の潮上に、潮流の速い時にダイバーが泳いで行って魚を探し回るのは疲労が大きくなる。言うまでも無く、ダイバーが遡れない潮であれば、ダイバーは流されてしまう。
 ダイバーが力を入れて泳ぐ速さは、およそ1ノット、秒速50センチである。トレーニングが十分出来ているダイバーならば、2ノット(秒速1m)で3分程度泳ぎ続けることができる。
 調査は潮止まりを狙って行うが、潮が止まっている時間が長いのは、昼間の干潮である。午前10時ごろから、午後13時ごろまでの間に最干潮がくるような潮回りが良い。小潮と大潮では、当然大潮の方が潮が速いが、大潮での潮止まりと、小潮で流れている時では、どちらが良いのか、言うまでも無い。とにかく潮止まりをねらう。
諸般の事情で、潮の流れている時に調査を行わなければならないこともある。ダイバーは波浪が高くなければ、2ノット(毎秒1m)ぐらいまでの潮ならば潜って行ける。
表面で流れがゆるくても、底には流れがあることもあるが、大体の場合、水面では強く流れていても、海底では流れが弱い。海底には流の抵抗になる魚礁があるし、岩盤なども抵抗にはなっている。
潜降索の潮上から水に入り、潮に流されながら潜降索に向かって行き、潜降索に取りついたら、索を手繰る様にして強引に潜り込んで行く。魚礁の陰まで入り込んでしまえば、調査ができる。
 小型ROV(自走式カメラ)よりもダイバーの方が潮には強い。ROVのケーブルは魚礁の陰に入ることができないので、相当に推進力の強いモーターを持っていないと、潮に逆らって走れない。
潮流の速い場合は、ダイバーを降ろした船は、潮下に待機して、ダイバーの浮上を待つ。
 潜降索をたどって浮上してくるダイバーを見逃して流してしまうようなことは、常識的には考えられないが、水中でエア切れなどの理由で、潜降索に戻る余裕がなくてそのまま浮上してしまうこともある。見張っている船の方では、潜降索の付近に浮上するものと思い込んでいるから、別の位置に浮上すると流してしまう可能性がある。必ず潜降索に浮上するという固定観念を持ってはいけない。ダイバーが潜降している間は、何時でも気泡の移動に注意し、海域全体を見張っている必要がある。
 流されてしまった事態にも備えておかなければならない。手軽に広く使われているのは、空気を入れて膨張させて、長い棒のようにするレスキューチューブである。注意深く見張っていれば、波の上に黄色い棒が立つので、黒い頭が波に見え隠れする状況に比べて、はるかに見つけ出しやすい。
 花火を打ち上げるような信号弾も作られている。レクリエーションダイビングでは、潮に流される事故が多く、防止策が様々に考えられ、様々な用具がサバイバルアクセサリーとして売り出されている。調査の潜水でも、これらを取り入れる必要がある。
 ダイバーに接近する船の操船、船に接近するダイバーの泳ぎ方にも細心の注意が必要である。ダイバーが船に接近したら必ずスクリューは停止する。流されないようにロープを投げるが、ロープが当たって怪我をすることがあるので、慌てないで潮下に伸びるように投げる。特に、救命浮環を付けて投げるときは注意する。頭に浮環が当たると大怪我をする。
 これらの運用については、それぞれのチームが経験を生かして工夫して、優れたノウハウを蓄積しているはずである。運用の良否が調査の成否を決めることになるが、『船頭多くして船山に登る」という諺は、潜水運用のためにあると思われるほど、意見が続出する。どこかで、見切って決断するリーダーが必要である。


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◆ 4−7 水の濁り
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  水が濁っていては、潜水調査は成果が上がらない。どのていどまでの濁りまでがなんとか調査が成立するかが問題である。
 水の濁り、水中視程あるいは透視度については、いくつかの考え方があるので、報告書に記載する場合には、まず、どんな透視度基準を使っているかを定めてから、透視度の数値を述べるようにする。
 ダイバーの安全に関連しては、いっしょに潜っているバディダイバーがどのくらいはなれて、その姿が確認できるかを透視度の基準とする。透視度10mと言えば、10m離れたバディが確認できる。ここでは、その基準に従って述べる。
 ダイバーが安全に作業できる限度は、透視度5m程度までであろう。5m以下は濁水中の潜水という特別な潜水ジャンルに入る。透視度5m以下であれば、バディ間の目視による連絡はほとんど成立しなくなるから、安全のためにバディロープを使用する。バディロープは、径が10mmぐらいの柔らかいロープ、長さ5m程を用意して、ロープの端をそれぞれの手首に結び付けておく。(旧版の潜水士テキストに記載してある方法)
 実は、ロープを使うと言うことは、ロープを使うことによる危険も発生する。ロープがなにかに絡んで拘束されることもあるし、ロープが潜水器材にからみついて動きが阻害されることもある。ロープが首に絡んで、窒息することだってある。ロープを巧みに使う為には、それなりの熟練が必要になる。また、バディロープの操作に気をとられて、調査ができなくなることもある。
 実際には透視度3m以下では、バディロープはかえって危険である。バディシステムそのものが動きが取れなくなる。バディシステムを維持するためにだけ潜水したようなことになり、調査は全く出来なかったという事態になりかねない。有線通話器で船上と結んだダイバーが一人で潜水する方が安全度が高いし効率が高い。緊急事態が発生すれば、直ちに待機していたダイバーが、有線通話機のケーブルをたどって潜降して救助することができる。
 透視度1m以下では、どんな方法を使っても一般的な調査は成立しなくなる。マクロな撮影、マクロな観察だけが可能である。透視度が50センチでも、目を対象物に近づければ、水中ライトの光でものを見ることが出来るし撮影も可能である。
 東京湾などで海底の土砂を採掘した跡の穴などは、透視度がゼロになる。マスクの前に手を当てて、その手も見えない。これでは接写撮影もできない。こんな状態では、水箱、クリアーサイトという道具を使う。アクリル板などで作った透明な箱に透明な水を入れたものである。一辺が30センチの水箱を持ち込めば、30センチの視界が確保されたことになる。


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▼ 5. トレーニングの必要性
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◆ 5−1 健康のためのトレーニング
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 スクーバの特性の項で述べたが、スクーバは、実際にやってみると、本当に簡単である。だから、スクーバダイビングの講習では、トレーニングは重視されていない。中にはスクーバでは、全くトレーニングは必要ないと言い切る指導者もいる。
 確かにスクーバを習い覚えるためには、ハードなトレーニングはむしろ害があるくらいで、難しいことは何も無い。しかし、これは視点を変えれば欠点になる。この見せかけの簡単さにだまされて、スクーバの本質を知らずに、安全確保の手段を度外視ししてしまうところに危険がある。
トレーニングとは、必要な技能、必要な体力、持久力を維持するための努力である。だから、トレーニングの不要な仕事というものはないし、トレーニングの不要なスポーツもない。仕事には特にトレーニングは必要ないと思っている人もいるが、毎日仕事に従事していることが自然にトレーニングになっているわけで、本人がそれに気付いていないだけである。
 スクーバダイビングを安全に行うためにはトレーニングが必要である。
毎日同じように仕事をしていることが最高のトレーニングであるが、毎日スクーバで潜るという生活はなかなか出来ない。特に都市部では全く不可能である。だから、意識してトレーニングを実行しなければならない。
 スクーバダイビングの能力維持のトレーニングは、健康のためのトレーニングに重ね合わせることが出来る。
 健康のため、体力維持、持久力維持のトレーニングととして薦められているのは、歩行、水泳、自転車、ランニング、そして筋力トレーニングとストレッチングであるが、スクーバダイビングと強い関係があるのはやはり水泳である。水泳とストレッチング、筋肉トレーニングを組み合わせて、それぞれ、自分用のトレーニングメニューを作り、習慣として実施するのが理想であるが、言うのは簡単、実行するには強い意志が必要である。あまり完全なメニューを目指すと、全く実行できなくなってしまう。必ず週に3回は水泳をするとか、実行できる形を考える。

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◆ 5−2 泳ぐトレーニング
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 スクーバは、泳ぐ潜水器であることに大きな特色がある。スクーバダイバーは泳ぐ。持論としては、ダイバーは命がある限り、泳ぐ、陸でも水中でも。
 フィンで泳ぐことは、心臓や肺に大きな負担になる。実際に海で泳いでいるときには、フィンは本当にゆったりと動かしている。だから、心臓にも肺にも負担にならない。それがひとたび力を入れて泳がなければならない状況になると大きな負担になる。その落差が大きい。だからこそ、トレーニングを重ねておかなければならない。
 フィンが自分の筋力に合っていないと、筋肉が疲労してたちまち動かせなくなる。その上、心臓と肺にかかる負担も大きくなり、苦しくなる。泳ぐトレーニングを重ねて、その中から自分の筋肉の力、心臓と肺の力に合っていて、もっとも効率の良いフィンを探しておく。とにかく速く泳げるフィンが、自分に合ったフィンである。理屈ではなくタイムで証明して行くのが間違いない。フィンで泳ぐ速さを競う水中スポーツ競技会が毎年12月に行われている。この競技会の目標は、それぞれのダイバーがトレーニングの成果を示して、自分の記録を向上させることである。その結果が安全につながる。
 競技会に出る、一時的な練習だけでなく、毎日のトレーニングで、心臓と肺、フィンを動かす筋肉を少しづつ増強しておきたい。しかし、一般のプールではフィン・マスク・スノーケルをつけた泳ぎの練習をさせてもらえないから、泳ぐ練習で代用しなければならない。泳ぐトレーニングは、クロールが呼吸のリズム、足の動きともに、フィンで泳ぐ状態に近い。 
 

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▼ 6. 危機管理
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◆ 6−1 心肺脳蘇生法(CPCR)
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ダイバーは誰でも、心肺脳蘇生法(CPCR)について、十分なトレーニングを積んでいることが望ましい。蘇生法は、手技であり技術であるから、知識として知っているだけでなく、直ちに実施できるように練習しておく必要がある。とはいうものの、蘇生法を役に立たせる機会は、一生に何回という頻度である。常に万全の態勢で備えているということも無理である。最新の知識を持っていること、最新の形を身体で現せることを目標にしておく。5年前の講習で得た知識は、もはや古いものになっていると考えて良い。
蘇生法の実施は、一秒を争って開始しなければならない。そして、社会復帰が出来る蘇生が期待できるのは、数分のうちに蘇生した場合である。それから先は、奇跡を願って の蘇生法続行である。但し、生死の判定は勝手にしてはならない。生死の判定は医師だけが行うことを許される。
溺水の場合、見た目では完全に死んでいると思われる姿になっていても、蘇生法を行ったら、たちまち蘇生する場合も少なくない。とにかく、一秒を争って蘇生法を開始して、医師が判定するまで続ける。

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◆ 6−2 減圧症の発症
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 減圧症の発症に備えて、潜水士の規則では、潜水を行う現場付近に、治療のための再圧タンクを置かなければいけないと定めた。そのためのポータブルチャンバーも開発され、助成金もあって、大きい現場には必ず設置される程度まで普及した。
送気式のシステム潜水ならば、再圧タンクを置くのは必然であっても良いのだが、手軽に移動してどこででも潜水を行うスクーバによる調査潜水では、すべての現場に再圧タンクを持参するなど、まったく不可能である。
 やがて、規則の方も緩和されて、もよりのどこかに再圧タンクを備えた病院があり、専門の医師がいるならば、その病院と連絡がとれていて、直ちに入院が出来る態勢にあればそれで良いことになった。この方が現実的であり、かつ安全である。再圧室をそなえる病院も増えて、日本国内であれば、離島でない限り、車で3時間以内で再圧室に到着できるようになった。それぞれが、最寄りの再圧治療施設のある病院と、連絡を維持していることが望ましいが、緊急事態であれば、DAN(ダイバーアラートネットワーク)に連絡することによって、医療施設と連絡がとれる。DANは、海上保安庁の外郭法人である財団法人 日本海洋レジャー安全・振興協会がバックアップし、スポーツ・レクリェーションダイビングの組織が協力し運営しているものであり、まとまった組織を持たない調査・作業ダイバーは直接的な連係がないが、医師の紹介、病院の紹介などの協力はしてくれる。
 ※DAN 緊急ホットライン:03−3812−4999
未だ、潜水士の規則の古い考えも生きていて、大きな組織の発注する大きな潜水現場では、再圧室の設置を義務づけられることがある。再圧室の操作は治療であるから、元来は医療的な行為である。医師の指示、監督のもとでなければ行うことが許されない。また、間違った操作は、致命的な結果になるので特別な教育を受けた有資格者が操作を行うように定められている。この資格(救急再圧員)は、資格講習の受講だけで特別の国家試験とかは無くて、得ることができる。
いずれにせよ、潜水して浮上後に、関節部の痛み、全身の脱力感、呼吸困難など異常があれば、減圧症もしくは肺の気圧外傷を疑って、直ちに再圧治療施設への搬送を開始しなければならない。搬送と同時に、純酸素の吸入、多量の水を与えることは効果がある。問題は、気圧の減少が症状を悪化させることであるので、航空機による搬送ができないこと、車でも山越えは出来る限りさけることが要求される。緊急搬送ができない僻地、離島における潜水では、やはり、ポータブル再圧タンクの設置が必要とされるだろう。



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◆ 6−3 保険
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  事故が発生してしまった後は、まず、どのような保険でカバーされているか、そして責任の所在とその程度が問題になる。
関連する保険は、生命保険、傷害保険、賠償責任保険、そして労働災害保険(略して労災)その他失われた収入を補填する保険などである。
生命保険、傷害保険、その他の保険は、作業に従事するダイバー本人および家族、あるいは、危険の度合に応じて事業を行う事業者がかける保険であり、その契約条項に従って支払われる。生命保険は、病気でも、事故による怪我でも、支払われるもので、傷害保険は、怪我、事故が原因の傷害に対してのみ支払われる。多くの場合、事故によって傷害もしくは死亡した場合には、特別に割り増しして支払われる事故特約などが付けられている。潜水の場合、事故が発生して後、入院して死亡したような場合、死亡理由と潜水事故が関連づけられていないような診断書が書かれると事故特約が支払われない可能性がある。
生命保険、傷害保険で最も支払われるケースの多いのは、入院、および通院の費用の支払いである。入院特約、通院特約は、割高であるが可能なかぎり付けておくことが望まれる。

賠償責任保険は、主にスポーツ・レクリェーションダイビングの講習、ツアーなどに関係するスポーツ賠償責任保険があげられる。これは、もしも講習中に事故が発生した時、インストラクターの責任が追求された場合に備えた保険である。例えば、講習中に死亡事故が発生したとして、インストラクターの指導方法が悪かったとして、一億円の賠償を請求して訴訟が起こったとする。実際は、事故当事者の健康管理に問題があり、責任の90%は本人にあると判定されたとしても、裁判所は、一億円の10%で示談を提示するかもしれない。それでも一千万円である。保険がなければ、とうてい支払えない。
賠償責任保険にはさまざまなものがあり、それぞれ、予想される責任追求に備えることができる。

法規的にも必要であり、労働者にとっても有利な保険は労働災害保険(以後労災と略する)である。労災によってカバーされていることは、労働者にとって一つの権利であるから、すべての作業現場でこの保険は成立させておかなければならない。
 労災保険への加入は事業者の義務であり、労働者の権利である。問題は、二次、三次の下請け業者になった場合、その現場の労災保険の状態がどのようになっているのか、どの段階で保険がかけられているのかがわかりにくくなってしまうことである。発注した大手の会社が労災をかけていると思っていたら、大手の方は下請け業者がかけていると思っていた、などというケースが考えられる。
 また、個人営業の場合も労災に加入していない場合が多々ある。例えば、個人営業の調査ダイバーが助手のアルバイト学生を連れて、漁協に依頼されて調査業務を行って事故を起こし、学生が減圧症にかかり半身不随になり車椅子の生活になってしまった。個人営業の調査ダイバーは、自分については保険組合を通じて労災に加入していたが、助手については手続きをしていなかった。もちろん漁協もこの仕事について労災を成立させてはいなかった。こんなケースも考えられる。
潜水作業にかかわって、労災保険の支払いを受けようとする時、もしも労働者が潜水士の資格を持っていないと、規則違反となる。労災保険は年金の支給の含めると、大きい金額になる。必ず、潜水士の資格のある者を潜水作業に従事させなければならない。


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◆ 6−4 事故の責任
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死亡事故が発生した場合、様々な形で責任が追求される。法規的な責任追求、家族からの責任追求の訴え、そして社会的な責任である。
刑事責任は、まず故意による殺人ではないか、外部から器材に手が加えられていたり、外傷を与えられていないかが問題になる。40mでタンクのバルブを閉め、浮いてきてから開いておけば人が殺せてしまう世界である。さらに業務上過失死傷がないかを調べる。これまでのところ、スクーバダイビングでは故意の死傷事件を聞かない。
 船舶を使用していた場合の事故であれば、海上保安庁の取調べも受ける。
スポーツ・レクリェーションダイビングでは、指導中、講習中であり、指導料、講習料金をもらっていれば、必ず民事訴訟を起こされる。
 調査も含めた作業潜水では、業務が規定通り行われていたか、無理がなかったか、労災の適用と関連して、労働基準監督署からの調査を受ける。場合によっては海上保安庁関連の海難審判を受ける可能性もあるが例を聞かない。
労働基準監督署の調査は、潜水士の規則通りに潜水が行われていたかどうかが問題にされる。困ったことに、この規則は昭和30年代に主にヘルメット式潜水器による潜水を対象にして、作られたものだ。それを現在のスクーバによる潜水に当てはめられているので、実情に合致していない点も多い。しかし、原理原則は変っていないので、もしも、この規則通りに潜水を行っていれば事故は起こらなかったという例が多い。例えば健康診断、潜降索、バディシステムなどこれらをきっちり守っていれば、事故は起こらないものである。

どのような形で事故が起こったとしても、死亡事故が発生すれば、家族の悲しみと衝撃は言葉に尽くせない。誠実に対処しなければならないが、最終的には、保険加入による保証で解決するしかない。
 レクリエーションダイビングの事故は、訴えられることにより支払われる賠償責任保険があるが、作業ダイビングでは、社員の家族に訴えられたときに補填するような保険をかけておく習慣は無い。
 事業者(経営者)にできることは、健康診断を規則どおり行い、労災保険を成立させておくことであり、その他細かいことは、すでに潜水士になっており、潜水士の規則について熟知しているはずである当事者ダイバーの自己責任に任せるしかない。
 作業に従事するダイバーは、報酬をもらい、指示命令によって潜水を行うのであるが、指示/命令は強制ではない。ダイバーは命じられた作業が規則に定められた限度を超えるものであったり、危険の大きいものと判断した場合には、それを拒否することができる。プロのダイバーであれば、危険の存在を見出して、それを除去するか回避する知識・技能をもっているはずである。それが、前提となって作業の実行を指示しているのであるから、法規が守られている限り、事故の責任は、潜水を実行する潜水士の責任であろう。