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地震防災教育からみた地学教育の必要性

2003年地球惑星科学関連学会合同大会「地学教育の昨日・今日・明日」特別資料

兵庫県立須磨友が丘高等学校 数越達也



震度7を体験した生徒達
 筆者は神戸市在住で平成7年兵庫県南部地震を体験した。その後、兵庫県立芦屋高等学校勤務中に地学の授業で地震防災教育に取り組んだ。
震度7を体験した生徒達は、なぜ地震が予知できなかったのか、直下型地震の発生するメカニズムは何か、危険性をどうして地震学者は警告しなかったのかと真剣な疑問を問い掛けてきた。災害後ではあったが、生徒の人生に大きな影響を与えた災害について授業で取り上げる機会が与えられよかったと考えている。この授業を行なっている際に一番多く寄せられた質問は「学校をあげて取り組んでおられますか。」で、答えは「いいえ、地学を選択した生徒は学年320名中40名しかおりません。」だった。(1)

教育課程の問題点
 学習指導要領の改定により、高等学校での物理、化学、生物、地学の4科目が選択制になって久しい。20年前には必修であった地学が、1999年度には受講者が12%を切るところまで減少している。(2)並行して地学の教員も減少し、開講しようにも地学を専攻した教員がおらず、授業が開講できない事態になっている。
 小学校は2002年度からの教育課程では「地震」と「火山」の単元が新たに加えられたが、選択でありどちらかしか学習できない。中学校では両方が教科書にある。しかし、「地震」の単元ではプレート境界で発生する地震については学習するが、プレート内の地震(ほとんどの場合直下型地震となる)についてはほとんど学習しない。また「火山」の単元ではマグマの粘性と噴火の様式については学習するが、地元の火山がどのようなマグマの組成でどのような噴火活動をするかなどは学習しないのである。このままでは日本列島の特徴や自然災害の歴史などがまったく学校教育より抜け落ちて、関東大震災も三陸大津波も知らない国民が増えていってしまうことが危惧される。
 地学を履修せず教員に採用された者の割合が増え、小中学校で地学分野の実験や観察などの指導が疎かになっている危険性はないだろうか。震災直後に「関西には絶対に地震は起きない」と中学校の理科の授業で習いましたと生徒より聞き、愕然としたことを思い出す。
地学は関係する学会・団体が非常に多いのが特徴である。各学会は協力して小中高校での地学教育の内容のチェックや、学校教育で最低限学ばなければいけない項目の検討をし、その必要性を強く訴えていく必要があると思う。

理科教育から地震防災教育へ
 "地震"は"自然現象"であり、"震災"は地震の揺れによって人間社会に引き起こされる"自然災害"である。理科教育としてはまず"自然現象"の理解を深めることが必要であると考えている。
 神戸市や芦屋市の背後には六甲連山の山並みがある。兵庫県南部地震の震源断層に関係する六甲断層系を境にして、北側が隆起して六甲山を形成したと考えられている。地震の学習をした後、次のような問題を出して生徒に地震と地形について考えさせることにしている。
問 六甲山は六甲断層系の北側が隆起してできた山である。六甲山の高さを1000mとおく。500年に一度六甲断層系で大地震が発生し、北側が1m隆起すると仮定する。隆起が発生する前の高さを0mとする。また地震以外の地殻変動や侵食による影響は無視する。
(1)六甲山が現在の高さになるまで何年かかるか。(50万年)
(2)六甲山が現在の高さになるまで何回大地震が発生するか。(1000回)

 この問題を解くと生徒から驚嘆のため息がもれる。自分達の背後にある山並みが数十万年もの時間をかけて形成され、その間に大地震が何百回も繰り返し発生したことが理解されるのだ。
 このような地域の特質を理解させ、そこに発生するであろう地震や火山噴火や気象現象などを知り、それに対してどう備えるのか考えることが理科教育における防災の取り扱い方だと考えている。ただ単に「家具を固定しよう」とか「3日分の食料と水を備蓄しよう」と教えることだけが防災教育ではない。
「災害は進化する」という言葉がある。複雑な現代社会は災害のつど新しいタイプの被害を生み出している。これに対応していくためには、自然現象を的確に理解し自ら考え行動できる人間を育てることが重要である。そのような授業に取り組んでいきたいと考えている。 
私は1996年に設立された日本地震学会学校教育委員会に所属している。地震学会では阪神・淡路大震災をきっかけに、最先端の研究成果を社会に還元する事業を始めた。その一環として1996年より小中高等学校の教員が研究者と交流したり授業実践を発表しあう会を毎年開いている。また1999年より「地震・火山こどもサマースクール」を開催している。これは研究者と教員がいっしょになって地元のこども達に自然理解を深める事業である。今まで丹那断層、有珠山、伊豆大島をフィールドに3回実施している。(3)
 このような事業をきっかけに日本全国の火山や活断層が教材化され、学校教育でこども達がそれぞれ地元の自然を学び、自然の恵みと災害について学習する機会ができることを願っている。

(1)数越達也:"兵庫県立芦屋高校における阪神・淡路大震災後の防災教育とインターネットによる発信" 地球惑星科学関連学会平成12年合同大会、予稿集CDROM (2000)
(2) 柴山元彦: “全国の高校地学受講者数の現状”、地球惑星科学関連学会2000年合同大会、予稿集
(3) 地震火山こどもサマースクール実行委員会"丹那断層のひみつを終えて" 地球惑星科学関連学会2000年合同大会、予稿集 CDROM (2000)