
高校から始まった合唱人生も50年。先ごろは、娘、孫と3世代での合唱公演も果たした。メロディーや詩に感動すると、歌っているときでも、目頭が熱くなり涙があふれそうになる。そんな彼は所属する合唱団の公演で来年も県内外で歌う。合唱人生が開花するのは、これからだ。
阿部先生との幸福な出会い
通っていた小学校では、合唱といえば女子だけのものだった。「うらやましいな」と眺めていた少年は、高校に入り、音楽部で歌い始めて以来、半世紀たった今も、合唱との幸せな関係を築いている。そんな鈴木哲雄さん(66)=県左官工業組合事務局長、山形市下条町一丁目=の物語だ。
山辺町の中学校から山形東高に入学した鈴木さんに、大きな幸運がまっていた。阿部昌司先生が同時に転入してきたのだ。後に山形西、山形東の両高を率いてNHK全国学校音楽コンクールで全国優勝8回(西高7回、東高1回)など数々の栄冠を本県合唱界にもたらした名指揮者の指導を受ける機会を得た。
音楽の授業と音楽部、両方で乾いた砂が水を吸い取るように先生に学んだ。「東北大会に行ったり、春には部のみんなで東沢にサイクリングしたり楽しい思い出です」。父が高校3年の冬に亡くなり大学進学どころではなく、卒業後は銀行に就職した。勤務のかたわら「フリッシェル・コール」「木曜会」などで合唱を続けた。そしてその後、加入し今年で27年ほどになるのが「合唱団じゃがいも」だ。
自由奔放なじゃがいもスタイル
「じゃがいも」に登録しているメンバーは寒河江、河北、山形、長井、南陽、仙台など幅広い範囲で300人ほど。これだけ多くのメンバーをひきつけているのは、作曲家の林光先生が山形に来てくれること、指揮者の鈴木義孝さんの指導、その伸び伸びとした雰囲気、やり方にあるのではないか、と鈴木さんは考える。練習のときでも、メンバーの子どもがついて来て、練習場で遊んでいても、騒いでもいい。練習時間が足りない子どもでも本番のコンサートで歌わせる。合唱中にリズムに合わせ、体を動かすこともある。「じゃがいも」を指導している林光氏は、その自由奔放なスタイルを高く評価している一人だ。宮沢賢治の童話を合唱劇にした数多くの委嘱作品を子どもたちと演じるのが「じゃがいも」の大きな看板だ。
舞台で涙がこぼれそうに

「じゃがいも」のステージは躍動的だ
今月4日、そんな伸びやかな「じゃがいも」の定期演奏会が山形市のアズ七日町であり、林氏の作品を歌った。その公演のパンフレットの「団員からのコメント」に、こんな文章が載った。『親じゃが・子じゃが・孫じゃがが舞台で一緒に歌う。こんなことは実にまれです』。
鈴木さん、鈴木さんの娘さん、孫の烈君が一緒に歌ったのだ。「私は1年3カ月前に腹部の手術をし何とか回復しました。孫もコンサート直前に風邪をひいた。みんなが苦労を乗り越え、3世代が同じステージに立てた。うれしかった」と振り返る。アンコールで前の方で歌う孫の頭がみえたときも、涙がこぼれそうになったという。
来年1月には、「じゃがいも」の東京公演が「かめありリリオホール」でも開催される。鈴木さんは来年は東京、仙台などで合唱のステージに立つ。涙もろく、歌うのが心底好きという鈴木さんの合唱人生、花はまだまだ咲き続ける。
【プロフィル】 昭和15年4月生まれ、66歳。山辺生まれ。山形東高在学当時から合唱団に所属し、銀行に就職後も合唱を続け、国民文化祭ではオペラ「小鶴」にも出演した。所属する合唱団「じゃがいも」を中心に多くの舞台で歌っている。現職は県左官工業組合事務局長で、塗り壁の良さのPR活動などを展開している。