舞台評 合唱団「じゃがいも」30回定演
山形発 − 全国に広がる合唱劇
楽しくて面白い舞台にぶつかった。13日、山形市中央公民館ホールで行われた合唱団「じゃがいも」の第30回定期演奏会、宮沢賢治音楽劇場その9、合唱劇「雪渡り」だ。この団の特徴である大人と子どもとの合同公演がぴったりはまった舞台といえる。主役の子どもたちが舞台で大きな声で歌い動き回り、それを大人のバックコーラスがもり立てる。
ストーリーはおなじみ、子どもたちと子狐(こぎつね)との出合い、そして狐小学校の幻燈(げんとう)会。賢治の世界が合唱劇という立体的な表現となって繰り広げられ、癒やしの情感をたっぷり味わわせてくれた。これは、活字の世界とはちがって合唱劇という新しいジャンルで賢治の作品を理解し表現しようというものであり、指揮者・鈴木義孝の世界だと言うこともできる。この鈴木の提案をがっちりと受け止めてくれたのが、中央で活躍している作曲の吉川和夫であり、演出の山元清多だった。これまでにも手合わせしているだけに呼吸もぴったりで、ほのぼのとした透明感のある舞台を作り上げてくれた。
「じゃがいも」の成長の過程も面白い。30年前の設立当初は普通の合唱団だった。ところが長続きすると若者だった団員も中年になり、仕事が忙しくなって退団してしまう。また、若いお母さんが子どもを産むとやめてしまう。これをなんとか防ごうと考え出されたのが、親じゃが子じゃがの合唱団である。特に子じゃがの年齢はばらばらだ。これがまた魅力らしい。せっせと練習にやって来る。子どもが一生懸命通ってくると親も付き合って来ざるを得ない。そこで、親も頑張るといった図式が出来上がるらしい。このためレパートリーは、子どもたちに喜ばれる動きのあるものが多くなる。これが合唱劇につながり、ユニークな合唱団の誕生となったわけである。
ところが、鈴木が次にぶち当たったのは大人と子どもが一緒になって楽しく合唱できる曲がほとんどないということだった。そこで知り合いの作曲家林光に相談を持ちかけたところ、即座に作曲を承諾してくれた。これが合唱劇と「じゃがいも」との付き合いの始まりであり、その後、作曲家の萩京子、吉川、演出家の加藤直、伊藤明子、山元らと知り合い、舞台が膨らんでいった。この「じゃがいも」の合唱劇は、全国的に評価され注目されてきている。山形発のこの試みが全国に広まるのも夢ではない。
山形県芸術文化会議事務局長 松木 鉦祐
(2003年12月19日山形新聞夕刊)
舞台評 合唱団「じゃがいも」31回定演
遊び心満ちあふれる合唱劇
山形市を中心にユニークな活動を続ける「合唱団じゃがいも」の第31回定期演奏会を見に行った。親じゃが、子じゃがと銘打った幅広い世代で合唱劇を展開している。
なにしろキャストが豪華。林光が作曲、演奏。さらには演出を担当しているのが黒テントの演出家加藤直、それに地元の指揮者鈴木義孝がそろって、息もぴったりの舞台になった。
特に二部の合唱劇「賢かった三人」は、圧巻とも言える舞台だった。
これまでの合唱劇から進歩し、より芝居に近いミュージカルのような舞台。それだけに物語の進行は分かりやすく、見るものが舞台に吸い寄せられてしまった。原作は宮沢賢治の「蜘蛛となめくじと狸」「洞熊学校を卒業した三人」。何でもいいから一番になれという洞熊先生の教えを忠実に守って破滅してしまう話だが、とにかく舞台が面白く、時間のたつのも忘れてしまった。
合唱でありながら楽しみがにじみ出てくる。こんな舞台に仕立て上げたのが構成、演出の加藤、作曲の林のコンビの力だ。加藤はかぎりなくシンプルで、幼児性さえ残る遊び心に満ちあふれていた。これは作曲の林にも言える。やはり「この合唱劇で大いに遊んでやれ」といった大胆な歌と芝居になっていた。
一部の「イーハトーボ野外劇場−宮澤賢治詩集」にも触れておきたい。
幕開きと同時に、男声合唱が力強く聞こえてきた。じゃがいもはこれまで、男声コーラスが弱いのが欠点だった。今回はこれを克服した。また子じゃがが大きくなり、時の移り変わりを感じた。
ひとつ気がかりだったのが、耳をすませて一生懸命に聞いたが、歌詞が十分に聞き取れなかったこと。せっかくの賢治の詩が消化できないままに終わってしまったのが残念だ。詩集を合唱するということは、常にこの問題をはらんでいることを理解してほしい。
とにかく全国的にも新しい挑戦となる合唱劇だけに、大事に見守っていきたい。
舞台評論家・月山薫
(2004年11月25日山形新聞夕刊)
舞台評 合唱団じゃがいも 「やまがたの心を歌う」文翔館コンサートvol.5
高い完成度−男性コーラス光る
文翔館創作劇場は、ことしも野心作が並んでいる。第一弾は、県民芸術祭大賞を受賞した合唱団じゃがいも(森谷文一代表)の文翔館コンサート「やまがたの心を歌う」。メーンに、上山市在住の詩人木村迪夫の詩による「紛れ野の家(うづ)」が演奏された。中央で活躍している作曲家・ピアニストの高橋悠治が、山形弁のまま曲にした作品で、非常に興味をそそられた。
演奏会当日は高橋悠治がピアノ、木村迪夫が詩の朗読で参加、指揮は鈴木義孝で、きわめて刺激的な曲に仕上がっていた。詩の内容は鮮烈で聞く者の心を打つ。「祖母のうた」の一節に「おれのうたなど うただときくな なくになかれず うたでなく」。戦争で夫や息子を亡くしても、家をまもり生きなければならない女たち。蔑視(べっし)され、差別感情などに取り囲まれながらムラに生きる人間の情念のようなものを表現しようとした内容に、知らず知らず感動してしまった。
合唱する側も、作曲家や詩人とじかに言葉をかわし、その真意を理解することによって完成度が違ってくる。この曲は、御詠歌や朗読、唱歌の要素を取り入れている。御詠歌の表現は感情が十分込められており、心の底に流れる仏の世界を思い出させる。朗読では別の作品を同時に読み合わせ、時空のまったく違うものが、一つの作品として受け止められた。違和感を感じないどころか、そこに情念のようなものが浮かび上がってきた。位相の違うものを組み合わせて作品にまとめあげる作業は作曲者も、それを合唱する側も大変だったと思う。
全体的に感じたのは、作品の素晴らしさとともに、合唱団の完成度が高かったことだ。じゃがいもの舞台はこれまでも何回も見てきたが、今回ほど男性コーラスが光っていたことはなかった。迫力があり、声につやがあった。これでようやく男声、女声のバランスのとれた県内一流の合唱団になったといえる。
コンサートは「紛れ野の家」のほか、斎藤茂吉の「死にたまふ母」(曲・西村朗)、真壁仁の「青猪の歌」(曲・田中利光)など本県ゆかりの作家の六作品が演奏され、それぞれに特色ある出来栄えであった。全体的に大成功を収めたのではないだろうか。この企画を担当した指揮者の鈴木義孝に拍手を送りたい。
=5月20日、山形市・文翔館議場ホール
舞台評論家・月山薫
(2006年6月12日山形新聞夕刊)
舞台評 合唱団じゃがいも東京公演
童話の世界 巧みに表現
山形市を中心に活動する合唱団じゃがいも(森谷文一代表)が、子じゃがを連れて初の東京公演を実現した。「林光作品を歌う」パート十一(指揮・林光、鈴木義孝、演出・加藤直)と題し、第一部が宮澤賢治詩華集、二部が東京初演の音楽劇「革トランク・賢治の東京」。
会場の「かめありリリオホール」は、満員の盛況。下町らしく普段着姿の家族連れが多く、山形なまりも飛び交う和やかな明るい雰囲気の演奏会であった。
じゃがいもの特徴は、親と子が一緒にステージに立つことだ。親じゃがが練習するそばで育った子じゃがも一緒に歌うようになったのは、自然のことだったのだろう。もう一つの特徴は、賢治の世界に没頭しているうちに合唱劇にたどり着いたこと。今や、歌い、演じる合唱団なのだ。
一部の賢治詩華集。方言をつかった「海だべがど」で、観客は賢治の世界に引き込まれ、「岩手軽便鉄道の一月」では透明な雪国に入り込み、深呼吸し、ほほ笑んでいた。林光は、じゃがいもの持っている「温かい」心をていねいに引き出して、観客に感動を与えた。また、委嘱作品「冬と銀河ステーション」は、宇宙空間まで広がりを持つ賢治の独特な世界に誘った名曲だ。
昨秋、山形で初演した「革トランク・賢治の東京」は、一段と磨き上げられた優れた舞台に仕上がっていた。一人一人が歌い、演ずる姿がのびやかで躍動感にあふれており、賢治の世界に溶け込んで楽しんでいる。特に、ゴーシュ、賢治、斎藤平太を演じ分けた東海林聡は存在感があって、ドラマをふくらませた。妹トシの死を歌った「鳥のように栗鼠(りす)のように」は、賢治の妹を思う痛みが「みぞれ雪と森」のイメージに凝縮されており、美しく切なく観客の胸に迫った。
圧巻だったのは、十五人の子じゃがたちが大活躍するコミック・オペレッタ「飢餓陣営」だった。バナナン大将(子じゃがたち)と飢えてもがく家来(親じゃが)のやりとりが、実に楽しくユーモラスに展開する。観客は、笑いながら賢治の人間味あふれた童話世界を満喫していた。作曲の素晴らしさはもちろんだが、演出の加藤の力も大きい。団員の持ち味を引き出し、さりげない所作で舞台に明るさと広がりをもたらしている。
じゃがいもは、着実に進化している。どちらかといえば、これまで男声部が弱かったが、今は全体を引っ張っている。恐らくは、子じゃがの頑張りに刺激を受けたのだろうと推理する。賢治という鉱脈を掘り当てたじゃがいもは、合唱と演劇の融合と可能性に挑戦しつづけるにちがいない。
今回の東京公演は、産地直送のじゃがいもの新鮮な味を存分に観客に与え、大成功だった。これからも意欲的に、じゃがいもの「賢治」を創(つく)りだしてほしい。
=1月21日、東京・かめありリリオホール
舞台評論家・月山薫
(2007年2月9日山形新聞夕刊)