ビ・バップがジャズの主流になり暫くすると、その野性的で、エモーショナルなアドリブ中心のスタイルに反発するようなスタイルが自然発生的に生まれてきた。それがクールジャズで、40年代末から50年代初めの短い期間だが人気を博した。
クールジャズはビ・バップと違って、ひとつの大きなムーブメントとしての動きはなく、様々なコンセプトのスタイルが生まれた。一般的にはソフトで知的で野性的というより都会的で美しく内省的なサウンドだった。またビ・バップが蔑ろにしたアレンジにも注目し、すぐれたアレンジャーやコンポーザーも注目を集めることになった。
●マイルス・デイビス(tp) Miles Davis(1926.5.26~91.9.28)
チャーリー・パーカー立ちと行動を共にし、バップ・ムービメントに参加していたマイルス・デイビスはいち早くアレンジ重視のグループで、クールジャズのスタイルを確立した。このグループにはぎる・エヴァンスやジョン・ルイス、ジェリー・マリガンといったミュージシャンが優秀なアレンジを提供した。とはいえ、クール・ジャズのスタイルで正式なレコーディングは「クールの誕生」のみで、40年代末からの東海岸の不況の波をもろに受けて、マイルスといえども不遇の時代を送らざるをえなかった。
●スタン・ゲッツ Stan Getz(ts) 1927.2.2~91.6.6
バップ・テナーの誕生にはコールマン・ホーキンスとレスター・ヤングが大きな影響を与えたが、白人テナー奏者の多くはレスター・ヤングの影響を受けている。スタン・ゲッツもその一人で、枯れが一躍注目を集めたのは、ウッディー・ハーマン楽団の一員としてだった。楽団を退団後はそのリリカルで繊細でクールな音色でクールジャズの代表的プレイヤーのように言われた。彼のこのクールなスタイルによって、クールジャズが始まったとさえいわれるほどだった。
ゲッツのスタイルは普遍的なように言われているが、時代とともに微妙に変化している。初期のサボイ・レーベルの録音を聴く限りでは、レスター・ヤングの影響よりもコールマン・ホーキンスの影響大でデクスター・ゴードンのように豪放なスタイルだった。それが49年に自己のリーダー作を録音するころになるとレスターバリのレガートを効かせたリリカルなプレイが目立つようになりクール・ゲッツといわれるスタイルになった。プレスティッジ盤の「スタン・ゲッツ・カルテット」やルースト盤の「ザ・サウンド」などがクール・ゲッツの代表作だろう。「スタン・ゲッツアット・ストリービル」もライブ盤で聴きものだし、バーブ盤の「スタン・ゲッツプレイズ」はクール・ゲッツの有終の美を飾る名盤のように言われている。事実この作品以降のゲッツはウォーム・ゲッツといわれるハスキーで厚みが加わったウォームな音色に変化していった。
30年代から第2次世界大戦が終わる頃まで、人気を博していた芸能音楽的なジャズ、所謂スイング・ジャズを、芸術音楽の域に高めた新しいスタイルのジャズがモダン・ジャズだ。
モダン・ジャズ最初のスタイルがビ・バップといわれるものだ。リズム、メロディ、ハーモニーすべてに新しいスタイルを生み出したビ・バップは一つの大きなムーブメントになっていた。そのムーブメントに参加し、活躍したジャズ・ジャイアンツたちを紹介しよう。
●チャーリー・パーカー Charlie Parker (as.ts)(1920~1955)
ビ・バップ誕生の重要な役割を担い、かつ牽引者的役割を果たしたのがチャーリー・パーカーだ。彼がモダン・ジャズの父ともいわれる所以はそこにあり、最も偉大なジャズメンのひとりといっても過言はない。またモダン・ジャズ期アルト・サックス奏者のほとんど全員がパーカーの影響下にあり、彼のスタイルを継承しているといってもいい。その点からもパーカーはモダン・アルトのスタイルを創造した偉大な存在といえるだろう。
彼の創造したバップ・スタイルを最もピュアな形で聴くことができるのが、45年から始まるサボイやダイアルの一連のレコーディングで、彼の絶頂期の演奏を聴くことができる。とりわけ<ビリーズ・バウンズ><ココ><ドナ・リー><バルバドス>などサボイには有名曲の不朽の名演があり、またダイアルにも「ラバーマン・セッション」の名で有名な録音や<ナイト・イン・チュニジア><ヤードバード・スイート><クール・ブルース>など代表的名演が並んでいる。
パーカー絶頂期の名演は概ねサボイとダイアルで聴くことができるが、ヴァーヴに残した録音も捨て難い魅力かある。といのも、ヴァーヴの録音はSPようではない3分を越える長時間録音があり、また音質的にも優れたものが多く含まれているからだ。「ナウ・ザ・タイム」「バード・アンド・ディズ」「スウェディシュ・シュナップス」「ウイズ・ストリングス」などいずれも捨て難い魅力かある。また「フィエスタ」「国境の南」のようなラテン・ナンバーを並べた作品群もややコマーシャリズムに傾くが、聴き易く愉しい作品群だ。
●ディジー・ガレスピー Dizzy Gilespie (tp)(1917~1993)
チャーリー・パーカーと共にモダン・ジャズ創世に大きく貢献したトランペッターがディジー・ガレスピーだ。同時にモダン・トランペッターの祖ともいえる存在で、ファッツ・ナバロ、クリフォード・ブラウン、マイルス・デイビスなどの後継者を生み、モダン・トランペットの原点となるスタイルを創造した。また同時にモダン・ビッグ・バンドの確立者でもある。
ビ・バップ・スタイルのガレスピーの全貌を聴くにはチャーリー・パーカーとのセッションが最適だ。またサボイにはガレスピー名義の録音が多くあり、それらはいずれも必聴の名演で、若々しく溌剌としたガレスピーを聴くことができる。また、「コンプリート・ミュージック・クラフト・セッション」または「グルービン・ハイ」(サボイ)で<グルービン・ハイ><ホット・ハウス><ソルト・ピーナッツ>などバップの名曲の数々が聴け、またビ・バップ・スタイルのビッグ・バンドも迫力のサウンドが堪能できる。ビッグ・バンドものでは57年録音の「アット・ニューポート」が有名、リー・モーガンやベニー・ゴルソンなど当時若手のハード・パッパーたちの溌剌としたプレイも聴きものだ。
ガレスピーはヴァーヴに多くの録音を残しており、そのいずれも楽しく優れた演奏が数多くのこされている。「モダン・ジャズ・セクステット」は顔ぶれが魅力的でガレスピーとソニー・スティットのインタープレイは聴きものだ。ステットとの共演ては「フォー・ミュージシャン・オンリー」や「ソニー・サイド・アップ」も魅力的。ガレスピーのワンホーン・カルテットの名演にはパブロの「ディジー・ガレスピー・ビッグ4」があり、彼のトランペットの魅力が堪能できる。
●セロニアス・モンク Thelonius Monk (p)(1920?~1982)
モダン・ジャズ創世に大きく関わりながら、モダン・ピアノの祖となることもなく、孤高のスタイルを貫き独自の音楽性を追求したのがセロニアス・モンクだ。初期のモンクは「ミントンズ・プレイ・ハウス」でハウス・ピアニストを勤め、その頃はテディ・ウイルソン風のスイング・スタイルだったが、ビ・バップ・ムーブメントに参加する頃には独自のスタイルを追求するようになった。当時、有望新人だったバド・パウエルの才能をいち早く見抜き、彼を引き立てたおかげで、パウエルはバップ・スタイルのピアノの祖となったが、当のモンクは独自のメロディー・ハーモニー・リズム感覚でバップ・スタイルとは一線を異にし、独自のモダン・ジャズを追求していった。
一時期レコーディングやライブ活動が思うにまかせない冷遇された時代かあり、ビ・バップ・スタイルでのレコーディングは極めて少ない。しかしプレスティッジと契約してから徐々に評価が高まり、ハード・バップの到来と共に正当に評価されるようになった。
初期のモンクを知るにはブルーノート盤が最適で、ピアノ・スタイルだけに限らず作編曲の才能も同時に知ることができる。プレスティッジ盤では「セロニアス・モンク・トリオ」は初期のトリオ演奏の金字塔といえる内容だし、「セロニアス・モンク&ソニー・ロリンズ」も豪快なロリンズとエキセントリックなモンクのインタープレイが絶妙な味わいを聴かせてくれる。
リバーサイド盤では有名な名盤が目白押しで、56年録音の「ブリリアント・コーナーズ」は歴史的名盤だし、ジョン・コルトレーンとの競演盤はファイブ・スポットでのライブ録音が発掘されても、今なお輝きを失わない名盤だ。また「セロニアス・ヒワセルフ」や「セロニアス・アローン・イン・サンフランシスコ」などのソロ・ピアノはモンクの音楽性がピュアな形で表出した傑作だ。
●ファッツ・ナヴァロ Fats Navarro (tp) (1923~1950)
ファッツ・ナヴァロはバップ期の最重要トランペッターにもかかわらず、知名度、人気はイマイチだ。その理由は26歳という短命に終わったことと、録音に恵まれなかったからだろう。
ビ・バップ全盛期に、そのムービメントに参加、時としてガレスピー以上に素晴らしい演奏を残した。その特徴は輝かしい音色と溢れんばかりのメロディアスで流麗なフレーズ、歌心に溢れたフレイジングは後のトランペッターに大きな影響を残し後継者も数多く残した。その最大の後継者がクリフォード・ブラウンで、ハード・バップのトランペット・スタイルの原型を作った巨人と言えなくもない。
ナヴァロの名演はブルーノートやサボイで聴くことができるが、いずれも整理されたアルバムとは言いがたく、同一セッションの録音が何枚かのアルバムに分散して収録されている。またクラブ出演の際にチャーリー・パーカーともなんども共演しエア・チェックも残っていて、そのいずれもが珠玉の名演だ。
またナヴァロが師と仰ぐハワード・マギーとの共演やダッド・ダメロンとのセッションも必聴のセッションだろう。
●バド・パウエル Bud powell(p) 1924.9.27~66.7.31
セロニアス・モンクに見出されジャズ界の表舞台に登場したバド・パウエルは、セロニアス・モンクを押しのけ、ビ・バップの主流となるスタイルを確立した。チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーなどが牽引したバップ・ムービメントの中で、そのイディオムをピアノ・スタイルに取り込み、モダンジャズのピアノ・スタイルを決定つけたと言っていいだろう。モダンジャズ以降のジャズ・ピアニストで、バド・パウエルの影響を受けていないのは皆無に等しいと言っても過言ではないほど多大な影響を及ぼした偉大なピアニストだ。
天才的な閃きとテクニックで他の追従を許さない彼のスタイルが堪能できるのは、ルーストに録音した「バド・パウエルの芸術」が一番であろう。またブルーノートの一連の作品も編集に問題がある作品もあるが、40~50年代の代表作がならんでいる。またバーヴ盤も素晴らしい作品がいくつかあるが「ジャズ・ジャイアンツ」がお勧めだ。ヨーロッパに移住してからの演奏ではかつての超テクは堪能できなくなったが、枯れた味わいが加わり聴きやすい作品が多い。
