【キリスト教入門講座】 67                                      2001.01.26

旧約の始まり(9)

 紀元前五八七年から約五十年続いたバビロン捕囚は、ユダヤ人の宗教性に、決定的とも言える変化をもたらしました。捕囚前の時代のイスラエル・ユダの宗教は、なんといっても神殿祭儀中心の宗教で、エルサレム神殿に反対した預言者グループも、北イスラエルの聖所で、ほぼ同じような宗教儀礼を行っているだけでした。したがって、偶像礼拝との闘いは、宗教戦争の色合いを持ち、ヒゼキヤ、ヨシヤ、等の名君の下で行われた、ユダヤの宗教改革でさえ、祭司中心の、祭儀の一本化という目的を持つものでした。ところが、その肝心の祭儀の場であるエルサレム神殿が失われるという事態の中で、祭司階級の人々が、自己否定とも言える大きな決断を行います。つまり、バビロンに居る間、一切祭儀を行わない、という決断です。この事を通して、エルサレム神殿の絶対性が確立されました。では、祭司としての職務は、という問いが残ります。Pと呼ばれる祭司たちが、シナイ契約とエルサレム神殿祭儀を中心として、旧来の律法書を一本にまとめる作業に乗り出したのは、この問いに対する答えとしての意味もあったのです。
 Pのグループは、編集作業を通じて、神殿はなくても祭司としての職務を果たしていったのです。さて、ここで、バビロン捕囚後の歴史を、簡単に述べておきます。捕囚から五十年後、ペルシャのキュロス王によって、ユダヤの国は再興され、捕囚とされていた者の帰還が許されます。しかし、バビロンの地で、それなりの安定をしていたユダヤ人たちは、すぐには帰ろうとはしませんでした。わずかに、祭司の一部が、その一族を連れて帰還していきます。第一次帰還です。どちらかといえば、守旧派の多かった第一次帰還者は、まず神殿の再建に手をつけ、引き続いて、ユダヤからの異邦人の排除を行います。この間に準備された、第二次期間のグループの中には、いまは学者や教師の集団と言ってよい、Pのグループも含まれました。彼らは、エドム人、アラム人、ミデアン人などの親戚筋の民族との協和を打ち出し、エルサレムよりも、むしろ外延の後のガリラヤ地方に当たる辺境に再定着しました。
 今回は、主に、レビ記と民数記の二書の概要を見ていきます。更にPの編集と律法主義との関わりも見ていくつもりです。次回は、申命記改革、申命記の成立を中心に見ていきます。


☆ レビ記のアウトラインと編集。
 レビ記には、神聖法集と呼ばれるひとかたまりの資料が含まれており、《主はモーセに仰せになった》によって始まり、《以上は、主がシナイ山においてモーセを通して、御自分とイスラエルの人々との間に定められた掟と法と律法である》《以上は、主がシナイ山において、モーセを通してイスラエルの人々に示された戒めである》という二つの結語によって結ばれています。この部分をのぞき、あとは内容によって、アウトラインを作ってみました。
  1.献げ物に関するきまり
    焼き尽くす献げ物(1章)
    穀物の献げ物(2章)
    贖罪の献げ物(3:1〜7:10)
    和解の献げ物(7:11〜38)
  2.祭司アロンの聖別式(8〜10章)
  3.汚れと清めの儀式
    汚れに関する規定(11章)
    諸々の汚れと清め(12〜15章)
    贖いの儀式(16章)
  4.神聖法集(掟、法、律法、戒め)(17〜27章)

 11章から始まる「汚れと清めの儀式」の部分は、古代イスラエル人が、そしてその伝統を大切にするユダヤ人が、何を汚れとして認識していたかを示す、大切な資料です。しかし、その規定の中には、その当時の価値観に従い、女性差別を内在するものが少なくありません。(12章出産、15章生理等)古代的価値観の集大成ですから、そのような素朴な差別感が入らないほうがおかしいのですが、それを聖なる律法として編集していったPの思想には、差別意識を、また、その思想を中心に発展していった律法宗教には差別の定着を見ていく必要もありそうです。なお、ものみの塔の人たちの輸血拒否の根拠となる聖句も、このレビ記の17章にあります。

☆ 民数記のアウトラインと編集。
 民数記は、人口調査から始まることから、民の数の羅列だけの書物と思われがちです。しかし、この書は、むしろ、シナイ契約以後カナン侵入までのイスラエル民族の闘いの記録であり、そのために人口統計や実際に執り行われた献げ物の詳細も記録されている、と考えるべきでしょう。以下のアウトラインは、このまとめ方に従ったものです。
  1.人口調査(1〜4章)
  2.出発の準備
    汚れと聖別(5〜6章)
    献げ物の明細(7章)
    レビ人(8章)
    過越祭(9章)
  3.荒野での放浪
    出発に伴う出来事(10〜12章)
    カナン偵察(13〜14章)
    律法(15章)
    荒野での反乱(16〜17章)
    律法(18〜19章)
    荒野での闘い(20:1〜21:20)
  4.侵入のための準備
    戦いの記録(21:21〜25:18)
    第二の人口調査(25:19〜26:65)、
    継承法の制定とモーセの後継者(27章)
    献げ物の規定(28〜29章)
    請願の規定(30章)
    ミデアンとの闘い(31章)
  5.約束の地の配分
    ルベン族とガド族(32章)
    旅程のまとめ(33:1〜49)
    土地の配分(33:50〜36:13)

 レビ記と同じ、古代的な差別意識が随所に見られるが、一方で、35章9節以下の逃れの町の規定や、27章、36章に見られる、女性相続人の保護規定など、弱者を保護するという、いまひとつの律法の精神が垣間見られるところもあります。なお、礼拝時に用いられるアロンの祝福は、この書の6章22節以下に規定されています。

☆ ユダヤ教の始まりと律法、編集者Pの思想。
 敗戦とバビロン捕囚によって、それまでの通常の生活習慣を祭儀と共に失ったユダヤ民族は、祭儀律法、生活律法という形で、人為的にその伝統を守っていこうとします。Pは、この目的のために、シナイ契約にまつわるすべての歴史と、その関連で記録のできる、あらゆる律法を組み合わせて、現在のモーセ四書の形にまとめました。この編集から漏れた律法は、口伝律法とされ、後にミシュナ、タルムードという形に纏められていきます。Pの思想は簡単に言えば、科学的な復古主義、厳密な律法主義でした。