パン屋研修 前半
1日目
7月1日午前3時、初日、とにかく不安だらけ。逃げ腰になりがちだけれど、とにかく当って砕けろ精神で乗り込んだ。「Morgen.」元気良く声を出して入った。Heinrichはじめ他の仲間も「Morgen」と返してくれた。更衣室もどきの所で日本から持参した前掛けをし、頭には日本手ぬぐいをし作業場へ、ミキサー、粉を引く機械の音以外聞こえず、黙々と仕事をしている。そんな雰囲気から実習が始まった。
外国人が来るのは初めて、しかも、ドイツ人の田舎の人は、人見知りをする人が多い、さらに、職人となればなおさらのこと。今日一日は見ていようと思ったが。成型するようにとの指示があり、作業台につく、500gの生地を片手に一つづつ、丸めるに当ってへそが上に来る丸め方。見よう見真似で真似するが出来ない。仕方なく、1つ500gの生地を両手で丸めることにした。周りを見回すと、1つの生地を扱っている間に、5こぐらいの生地を成型し終わっている。
次に来た生地は1kg、先ずは500gと同様に丸めその後、細長くするシュトーレン。生地にライ麦が50%含まれている生地であったため、粘つきもきつい、やはり悪戦苦闘。
その後も、色々な生地がかわるがわる来るが、丸める基本は一緒、満足行く成型は1つも出来なかった。その後圧巻だったのは、片手に3キロづつ、両手で6キロの生地をで丸めていた。
手持ち無沙汰にしていると指示が来る。もちろんドイツ語である。しかも、ここはかなり方言がきつい所であり、職場は往々にして省略した言葉を使う。聞き返すことも作業の忙しさを見ると忍びない、神経を集中し聞き、その通り行動したつもりなのだが、何度も的をはずしていた。 職人達がイライラしているように感じる。とてもつらい。
唯一出来る事といえば、洗い物と、掃き掃除である。しかし、忙しく動き回る作業場で掃き掃除はタイミングが必要である。そのタイミングが分からない。そして、洗い物をするのだが、どこに片付けたらいいのか分からない。やはり、周りの人に聞くしかなく、邪魔をしている感じになってしまう。 こんな感じで作業場に居るだけであった。そして、ふっと気が抜ける時がきたと思ったら、午前7時30分、朝食の時間になっていた。
朝食は、今日焼き上がったばかりのBroetchen。それにバター、ハム、チーズ、ピクルス、ジャム、マスタード、レタスなどがテーブルにだされていた。それぞれ各人は、パン切りナイフと小さなまな板で食べる。それに、コーヒーや紅茶が出るが好みにより、各人で持ってくることになっている。カップは日本のドンブリくらいあるやつで飲んでいて驚いたものである。朝食中に職人同士で話されている会話は理解不可能。
朝食後の作業は、翌日以降に焼き上げる生地や、ケーキ、クッキーなどの作業になった。細かい作業であるため、日本人向きの作業ではあるのだが、いかんせん勝手が分からずうまく動けない。
仕事が終わりに近づくと、いよいよ、ブレッツェルの成型である。初めてにもかかわらず成型をさせてくれた。有難い事である。しかし、これもやはりうまく出来ない。24個乗る板に、二人で作業するのだが、隣の職人が20個ほど作る間に4,5個しか出来ないでいた。しかも、大きさなどはまちまち、そして美しくなかった。結局、昼12時ごろ全作業が終了したが、何も出来ないまま終わった。 家に帰りシャワーを浴び昼食を取り、ボーとしていたら寝てしまっていた。起きたのは午後7時ごろ。その後、食事をし、午前1時30分に目覚ましをセットし寝た。夜中からまた作業が始まる。
1週間目
何となく作業の進行状況をつかめるようになった。ひたすら、自分の出来ることを考え、出来るだけのことをするようにした。常に緊張した状態であった。
仲間とのコミュニケーションはまだうまい具合には出来る様子はなかった。
それよりも、ドイツ語が乱暴な口調に聞こえ、怒られているように聞こえた。
成型は、相変わらずドイツ方式に慣れず、時間に余裕がありそうだとドイツ方式、切羽詰ってくると日本方式という具合にやっていた。
まだ、自分の居所が定まらない気がしていた。
3週間目
ドイツ方式の丸めのコツをつかみかけてきた。ベトついた生地や、硬い生地はまだ出来ないのだが、程よい硬さの生地は、面白いように丸まりだした。
仲間とのコミュニケーションは、大分馴れて来たものの、おもむろに嫌な顔をされると、こちらも少しばかり嫌な気持ちになっていた。しかし、ここは異国の地、習慣の違いから、思い違いになっている事が多くある。
嫌な気持ちを少し引っ張っていると、相手は何もなかったのかの様に接してくる。
感情の表現を素直にするがゆえに、分かりやすい人間関係が出来てくる。とても、からっとした人たちである。
ドイツ語力の無さから歪みのある人間関係が生じていたのではないかと思える節もある。
ブレッツェル成型は早くは無いが、形になってきた。作らせてくれる事に感謝。
1ヶ月目
やっと、1ヶ月が過ぎたというところである。来月からは、日曜日以外に火曜日も休みがもらえることになった。精神的にも肉体的にも余裕が出来るようになった。丸めは、微妙な打ち粉の量と生地の粘りの関係でやり易くなる事が分かってきた。
仕事の流れもつかみ、前もって準備が出来る様になり、気を抜けるところも分かってきた。7月末で職人仲間の一人、22歳のTimが大きな町の大きなパン屋に転職することになった。Timは優しく穏やかな青年、すでに6,7年ほどの経験があり、手先は繊細で、美しい成型をする。特に、Timのプレッツェルはおいしそうであった。ドイツの職人は、幾つかのパン屋を経験することが殆どで、経営者のHeinrichも今までに7箇所のパン屋で経験があるようである。別れもあたりまえのような感じで、送別会を催すということもなかった。
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