人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について(答申)
はじめに
1 本審議会の人権に関する基本的認識
「激動の世紀」と言われた20世紀も後一年数か月で幕を閉じ、新しく21世紀を迎えようとしている。
人類の歴史の中で、20世紀ほど科学技術が急速に発達し、人類の未来の夢をはぐくんだ世紀はなかった。しかし、20世紀は、人々の生活に快適さと豊かさをもたらした面がある一方で、人類に多くの災いをもたらした世紀でもあった。二度の世界大戦のみならず、冷戦後も度重なる各地の局地紛争は、かつてないほどの規模で人々の生活を破壊し、その生命を奪い、さらに核戦争の恐怖を生み出している。経済開発の優先は、地球規模で深刻な環境破壊・環境汚染をもたらし、人類だけでなく、地球上に生きとし生けるものすべての生存さえも脅かしかねない。
迎える21世紀は、「人権の世紀」と言われている。それには、20世紀の経験を踏まえ、全人類の幸福が実現する時代にしたいという全世界の人々の願望が込められている。20世紀においても1948年(昭和23年)の世界人権宣言以来、国際連合を中心に全人類の人権の実現を目指して、様々な努力が続けられてきたが、それが一斉に開花する世紀にしたいという熱望である。
人々が生存と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利−それが人権である。この人権の尊重こそが、すべての国々の政府とすべての人々の行動基準となるよう期待されている。つまり、政府のみならず人々の相互の間において人権の意義が正しく認識され、その根底にある「人間の尊厳」が守られることが期待されているのである。
人権は、「人間の尊厳」に基づく人間固有の権利である。しかし、地球の狭さと限られた資源の中で、人々を取り巻くあらゆる環境と共生していくことがなければ、人権の尊重もまたあり得ない時代に差し掛かっている。人権の尊重ということは、今日、そのような広がりの中でとらえられなければならない。
世界の大きな動向から、ひるがえって我が国の人権状況を見ると、人権尊重を基本原理とする日本国憲法の下に、様々な経緯を踏まえながらも、人権尊重主義は次第に定着しつつあると言える。しかし、公的制度や諸施策そのものの在り方にかかわって、様々な課題がある。さらに、国民相互の間にも課題が残されている。とりわけ同和問題など不当な差別は、憲法施行後50年以上を経過した今日の時点でも解消されていない。我が国が、世界の人権擁護推進に寄与し、国際社会で名誉ある地位を得るためにも、これらの課題を早急に解決していく必要がある。一人一人の人間が尊厳を持つかけがえのない存在であるという考え方が尊重され、守られる社会を作っていくことが求められている。
「人権の世紀」への始動は、既に至るところに、様々な形で見られるが、国際連合の提唱による「人権教育のための国連10年」もその一つである。そのような中で、人権擁護推進審議会(以下、「本審議会」と言う。)は、人権擁護施策推進法に基づき、まず、「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育・啓発に関する施策」の検討を行ってきた。
人権は、「人間の尊厳」に基づく権利であって、尊重されるべきものである。しかし、現実には、人々の生存、自由、幸福追求の権利、すなわち人権が、公権力と国民との間のみならず国民相互の間でも侵害される場合があり、その一つの典型が不当な差別であることは、広く認識されるに至っている。このような人権侵害とされるものの中には、人権と人権が衝突し、その衝突状況を慎重に見極めて人権侵害の有無を決すべきものもあるが、多く見られるのは、不当な差別のような一方的な人権侵害である。こうした人権侵害は、いずれにしても、決して許されるものではない。本審議会は、国民相互間の人権問題について、このような認識に立って、人権教育・啓発の施策の基本的在り方について検討してきた。
人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めることは、まさに、国民一人一人の人間の尊厳に関する意識の問題に帰着する。これは、社会を構成する人々の相互の間で自発的に達成されることが本来望ましいものであり、国民一人一人が自分自身の課題として人権尊重の理念についての理解を深めるよう努めることが肝要である。しかし、同和問題など様々な人権課題がある我が国の現状にかんがみれば、人権教育・啓発に関する施策の推進について責務を負う国は、自らその積極的推進を図り、地方公共団体その他の関係機関など人権教育・啓発の実施主体としてそれぞれ重要な役割を担っていくべき主体とも連携しつつ、国民の努力を促すことが重要である。さらに、これらの実施主体の活動のほかに、国民のボランティア活動にも期待するところが大きい。他方、人権教育・啓発は国民一人一人の心の在り方に密接にかかわるものであることから、それが押し付けになるようなことがあってはならないことは言うまでもない。
本審議会は、人権教育・啓発に以上のような困難な問題があることを十分踏まえた上で、人権教育・啓発を総合的に推進するための諸施策を提言するものである。
2 本審議会の設置の経緯と審議の経過
(1)我が国の人権に関する現状を見ると、同和問題など社会的身分や門地による不当な差別、人種・信条又は性別による不当な差別その他の人権侵害が今なお存在し、また、我が国社会の国際化、高齢化、少子化、情報化等の社会の変化に伴い、人権に関する新たな課題も生じてきている。
このような中、同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的在り方について検討した地域改善対策協議会は、平成8年5月の意見具申において、依然として存在する差別意識の解消に向けた教育・啓発の推進及び人権侵害による被害の救済等の対応の充実強化を求め、差別意識の解消を図るための教育・啓発については、これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育、人権啓発として発展的に再構築すべきであると提言した。これを受けて、平成8年7月の閣議決定において、同和問題に関する差別意識の解消に向けた教育・啓発に関する地域改善対策特定事業は、一般対策としての人権教育・啓発に再構成して推進することとされた。
このような情勢の下に、平成8年12月、人権擁護施策推進法が制定され、同法に基づいて、本審議会が法務省に設置され、人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項及び人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について調査審議することとされた。
(2)本審議会は、平成9年5月の第1回会議において、法務大臣、文部大臣、総務庁長官から「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」(諮問第1号)、法務大臣から「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について」(諮問第2号)それぞれ諮問を受けた。
本審議会は、第1回会議以降、「人権尊重の理念に関する教育及び啓発の基本的事項については二年を目途に」基本的考え方を取りまとめる旨の衆議院及び参議院の各法務委員会の附帯決議等を踏まえ、諮問第1号を中心に審議を行い、これまで、29回の会議を開催した。その間、各委員等からの様々なプレゼンテーションや各種の人権課題に関する民間団体等からの意見聴取を行うなど、幅広く調査審議を行い、さらに、本年6月18日に答申案を公表し、各方面から寄せられた意見などを踏まえて最終的な審議を行った。
本審議会は、このような調査審議を経て、ここに諮問第1号に関する答申を取りまとめた。
第1 人権及び人権教育・啓発に関する現状について
1 人権に関する現状
我が国においては、基本的人権の尊重を基本原理とする日本国憲法の下で、国政の全般にわたり、人権に関する諸制度の整備や諸施策の推進が図られてきた。平成10年12月には、衆議院及び参議院において、世界人権宣言採択50周年を契機として、すべての人々の人権が尊重される社会の実現に一層努めることを決意する旨の決議も行われている。
しかしながら、我が国の人権に関する現状については、国内外から、国の諸制度や諸施策そのものの在り方に対する人権の視点からの批判的意見(注1)も含めて、公権力と国民(注2)との関係や国民相互の関係において様々な人権問題が存在すると指摘されている。
本審議会は、人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について諮問を受けている。したがって、人権に関する現状を考察する上で検討の対象となるものは、様々な人権問題のうち、人権に関する教育・啓発を推進し、人権尊重の理念に関する国民相互の理解が深まることによって、解消に向かうと考えられるものである。
そこで、主な人権課題(注3)の現状を見ると、以下のとおりである。
1) 女性に関する課題として、人々の意識の中に形成された固定的役割分担意識等からくる、就職の際や職場における昇進の際の男女差別の問題のほか、セクシュアルハラスメント、家庭内における暴力などの問題がある。
2) 子どもに関する課題として、子どもたちの間のいじめは依然として憂慮すべき状況にあるほか、教師による児童生徒への体罰も後を絶たない。また、親による子どもへの虐待なども深刻化しつつある。
3) 高齢者に関する課題として、我が国における平均寿命の大幅な伸びや少子化などを背景として社会の高齢化が急速に進む中、就職に際しての差別の問題のほか、介護を要する高齢者に対する家庭や施設における身体的・心理的虐待や高齢者の財産を本人に無断でその家族等が処分するなどの問題がある。
4) 障害者に関する課題として、就職に際しての差別の問題のほか、障害者への入居・入店拒否などの問題が依然として存在しており、さらに、施設内における知的障害者等に対する身体的虐待事件の多発などが近時目を引く。
5) 同和問題に関する課題として、同和問題に関する国民の差別意識は、特に昭和40年の同和対策審議会答申(注4)以降の同和教育及び啓発活動の推進等により着実に解消に向けて進んでいるが、結婚問題を中心に、地域により程度の差はあるものの依然として根深く存在している。就職に際しての差別の問題や同和関係者に対する差別発言、差別落書などの問題もある。
6) アイヌの人々に関する課題として、結婚や就職に際しての差別の問題のほか、差別発言などの問題がある。
7) 外国人に関する課題として、諸外国との人的・物的交流が飛躍的に拡大し、我が国に在留する外国人が増えつつある中、就労に際しての差別の問題のほか、外国人への入居・入店拒否など様々な問題がある。また、在日朝鮮人児童生徒への暴力や嫌がらせなどの事件や差別発言などの問題もある。
8) HIV感染者やハンセン病の患者及び元患者に関する課題として、日常生活や職場・医療現場における差別の問題のほか、マスメディアの報道によるプライバシーの侵害などの問題がある。
9) 刑を終えて出所した人に関する課題として、就職に際しての差別の問題のほか、悪意のある噂の流布などの問題がある。
以上のほか、犯罪の被害者やその家族について、時には少年事件などの加害者本人についても、マスメディアの興味本位の、又は行き過ぎた取材や報道によるプライバシーの侵害の問題があるなど、様々な人権課題がある。近時、インターネット上の電子掲示板やホームページへの差別的情報の掲示も問題となっている。
このように我が国には今なお様々な人権課題が存在するが、その要因としては、人々の中に見られる同質性・均一性を重視しがちな性向や非合理な因習的な意識、物の豊かさを追い求め心の豊かさを軽視する社会的風潮、社会における人間関係の希薄化の傾向等が挙げられる。国際化、情報化、高齢化、少子化等の社会の急激な変化なども人権問題を複雑化させる要因となっている。また、国民一人一人において、個々の人権課題に関して正しく理解し、物事を合理的に判断する心構えが十分に備わっているとは言えないことが、それぞれの課題で問題となっている差別や偏見につながっているという側面もある。
このような様々な人権課題が存在する要因の基には、国民一人一人に人権尊重の理念についての正しい理解がいまだ十分に定着したとは言えない状況があることが指摘できる。
現に、総理府が平成9年7月に実施した「人権擁護に関する世論調査」において、基本的人権が侵すことのできない永久の権利として憲法で保障されていることそれ自体を知らないと答えた者の割合が、回答者全体の20.1パーセントを占めており、その結果から見ても、基本的人権についての周知度がいまだ十分とは言えない状況にある。同世論調査では、権利のみを主張して他人の迷惑を考えない人が増えてきたと思うと答えた者の割合が、回答者全体の82.9パーセントにも上っており、この結果からも、自分の権利を主張する上で他人の権利にも十分に配慮する必要があるという認識がいまだ国民の間に十分に浸透していないことがうかがわれる。
他方、上記の周知度との関連で、自分の有する権利についての理解が十分でないことから、本来、正当に主張すべき場面での権利主張が十分なされていないことがあると指摘されている。
このように人権尊重の理念についての正しい理解がいまだ十分に定着していないのは、国民に、人権の意義やその重要性についての正しい知識が十分に身に付いておらず、また、日常生活の中で人権上問題のあるような出来事に接した際に、直感的にその出来事はおかしいと思う感性や、日常生活において人権への配慮がその態度や行動に現れるような人権感覚も十分に身に付いていないからであると考える。
2 人権教育・啓発の現状
本審議会の審議対象は、人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項とされている。ここに言う人権教育、人権啓発は、いずれも、人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるためのものであって、かつ、それにより、国民の人権感覚が培われ、前記のような感性がはぐくまれるなどして、人権問題を生じさせている諸要因を解消し、人権問題が解決されることを期待するものである。また、一般的に「教育」、「啓発」といっても、使われる場面によって重なり合う部分があり、この両者は明確に区分されるものではない(注5)。
そこで、本審議会においては、今後の人権教育・啓発の基本的在り方及びこれを踏まえた人権教育・啓発の推進のための効果的な方策を各実施主体に提案するという実践的な観点から、本答申で用いる人権教育及び人権啓発を以下のように整理することとする。
人権教育とは、基本的人権の尊重の精神が正しく身に付くよう、学校教育及び社会教育において行われる教育活動とする。人権啓発とは、広く国民の間に、人権尊重思想の普及高揚を図ることを目的に行われる研修・情報提供・広報活動等で人権教育を除いたものとする。
(1) 人権教育
人権教育については、日本国憲法及び教育基本法の精神にのっとり、基本的人権の尊重の精神が正しく身に付くよう、地域の実情にも留意しながら、学校教育及び社会教育を通じ様々な取組が行われている。
しかしながら、ともすると知識を一方的に教えるにとどまっている、人権尊重の理念について必ずしも十分認識していない指導者が見られる、などの問題が指摘されている。また、人権教育を実施するに当たっては、外部の不当な介入を受けることなく、教育の中立性を確保することが引き続き重要な課題となっている。
人権教育の現状は、以下のとおりである。
ア 学校教育
学校教育では、人権に関する様々な課題について、児童生徒が授業で学習したり、クラスで話し合ったりするなど、発達段階に応じた取組が行われている。
幼稚園においては、例えば、友達と一緒にものづくりをするなどの様々な遊びや生活を通して、幼児が他の幼児とのかかわりの中で他人の存在に気付き、相手を尊重する気持ちで行動できるようにするなど、人権尊重の精神の芽生えをはぐくむような取組が行われている。
小学校、中学校及び高等学校においては、児童生徒の発達段階に即し、各教科、道徳、特別活動等のそれぞれの特質に応じて学校の教育活動全体を通じて人権尊重の意識を高める教育が行われている。例えば、社会科においては、日本国憲法を学習する中で人間の尊厳や基本的人権の保障などについて理解を深めることとされ、また、道徳においては、だれに対しても差別することや偏見を持つことなく、人間尊重の精神をはぐくむよう指導することとされている。
また、人権教育を推進するための施策として、人権教育に関する指導方法等の改善及び充実に資するため研究指定校等による実践的な取組が行われている。
さらに、いじめ、障害者などの人権に係る諸課題について、種々の施策が実施されている。例えば、いじめの問題については、いじめは人権にかかわる重大な問題であり、「弱い者をいじめることは人間として絶対に許されることではない」という認識に立って各種の取組が行われている。また、障害者に対する正しい理解認識を深めるために、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒や地域社会の人々とが共に活動を行う交流教育などの実践的な取組が行われている。
大学等における人権教育については、例えば、法学一般、憲法などの法学の授業に関連して実施されている。また、教養教育に関する科目等として、人権教育に関する科目が開設されている大学もある。
このように学校教育において人権教育が推進されているが、児童生徒の実態からすると、知的理解にとどまり、人権感覚が十分身に付いていないなど指導方法の問題、教員に人権尊重の理念について十分な認識が必ずしもいきわたっていないなどの問題等が指摘されている。
イ 社会教育
社会教育においては、生涯の各時期に応じ、各人の自発的学習意思に基づき、人権に関する学習ができるよう、生涯学習の視点に立って、公民館等の社会教育施設を中心に学級・講座の開設や交流活動など、人権に関する多様な学習機会が提供されている。また、社会教育指導者のための人権教育に関する手引の作成などが行われている。さらに、社会教育主事等の社会教育指導者を対象に様々な形で研修が行われ、指導者の資質の向上が図られている。
このように、生涯学習の振興のための各種の施策を通じて人権教育が推進されているが、知識伝達型の講義形式の学習に偏りがちであることや指導者が固定しがちであることなどから、ともすると学習参加者の意欲が減退しているなどの問題が指摘されている。
ウ 家庭教育
家庭教育は、幼児期から子どもに豊かな情操や思いやり、善悪の判断などの基本的倫理観などをはぐくむ上で、極めて重要な役割を担っている。本来、家庭教育は、各家庭において責任を持って行われるべきものであるが、今日、家庭の教育力の低下が指摘されている。このため、家庭教育に関する親の学習機会の提供や子育てに関する相談体制の整備、家庭教育手帳等の作成・配布など家庭教育を支援する取組が行われている。一方、親の差別的な意識が、言動を通じて、子どもに再生産されてしまう場合が少なくないと指摘されている。このため、親自身が偏見を持たず、差別をしないことなどを日常生活を通じて身をもって子どもに示していくことが求められている。
(2) 人権啓発
人権啓発活動は、広く国民の間に人権尊重思想の普及高揚を図り、これにより、国民一人一人が人権を尊重することの重要性を認識するとともに、その認識が日常生活の中で態度面、行動面等において根付くことを目指して、様々な実施主体により行われている。
しかしながら、一方で、啓発活動のマンネリ化傾向、啓発実施主体間相互の連携不足、活動の周知度の低さなど種々の問題が指摘されている。
様々な実施主体により行われている啓発活動の現状は、以下のとおりである。
ア 国の人権擁護機関の啓発活動
国においては、その所掌事務との関連で、府省庁等において人権にかかわる啓発活動(注6)が行われているが、人権擁護事務として人権啓発を専門的に担当する機関として、法務省人権擁護局及びその下部機関である法務局・地方法務局と人権擁護委員が設けられ、これら法務省に置かれた人権擁護機関(注7)が一体となって人権啓発活動を行っている。
その活動は、一般的には、毎年、年度を通じて特に重点的に啓発活動を行うテーマを定めた上で、シンポジウム・講演会・座談会・討論会・映画会などの開催、各種イベントへの参加、テレビ・ラジオ・有線放送等のマスメディアの利用など、様々な方法で展開されている。毎年12月4日から12月10日までの1週間は「人権週間」と定められ、その期間中は、各種イベント等の啓発活動が全国規模で集中的に展開されており、また、総務庁、文部省、地方公共団体等との共催により、人権啓発フェスティバルが毎年3か所で開催されている。そのほか、国家公務員や都道府県及び市町村の人権啓発行政に携わる職員を対象にした研修会などが開催されている。
子どもを対象とした啓発活動としては、主に小学生を対象とした人権の花運動、中学生を対象とした人権作文コンテストのほか、人権擁護委員による学校等における座談会、ビデオ上映会などが実施されている。
平成10年度からは、人権啓発活動を実施する主体の連携協力を強化するため、法務局・地方法務局、都道府県及び都道府県人権擁護委員連合会の三者で人権啓発活動ネットワーク(注8)の整備を図る事業が実施されている。
同和問題の早期解決を妨げる要因となっているえせ同和行為(注9)の排除を目指して、関係省庁やその出先機関、地方公共団体との協力の下、情報交換のための会議や講演会等が開催されている。
以上のほか、法務省が外部に委託している人権啓発事業があり、(財)人権教育啓発推進センターや都道府県・政令指定都市が委託を受けて啓発活動を実施している(注10)。
このように、様々な態様で人権啓発活動が実施されているが、その内容・手法が必ずしも国民の興味・関心・共感を呼び起こすものになっていないという指摘がある。特に、啓発活動の実施に当たってのマスメディアの効果的な活用が十分とは言えない現状にある。啓発実施主体間の連携については、人権啓発活動ネットワークの整備等を通して、ある程度進んでいるものの、市町村や公益法人等の民間団体等との連携や中央の府省庁レベルの連絡協議体制は十分なものとは言えない。さらに、法務省の人権擁護機関の存在及び活動内容が国民に十分知られていないという指摘や、法務局・地方法務局の人権擁護事務担当者には、人権啓発技法等についての専門性が十分でないとの指摘があり、今後、啓発活動を積極的に推進していく上では、現在の法務省の人権擁護部門の実施体制自体も不十分であるという問題もある。
人権擁護委員の行う人権啓発活動については、その企画立案を含めて、取組がいまだ十分とは言えない現状にある。
イ 地方公共団体の啓発活動
地方公共団体においては、都道府県、市町村のそれぞれの地域の実情に応じ、啓発行事の開催、啓発資料等の作成・配布、啓発手法等に関する調査・研究、研修会の開催など様々な啓発活動が行われており、その内容は、まさに地域の実情等に応じて多種多様である。
都道府県においては、市町村を包括する広域的な立場や市町村行政を補完する立場から、それぞれの地域の実情に応じ、市町村を先導する事業、市町村では実施が困難な事業、市町村の取組を支援する事業などが展開されている。
市町村においては、住民に最も身近にあって住民の日常生活に必要な様々な行政を担当する立場から、地域に密着したきめ細かい多様な人権啓発活動が様々な機会を通して展開されている。
地方公共団体においても、人権啓発の手法の更なる創意工夫、啓発実施主体間相互の連携強化、活動の周知度を高める工夫などの必要性が指摘されている。行政主導による啓発活動が中心であるため、知識の習得に偏りがちとなり、住民一人一人が自分自身の課題として人権尊重の理念についての理解を深めるようなものになっていないとの指摘もある。さらに、人権啓発に関して、一部には、主体性を欠いた行政運営が行われている傾向が見られることが指摘されており、その適正化が求められている。
ウ 企業及び民間団体の啓発活動
企業においては、その取組に濃淡はあるものの、個々の企業の実情や方針等に応じて、自主的な人権啓発活動が行われている。具体的な取組としては、従業員に対して行う人権に関する各種研修のほか、より積極的なものとしては、人権啓発を推進するための組織の設置や人権に関する指針の制定、あるいは従業員に対する人権標語の募集などが行われている例もある。
民間団体においても、人権全般あるいは個々の人権課題を対象として、広報、調査・研究、研修等、人権啓発上有意義な様々な取組が行われているほか、国、地方公共団体が主催する講演会、各種イベントへの参加などの人権啓発活動が展開されている。
(3) (財)人権教育啓発推進センター
(財)人権教育啓発推進センター(注11)は、国からの委託事業を含めて様々な人権教育・啓発活動を実施している公益法人であり、人権教育・啓発の実施主体としての民間団体の中にあって、国、地方公共団体、民間非営利法人等の各実施主体の連携協力を側面から支援し、企業、研究機関等の民間レベルや国際機関の英知を活用するなどして、中立性・公正性を確保しつつ、積極的に人権教育・啓発活動を推進していくことが期待されている。
(財)人権教育啓発推進センターにおいては、現在、啓発映画の作成、国内外の人権教育・啓発に関しての調査・研究や情報収集、人権フォーラムの開催、人権啓発フェスティバルの国、地方公共団体との共催、人権関係情報データベースによる各種情報提供、人権教育・啓発担当者用のテキストの作成、企業内研修用の啓発資料の作成、国家公務員や都道府県及び市町村の人権啓発行政に携わる職員を対象とした研修の支援・協力等の事業が行われている。
しかしながら、上記のような役割を果たすためには、施設や専従職員の確保などの実施体制において不十分な点が見られるとともに、人権情報収集システム、調査研究機能、人権啓発指導者養成機能などの整備もいまだ不十分である。
(4) 人権教育のための国連10年
1993年(平成5年)の世界人権会議において、人権教育(本答申における人権教育・啓発の両者を含む。)の重要性が強調され、1994年(平成6年)の第49回国際連合総会において、「人権教育のための国連10年」(1995年(平成7年)〜2004年(平成16年))を宣言する決議とその行動計画が採択された。
これを受けて、我が国においては、「人権教育のための国連10年」に係る施策について、関係行政機関相互の緊密な連携・協力を確保し、総合的かつ効果的な推進を図るため、内閣に人権教育のための国連10年推進本部が設置され、同本部において、平成9年7月4日、「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画が策定・公表された。その後、関係行政機関において、この国内行動計画に掲げられた諸施策の実施等を通じ、人権教育の推進が図られている。
この国内行動計画は、その実施に当たって本審議会における検討結果を反映させることとされている。
第2 人権教育・啓発の基本的在り方について
1 人権尊重の理念
人権とは、すべての人間が、人間の尊厳に基づいて持っている固有の権利である。人権は、社会を構成するすべての人々が個人としての生存と自由を確保し、社会において幸福な生活を営むために、欠かすことのできない権利であるが、それは人間固有の尊厳に由来する。
日本国憲法において、人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であり、侵すことのできない永久の権利として現在及び将来の国民に与えられたものであるとされている(97条、11条)。また、昨年、第3回国際連合総会で採択されてから50周年を迎えた世界人権宣言においては、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるとされている(前文)。人権は何よりも大切なものであり、人権の尊重が政府及び人々の行動基準とされなければならないことは、1993年(平成5年)のウィーンにおける世界人権会議(注12)などにおいても確認されている。
このように普遍的な意義を持つ人権の内容は、日本国憲法においても、個人の尊重、生命、自由、幸福追求の権利の尊重(13条)と法の下の平等及び差別の禁止(14条)という二つの包括的な規定と、様々な人権の個別・具体的な保障規定の中に明文で示されている。
これらの人権が不可侵であるということは、歴史的には、主として、公権力によって侵されないという意味で理解されてきたが、人間はどのような関係においても人間として尊重されるべきものであるということにかんがみれば、人権は、国や地方公共団体といった公権力の主体との関係においてだけでなく、国民相互の関係においても尊重されるべきものであることは言うまでもない。
我が国においては、一方で、本来、正当に主張すべき場面での権利主張が必ずしも十分に行われていないという問題があり、他方で、自分の権利を主張する上で、他人の権利にも十分配慮することができない者も少なくないという問題があるが、これは、詰まるところ、人権についての正しい理解がいまだ不十分であるからにほかならない。今日、人権の尊重が世界共通の行動基準とされるすう勢にあることからしても、今後の我が国社会においては、一人一人が自分の人権のみならず他人の人権についても正しい理解を持つとともに、権利の行使に伴う責任を自覚し、人権を相互に尊重し合い、その共存を図っていくことが重要である。日本国憲法12条も、この趣旨をうたっている。
すべての人は、人間として皆同じように大切な人権を有しているのであり、すべての個人が自律した存在としてそれぞれの幸福を最大限に追求することができる平和で豊かな社会は、国民相互の人権が共に尊重されてこそ初めて実現されるものである。
このような認識に立ち、本審議会は、人権尊重の理念を、自分の人権のみならず他人の人権についても正しく理解し、その権利の行使に伴う責任を自覚して、人権を相互に尊重し合うこと、すなわち、人権の共存の考え方ととらえるものである。
2 人権教育・啓発の基本的在り方
人権が共存する人権尊重社会を実現するためには、国民一人一人が人権尊重の理念について正しく理解することが重要である。このため、人権尊重の理念について国民相互の理解を深めることを目的として行われる人権教育・啓発の果たす役割は極めて大きい。
人権教育・啓発に当たっては、国民一人一人に、人権の意義やその重要性が知識として確実に身に付き、人権問題を直感的にとらえる感性や日常生活において人権への配慮がその態度や行動に現れるような人権感覚が十分身に付くよう、対象者の発達段階に応じながら、その対象者の家庭、学校、地域社会などにおける日常生活の経験などを具体的に取り上げるなど、創意工夫を凝らしていく必要がある。その際、人格が形成される早い時期から、人権尊重の精神の芽生えが感性としてはぐくまれるよう配慮する必要がある。また、人権教育・啓発は、国民一人一人の心の在り方に密接にかかわる問題であることから、その性質上、押し付けにならないように留意する必要がある。
人権教育・啓発は、国民一人一人の生涯の中で、様々な機会を通して実施されることにより効果を上げるものと言える。そのため、人権教育・啓発の実施主体は相互に十分な連携をとり、その総合的な推進に努めることが必要である。
人権教育・啓発の手法については、法の下の平等、個人の尊重といった人権一般の普遍的な視点からのアプローチと、具体的な人権課題に即した個別的な視点からのアプローチとがあり、この両者があいまって人権尊重の理念についての理解が深まっていくものと考えられる(注13@)。この両者に十分配慮しながら、人権教育・啓発を進めていく必要があるが、個別的な視点からのアプローチに当たっては、地域の実情等を踏まえるとともに、人権課題に関して正しく理解し、物事を合理的に判断する精神を身に付けることができるように働きかける必要がある。その際、同和問題など様々な人権課題に関してこれまで取り組まれてきた教育・啓発活動の成果と手法への評価を踏まえる必要がある(注13A)。
さらに、人権教育・啓発がその効果を十分に発揮するには、その内容はもとより、実施の方法等においても国民から幅広く理解と共感を得られるものであることが必要である。
この観点からすると、人権教育・啓発は、その内容・方法等において、国民からあまねく受け入れられるものであることが望まれ、また、これを担当する行政は、主体性を確保することが重要である。一方、人権教育・啓発にかかわるすべての人は、国民の間には人権問題や人権教育・啓発の内容・手法等に関し多様な意見が存在していることにも十分配意し、異なった意見に対する寛容の精神に立って、人権問題等に関して自由な意見の交換を行うことができる環境づくりに努めることが求められる。これに関連して言えば、人権上問題のある行為をしたとされる者に対する行き過ぎた追及行為は、国民に人権問題に関する自由な意見交換を差し控えさせることになるなど、上記環境づくりの上で好ましくないものと言える。人権上問題のあるような行為をした者に対しては、人権擁護に当たる公的機関が迅速かつ適正に対応することが重要である。
なお、人権問題を口実とした不当な利益等の要求行為の横行も、人権問題に対する国民の理解を妨げ、ひいては人権教育・啓発の効果をくつがえすものであるから、その排除に努める必要がある(注13-3)。
(1) 人権教育
人権教育は、生涯学習の視点に立って、幼児期からの発達段階を踏まえ、地域の実情等に応じて、学校教育、社会教育及び家庭教育のそれぞれが互いの主体性を尊重しつつ、相互の連携を図ってこれを実施する必要がある。人権教育をより効果的に推進するためには、今後とも、学習機会の一層の充実、指導方法や学習教材の開発・提供、指導者の養成・確保等を図っていく必要がある。
人権教育を進めるに当たっては、政治運動や社会運動との関係を明確に区別し、それらの運動そのものも教育であるといったようなことがないよう、教育の中立性が守られるように留意しなければならない。
ア 学校教育
幼児期は、人間形成の基礎が培われる極めて大切な時期であるため、幼児の発達の特性を踏まえ、身近な動植物に親しみ、生命の大切さに気付かせ、豊かな心情を育てるなど、人権尊重の精神の芽生えが感性としてはぐくまれるように努める必要がある。
小学校、中学校及び高等学校においては、児童生徒の発達段階に即しながら、各教科等の特質に応じ、学校の教育活動全体を通じて人権尊重の理念について理解を促し、一人一人を大切にする教育を推進していく必要がある。
このために、生命を大切にし、自他の人格を尊重し、お互いの個性を認め合う心、他人の痛みが分かる、他人の気持ちが理解でき、行動できるなどの他人を思いやる心、正義感や公正さを重んじる心などの豊かな人間性を育成することが重要である。そのためには、ボランティア活動などの社会体験や自然体験、高齢者や障害者等との交流などの豊かな体験の機会の充実が大切である。
これとともに、人間尊重の考え方が基本的人権を中心に正しく身に付くようにする必要がある。その際、他人の自由や権利を大切にすること、自分の行動には責任を持たなければならないことなどについて指導していくことが必要である。また、人間尊重の考え方を指導するに当たっては、児童生徒が発達途上にあることに十分配慮することが望まれる。
大学等においては、人権尊重の理念についての理解を更に深め、それまでの教育の成果を確かなものとすることが重要である。なお、大学等は、社会の様々な分野での人材養成を担っているという観点からも人権教育の一層の充実が望まれる。
イ 社会教育
社会教育においては、生涯学習の振興のための各種の施策を通じて人権に関する学習を一層推進していくことが必要である。
幼児から高齢者に至る幅広い層を対象に、それぞれのライフサイクルにおける学習活動に対応して、生涯にわたって人権に関する多様な学習機会の一層の充実を図る必要がある。学習意欲を喚起する学習プログラムを開発・提供していくことも重要である。具体的な展開においては、参加型学習などの体験活動や身近な課題等を取り上げるなど日常生活において態度や行動に現れるような人権感覚が身に付くように創意工夫していくことが考えられる。また、人権に関し幅広い識見のある人材を活用するなど、指導者層の充実を図る必要がある。
ウ 家庭教育
家庭教育は、本来、各家庭における価値観等に基づき行われるものであるが、教育の原点と言われるように、幼児期から豊かな情操や思いやり、善悪の判断など人間形成の基礎をはぐくむ上で家庭の果たす役割は極めて重要である。このため、家庭の教育力の向上を図るとともに、親自身が偏見を持たず、差別をしないことなどを日常生活を通じて自らの姿をもって子どもに示していくことが必要である。このため、今後とも親に対する学習機会の提供など家庭教育に対する支援の一層の充実を図っていくことが重要である。
(2) 人権啓発
人権啓発は、これまで様々な実施主体により様々な態様で行われてきたが、国民一人一人が人権尊重の理念を真に自分のものとして身に付けるには、各実施主体は、今後とも地道にねばり強く啓発を続けていくことが重要である。その際には、法の下の平等、個人の尊重といった普遍的な視点から人権の尊重の理念を訴えることも重要であるが、真に国民の理解ないし共感を得るためには、これと併せて、具体的な人権課題に即し、国民に親しみやすく分かりやすいテーマや表現を用いるなど、様々な創意工夫が求められる。
対象者の発達段階に応じた啓発手法の選択も重要である。例えば、子どもに対する啓発としては、他人の痛みが分かる、他人の気持ちが理解でき、行動できるなどの他人を思いやる心をはぐくみ、子どもの情操をより豊かにすることを目的として、子ども自らが人権に関する作文を書いたり、人権に関する標語を考えたり、草花を栽培するよう働きかける活動などは非常に有用である。一方で、今後の人権啓発においては、マスメディアの積極的な活用も極めて重要になってくる。これまでの講演会などのイベントを中心とした広報活動も一定の効果はあったが、より多くの国民に効率的に人権尊重の理念の重要性を伝えるには、マスメディアの積極的な活用が不可欠と言える。
大きな社会問題となった人権上の問題に対して、人権擁護に当たる機関が、適時に、人権擁護の観点から具体的な呼び掛け等を行うことも、広く国民が人権尊重についての正しい認識を持つようになるためには、大きな効果が期待できる。
地域の住民が人権尊重の理念について、身近に感じ、その理解を深めることができるよう、地域の実情を踏まえ、具体的な事例を挙げて、地域に密着した啓発を行うことも重要である。
人権啓発の創意工夫に当たっては、広報のノウハウを有する民間の機関(あるいは企業)の斬新なアイディアを活用することも有効である。
人権啓発は、これまで様々な実施主体によって行われてきたが、人権問題が今後ますます複雑化・国際化する傾向にある中で、これを一層効果的かつ総合的に推進しなければならない。そのためには、各実施主体が担うべき役割を踏まえた上で、相互の有機的な連携協力関係を強化して啓発を実施することが必要である。
国民が、啓発の実施主体の存在及びその活動内容を十分認識し、その活動の意義を承知していればいるほど、啓発効果はより大きいものを期待することができる。したがって、国の人権擁護機関を始めとする啓発実施主体は、その周知度を高めるため、ホームページの活用、マスメディアの活用等も含めて積極的に広報活動を展開しなければならない。
第3 人権教育・啓発の総合的かつ効果的な推進のための方策について
第1で述べたように、我が国においては、なお様々な人権課題が存在する。そして、これは、国民一人一人において、人権に関する正しい知識、日常生活の中で生かされるような直感的な感性や人権感覚が十分身に付いていないため、人権尊重の理念についての正しい理解がいまだ十分に定着していないからであると言える。また、人権教育・啓発の現状においても、なお様々な課題がある。
このような状況に照らすと、今後、第2で述べたような人権教育・啓発の基本的な在り方を踏まえて、人権教育・啓発をより一層推進し、国民一人一人に人権尊重の理念についての正しい理解が十分定着するよう努めることが極めて重要である。「人権の世紀」と言われる21世紀を目前に控える今日、我が国においてすべての人々の人権が尊重される平和で豊かな社会が実現することを目指し、人権教育・啓発に関する施策をより総合的かつ効果的に推進するための方策を策定の上、人権教育・啓発に関する施策を推進する責務を負う国や、その他の実施主体が相互に連携しつつ、これを速やかに実施していくことが重要である。
1 人権教育・啓発の実施主体の役割
すべての人々の人権が尊重される平和で豊かな社会が実現されるためには、まず、国民一人一人が自分自身の課題として人権尊重の理念についての理解を深めるよう努めることが求められる。人権教育・啓発の各実施主体は、国民のそのような努力を促すという面からも、人権教育・啓発の基本的な在り方を踏まえた上、それぞれの役割を明確にし、その役割に応じて相互に連携協力して総合的かつ効果的に人権教育・啓発を推進していく必要がある。なお、各実施主体の枢要な立場にある人はもとより、人権教育・啓発を担当する人も、上記のような自己啓発に努めるべきであることは言うまでもない。
(1) 行政
国、都道府県、市町村は、それぞれの行政対象区域と機能に応じて全体として整合性のとれた役割分担により効果的な教育・啓発を推進する必要があるが、それぞれの具体的な役割は、おおむね次のように考えられる。
ア 国
国は、全国的な視点に立って進めるべき施策を実施するとともに、国際的動向を含めた人権教育・啓発に関する正確かつ多様な情報の収集・提供、助言等の各実施主体に対する支援を行うという役割が求められる。具体的には次のとおりである。
人権教育においては、教育委員会等が主体的かつ特色のある取組ができるよう、例えば、指導方法等に関する研究や開発、指導者の養成・確保、学習機会を提供する取組に対する支援等を図っていく必要がある。
人権啓発においては、法務省の人権擁護部門は、例えば、全国規模の啓発活動、全国的な啓発関連情報の収集・提供、啓発手法の開発等のほか、啓発推進のための指針の策定、地方公共団体の啓発担当職員の養成の支援等を図っていく必要がある。さらに、法務省の人権擁護部門は、その所掌事務との関連で人権にかかわる啓発活動を行っている他の府省庁等との連携を図る上で中心的役割を果たすべきである。
法務局・地方法務局や支局においては、地域の実情を踏まえた啓発活動や地方公共団体との連携・協力による啓発活動を推進していくことが求められる。これらの啓発活動の推進に当たっては、公益法人や特定非営利活動促進法(注14)に基づく特定非営利活動法人等との適正な連携協力関係の構築にも努めていくことが重要である。
これらの役割を果たすためには、法務省の人権擁護部門の職員について、その研修を充実させるなど、専門性の一層の向上に努める必要がある。
イ 地方公共団体
都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえた啓発についての企画・立案とその実施や市町村を先導する事業、市町村では実施が困難な事業、市町村に対する助言や情報提供等を行い、市町村の取組を支援する事業などを積極的に推進するという役割が求められる。市町村は、基礎的な地方公共団体として、地域に密着したきめ細かい啓発活動をより一層推進する役割が求められる。
都道府県・市町村教育委員会は、例えば、指導者の研修の実施や教材等の作成、学習機会の提供など、学校や社会教育施設等での主体的かつ特色ある取組を支援していく積極的な役割が求められる。その際、教育の中立性を確保しつつ、学校等で適正な教育が行われるようにしていくことが必要である。さらに、家庭教育の重要性にかんがみ、家庭教育に対する支援の充実が求められる。
これらの人権教育・啓発を推進するに当たっては、都道府県や市町村との間や知事部局・市町村長部局と教育委員会との間に一層の連携協力関係が保たれることが望まれる。
このように地方公共団体においては、地域に密着し、地域の実情を踏まえた人権教育・啓発活動が大切であるが、人権教育・啓発の効果的推進には、真に地域住民の理解と共感が得られ、地域住民に信頼されることが何よりも重要であることから、行政の主体性の確立に向けた取組が求められる。
(2) 人権擁護委員
人権擁護委員は、現在、約14、000人が全国の市町村まであまねく配置されており、地域において国民の日常生活に接しつつ広く人権尊重思想を普及する機関として、その担うべき役割は非常に大きい。
今後とも法務省の人権擁護部門と一体となって、全国的な視野に立ちつつ、それぞれの職務執行区域において地域に密着した啓発活動を積極的に展開することが期待される。その際には、市町村や教育関係機関等と緊密に連携協力しながら、効果的な啓発活動を行っていくことが求められる。特に、今後は、人権擁護委員やその組織体(注15)が、上記のような啓発活動の企画・立案にも積極的に取り組むことが望まれる。これらの役割を十分果たすためには、人権擁護委員に対する研修を一層充実することも必要である。
(3) 学校
子どもたちの人間形成に当たって、学校の果たす役割は重要である。
幼稚園においては、人権尊重の精神の芽生えが感性としてはぐくまれるように指導していくことが求められる。義務教育段階である小学校及び中学校においては、他人を思いやる心、お互いの個性を認め合う心、自分や他人の生命を重んじる心などの豊かな人間性を体験活動等を生かした取組の工夫などにより育成するように努めるとともに、高等学校においては、義務教育の基礎の上に立って人権課題等について正しく理解し、これを広い見地から考えることのできる力が身に付くように指導していくことが求められる。
このため、学校の運営に当たっては、児童生徒がそれぞれ人格を持った一人の人間として尊重されるよう、一人一人を大切にするという教育方針の下でこれにふさわしい学習環境を作っていくことが大切である。また、教員一人一人について指導方法の改善・充実が図られるよう、校内研修の充実等に取り組む必要がある。さらに、日々の学校生活の場面で人権にかかわる問題が実際起こった場合、すべての教員が人権尊重の理念に立って、児童生徒が発達途上にあることに十分配慮しながら適時適切に指導することが大切である。このような問題の解決に当たっては、学校が主体的に取り組むとともに、日頃から学校の指導方針や課題等を積極的に家庭、地域、関係機関などに情報提供するなど、開かれた学校運営に努めていく必要がある。この場合、学校の主体性を失い、外部からの教育に対する不当な介入であるとの批判を招くことのないように留意するなど、教育の中立性が確保されなければならない。
大学等は、個々の大学等の実情、方針等に応じて学内における自主的な取組により人権に関する教育の一層の充実に配慮することが求められる。
(4) 社会教育施設
学習者のニーズや地域の実情に応じた多様な学習機会を提供する上で、地域住民にとって身近な公民館等社会教育施設の果たす役割は重要である。公民館等社会教育施設においては、学級・講座の開設等を通じて人権に関する学習機会の一層の充実を図る必要がある。また、学習ニーズに対応し、学習意欲を高めるような魅力ある手法を用いるとともに、学級・講座等の指導においては、教育関係者だけでなく、人権に関し幅広い識見のある人材を活用していく必要がある。このほか、ボランティア団体をはじめとするNPOを含めた関係機関との連携の下で、人権教育に関する指導者や学習機会等についての様々な情報を収集し、地域住民に提供していくなど、地域における人権教育を推進するための中核的役割を担っていくことが望まれる。なお、学校同様に教育の中立性が確保される必要がある。
(5) 各種施設
隣保館、女性センターなど各種施設においては、各施設の設置目的に沿った主たる活動のほかに、人権教育・啓発に係る取組なども行われている。特に、隣保館においては、地域社会全体の中で人権啓発の住民交流の拠点となる開かれたコミュニティセンターとしての取組などが行われている。これらの取組は、人権尊重意識の普及高揚を図る上で効果を上げており、今後とも、各地域における各種の自治組織、文化・福祉等の活動に関する組織との連携を図るなどして、その取組を一層充実させることが望まれる。また、幼児期は人間形成の基礎が培われる大切な時期であることから、保育所における取組の充実も望まれる。
(6) 企業等の事業所
企業等の事業所は、その社会的責任を自覚し、公正な採用を促進するとともに、公正な配置昇進などの事業所内における人権の尊重を確保するよう一層努めることが望まれる。人権が企業活動を含めてあらゆる活動の国際基準として尊重されるすう勢にあることにかんがみると、企業等の事業所は、個々の実情、方針等に応じて、自主的、計画的、継続的に事業所内における啓発活動を展開することが大切である。また、事業所の規模等に応じて人権啓発のための運営体制を構築することも重要である。
なお、これらの啓発を進める上では、(財)人権教育啓発推進センターの活用も有効である。
(7) 民間団体
人権擁護の分野においては、公益法人やボランティア団体などが多種多様な活動を行っており、今後とも様々な分野で人権教育・啓発の実施主体として重要な一翼を担っていくことが期待される。このように重要な役割を担うことからすれば、各民間団体は、自己研鑽を積むとともに、国民から理解され共感されるような取組を心掛けることが求められる。
なお、(財)人権教育啓発推進センターは、前記のような活動の位置付けから見て、今後、中立公正な立場で、民間団体としての特質を生かした人権教育・啓発活動を総合的に行うナショナルセンターとしての役割を果たすことが求められる。
(8) マスメディア
人権教育・啓発の推進に当たって、教育・啓発の媒体としてのマスメディアの果たす役割は大きい。
一方、マスメディアは人々の人間形成や社会の風潮にも大きな影響力を持っているので、番組や雑誌等を製作・提供する側にも適切な配慮が求められる。また、子どもの豊かな人間性を育成するという観点からの取組や広く人権意識の高揚が図られるような取組など、自主的かつ積極的な役割を担っていくことが期待される。
人権問題についての報道は、国民の人権問題に対する関心を呼び起こし、人権尊重の理念についての理解を深めることに寄与するので、マスメディアにはどのような人権問題についても積極的に取り組む報道姿勢が望まれる。
2 人権教育・啓発の総合的かつ効果的な推進のための施策
(1) 各実施主体間の連携・協力の推進
各実施主体がそれぞれの役割を踏まえながら人権教育・啓発を総合的に推進していくためには、実施主体間の横断的なネットワークを充実するなどして、連携・協力を一層推進していく必要がある。
平成10年度から、各都道府県単位で法務局、都道府県、人権擁護委員連合会が中心となって人権啓発活動ネットワーク事業を実施しているが、法務省としては、できるだけ速やかに、この事業を市町村レベルにも拡充することが必要である。このような連携・協力を効果的に推進するためには、地方公共団体における適切な組織的対応も望まれる。
一方、国レベルにおいても、法務省、文部省及びその所掌事務との関連で人権にかかわる啓発活動を行っている府省庁等がそれぞれの教育・啓発活動についての情報を交換し連携するための方策を協議し、人権教育・啓発の総合的な推進を図る連絡協議体制を整備することが肝要である。
(2) (財)人権教育啓発推進センターの充実
(財)人権教育啓発推進センターは、民間団体としての特質を生かした人権教育・啓発活動を総合的に行うナショナルセンターとしての役割が期待されることから、自らが行う啓発活動のより一層の充実と他の実施主体が行う啓発活動への支援の強化を図っていく必要がある。
そのためには、同センターにおける人権情報収集・提供システムの充実整備とともに、調査研究機能や人権啓発指導者養成機能等の充実が必要である。
人権情報収集・提供システムについては、人権に関する書籍、図画、ビデオ等を豊富に備えた人権ライブラリーの設置、定期刊行物やスマイルネット(注16)の整備等を図り、広く国民に人権に関する情報を提供することが求められる。
調査研究機能については、人権教育・啓発の在り方・手法に対する国民のニーズや国内外の先進的な教育・啓発手法についての調査の充実等が求められる。また、企業等の人権啓発活動を支援するため、例えば、企業等の参考に資するような人権啓発指針を策定して、これを配布することなども考えられる。
人権啓発指導者養成機能については、各種研修に対する支援の充実のほか、指導者養成のためのプログラムの開発、人権教育・啓発に関する講師の情報の充実整備等が求められる。
このような機能の充実を図り、同センターが担うべき重要な役割に照らせば、施設や実施体制面の充実も図る必要がある。このため、国による財政的支援の拡充も必要であり、さらには、企業等関係各方面からの支援も望まれる。
(3) 人権教育・啓発の効果的な推進のための施策
ア 人権教育
(ア)学校教育においては、国は、各学校等での人権教育に係る取組に資するため、1)適切かつ効果的な指導方法や学習教材等について資料の収集、調査・研究をし、その成果を学校等に対して提供すること、2)ボランティア活動などの社会体験や自然体験、高齢者や障害者等との交流などの豊かな体験の機会の充実等を図っていくこと、3)教員が人権尊重の理念について十分な認識を持つことができるように研修等の一層の充実を図っていくとともに、現行のいわゆる同和加配教員制度を人権教育を推進するための教職員配置等に発展的に見直していくなど指導体制の充実について検討していくことが必要である。
(イ)社会教育においては、国は、1)地域の実情や学習者のニーズに応じた多様な学習機会の一層の充実を図ること、2)学習意欲を高めるような参加体験型の学習プログラムを開発するとともに、広く関係機関に、その成果を提供すること、3)社会教育指導者に対する研修の一層の充実を図るとともに、指導者として、人権に関して幅広い識見のある人材を多方面から活用するなど指導体制の一層の充実を図ること、4)公民館等の社会教育施設を中心に、人権教育に関する指導者や学習機会等、様々な情報を地域住民に提供できるよう、関係機関等との連携を図ることが必要である。
(ウ)家庭教育に関しては、幼児期から豊かな情操や思いやり、善悪の判断など人間形成の基礎をはぐくむことができるよう家庭の教育力の向上を図るとともに、親自身が偏見を持たず、差別をしないことなどを日常生活を通じて身をもって子どもに示していく必要がある。このため、国は、家庭教育に関する親に対する学習機会の充実を図るとともに、これらの学習機会、相談窓口、関係機関などについての情報の提供や子育てに関する相談体制の整備など、家庭教育を支援する取組の一層の充実を図る必要がある。
イ 人権啓発
(ア)人権啓発においては、国の機関等が人権啓発の基本的な在り方を踏まえた効果的な啓発を推進できるよう、人権啓発事務を所掌する法務省がその指針等を策定し、その周知を図る必要がある。
(イ)総務庁が地域改善対策事業として実施してきた地方委託事業は、法務省がこれを引き継ぎ、すべての人権課題を対象とした人権啓発事業に再構成して実施している(注10参照)が、地方公共団体の啓発活動の取組状況には地域差が少なくないことにかんがみると、国が全国的に一定水準の啓発活動を確保する観点から地方公共団体に委託して行う啓発活動は非常に意義がある。そこで、これまでの同和問題に関する啓発活動の成果を踏まえながら、この事業を一層拡充していく必要がある。その際には、法務局・地方法務局レベルにおいても、委託先に対する援助・助言が行われることが望まれる。
(ウ)より多くの国民に人権尊重の理念の重要性を効率的に伝え、効果的に人権啓発を進めるためには、テレビ・ラジオ等による特別番組、スポット広告等の企画・実施など、マスメディアを積極的に活用した施策を推進する必要がある。
なお、上記の各施策のほか、前記(1)「各実施主体間の連携・協力の推進」の項で述べた人権啓発活動ネットワーク事業の拡充や国レベルにおける連絡協議体制の整備等の施策を推進するには、法務省の人権擁護部門の実施体制の整備も重要である。
ウ 研修の充実
(ア)法務省では、国家公務員や地方公共団体の啓発担当者に人権に関する研修を実施しているが、その一層の充実が必要である。
(イ)検察職員、矯正施設職員、入国管理関係職員、警察職員等人権にかかわりの深い特定の職務に従事する公務員に対する研修の充実も必要である。
(ウ)公務員以外においても、医療関係者、福祉関係職員、マスメディア関係者等人権にかかわりの深い特定の職業に従事する者に対する研修の充実も求められる。
なお、それぞれの研修の実施者は、その研修を効果的に実施するため、それぞれが行う研修についての資料や教材等について、(財)人権教育啓発推進センターを活用することも期待される。
おわりに
本答申は、本審議会に付託された事項のうち、人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的推進に関するものである。
本審議会は、人権尊重の理念に関する国民相互の理解については、まさに、国民一人一人が主体的に取り組むべき課題であるとの認識の上に立ち、国民一人一人が人権尊重の理念を深めるための施策について、様々な観点から検討し、国を始めとするそれぞれの実施主体が人権教育・啓発を総合的に推進するための諸施策について、提言を行ったものであり、これを踏まえて、政府が速やかに所要の行財政措置を講ずることを望む。また、「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画の実施に当たって、本答申を踏まえた一層効果的な取組が行われることを期待するものである。
本答申の趣旨が実現するためには、行政のみならず、学校、社会教育施設、企業、民間団体、マスメディアなどにおける積極的な取組とともに、国民一人一人の理解と協力が必要不可欠である。本答申の趣旨が広く国民に浸透するよう、政府が様々な機会をとらえてその周知を図っていくことを切望する。
我々は、本答申が、すべての人々の人権が尊重される平和で豊かな社会の実現に貢献することを切望するものであるが、このような社会の実現には、さらに、人権が侵害された場合における被害者の救済を欠かすことができない。我々は、このような視点に立って、今後、諮問第2号である「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について」調査審議を行うこととする。
(注1)人権に関する現状についての意見
「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(いわゆるB規約)第28条に定める人権委員会の最終見解(1998年(平成10年)11月)、「児童の権利に関する条約」第43条に定める児童の権利に関する委員会の最終見解(1998年(平成10年)6月)等がある。
(注2)国民
本答申において、「国民」とは、狭義の「日本国籍を持つ者」だけでなく、我が国に在留する外国人・無国籍者も含む。
(注3)主な人権課題
「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画においても、「本10年の展開において、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者等、刑を終えて出所した人などの重要課題に積極的に取り組むこととする。」とされている。
(注4)同和対策審議会答申(昭和40年8月11日)
同和対策審議会は、「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本方策」について諮問を受け、約4年をかけて審議を行い、答申を行った。同答申は、戦後の同和行政の大きな指針となったものであり、その中で、同和問題の早急な解決は国の責務であり、同時に国民的課題であると述べている。
(注5)人権教育・啓発
「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画においては、人権教育について、国連における定義を引用し、「人権教育とは、知識と技術の伝達及び態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う研修、普及及び広報努力」と定義されており、そこでは、本答申で用いる人権教育と人権啓発の両者を含む意味で用いられている。
(注6)府省庁等における人権にかかわる啓発活動
法務省以外の府省庁等においても、その所掌事務との関連で、女性、高齢者、障害者、雇用等の問題に関して、人権にかかわる啓発活動を行っている。
(注7)法務省の人権擁護機関
法務省人権擁護局、法務局・地方法務局及びその支局並びに法務大臣が委嘱する人権擁護委員を総称して法務省の人権擁護機関と呼ぶ。なお、上記から人権擁護委員を除いたものを総称する場合は、法務省の人権擁護部門と呼ぶ。
(注8)人権啓発活動ネットワーク
ネットワーク協議会を組織し、データベースを共同利用するとともに、啓発計画の共同策定・情報交換を行い、協議会のホームページの開設などを行っている。
(注9)えせ同和行為
えせ同和行為とは、同和問題はこわい問題であるという人々の誤った意識に乗じ、同和問題を口実にして企業などに不当な利益や義務のないことを求める行為をいう。
えせ同和行為は、同和問題に関する差別意識の解消に向けた人権教育・啓発活動の効果を一挙にくつがえし、同和問題に関する誤った認識を国民に植え付けるなど、同和問題の解決にとって大きな阻害要因となっており、これを排除することが現下の緊急な課題である。
(注10)委託事業
法務省が外部に委託して行う人権啓発活動は、中央委託と地方委託に分かれる。
中央委託は、(財)人権教育啓発推進センターを委託先とし、啓発映画の作成、人権啓発フェスティバルの実施、人権関係情報データベースによる各種情報提供、人権教育・啓発担当者用のテキストの作成、企業内研修用の啓発資料の作成等の事業等を委託している。
地方委託は、都道府県及び政令指定都市を委託先とし、講演会の開催、啓発資料の作成・配布、放送番組の提供や新聞広告の掲載、地域行政関係者研修会等の開催のほか、人権モデル地区事業などの人権啓発事業を委託している。
なお、委託先に対する援助・助言の事務は、法務省人権擁護局が行っている。
(注11)(財)人権教育啓発推進センター
昭和62年に地域改善啓発活動を行うことを目的に総務庁所管の公益法人(財)地域改善啓発センターとして設立されたが、その後、平成8年7月26日の閣議決定(「同和問題の早期解決に向けた今後の方策について」)を受けて、平成9年4月、人権全般の教育・啓発活動を行うことを目的とし、法務省、文部省及び総務庁の三省庁共管として再編された公益法人。
(注12)ウィーンにおける世界人権会議
1993年(平成5年)、世界人権宣言採択45周年を機に、これまでの人権活動の成果を検証し、現在直面している問題、今後進むべき方向を協議することを目的として開催された国際会議。
(注13)地域改善対策協議会意見具申(平成8年5月17日)
1) 平成8年の地域改善対策協議会意見具申は、「教育及び啓発の手法には、法の下の平等、個人の尊重といった普遍的な視点からアプローチしてそれぞれの差別問題の解決につなげていく手法と、それぞれの差別問題の解決という個別的な視点からアプローチしてあらゆる差別の解消につなげていく手法があるが、この両者は対立するものではなく、その両者があいまって人権意識の高揚が図られ、様々な差別問題も解消されていくものと考えられる。」と指摘している。
2) 同意見具申は、「今後、差別意識の解消を図るに当たっては、これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育・人権啓発として発展的に再構築すべきと考えられる。その中で、同和問題を人権問題の重要な柱として捉え、この問題に固有の経緯等を十分に認識しつつ、国際的な潮流とその取組みを踏まえて積極的に推進すべきである。」としている。
3) 同意見具申は、同和問題に関して、「これまでの当協議会意見具申等の中で、行政の主体性の確立、同和関係者の自立向上、えせ同和行為の排除、同和問題についての自由な意見交換のできる環境づくりの必要性が指摘されているが、今日においてもなお十分な状況とは言えない。」とし、「引き続き、これらを達成するための息の長い取組みが必要である。」と指摘している。
(注14)特定非営利活動促進法
平成10年12月に特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)が施行された。同法は、特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により、ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的とするものである。
(注15)人権擁護委員の組織体
人権擁護委員法上の組織体として、1)全国に338の人権擁護委員協議会、2)各都道府県の単位ごとに50の都道府県人権擁護委員連合会(ただし、北海道においては4連合会)、3)都道府県人権擁護委員連合会で組織されている全国人権擁護委員連合会が、それぞれ設置されている。そのほか、任意的に組織されているものとして、4)各法務局管内を単位として、全国に8のブロック人権擁護委員連合会が設置されている。
これらの組織は、委員の職務に関する連絡及び調整、必要な資料及び情報の収集、人権問題に関する講演会や一般研修会の開催等を行っている。
(注16)スマイルネット
国や地方公共団体などを中心に行われている人権教育・啓発活動を支援するため、人権に関する各種情報を収集・整理し、パソコン通信により提供する人権関係情報データベース。