人権擁護推進審議会第39回会議議事要旨
1 日 時 2,000年3月7日(火) 14時〜16時30分
2 場 所 法曹会館「富士の間」
3 出席者
(委 員)塩野会長、野中会長代理、大南委員、大谷委員、河嶋委員、清原委員、
庄司委員、鈴木委員、高島委員、立石委員、寺澤委員、中島委員、
深沢委員、宮崎委員
(法務省)横山人権擁護局長、山舖総務課長、佐久間調査課長
4 議 事
(1)自由討議
これまでの審議を踏まえて各委員から意見発表があり、それを踏まえて質疑・討議が行われた。発表者等の意見要旨は以下の通りである。
A委員
○ 救済の基本理念は、生命、身体、自由、名誉、財産等の基本的人権が侵害された場合に、その被害者を保護し、又は権利を回復し、侵害を是正し、人間としての尊厳を取り戻すことである。
○ 人権侵害に関する救済の問題は、刑事司法制度や損害賠償制度、犯罪防止システムという観点から論ずれば足りるとも言えるが、今後救済問題を論議する場合には、この審議会でなぜ人権侵害の救済を問題にしなければならないか、その射程をどこに置くべきかという議論が必要ではないか。
○ 対象とすべき人権侵害の範囲については、第一に、従来の刑事司法制度や損害賠償制度といった救済制度が、社会システムとして十分に機能しているかどうかについての議論が必要である。第二に、人権侵害であることが明らかであるにもかかわらず、性質上、伝統的な刑事上又は民事上の救済制度にはなじみにくいために、救済の対象にならなかったものを整理し、類型化することが必要ではないか。第三に、これまで人権問題として自覚されてこなかったが、国民の人権感覚の向上に伴い、深刻な人権問題となっているものを整理し、人権救済の対象として考慮すべきかどうかを検討する必要がある。
○ 対象とすべき人権侵害を具体的に述べると、第一に、家庭内、あるいは施設内等の密室における人権侵害があり、「保護型の人権侵害」と類型化することができる。密室とも言うべき家庭内で行われる暴力は、人権侵害の最たるものであるが、現在我が国では保護されにくい状況にあり、どのようにすれば迅速かつ効果的に保護することができるかという観点からの検討が必要である。
○ 家庭で暴力を加えられ、場合によっては殺されるかもしれないという恐怖を感じながら生きていかなければならないというのは、誠に悲惨であり、人権侵害の問題として国民の関心も非常に高いところなので、この審議会においても、その保護の基本的在り方について検討しておくべきではないか。なお、学校、児童保護施設、老人施設等の施設における虐待等の人権侵害の保護も不十分であるように思うので、現状を分析し、人権保護施策の指針を示す必要があるのではないか。
○ これらについては、訪問相談制度の確立、調査権限の強化、迅速な保護措置という一連のシステムの導入を図るべきではないか。
○ 第二は、犯罪や不法行為の対象となりにくい人権侵害で、事後的な措置としての権利回復や侵害行為の是正が救済の中心となるので、「救済型の人権侵害」と整理できる。同和問題、少数民族、障害者、HIV感染者等に対する差別の問題の解消が課題となる。結婚や就職における差別等は、伝統的な法律の規制に馴染みにくく、そこに人権問題として取り上げる固有の理由がある。
○ 第二の分野の救済としては、保護型の人権侵害のような強制的な権限行使は不可能であるとしても、ある程度独立した機関により、一定の範囲の強制的調査権限と措置権限を与えるような法制度の設計が必要である。
○ 既に法的手当が行われている分野については、基本的に除外するのが適当ではないか。法的解決になじみにくいという点では、マスコミによる人権侵害もここで対応すべきかもしれないが、諸外国で行われているような自主規制を中心として、現在行われている我が国の自主規制をより強化し、権威ある自主規制機関による解決方法を考えるべきである。
○ 第三の新しい人権侵害というべきものとしては、犯罪被害者対策が大きな問題となっている。「犯罪捜査規範」や刑事訴訟法の改正等により、一応の法的な被害者対策の整備は終わったと考えるが、被害者にとって必要なのは、精神的打撃に対するケアあるいはサポートである。これは社会一般の人が被害者と同じ視点で行うことが最も大切であり、民間によるボランティア活動が不可欠である。諸外国の例に見るとおり、財政は国が負担し、運営は民間組織に委ねる方策が妥当と考える。民間組織によるサポートについては、子どもの権利侵害等についても検討に値する。
○ 国内人権機関として、あらゆる人権侵害を扱う包括的機関が必要であるという意見もあるが、上記のように大きく3つに分けられる人権侵害について、迅速かつ簡易な救済が可能となるような組織、手続等をそれぞれ検討し、制度設計すべきと考える。
○ 子どもに対する虐待、ドメスティック・バイオレンス、施設内での虐待、遺棄等については、同じ問題が含まれている。これまで内部のことには介入しない方がいいという基本的な考え方がとられてきたため、本来典型的な犯罪であるにもかかわらず、またそういう疑いがあるにもかかわらず、介入が躊躇されてきた。一番大切な生命、身体の安全をまず念頭に置いて、それからどの範囲で教育的配慮が必要なのかを考えるべきであり、これまでの行政の在り方が一つの問題だと思う。同時に、被疑者の特定を厳格に考えないような捜査の在り方、被害者の視点からの刑事司法の在り方について考え、できるだけ迅速に被害者を保護する体制ができないかと思う。
○ 司法機関や手続から漏れているものが、本来検討されるべきものであるという点で、審議の中心は差別問題になると思うが、それだけでは国民は納得しないのではないか。今までの刑事司法や損害賠償などの制度が有効に機能していない場合についての問題提起が必要ではないか。
○ マスコミによる人権侵害一般については、今も自主規制を行っているが、一般の人はあまりよく知らないし、適切に行われているかどうかも分からない。機関が一定の権威を持ったもので、国民が納得するようなものでなければならないのではないか。
B委員
○ 今後注目すべき人権侵害の対象となる問題は、同和問題、障害者、セクシュアル・ハラスメント、ドメスティック・バイオレンス、年齢差別、児童虐待、外国人労働者の関係である。
○ 救済の手法、措置については、人権侵害を受けたいずれの場合にも、被害者が容易に訴えることのできる駆け込み寺的施設の設置とオンブズマン制度の整備が重要である。さらに、被害者の保護、権利救済、社会復帰できるまでの十分なカウンセリング、復帰後についても十分なアフターケアの手を差し伸べることができる仕組みの導入が重要ではないか。
○ 人権が侵害されたときの対応の迅速性や機密保持、被害の再発防止、十分なカウンセリングと復帰後の手当など、人権が侵害された場合の被害者救済についての基本的な原則づくりが必要ではないか。法制化は難しいが、できればいいと思う。
○ 問題が起こった場合の駆け込み寺的なものに関しては、交番のような、人権問題を中心とした、被害を受けた場合に駆け込んで相談できるような場所をつくっていく必要があるのではないか。
C委員
○ 妻に対する暴力、あるいは恋人間における暴力などの家庭内の問題と施設内の問題は、問題が見えにくく、潜在化しやすく、そのため反復継続するという共通の特徴がある。このような特殊な環境の中での問題を問題化していくための考え方やそれに立ったシステムが非常に重要ではないか。
○ また、この種の問題の特徴として、生命の危機と人格に対する修復し難い打撃が与えられる問題であるという認識がなされにくいという点もある。
○ 潜在し持続するという点に着目すると、一つは閉鎖的環境で発見が特に困難である問題をどのようにして発見するかということ、もう一つは、閉鎖的環境のもとで権力的関係に置かれている場合、本人の抵抗や告発に期待するだけでは駄目であり、そういう状態の人の発見と救済をどうするかということをはっきりさせていく必要がある。
○ 発見通報システムについて、専門家の義務と一般市民の義務を法的に規定すると同時に、問題あるいは被害の自覚を促すような教育・啓発を一体として行うと、この問題の発見は進むと思う。事件として表面化する数が増えていることを憂慮するとらえ方もあるが、むしろ積極的に受け止めていく必要があると思う。
○ 家族や施設は安らぎや癒しの場所であり、良きものととらえられてきたが、一つ間違えば犯罪の場になるのだという、犯罪性への合意形成が社会的になされないと、この問題に対する取組は進まないのではないか。
○ 妻に対する暴力は、被害者が子どもや高齢者と違い、一人前の大人であるため、嫌なら逃げればよいという認識が広がっている。また、今行政が行っている援助は逃がすことなのだが、逃がし続けるという形は、本当の意味の安全の中で生きることを保障していない。
○ 女性に対する暴力の一番特徴的な本質はストーキングであり、加害者の治療教育も切り離しては考えられない。
○ 夫の妻に対する暴力の場合、警察に持ち込んでも夫婦喧嘩だろうと言われ、容易には取り合ってもらえず、この問題が犯罪と認識されているかどうかが一つの問題である。また、密室で日常的、反復的に行われるドメスティック・バイオレンスは、第三者に分からないように証拠を残さない形でされる場合が多いにもかかわらず、立証するよう言われることが多い。医療機関等に搬送したあと、警察は犯罪としてフォローしていないし、関係機関もフォローしてくれたかどうかに関心を持っていないことも問題である。
○ 国連レベルでは精神的な長期にわたる虐待や性的虐待も犯罪であるというところから出発するが、日本では一般的に夫婦間での性行為は犯罪になりにくいと考えられているという問題もある。
○ 現状では、明らかに犯罪と思われるものすらも犯罪として立件できていないという点を強調したい。
D委員
○ 処罰ということから成り立っている現在の犯罪概念とは違った、反社会的な行動として取り上げて社会的に救済する必要があるという考え方を持ち込む必要があるのではないか。
E委員
○ 児童虐待の事件数が統計上増えているのは、事件が増えているというより、実態が明らかになってきているからではないかと思う。
○ 現在、子どもセンターを中心に、福祉事務所や保育所等が連絡会議を開いているが、情報を得て動くにとどまっている。自ら訴え出ることのできない乳幼児を対象にした「子どもレスキュー隊」のような特別専門の部門を作ることはできないか。情報が入る前でも、何らかの心配があるようなところには踏み込めるような形の、もう少し立入調査ができる権限を与えなければいけないのではないか。
○ 虐待の連鎖や両親の不和、健康上の問題、経済的困窮等が重なると虐待が起きるケースが多いとされ、虐待は特殊例という見方が一般にされているが、ネグレクトについては、すべての母親が持っている子育て不安をベースにしており、どこで起きても不思議はないと考え直すべきだと思う。児童虐待を見る社会の見方に対しても啓発が必要だと思う。
○ 今、侵害を受けている子どもを救うのが急務であり、そのための法的整備も何とかならないかと思うが、虐待が起きないようにするためにはどうしたらいいのかについても考えないと、根本的な治療にはならない。
○ 子どもの時に虐待を受けた親が虐待するという虐待のマイナスの連鎖ではなく、今の子どもたちを手厚い教育環境の中で育て、その彼らが親になり、子どもを教育するというプラスの連鎖も必要であり、2世代くらいの長期作戦を立てなければいけない。
○ 「子どもレスキュー隊」を作るというのは、保健や臨床心理などの専門家の中で特にこの任務に当たる委員のようなものを作れないかということである。
F委員
○ 国の内外から人権機関の設置等の人権救済のための措置が求められており、それに応えるような努力をする必要がある。また、グローバリゼーションの中で個人の選択や自由が価値観として大事にされている一方で、それに適応できなかった人たちの問題をどうするのか、社会的公平性をどう作るのかということも、重要な課題ではないか。
○ 個別の問題を一つ一つ解決するように法律や仕組みを作ると、窓口は多くできるが、国民にとっては不便になるので、総合性を持った形でする方が効率性もいいし、国民の利便性もいいと思う。
○ 同和問題、性差別、障害、暴力、年齢、外国人、ドメスティック・バイオレンス、児童虐待等はすべて救済の対象とすべきである。
○ 雇用の分野では、募集、採用、年齢などの問題について何も規制されていないし、障害の問題は権利的な観点からは対応できていない。サービスや信用供与の問題でも、例えば、母子家庭は家を借りにくいなど、属性で差別されている部分がかなりあるが、それが禁止されていない。法律や行政のどこが担当しており、今ある法律や行政で禁止する可能性があるのか、できるのか、こちらで包括的にした方がいいのか整理する必要がある。
○ 救済の措置について考えると、犯罪性は高くないが非常に深刻な人権問題について多くの人が望むのは、その事象をやめさせてほしい、原状回復してほしい、カウンセリング等を含め加害者にそういうことをしない人に変えてもらいたい、被害者へのカウンセリングをしてほしいということであるので、そのようなことが可能な仕組みをどうしたらいいか考えなければならない。
○ 救済の機関については、人権に関する独立した第三者機関を作るべきではないか。総理大臣任命の強い権限を持った中央機関と知事任命の地方機関、それぞれの事務局が必要だと思う。権限については、調停やあっせん、審判の権限みたいなことになると思うが、できるだけ早く調査に入り、次の段階に進めてあげることが必要だと思う。いろいろな問題があるので、機関を構成する委員については、類型化して依頼する必要がある。また、新しい動向に敏感に反応する委員も必要である。
○ 調査では、訴えた人がすべて立証するのは大変なので、調査権限や資料提出権限を強くしておく必要がある。本人が望むものについては、訴訟援助もすることが必要ではないか。
○ できるだけ多くのところに通報に関する責任を持ってもらいたい。ただし、通報したことによる不利益な扱いをされない仕組みも考えないといけない。
○ 人権救済のほかに担うべき業務については、人権白書の発表、政府に対する助言、市民に対する啓発や広報、人権救済に関与する関係者に対する教育研修などが考えられる。
○ 新たに作る第三者機関と従来の人権擁護機関との関係については、労働省と労働委員会のように、行政として人権擁護行政をするところと救済をするところを分けて考えればいいのではないか。
G委員
○ 基本的な原則として、人権を侵害されている立場の人の視点から、信頼感や安心感のある救済が必要である。信頼性とは、公開性や迅速さ、簡便性、正確さ、柔軟性などである。
○ 人権教育でも人権救済でも、人権侵害を行った者の自己変革に期待することを原則に据えておかなければいけない。
○ 救済の対象としては、いかなる人権侵害も対象にされるべきである。
○ 救済の措置は、行政的救済、民事的救済、司法的救済や準司法的救済に加え、教育的救済もあると思う。救済は、相談や避難、原状回復、損害賠償、慰謝料、制裁措置、政府への勧告や提言等ケースバイケースで多様なものが想定される。
○ 教育・啓発と相談と救済の連結・一体化が必要である。
○ 既存の救済制度がどのように有効に機能しているか、効率性についても含めて測定する必要がある。
○ 新たな機関には、個別の範囲の専門性に併せ、幅広い人権について力を及ぼしていける、ネットワークの軸になるような機能も期待したい。
○ 社会的な差別に対する救済の実体法的根拠や調査・手続等の救済を可能にするための法的根拠が不備であり、検討の必要がある。
○ 教育・啓発に勝る救済はないのであり、人権を侵害した人を追い詰めないこと、相談と救済の一体化に教育・啓発を加えるという点に留意すべきである。
○ 個別調査には限界があるが、正確さや中立性、公正さという点で、行き届いた調査は大事である。
○ 相談業務は、救済の導入的役割、あるいは未然防止的役割、教育・啓発の側面も有しており、重視していく必要がある。
○ 相談事業は立法でも司法でもない、正に行政であるから、新しい機関は、国は内閣の下に、地方は知事の下に、上下関係なく、ケースに応じて機能するものとして設置すべきである。
○ 人権侵害を行った者への人権教育・啓発は、救済と切り離せないと思う。人権を侵害した人の中には、人権を理解し、反省する人もいれば、理解できない人、あえて理解しようとしない人もいるかもしれず、それに対して一般的な教育・啓発でフォローできるのかという問題もある。
(2)その他
次回以降の会議の開催予定について
第40回会議 3月17日(金)
議題 日本弁護士連合会による説明
自由討議
第41回会議 4月4日(火)
議題 自由討議
― 以 上 ―
(2,000年4月3日 文責 法務省人権擁護局総務課)