人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について
(答申案要旨)
はじめに
1 本審議会の人権に関する基本的認識
○人権尊重の重要性
○同和問題等の差別の早急な解消の必要性
2 本審議会の設置の経緯と審議の経過
1)審議会の設置の経緯
○様々な人権課題の存在
・
同和問題など社会的身分や門地による不当な差別などの人権侵害が今なお存在する。
○設置の契機
◇ 地域改善対策協議会意見具申(平成8年5月)
1>
依然として存在する差別意識の解消に向けた教育・啓発の推進及び人権侵害による被害の救済等の対応 の充実強化。
2>
差別意識の解消を図るための教育・啓発については,これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げら れてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえ,すべての人の基本的人権を尊重していくための人権 教育
,人権啓発として発展的に再構築。
◇ 閣議決定(平成8年7月)
同和問題に関する差別意識の解消に向けた教育・啓発に関する地域改善対策特定事業を一般対策としての人権教育・啓発に再構成して推進。
○審議会の設置
・ 人権擁護施策推進法の制定(平成8年12月)
・ 同法に基づき,本審議会が法務省に設置(平成9年3月)
○審議会の審議事項
・
人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関す る基本的事項(諮問第1号)
・
人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項(諮問第2号)
2)審議の経過
(略)
第1 人権及び人権教育・啓発に関する現状について
1 人権に関する現状
・
我が国においては,女性,子ども,高齢者,障害者,同和問題,アイヌの人々,外国人,HIV感染者, 刑を終えて出所した人等に関する様々な人権課題が存在する。
・
様々な人権課題が存在する要因としては,人々の中に見られる同質性・均一性を重視しがちな性向や非合 理な因習的な意識,物の豊かさを追い求め心の豊かさを軽視する社会的風潮,社会における人間関係の 希薄化の傾向等が挙げられる。
・
国民一人一人に人権尊重の理念についての正しい理解がいまだ十分に定着したとは言えない。
・
自分の権利を主張する上で他人の権利にも十分配慮する必要があるという認識がいまだ国民の間に十分に 浸透していない。
・
自分の有する権利についての認識ないし理解が十分でないことから,本来,正当に主張すべき場面での権利主張が十分されていない。
・
国民一人一人において,人権に関する正しい知識,日常生活の中で生かされるような直感的な感性や人権感覚が十分身に付いていない。
2 人権教育・啓発の現状
1)人権教育
○人権教育における課題
・
指導方法,指導者についての問題などが指摘されている。また,教育の中立性の確保が重要な課題となっている。
ア 学校教育
○学校教育における課題
・
児童生徒の実態からすると,知的理解にとどまり,人権感覚が十分身に付いていないなど指導方法の問題がある。
・
教員に人権尊重の理念について十分な認識が必ずしもいきわたっていない。
イ 社会教育
○社会教育における課題
・ 知識伝達型の講義形式の学習に偏りがちである。
・ 指導者が固定しがちである。
ウ 家庭教育
○家庭教育における課題
・
親自身が偏見を持たず,差別をしないことなどを日常生活を通じて身をもって子どもに示していくことが求められている。
(2)人権啓発
○人権啓発における課題
・
啓発活動のマンネリ化傾向,啓発実施主体間相互の連携不足,活動の周知度の低さなどの問題が指摘されている。
ア 国の人権擁護機関の啓発活動
○国(法務省)の人権擁護機関における課題
・ 啓発の内容・手法が必ずしも国民の興味
・関心・共感を呼び起こすものになっていない(特に,マスメディアの効果的な活用が不十分である)
・
市区町村や公益法人等の民間団体等との連携や中央の府省庁レベルの連絡協議体制が十分なものとは言えない。
・
今後,啓発活動を積極的に推進していく上で,現在の法務省の人権擁護部門の実施体制自体が不十分である。
・
人権擁護委員の行う人権啓発活動は,その企画立案を含めて,取組がいまだ十分とは言えない。
イ 地方公共団体の啓発活動
○地方公共団体における課題
・
人権啓発の手法のさらなる創意工夫,啓発実施主体間相互の連携強化,活動の周知度を高める工夫などの必要性が指摘されている。
・
知識の習得に偏りがちとなり,住民一人一人が自分自身の課題として人権尊重の理念についての理解を深めるものになっていない。
・
一部に主体性を欠いた行政運営が行われている傾向が見られる。
ウ 企業及び民間団体の活動
・
企業においては,個々の企業の実状や方針等に応じて,自主的な人権啓
発活動が行われている。
・
民間団体においても,人権全般あるいは個々の人権課題を対象として,人権啓発上有意義な様々な取組が行われている。
3)(財)人権教育啓発推進センター
○(財)人権教育啓発推進センターにおける課題
・ 施設や専従職員の確保などの実施体制が不十分である。
・
人権情報収集システム,調査研究機能,人権啓発指導者養成機能などの整備が不十分である。
4)人権教育のための国連10年
・
国内行動計画では,その実施に当たって本審議会における検討結果を反映させることとされている。
3 今後の人権教育・啓発の重要性
・
人権教育・啓発に関する施策を推進する責務を負う国とその他の実施主体が相互に連携しつつ,人権教育・啓発を一層推進することが重要である。
第2 人権教育・啓発の基本的在り方について
1 人権尊重の理念
・
人権尊重の理念を,自分の人権のみならず他人の人権についても正しく理解し,その権利の行使に伴う責任を自覚して,人権を相互に尊重し合うこと,すなわち,人権の共存の考え方ととらえる。
2 人権教育・啓発の基本的在り方
○人権教育・啓発の在り方
・
国民一人一人において,人権に関する正しい知識,日常生活の中で生かされるような直感的な感性や人権感覚が十分身に付くよう,人権教育・啓発を行う。
・
対象者の発達段階に応じながら,創意工夫を凝らしていく必要がある。
・ 押し付けにならないように留意する必要がある。
・
人権教育・啓発の実施主体は相互に十分な連携をとり,その総合的な推進に努めることが必要である。
・
手法については,人権一般の普遍的な視点からのアプローチと,具体的な人権課題に即した個別的な視点からのアプローチの両者に十分配慮する必要がある。
○人権教育・啓発の留意点
・
人権教育・啓発の内容,実施の方法等において国民から幅広く理解と共感を得られるものであることが必要である。
・
人権教育・啓発を担当する行政は,主体性を確保することが重要である
・
人権問題等に関して自由な意見の交換を行うことができる環境づくりに努めることが求められる。
1)人権教育
・
学校教育,社会教育及び家庭教育のそれぞれが互いの主体性を尊重しつつ,相互の連携を図ってこれを実施する必要がある。
・
学習機会の一層の充実,指導方法や学習教材の開発・提供,指導者の養成・確保等を図っていく必要がある。
・ 教育の中立性が守られるように留意する必要がある。
ア 学校教育
・
幼児期は,幼児の発達の特性を踏まえ,人権尊重の精神の芽生えが感性として育まれるように努める必要がある。
・
小学校,中学校及び高等学校においては,児童生徒の発達段階に即しながら,各教科等の特質に応じ,学校の教育活動全体を通じて人権尊重の理念について理解を促し,一人一人を大切にする教育を推進していく必要がある。
・
生命を大切にし,自他の人格を尊重し,お互いの個性を認め合う心,他人を思いやる心,正義感や公正さを重んじる心などの豊かな人間性を育
成する必要がある。そのためには,ボランティア活動や体験活動,高齢者
や障害者等との交流など豊かな体験の機会の充実が大切である。
・
大学等においては,人権尊重の理念についての理解を更に深め,それまでの教育の成果を確かなものとすることが重要である。
イ 社会教育
・
生涯学習の振興のための各種の施策を通じて人権に関する学習を一層推進していく必要がある。
・
学習意欲を喚起する学習プログラムを開発・提供していくことが重要である。
・
人権に関し幅広い識見のある人材を活用するなど,指導者層の充実を図る必要がある。
ウ 家庭教育
・
親に対する学習機会の提供など家庭教育に対する支援の一層の充実を図っ
ていくことが重要である。
(2)人権啓発
・
各実施主体は,今後とも地道にねばり強く啓発を続けていくことが重要である。
・
具体的な人権課題に即し,国民に親しみやすく分かりやすいテーマ,表現を用いるなどの様々な創意工夫が求められる。
・ 対象者の発達段階に応じた啓発手法の選択も重要である。
・ マスメディアの積極的な活用が不可欠である。
・ 地域に密着した啓発を行うことも重要である。
・
人権啓発の創意工夫に当たっては,広報のノウハウを有する民間の機関の斬新なアイディアを活用することが有効である。
・
各実施主体が担うべき役割を踏まえた上で,相互の有機的な連携協力関係を強化して啓発を実施することが必要である。
・
啓発実施主体は,その周知度を高めるため,積極的に広報活動を展開しなければならない。
第3 人権教育・啓発の総合的かつ効果的な推進のための方策について
1 人権教育・啓発の実施主体の役割
・
国民一人一人が自分自身の課題として人権尊重の理念についての理解を深めるよう努めることが求められる。
・
人権教育・啓発の各実施主体は,国民のそのような努力を促すという面からも,それぞれの役割に応じて相互に連携協力して総合的かつ効果的に人権教育・啓発を推進していく必要がある。
(1)行政
ア 国
○総論
・ 全国的な視点に立って進めるべき施策を実施する。
・
国際的動向を含めた人権教育・啓発に関する正確かつ多様な情報の収集
・提供,助言等の各種実施主体に対する支援を行う。
○人権教育
・
教育委員会等が主体的かつ特色のある取組ができるよう,指導方法等に関する研究や開発,指導者の養成・確保,学習機会を提供する取組に対する支援等を図っていく必要がある。
○人権啓発
・
法務省の人権擁護部門は,全国規模の啓発活動,全国的な啓発関連情報の収集・提供,啓発手法の開発,啓発推進のための指針の策定,地方公共団体の啓発担当職員の養成の支援を図っていく必要がある。
・
法務省の人権擁護部門は,所掌事務との関連で人権にかかわる啓発活動を行っている他の府省庁との連携を図る上で中心的役割を果たすべきである。
・
法務局・地方法務局や支局は,地域の実情を踏まえた啓発活動や地方公共団体との連携・協力による啓発活動を推進していくことが求められる
・
法務省の人権擁護部門の職員の研修を充実させるなど,専門性の一層の向上に努める必要がある。
イ 地方公共団体
○都道府県
・
地域の実情を踏まえた啓発についての企画・立案・実施及び市町村の取組の支援が求められる。
○市町村
・ 地域に密着したきめ細かい啓発活動の推進が求められる。
(2)人権擁護委員
・
法務省の人権擁護部門と一体となり,全国的な視野に立ちつつ,職務執行区域において地域に密着した啓発活動を展開することが期待される。
(3)学校
○幼稚園,小学校,中学校及び高等学校
・
幼稚園においては,人権尊重の精神の芽生えが感性としてはぐくまれるように指導していくことが求められる。
・
小学校及び中学校においては,他人を思いやる心,お互いの個性を認め合う心,自分や他人の生命を重んじる心などの豊かな人間性を体験活動等を生かした取組の工夫などにより育成するように努める。
・
高等学校においては,義務教育の基礎の上に立って人権課題等について正しく理解し,広い見地から考えることのできる力が身に付くように指導していくことが求められる。
・
学校の運営に当たっては,児童生徒がそれぞれ人権を持った一人の人間として尊重されるよう,一人一人を大切にするという教育方針の下で,これにふさわしい学習環境を作っていくことが大切である。
○大学等
・
個々の大学等の実情,方針等に応じて学内における自主的な取組により人権に関する教育の一層の充実に配慮することが求められる。
(4)社会教育施設
・
公民館等社会教育施設においては,学級・講座の開設等を通じて人権に関する学習機会の一層の充実を図るとともに,地域における人権教育を推進するための中核的役割を担っていくことが望まれる。
(5)各種施設
・
隣保館,女性センター,保育所など各種施設における取組の充実が望まれる。
(6)企業等の事業所
・
公正な採用を促進するとともに,公正な配置昇進などの事業所内における人権の尊重を確保するよう努めることが望まれる。
(7)民間団体
・
様々な分野で人権教育・啓発の実施主体として重要な一翼を担っていくことが期待される。
(8)マスメディア
・
教育・啓発の媒体としてのマスメディアの果たす役割は大きい。
2 人権教育・啓発の総合的かつ効果的な推進のための施策
(1)各実施主体間の連携・協力の推進
○人権啓発活動ネットワーク事業の充実
・
人権啓発活動ネットワーク事業を現在の都道府県レベルから市町村レベルにも拡充する必要がある。
○国レベルにおける人権教育・啓発の連絡協議体制の整備
・
法務省,文部省及びその所掌事務との関連で人権にかかわる啓発活動を行っている府省庁等において,人権教育・啓発の総合的な推進を図る連絡協議体制を整備することが肝要である。
(2)(財)人権教育啓発推進センターの充実
・
(財)人権教育啓発推進センターにおける人権情報収集・提供システム
,調査研究機能及び人権啓発指導者養成機能等の充実が必要である。
(3)人権教育・啓発の効果的な推進のための施策
ア 人権教育
(ア)学校教育
・
指導方法や学習教材等についての資料の収集,調査・研究及びその成果の学校等に対する提供,ボランティア活動や体験活動等の充実,教員の研修等の充実など指導体制の充実を図っていく必要がある。
(イ)社会教育
・
地域の実情や学習者のニーズに応じた多様な学習機会の一層の充実,参加体験型の学習プログラムの開発・提供,社会教育指導者に対する研修の充実等指導体制の充実等を図っていく必要がある。
(ウ)家庭教育
・
親に対する学習機会の充実を図るとともに,学習機会等に関する情報
の提供や子育てに関する相談体制の整備など,家庭教育を支援する取組の充実を図る必要がある。
イ 人権啓発
(ア)啓発推進指針の策定・周知
・
国の機関等が人権啓発の基本的な在り方を踏まえた効果的な啓発を推進できるよう,人権啓発事務を所掌する法務省がその指針等を策定し,周知を図る必要がある。
(イ)人権啓発地方委託事業の充実
・
法務省が,都道府県及び政令指定都市を委託先として実施している人権啓発地方委託事業を一層拡充していく必要がある。
(ウ)マスコミを活用した啓発活動の推進
・
より多くの国民に人権尊重の理念の重要性を効率的に伝え,効果的に人権啓発を進めるためには,マスメディアを積極的に活用した施策を推進する必要がある。
○その他
・ 法務省の人権擁護部門の実施体制の整備
ウ 研修の充実
(ア)
国家公務員,地方公共団体の啓発担当者に対する人権に関する研修の充実
(イ)
人権にかかわりの深い特定の職務に従事する公務員に対する研修の充実
(ウ)
人権にかかわりの深い特定の職業に従事する者に対する研修の充実
おわりに
・
本審議会の提言を踏まえ,政府が速やかに所要の行財政措置を講ずることを望む。
・
本答申の趣旨が実現するためには,各実施主体における積極的な取組とともに,国民一人一人の理解と協力が必要不可欠である。