| 22.甲状腺の病気 |
| 高知医科大学第二内科教授 橋本 浩三 (はしもと・こうぞう・・・岡山大学医学部卒。高知医科大学第二内科教授。現在週1回、細木病院で外来診察している。) |
| ◎甲状腺と甲状腺ホルモン 甲状腺は、あごの下にある甲状腺軟骨(のどぼとけといわれている部分)の下で気管の前にある蝶が羽を広げたような形をした10ミリグラム程度の臓器で、甲状腺ホルモンをつくって血液中に分泌しています。甲状腺ホルモンは、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の2種類で、体の代謝を促進させ、蛋白質、糖質、脂肪の代謝を調節しています。 甲状腺の病気には、ホルモンの過剰や不足によって起きる病気と、ホルモンの分泌に異常のみられない甲状腺がんなどの甲状腺腫瘍があります。それらのうち、代表的な甲状腺疾患がバセドウ病と橋本病です。 ◎甲状腺ホルモン 分泌過剰症(機能亢進症) 甲状腺ホルモンが過剰になると、代謝が異常に亢進し、十分食べているのにやせてきます。また、脈が速くなり心臓がドキドキしたり、血圧が高くなります。多汗症となり、皮膚がいつも汗ばんでいます。胃腸の働きが高まるため、排便の回数が多くなったり、下痢を起こす場合もあります。精神活動も活発になり、いらいらして落ち着きがなくなったり、感情が不安定となり怒りっぽくなります。 また、半数以上の人に手指のふるえがみられます。このような症状を甲状腺中毒症といいます。甲状腺中毒症を生じる病気は6〜7種類ありますが、最も頻度が高いのがバセドウ病です。 ◎バセドウ病の特徴と原因 バセドウ病は甲状腺中毒症状のほかに、甲状腺が腫(は)れたり眼が飛び出すなどの症状が現れるのが特徴です。バセドウ病は、男性より女性に3〜5倍多くみられます。バセドウ病の発症には免疫異常が関係しています。 甲状腺ホルモンの分泌量は、脳下垂体から分泌されている甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調整されています。TSHは受容体を介して(甲状腺の細胞に)作用します。 バセドウ病患者の血液中では、免疫異常の結果、この受容体を刺激する抗体(TSH受容体抗体)が生じ、この抗体が甲状腺を刺激してホルモン分泌を持続的に促進することが、甲状腺の腫れや中毒症状の原因となっています。血液中のT3、T4や、TSH受容体抗体を測定することがバセドウ病の診断には不可欠です。 ◎バセドウ病の治療 治療には通常、甲状腺ホルモンの分泌を抑制する薬を使用します。1日4〜6錠位から内服を始め、血液中ホルモンの値が正常になれば次第に量を減らして、1〜1/2錠まで減量できたら、その量をかなりの期間続けた後に中止します。 症状がなくなったということで、勝手に判断して薬の内服を止めると、大抵再発しますので注意が必要です。時に薬の副作用として白血球が減少したり、肝障害や湿疹が生じることがあり、そのような場合には、放射性ヨードを内服して、腫大した甲状腺を破壊したり、手術によって摘出することが行われます。 ◎甲状腺ホルモン 分泌低下症(機能低下症) 甲状腺ホルモンが不足すると、代謝が低下するため、冷え性で寒がりとなります。皮膚はむくんで腫れぼったくなったり、発汗が減るので乾いてカサカサになったりします。また、体がだるく疲れやすくなります。心臓の収縮力が弱くなるので、脈が少なくなります。胃腸の運動が低下し、便秘となります。 機能亢進症とは逆に、あまり食べなくても体重はむしろ増加します。精神活動が低下するので、無気力となり、いつも眠気を覚え、物忘れがひどくなります。甲状腺機能低下症は、脳下垂体からのTSH分泌の低下や、甲状腺摘出手術などいくつかの原因で起こりますが、最も多いのが慢性甲状腺炎(橋本病)です。 ◎橋本病の特徴と原因 橋本病は、九州大学の橋本策(わたる)先生が1912年に発表され、第2次世界大戦後、代表的な自己免疫疾患として世界的に脚光を浴びた病気です。現在では人の名前がつけられた病気で最もよく知られているものの一つです。橋本病は女性に多い病気で、男性の20〜30倍にみられ、ごく軽症のものを入れると40歳以上の女性の十数人に1人の割合で発症しています。 多くの場合、前記の機能低下症状はなく、硬くびまん性に肥大した甲状腺腫に本人や医師が気づくことで発見されます。しかし病状が進行すると、15〜20%の人が機能低下症状を示します。原因はバセドウ病と同様に、自己免疫による異常により血液中に自分の甲状腺組織の一部に対する抗体(抗甲状腺抗体)が生じ、これが自分の甲状腺と反応して慢性の炎症を起こすことです。橋本病の診断には、この自己抗体の測定が欠かせません。 ◎橋本病の治療 軽症の橋本病は経過観察(年に1〜2度)のみで対応できますが、甲状腺機能低下症を生じた場合、不足分の甲状腺ホルモンを薬で補充します。少量から始めて、必要量までゆっくりと増量することが重要です。急に多量を内服すると、機能亢進症状を起こし、特に老人では不整脈が生じたり、場合によっては心筋梗塞の原因にもなるので注意が必要です。 |