「ノア」の日々  2001/3/15〜5/15
                   
     
  c o n t e n t s            
                   
  3月15日 こんなこと書いていいのか、俺(自問)。  
  3月18日 プロレスリング・ノア、GHC王座決定トーナメントが始まる。  
  3月25日 とにかく新日本プロレスが『仁義なき戦い』路線に戻ったことがなによりめでたい!    
  4月 6日    「武士の情けだ」  
  4月 7日 三沢さんが、わしにそう言った以上、両者の激突は必然なのだ。     
  4月 8日 ゆえに、ここには書かないが、これで破壊王の大会から目が離せなくなってしまった。  
  4月10日 結局、ベストバウトは中西vs永田だった、と私は思う。  
  4月16日 しかし、三沢の首が真っ赤に染まったシーンは戦慄でした。  
  4月19日 三沢さん、強かったでしょう。違いますか。  
  4月20日 「4・18に関する噂」について、遅ればせながら書く。  
  5月15日 ずっとプロレスラーの強さについて考えている。  

この続きは 連載「レスリングは今、『ノア』にある」で

 

 

3月15日  こんなこと書いていいのか、俺(自問)。

私は昨日、久々に天才・三沢光晴に会いました。
ジージャン姿で「北関東の二枚目」風だった天才は、今回も飛ばしてくれました。
 三沢「杉浦(貴。ノアの新人レスラー、30歳。アマレス・グレコローマンスタイル全日本王者)に会うらしいね」
 ――子供ができたそうですね。
 三沢「二人目だけど、まだみたいだよ。予定日は過ぎてるんだけど。あいつの強さはさあ、絶系なんだよ」
 ――絶倫系ってなんスか。ジャンボ鶴田系っスか。
 三沢「いや、一日でもアレをやらなきゃ的なアレで」
 ――藤田(和之)もすごいらしいっスよ。
 三沢「そうか、わかった。あのタイプはそうなんだな」
 ――ZERO−ONEの旗揚げ戦で初遭遇しましたよね。
 三沢「あのガタイ。なんて言うんだろうなあ。進化してるんじゃない。逆だよな。進化しきれ なかったんだよ、きっと」  
――頭蓋骨の厚みが違うらしいですから。私、『ナンバー』にCTスキャンの写真を掲載しよう として、さすがに断られましたが(笑)。
  三沢「杉浦に会ったら、絶倫ですか、って質問しなきゃだめだよ。社長がそう言ってましたけ ど、って(薄笑い)」
  こんなこと書いていいのか、俺(自問)。天才の下ネタはいつものこと、よしとしよう(自答)。

 

3月18日  プロレスリング・ノア、GHC王座決定トーナメントが始まる。

 ディファ有明にて、プロレスリング・ノア、GHC王座決定トーナメントが始まる。
 緒戦は、三沢光晴―斎藤彰俊。全日本プロレスのチャンピオンカーニバルなら、緒戦の後楽園ホール大会には、もうちょっと重みのあるカードが組まれていたはず。ちょっと腰砕けですな。
 彰俊、力もあるしバランスもいいのに、プロレス頭がない。玉砕戦法でガンガンいくべき立場だと思うのだが、立ち技にしか自信がないのか、打撃で三沢を倒すと立ち上がるまでものす ごい間があいてしまう。判官びいき寄りに傾いていた客席もいつしか「休むなよ」「もう一発いけよ」という野次の嵐に……。
 最悪なのは、あの天才・三沢に対し、まったく切れのないエルボーを打っていったシーンだろう。彰俊がエルボーを打つたびに、「こう打つんだよ」とばかりに反撃され、形勢は一瞬にし て逆転してしまう。これじゃあ勝てんよ。
 初来日のピットブル選手についても一言。でかくはないが厚みがあるパワーファイターだが、 「犬キャラクター」らしく、不必要にバウバウ吠える。UWF風のレガースをつけているのだ が、キックは一発も出さずに、満を持して出した技がギロチンドロップ(笑)。レガース、裏表 反対につけなさい。
 わたし的には第一試合の池田大輔―杉浦貴がベストマッチ。 「高山さんについて行って、U系の道場で修業したい」と語っていた「絶倫系」だが、池田選手とのグラウンドでは、隙をつかれまくった。ヒザ十字をかけている状態で顔面にキックをも らい、完全に主導権を握られるシーンも。大ちゃんは、ケツの穴に指を突っ込むというゴッチイズムも披露、吊りパン姿の30歳の新人を翻弄した。最後は側頭部へのハイキックでレフェリーストップ。
 杉浦選手、要修行。高山選手と行動をともにして、自然な形でPRIDEへ、というのもいいんじゃない? 高山選手のうしろにいつもくっついて、桜庭選手と互角のスパーリングでも やれば、「人さらい」の森下社長が黙っているはずがない。
  さて、三沢社長の命を受け、16日、杉浦に会った私は最後に、「絶倫ですか」という質問を した。どういう脈絡で質問したのかよくおぼえていないが、自然に話題がそんな風になると、ぶっきらぼうだったアマレス王は和やかな表情になった。
 「ええ、みんなそうだと思いますよ。強い人は夜も強い。昼間むちゃくちゃ練習して、夜も… …。朝6時に起きて、10キロ走って、マシンやって、午後からスパーリングをして、7時に ロープ登りをしても、夜になったら……」
 ……バケモノですかね。さらに笑ったのは……。
 ――コスチュームは釣りパンで通すのですか?
「いや、変えます。新しいのができてんですけど、生地が薄くて、破れそうで……」
 ――破れそうなガタイですもん。いつも破れそうな杉浦選手、っていいかも。
「ハルク・ホーガンですか(笑)」
 ――いや、毎回、Tシャツ破るんじゃつまらない。いつも破れそうで破れなくて、1年に1回 ぐらい、本当に怒ったときにコスチュームが自然に破れる(笑)。
「年に1回、ドーン、ですか(股間から握り拳の腕を突き出す)」
 ――ギャハハハハハハハ。それを出しちゃまずいでしょう。やっと、テレビ中継が始まるって いうのに……。
 実写のどうくまん世界――それがプロレス界なのである(違う?)。

 

3月25日  とにかく新日本プロレスが『仁義なき戦い』路線に戻ったことがなによりめでたい!

 いやあ、こんなに面白い『ワールドプロレスリング』を観たのは何年ぶりだろう。
 しかし、アントニオ猪木、勝手だね。
  会社の金を持ち出して、サトウキビの絞り粕から燃料をつくる、みたいな怪しい事業を始め、さんざん、会社に迷惑をかけておいて、
 「新日本プロレスは私が作った会社。潰すわけにもいかない」
 ……一時、会社が傾いたのはあんたのせいやないの!
  ドーム大会を連発して、やっと借金を返し、引退を許されたかと思うと、今度は5時間もゴネて、ドーム大会のカードを変更させる。藤田和之―スコット・ノートンって、どんな意味があるカードなのか。
 「ベビーフェイスばっかりじゃねえか。みんな、いいカッコしたいやつばっかり。でも、時代 は本音なんだ。本音が見たいよ。長州にも、本音を見せたらどうだい。来るなら来いや! 命懸けで闘ってやるよ!」
  しかし、猪木が炎上すると、そんな世間の常識はどこかに吹っ飛んでしまう。猪木が炎上すれば、それだけでリングは回る。
 ドラゴン、一生にいっぺんぐらい本音を言ったらどないだ。
 「選手のことを考えて言ったまで。本音はそんなことじゃないよ」
  ……しみじみ、代表権のない社長なんてやるもんじゃないと、私は思う。馬場さんが亡くなったとき、三沢光晴の全日本プロレス社長就任が遅れたのも、実は「代表権」がネックになっていたのである。藤波社長のジレンマは、ほとんど解決不能だと私は思う(拙書『三沢さん、 なぜノアだったのか、わかりました――。』を読めばわかる)。

 「会社をダメにしたのはあんたじゃないか。あんたの残した不良債権を処理するのに、俺と長州がどんなに苦労したと思っているのか」
  それぐらい、言ったれや。80年代初めだったか、いきなり鋏で前髪を切りながら、ドラゴン革命をおこしたときのように……いや、だから、ドラゴン、50歳のロンゲは似合いませんよ(話が横道)。
  しかし、「天真爛漫と書いて橋本真也と読む」とまで言われた無邪気な破壊王が、
  ここにきて、「正論の男」になっちまったのはなぜなのか。
 「これ以上なあ、俺から逃げるような真似、せんといてくれ」と迫る中西学に対し(これも中島貞夫監督作品風でカッコよかったが)、
  「俺は今まで一度でも逃げたことがあるか。逃げさしたのは会社じゃないか、おらお前。頭使え、おい! 目を覚まさんかい、おう!」
 「不満とか、疑問に思ったこと、なんで言わないんだ。言った人から立場悪くなって、変な風にされちゃう、そんな新日本だったら新日本じゃないですよ」
 とことん正しい。とことん正しい破壊王が、理屈が通ったことがいっぺんもない「燃える闘魂」の舎弟と化しているのも解せないことではあるが……。
 とにかく、新日本プロレスが『仁義なき戦い』路線に戻ったことがなによりめでたい!
 議員バッチをつけた馳浩先生に裏投げ連発させといて、きっちり猪木に食われて かすでしまった「プロレスにLOVEしてる男」武藤敬司の明日はどっちだ!?

 

4月6日   「武士の情けだ」  

 一昨日、久々に「暴走柔道王」小川直也選手に会った。
 深夜、ネットのニュースで交通事故 を知ったときにはマジで心配したのだが、「オイオイオイオイ、冗談じゃねーよ」なオーちゃん節は健在でまずは一安心。
 「武士の情けだ」
 そう言って、日本刀を差し出し、オーちゃんが切腹を迫った(?)トップレスラーとは誰か?。

 『挌闘伝説!』(ナイタイ)発売を括目して待て!

 

4月7日  三沢さんが、わしにそう言った以上、両者の激突は必然なのだ。  

 天才・三沢光晴に会った。
 シリーズ中の取材は初めてだった。しかも、ノアの初代チャンピオンを決める重要なシリー ズ終盤。わし、緊張してました。
「シリーズの重要な場面、お疲れのところすみません。ありがとうございます。今日は角川書店『スポーツ・ヤァ!』できました」
 そう言うと、天才。
「いろいろやってるんですねえ」
 で、インタビューが終わって。
「いろいろやってるね。ネットの書き込みも見たよ」
 わしが、「三沢さん、インターネットやってるんですか」と聞くと、「やらないよ」という答え。なんでも奥さんが“メディアでの三沢光晴”をかなりチェックしている様子。
「あなた、見てよ。また、ネットに書き込みがあるよ」
 そういうことらしい。
 ノア・オアシストーク、本人も見てまっせ。
 で、天才はこう言った。
「焚きつけている部分もある、って(笑)」
 わし、恐縮至極で「一介のライター風情が、焚きつけてるってのは、思いあがりですね」と釈明したのだが……。
 プロレスリング・ノアのファンは、本当のところ、小川直也選手と三沢さんの闘いを望んでいるのでしょうか。三沢さんと小川さんの間を行ったり来たりしている私としましては、やる しかない、と思っている。
「プロレスの技ができない小川選手が、プロレスラーと名のっていいのか。技といえば、大外刈りと打撃だけ。そんなもの、素人さんにもできるだろ」
 三沢さんが、わしにそう言った以上、両者の激突は必然なのだ。
 小川直也は言う。
「プロレスができないとかなんとか言う時点は終わってるんだよ。三沢さんがエルボーを打ってきた時点で始まってるんだよ」
 やるしかないでしょ(ご意見をメールしてください)。

 

4月8日   ゆえにここには書かないがこれで破壊王の大会から目が離せなくなってしまった。

 まずは、昨日のプロレスリング・ノア、ディファ有明大会から。
 秋山と力皇のトーナメント準々決勝は、秋山のパイルドライバーの連発が圧巻。力皇、しょっぱなは凄い勢いだったのに、花道でリバースかまされただけで動かなくなる。3分間限定の 大暴れ。ウルトラマンですな。
 秋山も強かったが、私は、杉浦、丸藤のご両人にMVPを差し上げたい。
 本田多聞と組んだ杉浦貴は、ベイダーのパートナー、スコーピオに対し、自らパーテールポジションを取って挑発。すぐさまバックを取った「絶倫系」、俵返しが爆発だ。さらに、スコ ーピオにもパーテールポジションを強要。よんつんばいにさせといて、上からエルボーを落とし、 交わされる。また、落として交わされる。絶倫系も多聞ちゃんも頭使って闘うようになりまし たなあ。ところで、スコーピオってアマレスやってたの?
 高山と丸藤のファーストコンタクトも素晴らしかった。互いに隙を探り合う正真正銘のロッ クアップ。丸藤の素早いロータックル。試合前のリングでの師弟関係(私、丸藤、小林健太の アマレスのスパーリングに、高山が笑顔でアドバイスを送った場面を目撃したことがある)。彼 らが全日本プロレスを出た理由、ノアの底力はこんな細かいシーンにこそある。
 帰り道、偶然会った編集者から聞き捨てならない噂を聞いた。4・18ZERO−ONE日 本武道館大会におけるノアがらみの噂なのだが、この方面からの噂は噂に終わることが多い。
ゆえに、ここには書かないが、これで破壊王の大会から目が離せなくなってしまった。
 もしかして、天才、マジでブチ切れているのかもしれないぞ!?

 

4月10日  結局、ベストバウトは中西vs永田だった、と私は思う。

 しかし、腹立ちません? 新日本プロレス大阪ドーム大会。
 放送終了時間厳守の佐々木健介のダウンは、それがマジだったとしても、ネットにはびこる 「アングル」論者に格好の議題を差し出しているようなものだ。
「バカヤロー! この声が聞こえているか」
「人生のホームレス」こそ、この声が聞こえているのだろうか。
 放送開始直後、せっかくのゴールデンタイム生中継だというのに、テレ朝のスタッフは、獣 神が「あすなろくん」に戻った瞬間を撮り損なう。世界一、誤植の多いニュースを毎日放映し て正義面をしている放送局だから、しょうがないのでしょうか。
 なかでも、腹が立ったのは、乙葉……じゃない。日本語が不自由なおっぱいアイドルはいい。 そうじゃなくて、入場シーンをしっかり映して、藤田和之とスコット・ノートンのファースト コンタクトをCMで消したスカタンな構成担当である。藤田のタックル、それを切る腕相撲世 界一というシーンがあったのだとしたら、この大会一番の注目シーンだろう。
 数年後、純プロレスが滅びているとしたら、新日本プロレスは、¥ショップ武富士のジャズ ダンサーに消された、と記述されることになるだろう。キング・オブ・スポーツは、かつて 『はじめてのお使いスペシャル』に完敗した前例もあるしな。燃える闘魂は、究極の異種格闘 技戦、「アントニオ猪木vsいたいけな幼児」に負けて、意味なしジャズダンサーに負けて……。 SONYに純利益で勝った武富士こそ、地上最強ですな。
 結局、ベストバウトは中西vs永田だった、と私は思う。猪木の挑発はざわざわした雑音だけしか生み出さなかったような気もするのだが……。
 それにしても、「今日は動かない」と宣言していたドラゴン、いきなり動いて、どこに消えたの!? 興行主の職場放棄はマズイんじゃないの。

 

4月16日  しかし、三沢の首が真っ赤に染まったシーンは戦慄でした。

  プロレスリング・ノア有明コロシアム大会から帰り、皐月賞についての原稿を書き、疲労困憊ですわ。天才・三沢光晴の名勝負については、日を改めてゆっくり書きます。
 しかし、三沢の首が真っ赤に染まったシーンは戦慄でした。一発のキックで、アゴの先端の 肉をえぐってしまうのだから、今の高山善廣は恐ろしい。PRIDEのレスラーたちよ、首を 洗って待ってろよ!

 

4月19日  三沢さん、強かったでしょう。違いますか。

わしはもう泣きたいよ。「いつもとおなじですよ」と言って、記者会見を終えた三沢光晴は、 右足を引きずっていたんですよ。かかとを床につけられない状態で、三沢光晴は闘ったんです よ。三沢光晴に、闘う理由があったんでしょうか。ノアの有明コロシアム大会の3日後、ZERO―ONEの武道館大会は、興行戦争ですよ。敵に協力する理由なんかないですよ。小川直也に負けたら、すべてを失うんですよ。負けたらなんにもないんですよ。
 それでも、三沢光晴はボロボロの体で闘ったんですよ。
 わしが書いた『三沢さん、なぜ、ノアだったのか、わかりました――。』(BABジャパン) の評価はいまだに定まっていません。小橋建太を否定する中田潤が「三沢さんを信じている」 みたいなことを書くのは、気持ち悪い、という意見があるのも知っています。信じるしかなか ったんですよ。仕事ですから。半信半疑で、三沢さんは強いと、書いてきたわけですよ。仕事でかかわってきたから、三沢さんは、ヒクソン・グレイシーより強いと、書いてきたわけですよ。
 ホンマかいな、と思いつつ。
 三沢さん、強かったでしょう。違いますか。
 三沢さんは、タックルをすべて切りましたよね。片足タックルで若い村上を倒しましたよね。 三沢さんは、ボロボロの体でも、体重移動の意味を知っていましたよね。
 三沢さんは、年間200試合、20年間、闘ってきたんですよ。
 今後、「ワーク」「シュート」「アングル」という言葉を気安く書き込みする人は、心したほう がいいですよ。ニューヨーク在住の金融屋をやっているやつにプロレスの真実がわかりますか。はっきり言って、プロレスは「インチキのショー」だからこそ、強いんですよ。アゴの肉が ベロンと垂れ下がってから、三沢光晴の本当の戦場が始まるんですよ。アゴの肉がえぐれたら、 真剣勝負のスポーツなら、そこで試合は中断します。インチキの見世物だからこそ、ショー・ マスト・ゴー・オンなのですよ。
 ほんと、泣きたくなった。BABジャパンの編集者、稲村くんと「わしらがやったことは間 違っていなかったよな」と居酒屋で祝杯をあげました。半信半疑でも、三沢光晴と仕事をして本当によかった。今は、はっきり、三沢光晴は強い、と言えますもん。
 ルー・テーズのことを、「法螺吹きじいさん」と呼ぶ人は、ルー・テーズに会ったことがある のか。ジャイアント馬場、ジャンボ鶴田、三沢光晴の闘いを「プロレス内プレロス」と蔑んで、 作家になったやつに何がわかっていたというのか。
 いい夜だ。私は『上を向いて歩こう』を口ずさみながら、日本武道館から池袋の長屋に帰り ましたよ。

 

4月20日  「4・18に関する噂」について、遅ればせながら書く。

4月16日に書いた「4・18に関する噂」について、遅ればせながら書く。
 それは、小川・村上組の相手は、三沢・力皇組であり、力皇は、「ポリスマン」として全力で 三沢をガードする、というものと、アレクサンダー大塚―杉浦貴組は、セメントでの潰し合い になる、というものだった。プロレス界によくある「噂」としては、かなりの的を射たものだ ったといえるだろう。
 しかし、試合を見て、私は噂のセンセーショナルな一面にだけ、感心したわけではない。そ こに私は、三沢光晴率いるプロレスリング・ノアのまっとうさ、恐ろしさを思い知らされた。 現在、真に闘えるプロレス「団体」はノアだけだ、ということが満天下に示された。
 他団体のリングに上がることの意義について、三沢光晴はまずこう語る。
「それが無意味な結果に終っても、少なくとも、若手の“経験”にはなる。なんでも、やって みて無駄なことはないだろう」
 この考え方で決まったのが、高岩―丸藤戦であり、橋本・安田組対本田・井上組だろう。結 果、丸藤は自らの能力も高岩の能力も存分に引出した好ファイトを演じ、井上雅央は試合中に 「無理無理無理」と叫んでしまう醜態を演じた。まさに、天国と地獄、対極に位置する“経験” である。
 破壊王が、「右側白紙」の失礼きわまりないカードを発表し、三沢に「責任を取れ」と迫った とき、三沢に取るべき責任があったとしたら、小川に放った一発のエルボーだけだった。三沢 はプロレスの範疇で責任を取った。暴走柔道王にマウントポジションを取られ、顔面を殴られ る、という危機的状況で、力皇は渾身のぶちかましで、責任を取ろうとする社長を守った。「団体」の一員として当然の行いである。
 しかし、ひとつだけ、「疑惑のカード」が残ったのである。
「アレクサンダー大塚対白紙」
 おそらく、これに応えるべき理由は、三沢光晴にはなかった。
 大塚は、ZERO−ONE旗揚げ戦でノーフィアーと闘い、大森隆男から「格違いだろ」と 一蹴される覇気のないファイトをやってしまっていた。大森隆男は「今後、一切、よそのリン グに上がる気はない」と言い切った。
 ここからは推測である。
「大塚ごときが、なにをノコノコと対ノア戦に出てくるのか」 「若手の経験」としてZERO−ONEのリングは有意義だとしても、筋違いの「責任論」を 無邪気に突き付けてくる破壊王に対しては、一本釘を刺しておく必要がある。
「おのれだけ目立てばそれでいいのか。やっちゃえばなんとかなる、という考え方だけはなじ めない。それがプロレスを貶めてきたんじゃないのか」
 頭を剃り上げた「絶倫系」は、おそらく、親分の意思を背負ってリングに上がったのである。
 あれがセメントだったのかどうか、私にはわからない。ひとつだけいえるのは、杉浦に大塚 の技を受けるつもりはまったくなかったということだ。
 ファーストコンタクトで、相撲の差し合いのようになったとき、杉浦は、渾身の力でおっつ なながら腕をねじ込もうとした。少なくとも、プロレスの試合で、こんなにリアルなグレコロ ーマンスタイルの攻防を私は見たことがない。この時点で、私のなかで、この試合は「ノアズ・ ベスト」だった(さらに、三沢さんのタックルでそれをはるかに超越する“ベスト”に遭遇し、 私は半べそ状態になるわけだが)。レスリングで勝ち、ゴッチイズムに沈んだ入門4ヶ月のレス ラーは、見事に「プロ」レスリングとは何か、を「イベント会社」(三沢光晴のZERO−ONE評)のリングに浮かび上がらせた。
「生半可な気持ちでウチと関わってもらっちゃ困る」
 三沢とその「乗組員」たちは、日々、旅をしてショーを続ける者としての心構えだけではなく、私など、推し量ることもできない闘う男としての「任侠道」によって結ばれている。
 ノールールにしたら、ノールールの試合だけ、「アングルじゃん」と蔑まれた業界最大手の団体とはまさに好対照、と言わねばなるまい。

 

5月15日  ずっとプロレスラーの強さについて考えている。

 4月18日の三沢光晴の劇的な勝利から、ずっとプロレスラーの強さについて考えている。
 まず、プロレスを、カクタス・ジャック、マンカインドことミック・フォーリーの自伝に即 して「インチキのショー」だと定義してみる。異論はあるだろうけど、ここでは一応、ミック・ フォーリーのズダボロの肉体に敬意を表して、そう仮定する。だとするなら、プロレス「団体」 とは、旅回りの一座ということになる。この一座が単なる芸人集団と違うのは、その出し物が 一歩間違えば、出演者の命を失わせてしまうものであるという点だ。集団で旅をして、ショー を作り上げる人たちにも、一般社会のものと違う「掟」が存在するだろうが、ショーの危険度 が増せば増すほど、その「掟」は強固なものになっていく必要性があったのではないか。
 ルー・テーズはこう書いている。
<私の57年間にわたるプロレスラー人生の中で最も鮮烈かつ残酷な出来事は、トラゴスのコ ーチを受けるようになって1年ほどたった1934年の夏頃、インディアナ州エバンスビルで の試合場で起きた。エバンスビル大学でアマレスの全米タイトルを獲得し、プロ転向一年弱で 早くもスターダムに躍り出てきた新人のバスター・エドワード対トラゴスというカードがセミファイナルで組まれ、私はその日の前座第一試合に出場するとこになった。エバンスビルのローカル・プロモーターが試合前、トラゴスにこう言った。
「ジョージ、今夜のエドワードは本当に強いぜ。あんたも時代の流れを肌で感じることだろう よ」(中略)
 試合は2分もかからずに終わった。トラゴスはエドワードに難なくダブル・リストロックを 掛け、アッという間にエドワードの左肩の骨といわず腱といわず、めちゃくちゃに叩き折って しまったのだ。この時の音……なんともいえぬ骨折の時に発する音が、今でも私の耳にこびり ついて離れない。(中略)
 哀れエドワードは即座に病院に運ばれて応急処置を施されたが、あまりにも複雑に壊された左肩の内部が炎症を起こし、3日後には左腕全部を切断する悲劇となったのである。>(流智美訳『鉄人ルー・テーズ自伝』)
 20世紀最高のプロレスラー、ルー・テーズのコーチ、ジョージ・トラゴスとは何者なのか。 <左肩を切断させられたエドワードのケースにせよ、アキレス腱を断たれたレフェリーのケー スにせよ、こういったトラゴスの制裁に対して、プロモーターのトム・パックスは何ひとつク レームをつけることはなかった。テリトリーを健全に保つためには、ポリスマン(トラゴス) に最大限の権限が与えられており、いちいちトラゴスが起こしたことに対して口を出すような ら、最初からそのプロモーターはトラゴスを雇わなければいいのである。ジョージ・トラゴス こそ、パックスにとって最も頼りになる“用心棒”であったわけだが、この用心棒はケタが違 っていた。>(前掲書)
 80年代のマット界に最大の謎を残したセメントマッチでも、プロモーター、アントニオ猪木のポリスマンとなったアンドレ・ザ・ジャイアントが、前田日明に向かって全体重をかけてのしかかっていったのである。猪木こそが真剣勝負の闘いであり最強である、と無邪気に信じ る人は、この事実を思い出したほうがいい。
 では、現在の日本のプロレスにポリスマンは存在するのか。もちろん、アンドレ・ザ・ジャ イアントのような絶対の存在はいないだろう。
 しかし、プロレスリング・ノアには、いつでも「掟」のために命を張れる「精神的なポリス マン」が複数存在する、ということにならないか。
 いたるところに故障を抱えた「親分」が、「責任」をとるために、体を破壊されかねない危険 なリングに上る。すでに、親分は、「掟」を平気で踏みにじる男とのビジネスを終わらせようと している。
「お前らの思いどおりにはしねえよ、絶対!!」  そう叫んだのは、ヤクザ十数人に取り囲まれても「殺せよ」と言って、一歩も引かない男な のだ。その下には、異様に真面目で誠実な男たちが連なっているのである。
 すべてが一対一の真剣勝負だと思っている「まっとうな競技」の世界王者、小川直也は力学的には強いとしても、この現実を打ち破ることができるのか。業界最大手の団体にドラゴンのために命を張れる男がいるのだろうか。

 

連載エッセイ 「ここまでしか書けない!」もろよろしく