| <戻る | 次へ> |
| 初めての勝沼 その3 |
|---|
とてもきれいな富士山が、目の前にその雄姿を見せている。どこから、どう見ても富士山以外の何者でもない、雄大で、尊厳すら感じさせる偉大な姿だ。
9月の風はすがすがしく、身体と精神の疲れをいやし、迷いに迷ったここまでの道のりを忘れさせるに十分であった。
朝、ホテルを出たのは8時半頃だ。午前中にサントリー登美の丘ワイナリーに寄ってから、早い時間に勝沼まで走ろうと思っていた。ホテルの前を東西
に走る国道52号線を西へ向かうと山梨県立美術館がある。まだ開館してないし、忙しい一日になりそうなので「次の機会にでも寄ってみよう」と思いな
がら更に西へ向かう。
竜王駅の標識に従い、右折して駅の下をくぐり、車を北に向け数分で電信柱に「サントリー登美の丘ワイナリー」の案内板を見るけることができる。ホ
テルを出てから、ほんの十数分。「楽勝や!」などと思っていたのだが、気が付くとそれまで直進を示していた矢印が【↑】から【↓】に変わっている。
|
|
地図を見るとこの道の西側付近にある様なのだが、それらしい物は見あたらない。道はそれまでの宅地から、信号を一つ超えただけで山道の風情を呈し
始めた。そう、“山道の風情”というヤツが私の心を惑わせてしまうのだ。心ならずもアクセルを踏む私の右足の膝というか、足首というか、そんなと
ころに力が入り、車の速度もそれに応じてほんのわずかに法定速度を上回って、緩やかなカーブでさえタイヤがきしむ音が聞こえる様になってきた。
「敷島醸造」というワイナリーが見えるが、既にいってしまっている私の車は(そう、私ではなく車が)スピードを落とす気配を見せず、ぐんぐん山奥
に向かって突き進んで行こうとする。
|
道路の左は山、右はあまり幅のないきれいな川が流れていて、よく整備された緩やかなカーブが続く。が、しかし、10分も走らないうちに、道が二手に
分かれるところへ出てしまった。右に曲がって橋を渡れば、その先は「昇仙峡」へ続いている。真っ直ぐ行けばただの田舎道。当然私が選ぶ道は、ただ
の田舎道だ。農家の軒をかすめ、田んぼあり、畑ありの狭い道をしばらく進むと鱒の釣り堀があり、その先にキャンプ場が見えてくるが、これがとても
気持ちのいいところだった。
テントだったか、バンガローだったかは忘れたが、真っ直ぐな、狭い道の両側から木が生い茂り、とてもいい天気であるにもかかわらずサングラスをは
ずさなければならないくらいの明るさである。決して目の機能が落ちて、明るさの変化に対応できなかった訳ではない。このころはまだ老眼の気配はな
かった。だからそれ程暗かったと言うことだ。
このキャンプ場で車を降り、ベンチに腰掛けて・・・いや、横になっていたかも知れない・・・ちょっと瞬きをしただけで、20分程がたっていた。風は
冷たいくらいで、ブルッときて意識が戻ったのだが(いやいや、瞬きしただけだが)目的がなければおそらく1日中寝ていたのではないだろうか?(だから、瞬きやって!?)
|
「このキャンプ場は覚えておこう。いずれ利用できるかも知れない」と、ぼんやりそんなことを考えていた。
時刻はまだ、9時を少しまわったところだ。「サントリー登美の丘ワイナリー」へ行くという目的を思い出した私は、しぶしぶ車に乗り走り出したのだが、
なんだか道が狭くUターンできるところが・・・ない!
いや、無くはない。狭いだけだ。前に進んだり、後ろに戻ったり、まあ数分後には山を下り始めていたからたいしたことはなかったんだろう。事実、どう
やって抜け出したか、あまり記憶もない。下りは、熱くならない様に車に言い聞かせ、「サントリー登美の丘ワイナリー」の案内板を注意深く見ながら曲
がる信号を見つけるのに、5回は宅地と山道の分け目である信号を往復しただろうか。
|
|
電信柱ではなく、信号の脇に大きな案内板を見つけたときは、車ごと
ズッコケそうになってしまった。関西人の私は、吉本新喜劇よろしくズッコケることに慣れている。当然私の車も、そこいらへん(注:その辺りという意
味の関西弁)は心得ているのだ。しかし、車ごとズッコケるのは少々危険を伴うし、一人でやっていたのではあまりに寂しいのでそれはやめて素直に車を
西に向けることにした。
そして、また電信柱の案内板を見ながらしばらく進むと、それまで直進を示していた矢印が【↑】から【↓】に変わってしまうという現象にまたまた出く
わしてしまった。しかも、大きな看板を探せばいいものを、電信柱の案内板だけを頼りにするという学習能力のなさを3往復分繰り返すという見事なまで
の大ボケをかましてしまったのだった。大きな看板を見つけたときは、己のバカさ加減をいとおしく思いながら、一人苦笑いしていた様に思う。誰かに見
られたら気持ち悪がられたかも知れない。
こうして、ホテルを出発してから約1時間と少しで、私は「サントリー登美の丘ワイナリー」のバカでかい門をくぐることができた。さすがに天下のサント
リーだけあってワイナリーは広大な敷地を持っている。ぶどう畑だけで300haもの広さがあるのだ。「サントリー登美の丘ワイナリー」では、お客さんのた
めのスペースを二つのエリアに分けている。門を入ったところの、醸造、貯蔵エリアと、そこから車で5分ほど山を登った、売店やレストラン、博物館のあ
るエリアだ。いずれのエリアも広くおしゃれで、期待感をあおる様な造りだ。観光バスの団体がウジャウジャいなければだが・・・・
その頃私は、醸造、貯蔵のエリアにはあまり興味がなかったので、すぐに売店のあるエリアへ向かうことにした。折しも、道路交通法の改正で飲酒運転の基
準が厳しくなった頃でもあり、「サントリー登美の丘ワイナリー」では、運転者へはたとえ吐き出すからと言っても試飲は一切させてもらえない。
まあ、それは当たり前なのだが、冷たいグレープ・ジュースを「ほれっ!」とばかりにわたされてそれ以降、ちょっとした質問にも答えようとせず背中を向
けてしまう女性従業員の態度にはいささか腹が立った。「吐き出してもだめ?」と一言聞いてみただけなのに。
乞う!ご期待!!・・・つかれた!
口を付けなかったグレープ・ジュースのカップを売店のカウンターに置き、売店前のとても広い展望バルコニーに出ると、大きな富士山が目の前にそびえて
いた。標高700メートルのバルコニーに立つ私の足もとは、見渡す限りのぶどう畑。少しばかりの不満もこの景色にはかなわない。丈夫そうなパラソルの作り
出す快適な日陰に並んだ椅子の一つに腰掛け、タバコをくゆらせながら意識のある様な無い様な時間を1時間ほど過ごしたあと、目の前にそびえる富士山よ
りはだいぶ手前にあるはずの勝沼に向かうべく、けだるくなってきた身体を起こし、車へと歩き出した。日は高く、日差しも強くなり、お腹もすいてきた。
「よっしゃ!行くかぁ〜!」
真っ黒な、私の「クルーガー君」はいつも通り元気に走り出した。勝沼に向けて!
今回、勝沼まで到着するハズだったのだが・・・!?
まあ、もうちょっとおつきあい下さい!?
|
|
By mutsu
|
| <戻る | 次へ> |
気楽斎注:今回こそ勝沼に着くかと思っていたのに・・・(汗)お詫びに美しい画像をご鑑賞くださいませ
 Copyright(C) Momono Ikuya (この画像はこちらのサイトから!) |