川本幸民「化学新書」第488章「麦酒」

[HOME]

 

川本幸民先生ーー幕末の蘭学者。日本で初めてビールを醸造し試飲した人です。

キリンのスタッフの人から、コウミンビールについての資料をいただきました。先日、キリンビール教室に参加した際コウミンビールを飲ませていただきました。余りにもおいしかったので、「造り方を教えてくださーい」とお願いしたところ、具体的な造り方は企業秘密と言うことで、教えてはもらえませんでしたが、幸民先生の化学新書の原文のコピーとその翻訳をいただきました。日本では初めてビールを造った幕末の蘭学者、川本幸民先生が「化学新書」の中に、ビールの造り方を記載しています。歴史的文献と言うことで、書きました。みなさん、参考にしてください。原文は漢文調で書いてありますので、なかなかわかりにくいので、翻訳を載せます。原文には挿し絵があり、興味ある資料です。


川本幸民著「化学新書」下巻

麦酒(第488章)

ビール及び焼酎は、ワインに次いで重要な発酵性飲料として並ぶものである。その製法でワインと異なる点は、使用原料が糖を含まずデンプンであるところである。
大麦・小麦・ライ麦・ジャガイモ等がこれにあたる。でんぷんは糖のように直ちに発酵してアルコールと炭酸にかわることができないので、まず糖に変換させる必要がある。この変化は、すでに第462章で説明したように、麦芽の「ジアスタセ」(新発明の成分で糖の変換させる物質を作るもの)によってひきおこされる。

試験
粉砕麦芽一鉢に冷水三鉢と沸騰湯四鉢を合わせたものを注ぎ、摂氏六五度より七〇度で一,二時間保温する。
この液を「モスト」と名付ける。(橘注;マッシュ液に当たる)この液は甘みを持ち、(不明)と糖を含み、麦芽から出る「植膠分」を含む。
布片でもって、濾過。(橘注;lauteringに当たる)
これを(橘注;麦汁に当たる)一,二時間煮沸し、透明になるに至り。
放冷して三〇度になるに至り。
「ギスト」酵母一茶匙を加えれば、速やかに泡醸し
(橘注;発酵に当たる)十二日後、再び清澄する。
この清澄なる泡醸液は白麦酒なり。
この方法で作られた麦酒は苦くはないがビールなり。

この液(橘注;麦汁に当たる)を煮する際、忽布(忽布草の雌花)(橘注;カラハナソウの雌花(ホップ草の雌花)に当たる)を少し加えれば、香気苦味分(リュビュリチ(橘注;ルプリンに当たる))が溶解し、麦酒の気(橘注;ガス発生)を烈しくし、味をよくするのみならず、長く変敗することがない。


幸民先生の醸造したビールはどんなビールであったのでしょうか。麦芽とお湯の分量の比が1体7です。少し、お湯の量が多いような気がします。マッシングはsingle step infusion mashであり、protein rest がありません。煮沸した麦汁を自然冷却したとすると、雑菌が麦汁に繁殖した可能性があります。やはり幸民先生はホップを使ったのでしょうか。このことは、いまでも議論のあるところのようです。幸民先生はかなりの酒好きだそうです。若い頃には、酒で失敗をしたと伝えられています。その幸民先生は生涯、一度だけしかビールを造っていません。美味しくなかったのでしょうか?この資料から、幸民先生の醸造したビールを再現することは、難しいですね。

化学新書では、四八九章から四九四章と醸造の理論について書いてあります。ワインを蒸留する方法と話は広がっていきます。これについては、時間がありましたら、翻訳するとしましょう。幸民著の化学新書は日本学士院に所蔵されているようです。

[HOME]
このページに関するお問い合わせは:Tachibana@msic.med.osaka-cu.ac.jp (橘 克英)迄。
Copyright(C)1999 by Katsuhide Tachibana
作成日時 1999年10月06日